特集インタビュー | Best Professional Firm 2020

ITの高度な進化、世界経済を取り巻く環境の劇的変化と、ビジネス環境は日々刻々と変化している。その中で勝ち残る企業になるために、経営者に求められているのは柔軟な発想と対応力だという。今後の日本経済と会計業界について語った。

大変革の時期を迎えるために会計ファームと会計人が準備すべきこと

-「Best Professional Firm(BPF)」は第2回を迎え、今年は74社の優れた会計事務所、税理士事務所が選出されました。

有本: 選出された会計ファームのみなさまにお祝いを申し上げます。先進的で顧客満足度の高いお仕事ぶりが高く評価された結果です。昨年の「BPF2019」で、私は会計ファームの多くがIT化の進展などに強い危機感を抱いているとお伝えしました。ルーティン的な処理業務はAI(人工知能)が担うと予想されているからです。  しかし今年になって、それとは異なる環境変化が起こりました。言うまでもなく、新型コロナウイルスの影響です。既にバブル崩壊、リーマンショックに匹敵する景気低迷が予想され、「不況に強い」といわれてきた会計業界も油断がならない状況です。


─ 会計ファームの経営環境は、どのように変わると予想されますか?

有本:確実に言えるのは、私たちの働き方が大きく変わるということです。例えば、今年になってテレワークは一気に普及しました。企業規模や業種業態を問わず、あの短期間にIT環境を整備したのは驚くべきことです。社員のITリテラシーも高まり、テレワークが働き方の一つとして定着することは間違いないでしょう。 私自身も2カ月ほど経験しました。自宅のパソコンで通常業務をこなし、社内会議も外部との打ち合わせもほとんどリモート。初めは不安だったものの、業務にはほとんど支障がなく、実に便利だと思いましたね。社員たちの反応も同様です。 これは単に「便利なツールが増えた」という次元の話ではありません。仕事の価値観、働き方の価値観が、私たちの想像を超えた方向へ進む可能性を含んでいます。 もちろん、オフィスでの業務がなくなるわけではありません。緊急事態宣言の解除後にみんなが出勤してくると、やはり職場は活気に溢れ、お互いに感性が刺激されることも再認識できました。テレワーク、リモート会議といった選択肢が増え、今後は従来の働き方と適切なバランスで活用していくということでしょう。


─ ―働き方の価値観はどこが変化したのでしょうか?

有本: まず大きく変化したのは、労働時間の考え方です。以前は、遅くまで残業すると「頑張ってるね」と褒められたものですが、働き方改革の下では「生産性が低い」と逆に評価を下げます。 今回のテレワークで、生産性の意識はさらに高まったように見えます。  人事評価の基準も見直しが必要でしょう。テレワークでは、労働時間や業務態度が評価されることなく、タスク遂行度やミッション達成度に目が向けられます。  そのためマネージャーは、事前に仕事の目的や業務範囲を明確にし、的確な指示を出す必要があります。つまり、本当のマネージメント能力が問われてくるということです。


トップが明確なビジョンを掲げてこそ魅力ある会計ファームとなる

─ 会計ファームは具体的にどのような影響を受けるでしょうか?

有本:2通りの対応が求められます。まず、顧客企業のIT化に合わせた対応を迫られること。緊急事態宣言が出た頃、企業の担当者が「リモートで打ち合わせしたい」と会計ファームに依頼したら、「リモート会議ができる者はいないので、ご足労願います」という返事だったと笑うに笑えない話がありました。過去の実績があるからと、安穏としていられない状況です。 もう一つは、働き方のニューノーマル(新常態)に合わせて自社の諸制度を見直すこと。特にITリテラシーが高い若い世代が働きやすい職場環境は重要です。 これは生産性を高めるチャンスであり、積極的に取り組んだ会計ファームほど経営が強化される。優秀な人材が集まるのは、そういう先進的な会計ファームです。人材確保、定着率向上など人事面でも差がつくでしょう。


─ 会計ファームの経営戦略や個々人に求められるスキルも、従来とは違ってくるでしょうか?

有本:時代の転換期には、トップがしっかりビジョンを示す必要があります。誰も正解はわかりません。 しかし、何も示さない旧態依然とした経営では、もはや誰もついてこないでしょう。優秀な人材ほど、トップの経営理念やビジョンに共感し、「ここで一緒に働きたい」と考えるものです。 公認会計士、税理士を目指す人たちは、資格取得が最終ゴールではありません。その資格を生かして成長していくキャリア形成が大切です。 監査法人ではコンサルティング業務が増えるなど、会計ファームの役割も様変わりしました。顧客ニーズへの対応力は、個々の公認会計士、税理士にも求められます。 そうした対応力を磨くには、多様な経験を積む以外に方法はありません。「転職経験は少ないほうがいい」という昭和の発想は過去のものとなり、経験豊富な人材が集まる会計ファームが今後は伸びていくはずです。 多様な人材がいることは、顧客にとっても働く人にとっても魅力のあることです。 おそらく10年後、20年後に「会計業界はあの時期に大きく変わった」と振り返るでしょう。将来有望な会計ファームは、もうその準備に取りかかっています。


Profile

ありもと・たかひろ|1961年生まれ。85年、株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)入社。多くの企業の人材採用の提案活動に従事。90年、28歳で株式会社日本MSセンター(現:株式会社MS-Japan)を設立。95年、人材紹介事業の許認可を取得し、管理部門特化型エージェントとして業界をリード。2016年12月、東証マザーズ市場への株式上場。17年12月、東証1部上場を果たす。

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