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この記事の筆者
牛島総合法律事務所
弁護士
猿倉 健司
牛島総合法律事務所パートナー弁護士。環境法政策学会所属。
環境・エネルギー・製造・不動産分野では、国内外の行政・自治体対応、不祥事・危機管理対応、企業間紛争、新規ビジネスの立上げ、M&A、IPO上場支援等を中心に扱う。
「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」のほか、数多くの著書・執筆、講演・研修講師を行う。
牛島総合法律事務所
弁護士
加藤浩太
牛島総合法律事務所アソシエイト弁護士。
2022年弁護士登録。環境・不動産分野においては、土壌汚染、水質汚染に関する行政・自治体対応、不祥事・
危機管理対応を中心に扱う。
その他、個人情報やデータ・プライバシー関連業務のほか、各種訴訟案件を取り扱う。
「PFAS」とは、有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称で、1万種類以上の物質があるとされています*1。 特に毒性が強いとされているPFOSおよびPFOAを中心に規制の要否が議論されてきましたが、後述のとおり国内外において徐々に規制が進んできている状況です。
PFOS/PFOAは、動物実験では、肝臓の機能や仔動物の体重減少等に影響を及ぼすことが指摘されており、また、人においてはコレステロール値の上昇、発がん、免疫系等との関連が報告されています。国際がん研究機関(IARC)は、令和5(2023)年11月30日、PFOAをグループ1(ヒトに対する発がん性について十分な証拠がある場合等)に、PFOSをグループ2B(ヒトに対する発がん性の可能性について限定的な証拠がある場合等)に分類した旨を公表しました*2。
しかしながら、現在、国内における知見は確立されておらず、調査・検証の途上にあるといえます。例えば、環境省「PFOS、PFOAに関するQ&A集」*3では、「どの程度の量が身体に入ると影響が出るのかについてはいまだ確定的な知見はありません。」、「国内において、PFOS、PFOAの摂取が主たる要因と見られる個人の健康被害が発生したという事例は確認されておりません」と説明されています。
また、内閣府の食品安全委員会が令和6(2024)年6月25日に示した見解でも、PFOS/PFOAについて、健康影響に関する知見はまだ少なく、発がん性については「証拠は限定的」と評価するにとどめています*4。
PFASはもともと自然界に存在せず、人工的につくられる物質で、分解されにくい性質を持っているため、環境中に残留・蓄積するという性質があります。数千年にわたり分解されないため「フォーエバー・ケミカル(永遠の化学物質)」とも呼ばれ、PFASが環境中に漏えいすると、河川や土壌から地下水を経由して汚染が広範囲に拡大するおそれもあります(国内におけるPFOS/PFOAの検出状況について、環境省が国内の河川や地下水への含有量を調べた結果が公表されています*5)。
PFAS関連物質の中には、撥水・撥油性、熱・化学的安定性等の物性があり、それらは1940年代から、溶剤、界面活性剤、繊維・革・紙・プラスチック等の表面処理剤、イオン交換膜、潤滑剤、泡消火薬剤、半導体原料、フッ素ポリマー加工助剤等、幅広い用途で使用されてきました。具体的には、PFOAは、泡消火薬剤、繊維、電子基板、自動車、食品包装紙、石材、フローリング、皮革、防護服等に、PFOSは、泡消火薬剤、半導体、金属メッキ、フォトマスク(半導体、液晶ディスプレイ)、写真フィルム等に、PFHxSは、泡消火薬剤(PFOSの代替)やカーペット表面処理剤、防汚性向上剤として用いられてきました*6。
なお、現在、日本国内においては、PFOS、PFOA、およびPFHxSの輸入、製造が原則として禁止されています(詳細は第4参照)。
もっとも、誤解されやすい点ですが、PFAS関連物質の全てについて有害性が指摘されているというわけではありません。例えば、焦げ付きを防ぐため、いわゆるフッ素樹脂コーティングされたフライパンが市販されていますが、これらに用いられるフッ素樹脂はPFOS/PFOAとは別の物質です*7。したがって、現状規制されているPFOS、PFOA、またはPFHxSや、今後規制され得る有害性が指摘されている物質について注意すればよく、「フッ素」であることのみに過剰に反応する必要はありません。
国内では、上記PFOA/PFOSが使用されていた製品等を製造していた工場や、廃棄物処理場からPFASが検出されるケースが散見され、自衛隊基地や米軍基地等、泡消火剤を使用していた施設周辺での土壌汚染や地下水・水道水の汚染が報道されています*8。
国外では、PFOS/PFOAの規制を強化する動きが強まっています。
POPs条約は、環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念される残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)の、製造および使用の廃絶・制限、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物等の適正処理等を規定している条約です。加盟国は、対象となっている物質について、各国がそれぞれ条約を担保できるように国内の諸法令で規制することになっています*9。
PFOS等は、POPs条約の第4回締約国会議(COP4:平成21(2009)年5月)にて附属書B(制限)対象として追加掲載が決定され、PFOA等およびPFOA関連物質は、第9回締約国会議(COP9:令和元(2019)年5月)にて附属書A(廃絶)対象として追加することが決定されました。
WHOは、「飲料水中のPFOS及びPFOA」WHO飲料水水質ガイドライン作成のための背景文書において、暫定ガイドライン値としてPFOS 100ng/L、PFOA 100ng/L、総PFASは500ng/Lを提案しています。
アメリカでは、従前PFOS/PFOAの合計で70ng/Lを暫定的な目標値としていましたが、令和5(2023)年3月、米国環境保護庁(USEPA)は、安全飲料水法(Safe Drinking Water Act)に基づく飲料水中の規制値案として、PFOS/PFOAそれぞれ4ng/Lを規制値とする案を公表しました*10。米環境保護局(EPA)は、令和6(2024)年4月10日、飲料水中の規制値(National Primary Drinking Water Regulation(NPDWR))を最終決定しています*11。
また、米国環境保護庁(EPA)は、令和6(2024)年4月19日、PFOS/PFOAをスーパーファンド法(CERCLA)の有害物質に指定することを決定しました*12。スーパーファンド法(CERCLA)は、施設の現在の所有者および管理者だけでなく、有害物質が放出された当時の施設の所有者および管理者など、有害物質に関与した者に広く除去責任を負担させる点に特徴があります。
なお、アメリカでは、PFASに関連して巨額の損害賠償を求める訴訟(和解が成立)も提起されています。
ドイツでは、令和5(2023)年に飲料水に係る法令が改正され、令和8(2026)年から20PFAS(C=4~13の各PFSAおよびPFCA)の合計で100ng/Lという基準、令和10(2028)年から4PFAS(PFOS、PFOA、PFNA、PFHxS)の合計で20ng/Lという基準が適用予定とされています*13。
国内では、後述するとおり、PFOS、PFOA、およびPFHxSについて、様々な規制がなされています。もっとも、事業所からの排水に係る基準については定められておらず、土壌や食物(米、野菜等)に関する指針値等もないなど、規制される場面とそうでない場面が複雑に入り組んでいることから注意が必要です。以下、主な規制について解説します。
化審法は、化学物質の性状等(分解性、蓄積性、毒性、環境中での残留状況)に応じて、製造・輸入を制限する法律です。 PFOSは平成22(2010)年、PFOAは令和3(2021)年、PFHxSは令和6(2024)年2月に第一種特定化学物質に指定され、現在ではいずれも製造・輸入等が原則として禁止されています。
このように、PFAS関連物質の指定が続いており、改正のペースも早いため、規制の動向に注意が必要です。
環境基本法16条1項に基づき定められた公共用水域の水質汚濁に係る環境上の基準は、PFOS/PFOA併せて50ng/L以下(暫定指針値)とされています(令和2年5月28日環水大水発第2005281号・環水大土発第2005282号)。
もっとも、かかる基準は、事業場に対する規制ではなく、事業者に何等かの措置を講ずることを義務付けたり、国および地方公共団体に公表を義務付けたりするようなものではありません。
水道法は、水道水質基準(水道法4条、水質基準に関する省令)を定めています。また、水道水質基準の他に、水質管理上留意すべき項目を「水質管理目標設定項目」として、また、毒性評価が定まらない物質や、水道水中での検出実体が明らかでないため必要な情報・知見の収集に努めることとされる項目を「要検討項目」として定めています。
PFOS/PFOAは、上記のうち「水質管理目標設定項目」に位置付けられ、暫定目標値(PFOSおよびPFOAの和として50 ng/L)が設定されました(令和2年3月30日薬生水発0330第1号)。
水濁法には、事業者に対して、概要、①有害物質を含む汚水または廃液を排出する「特定施設」がある事業場(特定事業場)から公共用水に排出される汚染水(排出水)および地下に浸透する汚染水に対する規制(水濁法12条1項、12条の3)と、②特定事業場または指定物質を製造、貯蔵、使用、または処理する「指定施設」がある事業場(指定事業場)について、事故発生時の対応等を義務付けています(水濁法14条の2第1項および2項)。
PFOS/PFOAは、水質汚濁防止法上の「指定物質」に追加されたものの(令和5(2023)年2月1日施行)、上記①の規制の対象となる「有害物質」には含まれておらず、排水に関する規制はありません。
他方で、②指定事業場の設置者は、当該事業場において、施設の破損その他の事故によりPFOS/PFOAを含む水が公共用水域に排出または地下に浸透したことにより人の健康または生活環境に係る被害を生ずるおそれがある場合には、PFOS/PFOAを含む水の排出または浸透防止のための応急の措置を講じるとともに、事故の状況および講じた措置の概要を都道府県知事へ届け出ることが義務付けられています(水濁法14条の2第2項)。
まず、自社でPFOS/PFOAを取り扱っているか、かつて取り扱ったことがあるか否かを確認する必要があります。例えば、過去にPFOS/PFOAを製造していた場合や、PFOS/PFOAを含む原材料を利用して自社製品を製造していたような場合が想定されます。
自社でPFOS/PFOAを取り扱ったことがない場合でも、PFOS/PFOAに関する問題が生じる可能性があるため注意が必要です。具体的には、他社から購入した原材料、部品、又は工場設備等にPFASが含まれている場合や、過去にPFOS/PFOAを取り扱った履歴のある土地の売買をする場合等が想定されます。
化審法25条は、「何人も、次に掲げる要件に適合するものとして第一種特定化学物質ごとに政令で定める用途以外の用途に第一種特定化学物質を使用してはならない」と規定しています。そのため、自社製品の製造過程におけるPFOS/PFOAを含有する原材料・部品等の使用態様の評価によっては、化審法に違反するおそれがあります。
自社が過去にPFOS/PFOAを取り扱ったことのある工場を有している場合、工場からの排水や工場の地下水からPFASが検出される可能性があり、その値が暫定目標値を超えた場合、行政から指導を受けたり、公表されたりする場合があるので注意が必要です。
施設の破損その他の事故によりPFOS/PFOAを含む水が公共用水域に排出または地下に浸透したことにより人の健康または生活環境に係る被害を生ずるおそれがある場合には、応急の措置を講じるとともに、事故の状況などを都道府県知事への届け出ることが必要になります。また、その際には、行政との協議や住民説明会を実施するなどして適切に対応することが必要となります*14。
不動産の売買やM&Aによって新たに不動産を取得した場合において、当該不動産中からPFASが発見されることがあります。 不動産取引時に法令等の規制対象ではない有害物質については、健康への安全性が広く認知されているような場合などを除き、不動産の欠陥としては考えないという裁判所の発想があり、かかる考えに従えば売主は契約不適合責任(瑕疵担保責任)を負わないとも考えられます(東京地判平成22年3月26日ウエストロー2010WLJPCA03268023)。
もっとも、法令の規制対象外の物質であっても、時を経るにつれその危険性の社会的認知や調査・取引実務は進んでいくことから、今後の実務においては売主の責任また工場を操業する事業者の責任が、以前よりもより認められやすくなっていく可能性があります。
不動産の取引や不動産を保有する企業のM&Aにおいては、買主としては事前調査(デューディリジェンス)を適切に実施し、また売主は上記のような責任を負うことを前提に、譲渡契約書での免責条項、表明保証条項その他の規定において適切に手当をしておくことが必要となります*15。
国内におけるPFASに関する議論は現時点においてはいまだ途上の中にありますが、PFASに関する規制は世界的に厳格化の傾向があり、国内においても同様の流れをたどる可能性が十分にあります。
また、現時点において規制対象でないとしても、健康被害を生ずるおそれがある場合には第三者に対する損害賠償責任を負う可能性もあるため、対象物質の生命身体への安全性等についての知見や法令規制の動向(海外の規制も含む)について、適切に確認していく必要があるということに留意すべきです。実際に健康被害が生じているわけではないものの、健康被害が生ずるおそれがあることを理由に損害賠償責任(汚染対策費用、慰謝料等)が認められる可能性があります(福島地裁郡山支判平成14年4月18日判時1804号94頁)。
さらに、法的な義務を負わないとしても、企業としての信用(レピュテーション)が低下するなどのリスクもあるため、環境問題を専門とするコンサルタントや弁護士等の専門家、また行政と協議をしたうえで、工場や事業場の周辺住民に対して適切に対応することが必要となります。
自社におけるPFASに関するリスクを適切に把握し、また、PFASに関する国内外の動向を注視し、緊急事態が生じた場合には、専門家の意見を得ながら被害を最小限に抑え、行政・周辺住民との調整を円滑に実施できるように準備しておくことが肝要です。
以上
*1 環境省 PFASに対する総合戦略検討専門家会議「PFOS、PFOAに関するQ&A集2023年7月時点」1頁
*2 IARC「IARC Monographs evaluate the carcinogenicity of perfluorooctanoic acid (PFOA) and perfluorooctanesulfonic acid (PFOS)」(2023年12月1)
*3 環境省PFASに対する総合戦略検討専門家会議「PFOS、PFOAに関するQ&A集2023年7月時点」
*4 食品安全委員会「評価書 有機フッ素化合物(PFAS)」238頁
*5 環境省ウェブサイト「令和4年度公共用水域水質測定結果及び地下水質測定結果について」(2024年3月29日)
*6 食品安全委員会「評価書 有機フッ素化合物(PFAS)」(令和6年(2024年)6月)14頁
*7 神奈川県ウェブサイト「有機フッ素化合物に関するQ&A」(2024年1月11日更新)
*8 朝日新聞デジタル「米軍基地周辺のPFAS汚染 国内対策追われる米国、日本で対応鈍く」(2024年2月5日)、NHK「千葉県 PFAS検出問題 付近の海自航空基地に調査協力を申し入れ」(2024年7月9日)
*9 経済産業省ウェブサイト「POPs条約」
*10 環境省「米国環境保護庁(USEPA)の飲料水規制(案)について」
*11 EPA「Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) Final PFAS National Primary Drinking Water Regulation」(2024年7月12日)
*12 EPA「Biden-Harris Administration Finalizes Critical Rule to Clean up PFAS Contamination to Protect Public Health」(2024年4月19日)
*13 環境省 PFASに対する総合戦略検討専門家会議「PFOS、PFOAに関するQ&A集2023年7月時点」9頁
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