特集インタビュー | Best Professional Firm 2020

会計ファームの事業内容が多岐にわたる現在。既にファームで働く人も、これから会計人を目指す人も、企業に対して会計が果たす役割をしっかりと見直す必要があるのではないか。 友岡賛教授が、経営と会計の“プロフェッショナル”な関係について語った。

会計ルールの変更は会計軽視ではなく重視の表れ

 いつもは経済の奥座敷に隠れ、ひっそりたたずんでいるように思える会計が、その存在価値を主張するときがあります。 例えば、景気が大きく後退したときです。先頃、日経新聞の1面トップに掲載されていた記事が目を引きました。新型コロナウイルスの感染拡大で企業業績の悪化が懸念されることを受けて、金融庁が会計ルールの弾力的な運用を議論する連絡協議会を設置した、という内容です。店舗や工場などが生み出す利益が下がり、このままでは企業の業績悪化が深刻になるので、会計上の減損処理について一律のルール適用は求めない、ということでした。
 似たような話が約10年前、リーマンショックの後にもありました。日本でも欧米でも、企業が保有する金融商品を時価で評価する時価会計基準の適用が凍結されたのです。
 時価会計とは、企業が保有する金融資産を期末の流通価格で再評価するもの。その逆、購入時の価格で計上する簿価会計は、時価との差額が常に「含み損」「含み益」を生むので、時価会計のほうがより実態を反映し、企業財務の健全性に資するとされ、導入が進められてきたわけです。
ところが、未曽有の景気悪化を受け、時価が低迷したため、そのまま計上すると、企業業績が目もあてられなくなるという懸念から、適用がストップしたのでした。
 これに対し、当時、会計学のある教授が新聞でこう嘆いていました。「会計に携わる者としては不快感がある。結局、会計の議論はいつも最後にスケープゴートにされる」と。
その背景には、「会計基準は経済の実態を忠実に示す物差しだ」という考え方があります。その立場からすると、不良資産が増え、業績が悪化すると都合が悪いからルールを変えてしまう、というやり方は、会計軽視の極みだ、というわけです。
 でも私はそうは考えませんでした。むしろ逆で、スケープゴートどころか、会計は意外と重視されているのではないか、と思ったのです。
 なぜか。こうしたルール変更が行われた場合、企業の経済活動という実態は何も変わらなくても、会計ルールを変更するだけで、赤字が減ったり、赤字が黒字になったりします。その結果、企業は少し息をつくことができます。
 これは、人々(投資家)は経済活動の実態ではなく、会計数値それ自体によって意思決定を行うことを意味しています。つまり、会計という行為が人々をそして、社会を動かしている。会計は軽視どころか、重視されていると考えたほうが理にかなっているのではないでしょうか。

投資家は経済活動の実態ではなく会計数値それ自体によって意思決定を行っている会計にはそれだけの「力」がある

会計士は学問的職業というプロフェッションの一員

その重要な会計を担っているのが会計士です。その歴史は19世紀半ばのイギリスまで遡ることができます。
会計士は学問的職業ともいわれるプロフェッションの一員です。それぞれが自律し、知的な技量をもって、社会的に意義のある専門的サービスを提供します。公益を重視し、他者の利益のために働くことを神々に宣誓(profess)するというのが原義です。
 先駆けは、聖職者、法廷弁護士、内科医で、18世紀にはいずれもその地位がイギリスで確立していました。
 あるプロフェッションが成立するには、2つの段階を経なければなりません。一つは専業化、もう一つは同業者同士が連携する専門団体の発足です。
 前者に関して、それ以前は会計士は株式仲買人などを兼ねている人が多かったのです。後者、専門団体については、1853年、スコットランドで結成されたエディンバラ会計士協会がその嚆矢とされます。
 この会計士協会が試験制度をつくり、それに合格した者のみを正式な会計士として認め、年季奉公という形で初心者の実務教育も行いました。後進の教育もきちんと担っていたのです。

会計士の起源は19世紀イギリス公益を重視し後進も育てながら投資家のために働く

今、監査が面白い会計士は資本主義社会の番人

時代は下り、日本の公認会計士の制度が誕生したのは、1948年のことです。戦前にも計理士という職がありましたが似て非なるものでした。
 今日、公認会計士は監査、会計、税金、経営コンサルティングという4種類の業務を手掛けています。
 ご存じのように、そのうち、会計士(ならびに監査法人)のみが手掛けられる独占業務が監査です。会計の中身を検査し、きちんとした会計が行われるように監督する非常に重要な業務です。
若い頃、監査業務に従事し、一時、コンサルティング業務に移っていた知り合いの会計士に会ったら、「今、監査が面白い」と目を輝かせていました。理由を聞いたら、「会計の虚偽記載に対する罰則が厳しくなったので、財務諸表をチェックし、ここがおかしいと、不適正 意見を前より堂々と書けるようになったからだ」というんです。
 会計(監査)という仕事の醍醐味は、このように、ルールに則しているかどうかという判断を下すことでお金がもらえることにあります。学問的職業といわれるゆえんであり、一度資格を取得すれば、転職も容易で独立も可能です。 自律的に働けて、くいっぱぐれがないのも大きな魅力です。
 社会にはそもそも富が必要です。それによって、文化が栄え、病気や飢えで苦しむ人が減り、多くの人が幸せな暮らしを送ることができるからです。
 その富を生む装置が企業で、その装置を動かすには投資が必要です。
 投資を集めるには、その企業の財務状態をきちんと説明し(account)、その情報が適切であることを、誰かが証明しなければなりません。その一連の働きが会計と監査だといえるでしょう。
 会計士は資本主義社会を適正に機能させるための大事な番人なのです。

Profile

ともおか・すすむ| 1958年東京生まれ。96年より慶應義塾大学商学部教授。専門は財務会計論。商学部会計研究室長も務め、会計士・税理士を志す学生の指導にあたる。専門書から一般向けの解説書まで、会計に関する著作多数。近著に『会計の歴史』(税務経理協会・改訂版)など。

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