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【弁護士監修】環境関連法令・条例は管理部門へどう影響するか?管理部門のための準備チェックリストも紹介

公開日2024/09/13 更新日2024/09/13 ブックマーク数1

環境関連法令・条例は管理部門へどう影響するか

この記事の筆者

牛島総合法律事務所
弁護士
猿倉 健司

牛島総合法律事務所パートナー弁護士。環境法政策学会所属。
環境・エネルギー・製造・不動産分野では、国内外の行政・自治体対応、不祥事・危機管理対応、企業間紛争、新規ビジネスの立上げ、M&A、IPO上場支援等を中心に扱う。
「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」のほか、数多くの著書・執筆、講演・研修講師を行う。


牛島総合法律事務所
弁護士
福田竜之介

牛島総合法律事務所アソシエイト弁護士。
2022年司法試験合格。2023年弁護士登録。環境法分野では、廃棄物に関する紛争対応等を中心に扱う。 国際的な労働関連業務のほか、各種紛争対応や契約交渉等も取り扱う。

Ⅰ. 環境関連法令と条例とは

1. 環境関連法令等

国の法令上規制される廃棄物や環境汚染物質、エネルギー・温室効果ガス等は多様であり(特定有害物質、ダイオキシン類、油汚染、アスベスト、PCB廃棄物など)、他の法分野と比較しても極めて多数の法令が存在します。
さらには、各法令に対応する数多くの規則・通知・ガイドラインなどが存在するなど、理解しなければならない規制の内容も多く、その範囲が極めて広範でありかつ複雑です。

2. 都道府県のみならず市区町村にも存在する条例

国の法令とは別に、各自治体が定める条例は、環境やまちづくりに関連するものだけでも、廃棄物対策やリサイクル、プラスチック等の資源循環のほか、カーボンニュートラル(省エネルギー・温室効果ガス対策を含む)や太陽光発電設備の規制、再生可能エネルギーの利用促進に関する条例、埋土や景観、土壌汚染、地下水、アスベストその他の大気汚染の環境基準に関する条例など、さまざまです。各条例には、対応する施行規則や指導要綱等がある場合もあります。

3. 環境法令と条例の関係

国の法令、都道府県の条例、市区町村の条例の規制内容・基準がすべて異なる場合もあることが、実務担当者の理解をより困難にしています。
国の法令より厳しい基準が設けられている「上乗せ規制」、国の法令では規制されていないものを独自に規制する「横出し規制」がありますが、大気汚染防止法32条に関しては約20以上の都道府県条例で、水質汚濁防止法29条ではすべての都道府県の条例で、上乗せ規制が設定されているといわれています。

なお、条例は国の法令を受けて制定されていますが、国の環境法令と条例は、1対1できれいな形で対応しているわけではない(「大気汚染防止法」と「大気汚染防止条例」という形で対応しているわけではない)ことにも注意が必要です。たとえば、大阪府の「生活環境の保全等に関する条例」や東京都の「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」は複数の章から構成されていますが、各章の内容を見るとそれぞれ複数の国の法令に対応する内容が広く含まれる形になっているなど、対応関係がわかりづらくなっています。

 以上につき、猿倉健司『環境リスクと企業のサステナビリティ(SDGs・ESG)』(牛島総合法律事務所特集記事)も参照

Ⅱ. 環境関連法令・条例は企業へどう影響するか(ビジネス上盲点となり得る代表的な法規制)

一般の事業会社においても、たとえば、グループ会社内の製品製造工程で生じる副生物・副産物を他の事業の材料として転用・再利用(リサイクル)する場面などには、その運搬・処理について廃掃法の規制が問題となります。
その他も含め、環境法令規制がビジネスの足かせとなることは多く、特に、行政との協議対応は容易ではないことから、多くの企業において頭を悩ませる問題となっています。ビジネス上盲点となりうる代表的な法規制としては、以下のものが挙げられます(以下は多くの環境法令のごく一部にすぎません。その他の代表的な環境法令については、後述の箇所でも説明しています)。

1. 温暖化対策推進法

CO2などの温室効果ガスを対象として、エネルギー起源CO2はエネルギー使用量1500kL/年以上、非エネルギー起源CO2は3,000t以上(かつ常勤従業員21名以上)の事業者は、毎年、温室効果ガス排出量を報告する必要があります(上記基準を超える工場も別途報告の対象となります)。報告を行わなかった場合または虚偽の報告を行った場合は、温対法により20万円以下の過料が課せられます。

2. 廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)

事業者には、産業廃棄物の適正処理(不法投棄の禁止)、適正委託(マニュフェスト、処理の確認等)が求められます。違反に関する罰則もあります。
さらに、産業廃棄物を1,000t以上/年発生させた事業場設置事業者等(多量排出事業者)には、産業廃棄物処理計画・処理計画の実施状況報告、産業廃棄物管理票交付等状況の報告が求められます。報告違反に関する罰則もあります。

3. PCB廃棄物特措法(ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法)

事業者は、一定の期限までにPCB廃棄物の処理を委託する必要があります。また第三者への保管委託は禁止されています。2022年5月に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」が改定されたことにより、地域によって差はあるものの、高濃度PCB廃棄物は2026年3月末までの間に、低濃度PCB廃棄物は2027年3月末までの間に、適切に処理を実施する必要があります。

その他、PCB廃棄物の保管届出、譲渡禁止等の規制があります。届出違反に関する罰則もあります。

4. 化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律:PRTR法)

政令指定の24業種の対象事業者(かつ常勤従業員が21人以上)が、いずれかの第一種指定化学物質(現在515物質が指定)の年間取扱量が1t 以上となる(または法令で定める特別要件施設を設置している)場合には、排出量・移動量を個別事業所ごとに届け出ることが必要となります。届出違反に関する罰則もあります。

5. アスベスト法規制(大気汚染防止法、石綿障害予防規則等)

2023年までに順次施行されている改正大気汚染防止法により、原則として全ての建物について解体・改修の前に業者が石綿の有無を調査し報告することが必要となりました。また、規制対象が全ての石綿含有建材に拡大されています。報道では、かかる法改正によって飛散防止策が必要な解体・改修工事は現在の20倍に増える見込みであることも指摘されています。

 以上につき、猿倉健司『環境汚染・廃棄物規制とビジネス上の盲点』(牛島総合法律事務所特集記事)、同『新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~』(牛島総合法律事務所特集記事)、同『PCB廃棄物(ポリ塩化ビフェニル廃棄物)処理の実務上の留意点(2022年改正対応)』(牛島総合法律事務所ニューズレター)、同『アスベスト・石綿による規制と土壌汚染の法的責任(2020年法改正対応)』(牛島総合法律事務所ニューズレター)も参照

Ⅲ. 環境関連法令・条例は管理部門へどう影響するか

以上の他にも、海外子会社を有する企業においては、国内規制にとどまらず、子会社の所在する国・地域での規制についての検討も必要不可欠となり、世界各国において各規制・定期報告義務の対象となるのかといったことについても把握しなければなりません。また、環境マネジメントに関する国際的な認証であるISO14001においても数多くの法令要求事項があり、これらの各規制を漏れなく確認することが求められますが、自社のビジネスに必要な規制を網羅的に把握することは容易ではありません。この点も、管理部門の頭を悩ませることになります。

しかも、法令や条例に違反した場合には、以下のような大きなリスクが生じ得ます。企業の管理部門におかれましては、専門家のアドバイス等を活用し、事業会社が致命的リスクを負うことを回避し、ミスのない規制対応・行政対応を行う必要があります。

1. 行政処分リスク

事業会社におけるビジネスでは、たとえばグループ会社で製造している電化製品、自動車、化学製品、食品、衣服について、製造過程で発生する副生物・副産物、ゴミ、環境有害物質を他の製品やビジネスに転用・再利用するにあたり、廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)その他の法令に基づく許認可や届出等のさまざまな手続が必要となる場合があります。そして、かかる適切な手続を経なかった場合、所管官庁、都道府県、市町村から、さまざまな行政処分がなされる可能性があります

2. 刑事責任リスク

法規制等に反する不適切な処理がなされたことを理由に、刑事責任が問われるケースもあります。
特に環境関連法令は、罰則金が高額になるため注意が必要です。たとえば廃掃法においては、廃棄物の不法投棄には5年以下の懲役または1,000万以下の罰金、またはその両方が科せられ(同法25条1項14号)、企業の場合は3億円以下の罰金が科せられることがあります(同法32条1項1号)。これは他の法律と比べても極めて高い金額であると言えます。

3. 信用毀損リスク

行政処分・刑事処分のリスク以外にも、環境法令の違反により企業の社会的評価(レピュテーション)が低下するほか、リスク発覚後の対応にも大きな非難が集まり、顧客の流出をはじめとした甚大なダメージを受ける場合もあります。

4. 民事賠償リスク

企業だけではなく、その役員についても、前述のような刑事責任を問われるケースや、株主代表訴訟等によって極めて多額の賠償責任を負うケースも見られます。

 以上につき、猿倉健司『廃棄物・環境法規制と行政処分への対応(不要物の転用・リサイクル目的での再生利用を例に)』(牛島総合法律事務所ニューズレター)も参照

Ⅳ. 持続可能なビジネスを支える環境法規制の進化

近時特に、地球温暖化対策(温室効果ガス排出)に関する条例や再生可能エネルギー関連施設に関する規制などは、新規制定・改正が頻繁に行われており(これらに限られません)、これらの各規制を網羅的に適時のタイミングで把握するのは現実的でないともいえます。

しかも、これらの規制内容は日々改正・アップデートされていくことから、適時適切なアップデートがなされないと、少し前までは適法であった行為であっても、ある時点を境に、知らないままに法令違反を犯してしまっているということも少なくありません。
以下は、近時の環境法規制の新規制定や改正の例です。

1. 新規制定の例:プラスチック資源循環促進法

2022年に施工されたプラスチック資源循環促進法では、消費者に無償提供されるプラスチック使用製品として指定されている「特定プラスチック使用製品」について、提供事業者及び排出事業者が取り組むべき判断基準が策定されています。
提供事業者は、設定した使用合理化の目標、特定プラスチック使用製品の提供量、使用の合理化のために実施した取組みおよびその効果について公表するように努めることが要請されています。また多量排出事業者は、毎年度、プラスチック使用製品産業廃棄物等の排出量、排出抑制目標の達成状況に関する情報を公表するよう努めることが要請されています。

また、認定を受けることで、廃掃法の許可を得ることなく使用済みプラスチックの回収・資源循環の取組みを行うための制度も設けられています。

2. 改正の例:省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)

エネルギー使用量が1500kL/年以上の特定事業者は、エネルギー使用状況届出書を提出した上で、毎年、エネルギー使用量・温室効果ガス排出量等、中長期計画(削減目標等)を報告する必要があります。
2023年に改正法が施行され、対象エネルギーが非化石エネルギー(たとえば、水素、アンモニア等)にも拡大されました。また、上記基準を超える工場も別途報告の対象となります。報告違反に関する罰則もあります。

 以上につき、猿倉健司『2023年4月施行改正省エネ法において留意すべき定期報告制度』(牛島総合法律事務所クライアントアラート)、同『2022年プラスチック資源循環促進法の制定と事業者・企業に求められる責任・義務』(牛島総合法律事務所ニューズレター)も参照

Ⅴ. 環境監査への対応はどうする?管理部門の準備チェックリスト

1. 法令と条例の違いの双方の確認

自治体の条例による規制内容が国の法令と異なる場合、これを把握していなかったことにより、必要な手続を懈怠してしまうこともあります。以下では、その一例として土壌汚染対策法をご紹介させていただきます。

■土壌汚染対策法と東京都条例
規制対象となる特定有害物質は、現在26種類です。①水質汚濁防止法上の特定施設を廃止する場合、②3,000㎡以上(一定の場合には900㎡以上)の土地の形質変更を行った者による事前届出の結果、知事が土壌汚染のおそれありと認定した場合、その他、③知事が土壌汚染により人の健康被害が生ずるおそれありと認定した場合に、土地の所有者、管理者又は占有者に、土壌汚染の調査・報告義務が課されます。なお、2019年の改正土対法の施行により、報告・調査が求められる要件について改正がなされ、届出・調査報告義務の対象地が2倍に増加するとも言われています。

一方、東京都の環境確保条例(都民の健康と安全を確保する環境に関する条例)では、掘削範囲ではなく対象地の面積が3,000㎡である場合には、土壌掘削前に必要な届出をしなければなりません(同条例117条、同施行規則57条)。
つまり、たとえば5,000㎡の土地のうち2,000㎡の範囲を掘削するというケースでは、土壌汚染対策法に基づく届出は不要となる場合であっても、東京都の環境条例に基づく届出が必要となる場合があるということになります。

このように国の法令と条例とで異なる規制基準があるケースや、国の法令にはない義務が条例に存在するケースなど、条例の規制を把握していないこと、見落としによる違反を招くケースが多々あります。

2. こまめな法令等のチェック

前述しましたとおり、近時は特に条例規制の頻繁な制定・改正が行われていますので、理想的には、少なくとも年に1、2度は、法令、条例のチェックが必要だといえますが、年に4回チェックしている事業者もあります。他方で、それ以上の回数を行ったとしても、必ずしも十分であるとはいえません。

3. 専門家のアドバイスを踏まえた適切な対応

法令・条例や具体的な指針・ガイドライン・指導要綱その他が存在するものの、必ずしも明確な基準・解釈が設定されているわけではありません。環境行政においては、自治体の裁量に委ねられている面があり、ある自治体や官庁から問題ない旨の見解が提示されたにもかかわらず、他の官庁等から当該見解に従った処理が違法であると判断されるといったケースも多々あります。そのため、専門家のアドバイスを踏まえて適切に対応する必要があります。

Ⅵ. まとめ

以上、環境関連法令・条例についての概要や管理部門が把握しておくべきことをご説明させていただきました。説明をしたいくつかのポイントだけでも、実務上これらの規制を踏まえた適切な対応を行うのが容易ではないことを理解していただけたかと思います。実務上も、難しい事態に直面することも多いかと思いますが、行政や弁護士その他の専門家にも相談をしながら慎重に進めていくことが必要となってきます。




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