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新型コロナウイルス感染症の影響により、本社機能を都市部から地方へ移転させる機運が急速に高まっています。人材派遣大手のパソナグループは本社機能を淡路島に移し、2024年5月までに社員などを1200人異動させる計画を発表して話題になりました。
感染の影響を受けやすい都市部での生活を見直す住民が増えている中で、地方への企業移転について考えてみましょう。
目次【本記事の内容】
企業の地方移転はコロナ禍以前からすでに国の施策として取り組まれている課題でした。
人や企業の首都圏一極集中を防ぐため、2015年に東京圏から地方へ本社移転を促す施策「地方拠点強化税制」が始まっています。東京23区から地方へ本社機能のすべてまたは一部を移転させた企業は、移転先での建物の取得、雇用促進などで法人税が減税される優遇措置を受けられるという制度です。
細かく見ると地方拠点強化税制は、①移転型事業と②拡充型事業との2つのメニューがあります。①は前述のとおり東京23区からの移転が条件となりますが、②は東京23区以外の地方から別の地方へ本社のすべてまたは一部機能を移転させる場合にも適用されます。オフィスだけではなく研究所や人材育成のための研修所などの特定業務施設も対象です。
令和4年3月31日までに移転・拡充をして、都道府県知事の認定を受けた場合に適用されます。
すべての地域で適用されるわけではなく、適用されるための要件も様々にあります。また、目まぐるしく変わるコロナ対応のため、要件が変更される可能性も考えられます。
各都道府県知事の経済・産業の担当部門が窓口となっているので、移転を検討する際には早めに確認しておきましょう。
会社を都市部から地方に移すとどのようなメリットがあるのでしょうか。
前述した「地方拠点強化税制」による優遇措置の他にも、会社にとって次のようなメリットが挙げられます。
地方の土地やオフィスなどの賃借料は、都市部と比べると格段に安くなります。
また電車通勤よりも自家用車での通勤が多くなるため、通勤手当も削減できます。
通勤時間を少なくしたり、環境のよい立地での職場・住居で過ごしたりできるため、社員のワークライフバランスの向上につながります。満員電車に揺られる必要もなくなるため社員のストレス軽減効果もあり、生産性の向上や離職率の低下が期待されます。
企業が地方に移転することで、その地域の雇用や地方税の増収など、人口流出の歯止めや経済の活性化につながります。
「社会貢献をしている会社」というイメージアップにもつながり、バリューチェーンやESG投資といった近年企業に求められている新しい価値創造も可能です。
一方で企業が地方に移転するデメリットや課題には次のようなものがあります。
国土交通省の調べによると、東京都内の企業が東京に本社を置く理由として最も多かった回答は、「取引先が多いから」(61.7%)というものでした。
地方に本社移転をするとオンラインによる商談・面談がメインとなり、相手先によっては取引ができなくなるリスクが心配されます。
都市部には企業だけではなく人口も集中しています。一部では地方で働きたい人が増えているとはいえ、地方ではまだまだ労働人口の流出が激しく、企業にとって人材の確保が課題となります。
大学や専門学校なども都市部に集まっているため、地方を拠点とする企業は新卒採用のハードルがさらに厳しくなると考えられます。
パソコンやWi-Fiなどの端末機器は日本全国どこでも手に入りますが、そもそも地方においてはITインフラが整っていないエリアが残っています。
高速光インターネットや5Gなど最新のITインフラは都市部から提供が始まり、地方への拡大は遅れてしまいます。また地方においては市街地から少し離れると光回線を引くことができなかったり、そもそもスマホが圏外になってしまったりする地域も少なくありません。
企業の本社機能の移転は、一般の人が引っ越しをするように簡単にはいきません。設備機器の移動にはかなりのコストがかかり、登記変更など手続きの手間もかかります。社員の異動や現地での新規採用も数カ月でできるものではなく、数年単位で取り組む課題となるでしょう。
「地方拠点強化税制」の施行から5年。東京では2011年以降企業の転入超過が続いており、成果はまだまだ上げられていないのが現状です。制度適用のハードルの高さに加えて、そもそも移転すること自体の課題が多いことも原因として考えられます。
しかし新型コロナウイルスの出現により社会は一変しました。
多くの企業が感染防止策としてリモートワークを導入し、かなりの業務をリモートで対応できると実証できたのではないでしょうか。
現状ではまだまだ課題の多い本社機能の地方移転ですが、優遇措置の改定や、地方自治体の取り組みなどにより現実味を帯びた検討材料となる可能性があります。
なにより一般住民の地方移住への意識も高まっています。「ウィズ・コロナ」「アフター・コロナ」といった社会の劇的な変化に対応できるように、これまでの企業体制を見直していく必要があるでしょう。
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