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▼この記事を書いた人
辻 泰崇
辻公認会計士事務所
公認会計士、税理士、公認不正検査士
経理や内部統制に関する豊富な知識と経験を活かし、一般市場や東京プロマーケット(TPM)、福岡プロマーケット(FPM)への上場準備や経理業務効率化、内部統制構築など、企業に対して、ハンズオンで様々な課題解決のサポートをしている。
また、認定支援機関として財務や税務、補助金など中小企業への幅広いサポートも行っており、その豊富な実績が評価され、経営革新等支援機関推進協議会から、全国1,700超の会計事務所のうち2023年以降2年連続でTOP100に選出された。
2024年9月13日に、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下、「新リース会計基準」という)が企業会計基準委員会(ASBJ)によって公表されました。
国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」や米国財務会計基準審議会(FASB)よりTopic 842「リース」が公表され、従来の日本における会計基準に基づく会計処理方法、特に負債の認識においてギャップが生じていました。 そのため、従来の会計基準から大幅に改定することで財務諸表の利用者が企業のリース負債の実態をより正確に把握することができるようになり、国際的な会計基準と一貫性を持たせることで比較可能性を高めることを目的としています。
新リース会計基準は以下の企業が対象となります。
2027年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用となりますが、2025年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首から任意適用が可能となります。
新リース会計基準の最大の変更点は、リースを「使用権資産」として認識するという点です。 具体的には、企業はリース契約に基づいて使用権を得る資産(使用権資産)と、それに対する義務(リース負債)を貸借対照表に計上します。
従来はオペレーティング・リース契約が貸借対照表に計上されず、リース料が費用として計上されるのみでしたが、新リース会計基準においては原則として、全てのリースは貸借対照表にオンバランスされ、財務諸表において資産と負債が増加することになります。
上述のとおり、新リース会計基準への変更により、企業はリース契約に基づく資産および負債の全てを明確に開示しなければなりません。
具体的には、リース期間にわたり使用する資産を「使用権資産」として認識し、対応するリース料の将来支払分を「リース負債」として計上します。
リース負債は、利息法により支払利息と元本返済として計上され、使用権資産は耐用年数に基づいて減価償却されます。
ただ、一部例外として、短期リースや小額リースについては、従来の会計基準に近い処理を選択することも可能です。
また、リースとなる範囲も従来の会計基準から変更となります。 具体的には、契約書上に『リース』と記載されているか否かに関わらず、お金を支払って使用する権利を得ている取引はすべてリースとなり、使用権資産として計上する必要があります。
そのため、新リース会計基準においては、従来は貸借対照表にオンバランスしていなかった建物賃貸借契約などもリースとなる点に注意が必要です。 これらの変更により、リースを広く活用している業界だけでなく、従来はリースではなかったオフィスや店舗の賃貸を多く行っている事業などにも大きな影響を与え、貸借対照表上での負債額の増加が予想されます。
実務のポイントは、大きく以下の4つとなります。
様々な契約の内容を確認し、『リース』と記載されていないが、お金を支払って使用する権利を得ている取引が存在しないか洗い出す必要があります。 その後、契約の範囲や条件などを詳細に確認し、契約が適切に使用権資産およびリース負債として計上されるよう管理することが重要です。
特に、変動リース料や契約の延長オプションなど、契約条件の変動が財務諸表に与える影響を正確に把握する必要があります。
新リース会計基準では、借手のリース期間を合理的に見積もることが求められますが、契約上の延長オプションや解約オプションの対象期間、これらのオプションを行使するか否かの要因などを考慮し、適切な期間を判断することが必要です。 リース期間によって会計処理する期間が変わり、企業の財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
また、借手のリース期間が12ヵ月以内で購入オプションを含まない場合は、短期リースとして使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができます。
新リース会計基準に基づく会計処理は複雑であり、従来の会計システムでは対応が難しい場合があります。 リース契約を自動的に管理し、資産・負債の計上を効率的に行うためのシステム導入や、既存システムのアップデートが実務上の重要な課題となります。
従来の会計基準と同様に、使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができます。 これは、企業の事業内容に照らした重要性などを考慮する必要があり、監査法人側との協議も必要となるため、早めに方針を決定し、協議を進めることが重要です。
新リース会計基準は、IFRS第16号の主要な内容のみを取り入れることによって簡素で利便性が高く、かつIFRS を任意適用して連結財務諸表を作成している企業が IFRS 第 16 号の定めを個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となる会計基準となっています。 そのうえで、国際的な比較可能性を大きく損なわない範囲で日本独自の調整が含まれています。
まず、主な共通点は以下のとおりです。
両基準とも、リース取引の借手側においては、「使用権モデル」を採用しています。 これにより、お金を支払って使用する権利を得ている取引に関する契約すべてについて、使用権資産とリース負債を認識することとなります。
借手に関する会計処理では、両基準ともに、単一の会計処理モデルを適用しています。 これにより、「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の区分はなくなり、全てのリースに対して同一の会計処理が適用されることとなります。
両基準とも、短期リース(12か月以下)および少額リースに関しては、使用権資産やリース負債を認識しないオプションが認められています。 この場合、リース料を費用として認識することができ、実務上の負担が軽減されます
上記の共通点に対して、以下のような違いもあります。
IFRS第16号では貸手も原則としてすべてのリースを単一の会計処理モデルで処理するというアプローチを取っていますが、新リース会計基準では、貸手側の会計処理に関して従来の「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の区分を維持しています。
IFRS第16号では新品の状態での原資産の価値が少額のリースに関しては、例外処理として少額リースに該当する旨が記載されていますが、金額については基準上で明記されておらず、結論の根拠において「新品購入時において、5,000米ドル以下」と明記されています。
したがって、車両や複合機などは少額リースの対象外となります。 少額リースの例としては、タブレット、パーソナルコンピューター、小型の事務所用備品、電話等が挙げられています。
これに対して、新リース会計基準では金額が明記されておらず、企業の事業内容に照らした重要性などを考慮する各企業に応じた判断が必要となります。
新リース会計基準の導入により、使用権資産とリース負債を計上することとなり、従来では販売費及び一般管理費のリース料として計上されていた取引が、今後は減価償却費と支払利息で計上されることとなり、対象となる取引が多い場合は企業の財務諸表には以下のような大きな影響を及ぼします。
・自己資本比率の悪化
従来はリース負債として計上しなかった契約が、新リース会計基準によってリース負債として計上されることとなり、負債比率が高くなり、自己資本比率が低くなります。
・費用科目が変わることによる段階損益の変動
従来は販売費及び一般管理費においてリース料や賃借料として計上されていた取引が、新リース会計基準においてオンバランスされることにより、減価償却費と支払利息で計上されることとなります。
支払利息は営業外費用として計上されるため、営業利益が支払利息となる分だけ増加することとなります。
また、企業の業績評価など「本業で稼ぐ力」を測定するために用いられるEBITDAは税引前利益に支払利息と減価償却費を加えて算出されます。 従来はリース料や賃借料としてEBITDAのマイナスに影響していた項目が、新リース会計基準において計算に含まれなくなるため、オンバランスされる取引が増加することによってEBITDAの形式的な向上に繋がります。
新リース会計基準導入に向けて企業が行うべき具体的な対応は以下のとおりです。
1. リース契約の洗い出し
現在締結している全てのお金を支払って使用する権利を得ている契約書をすべての拠点で改めて確認し、新リース会計基準に基づいて認識が必要となる契約を特定する。
2. リース情報の整理
上記で抽出した契約に関して、リース期間、支払条件、更新や解除オプションなどの契約条件を整理し、必要な会計処理を検討し、事前に監査法人と協議を行う。
3. リース資産と負債の計算準備とシステムの整備
新リース会計基準に基づき、使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上するための計算方法や管理するためのシステムの整備・改修を行う。
4. 財務報告プロセスの見直し
新リース会計基準に基づいたリース取引の報告が適切に行われるよう、財務報告プロセスを見直し、適用準備を進める。
5. 経理担当者への教育・研修
経理担当者に対し、新リース会計基準の内容やその影響を理解させるための研修を実施する。
6. 財務諸表への影響分析
使用権資産とリース負債が貸借対照表に与える影響を事前にシミュレーションし、財務諸表全体へのインパクトを把握する。
7. 経営陣およびステークホルダーへの説明
経営陣や株主、取引先などのステークホルダーに対し、新リース会計基準による財務状況の変化を事前に説明し、理解を得る。
8. 開示要件への対応
新リース会計基準に基づく開示要件(リース契約の詳細、リース負債の支払予定など)に対応するため、必要な情報の収集ができる体制の整備と開示書類の準備を行う。
このような準備を行うことで、円滑に新リース会計基準へ対応できるようになります。
新リース会計基準の導入により、企業の財務状況や必要となる対応、決算作業の工数に大きな変化がもたらされることが予想されます。 特に、リース負債の計上により、自己資本比率が悪化することが懸念されますが、新リース会計基準の導入によって経営実態の透明性が高まり、投資家に対する説明責任が強化されるというメリットもあります。
企業にとっては、リース契約の洗い出しや契約の見直し、会計システムのアップデート、開示対応など、非常に多くの実務的な準備が求められる局面です。 適切な対策を出来るだけ早く講じ、適用開始時における負担や影響を最小限に抑えることが重要です。
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