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新卒の就職活動といえば、2018年10月に経団連の中西宏明会長が、2021年春入社以降の学生の就活・採用活動のルール、いわゆる“就活ルール”を正式に廃止することを発表したのが記憶に新しいところです。日本で大学という教育機関が生まれたのは1870年代。以降、現在に至るまで、その就職活動は様々な変遷を経て再び岐路に立っています。
ここでは、新卒の就職活動の歴史について振り返ってみましょう。
目次【本記事の内容】
大学が誕生したばかりの頃は、学生が卒業後に目指す職業は学界や官界がほとんどでした。そんななか、実業界も学生に積極的に働きかけ、財閥系企業の1つである三菱が1879年には新卒の定期採用をスタートしています。これが、日本企業における、新卒の定期採用の始まりとなりました。大学に行く人がまだまだ少なかった時代、多くの企業では近代的な教養を身につけた人材を使いこなすこと自体が難しかったようです。
第一次世界大戦後、深刻な不況に陥った日本は、就職を希望する学生があふれ、企業は採用に向けた選抜試験を行うようになります。しかし、企業側も経営が安定せず、簡単に採用の取り消しや解雇が行われました。そこで大学は、就職部を設け、ガイダンスや模擬面接などを行い、現代同様に就職活動をサポートするようになります。
こうした時期でも三井、三菱、第一といった大手銀行を中心にした企業は、大卒の学生の定期採用を継続。しかし、厳しい就職難を乗り切るために学生たちは就職活動に奔走することになり、本分である学業がおろそかになる学生が多くいました。
この事態を解消するために、財閥系企業が発起人となって、1928年、大学生の採用試験は、卒業後に行うと取り決めます。現代の就活ルールの元になった就職協定の、そのまた起源ともいえる取り決めでした。このようにして、新卒の一括採用方式が拡大していきます。
その後も戦争は、学生の就職に大きな影響を与えます。軍事体制の時代には、職業選択の自由も無くなりました。
第二次世界大戦後には、就職をめぐる状況は改善し、朝鮮戦争の特需の影響で定期採用も復活。より良い人材の採用に企業が積極的になっていったことを受けて、1953年には採用活動を4年生の10月以降に限定することを決めた初の就職協定がスタートします。大学に進学する人も増え、採用する企業も様々な業種に拡大していき、日本は高度成長の波に乗りました。
また、これまでは大学からの推薦を受けて就職するものでしたが、1960年代後半には、学生が就職を希望する企業へ自由に応募する形に変わっていきます。
60年代は、64年に開催された東京オリンピックの影響を受けた好景気などがあり、採用の早期化が加速していきます。その結果、就職協定は形だけのものとなり、青田買い以上に早い「早苗買い」「苗代買い」と称されるほど、早期化が進みました。
1970年代には、さらに早期化が加速し、「種モミ買い」といった言葉も生まれます。しかし、ドルショックによる内定取り消しが続出して以降、エスカレートした早期化に自粛の兆しが見え始め、1973年には、文部省、労働省、日経連(日本経営者団体連盟;2002年5月経団連と統合)が青田買いの自粛基準を制定し、「会社訪問開始5月1日、選考開始7月1日」とします。
その後、1976年に改定され、「会社訪問開始10月1日、選考開始11月1日」の内容で1985年まで継続しました。
80年代に入ると、再び青田買いがエスカレートし始めます。1986年には男女雇用機会均等法が施行され、就職協定も「会社訪問開始8月20日、内定開始11月1日」に改定されました。
就職協定は、この後も1~2年ごとに改定されますが、人材確保のために解禁日を境に学生を拘束する企業も現れるようになります。
ところが90年代に入ると、大学新卒者の売り手市場が崩壊、就職氷河期を迎えます。企業の採用活動自体も「採用開始選考は8月1日前後を目標として、企業の自主的決定とする」として、企業に委ねられることになりました。
1996年には、就職協定自体が廃止され、企業・学生共に手探りで就職活動を行う時期を迎えます。
企業の採用活動の新しいガイドラインとして登場したのは、経団連によって策定された倫理憲章です。正式名称は、「新規学卒者の採用選考に関する企業の倫理憲章」というもの。経団連を構成する1700の企業に対して、「学業を妨げない、卒業学年に達していない学生に対しての選考活動の自粛、正式内定日(10月1日以降)前に入社誓約書を提出させない」といった内容を通して、学生の自由な就職活動を尊重し、男女雇用機会均等法の精神に反する採用活動を行わないことを求めるものです。
倫理憲章は当初、具体的な日程は、「正式な内定日は卒業・修了学年の10月1日以降とする」だけで、その後も就職活動は早期化しがちでした。そのため、倫理憲章もまた改定が繰り返されることになります。
就職氷河期が続くにつれ、新卒の採用を見送る企業も増え、2000年の卒業者は約2割が無業者となり、フリーターも増加しました。こうした状況は回復の兆しが見える2000年代半ばまで続き、その間の新卒者の就職活動は厳しいものとなりました。
2000年代後半からは景気も回復し、新卒の採用も増え、大卒求人率も2倍を超えるようになります。こうした状況を踏まえ、2013年3月卒業者の採用選考活動は、「広報活動開始12月1日、選考活動開始4月1日」となり、2015年まで適用されました。その後、2016年3月卒業者から「広報活動開始3月1日、選考活動開始8月1日」と改定されます。
最新の採用選考活動は、2017年3月卒業者を対象にした変更で、広報活動開始3月1日、選考活動開始6月1日」となり、現在まで同じルールで継続しています。
経団連の手を離れる2021年以降の就活ルールについては、政府は現行ルールを継続することを発表しています。また、今後は経団連に変わって、「政府」「産業界」「大学」の三者によってルールを決め、政府が企業側に要請することになりました。この変更により、これまではルールの対象外だった経団連の会員ではない企業についても、就活ルールの遵守が呼びかけられるようになるようです。今まで以上に就活の開始時期は統一されていく可能性が高まります。
新卒の就職活動は、時代の景気や社会情勢に大きな影響を受けていることがわかります。日本独特の新卒一括採用は、企業にとっては社員教育や人材の採用計画などが立てやすく、学生にとっても活動がしやすい利点はあります。しかし、就職氷河期の卒業生のように、卒業した年によって就職の有利不利が決まってしまい、その後の救済もない現状は、誰にとっても平等とは言えません。また、人材不足の折、一括採用から通年採用に切り替える企業も増えています。人材不足は、今後ますます深刻になっていくことを考えると、新卒の就職活動もここ数年で大きく変化していくことが予想されます。
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