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イギリスが国民投票によって、EU(欧州連合)からの離脱を決めたのは2016年6月です。しかし、国民投票から3年が経った現在も、離脱の手続きに入ることが出来ずに、メイ首相は5月24日に辞任を表明しました。イギリスのEU離脱はこの先どうなるのか、日本経済への影響はどうかなど、ビジネスパーソンとしても気になる点についてまとめてみました。
イギリスには、およそ1000社の日系企業が進出していますが、イギリスのEU離脱が「合意なき離脱」となれば、EU加盟国はもちろん、EU加盟国と取引関係にある外国企業にとっても、何らかの影響が出てくることが予想されます。
日系企業では、日産自動車、ホンダ、トヨタ自動車がイギリス各地に工場を設置し、年間80万台を現地生産していますが、使われる部品のほとんどをヨーロッパ大陸から調達しています。
自動車メーカーは基本的に部品の在庫を抱えず、ジャスト・イン・タイムで部品を調達しています。EU離脱となれば、部品調達がスムーズに行われなくなり、関税によるコストアップの懸念も生じてくることが考えられ、イギリスでの生産計画を見直す動きが広がっています。
また、ロンドンは世界の金融センターでもありますから、日本の大手金融機関も多く進出しています。イギリスの免許があれば、EU加盟国のどこでもビジネスが可能なことから、ヨーロッパ各地に拠点を設け、事業を展開してきました。
しかし、イギリスがEUから離脱すると、それが通用しなくなります。そこで、EUで事業を続けるために日本の大手金融機関は、EU側での免許取得に乗り出すなど、イギリスのEU離脱は、各界に波紋を広げています。
ところで、EUはどうして誕生したのでしょうか。EU(欧州連合)には、28か国が加盟し、加盟国はそれぞれが主権国家でありながら、経済的・政治的に協力関係を維持する共同体です。
この、共同体が生まれた背景には、何百年もの間、繰り返し行われてきた戦争に終止符を打とういう考え方が根底にあります。第二次世界大戦後の1950年、当時のフランス外相のロベール・シューマンは、軍事力の要である石炭・鉄鋼の産業部門を共同管理する、超国家的な欧州の機構の創設を提唱(シューマン宣言)しましたが、それが、EUの出発点です。
フランス、西ドイツ、ベルギー、イタリア、ルクセンブルク、オランダの6か国がシューマン宣言に賛同し、1952年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)を設立、さらに、“共通市場”を擁する欧州経済共同体(EEC)の創設、共通の通貨ユーロの発行など、拡大を続けてきました。
EU加盟国間では、人、物、サービス、資本が、国境などの障壁に妨げられることなく、自由に移動することができます。ユーロは共通の単一通貨ですから、各国通貨間の為替変動リスクもなく、金利もインフレ率も低くなります。
つまり、競争力のある大きな市場の中で、取引や資金調達ができるなど、ヨーロッパ経済のグローバル化に、EUが果たした役割が大きかったことはいうまでもありません。では、イギリスはなぜ離脱へと舵を切ったのでしょうか。
通貨統合の試みはEU成功のシンボルでもあり、国際金融ビジネスの領域でヨーロッパの権益確保につながると大きな期待を集めていました。
グローバル化によってヨーロッパの大手銀行は、アメリカ市場を中心に積極的な国際展開を図るようになりましたが、そこに待ち受けていたのがサブプライムローン問題やリーマンショックです。さらに、追い打ちをかけるように2009年にギリシャの財政危機が表面化するなど、ユーロの信用が著しく低下し、ユーロ危機が叫ばれるようになったのです。
また、シリアなどから100万人もの難民が欧州に押し寄せ “難民危機”と呼ばれたのは2015年のことです。そして同時多発テロなど大規模なテロの続発で、EUへの疑問も表面化していくことになりました。
ユーロ危機以降のEUは、経済はほぼゼロ成長が続き、失業率も10%近くとなり、創設以来、最大の危機にあるといっても過言ではありません。ヨーロッパ各国で、EUに懐疑的な極右政党やポピュリズム(大衆迎合主義)政党が勢力を伸ばし、グローバル化とは対極のナショナリズムが台頭するなど、まさに混沌とした様相となっています。
さて、これから注意して見守る必要があるのは、イギリスが「合意なき離脱」に踏み切るかどうかです。EUから離脱するためには、離脱の条件を取り決める「離脱協定」を、EUとの間で結ぶ必要があります。ところが、これが合意することができず行き詰っています。
もし、このまま合意することができなければ、何の取り決めもないまま、イギリスはEUから離脱(合意なき離脱)することになります。そうなると、関税や税関手続きが必要となり、経済が大きく混乱するのは避けられず、それは、イギリスやEU加盟国だけではなく、日本をはじめ世界各国に影響を及ぼすことになりかねない大きな問題が横たわっているのです。
戦争に明け暮れてきた過去の反省から、国境の壁を取り払い、人、物、サービス、資本を自由に行き来することで、経済発展を図ろうというのがEUの原点です。しかし、参加国それぞれの思惑や経済情勢がからみ合い、より複雑になっているようです。
EUが目指してきたのはグローバル化ですが、反グローバルともいえるナショナリズムが、ヨーロッパだけでなく、アメリカをはじめ日本にも押し寄せているのが気になるところです。イギリスのEU離脱がどうなるかは、経済にも大きく影響してくることが予想されるだけに、ビジネスパーソンとしては、その行方に注意しておく必要があるのではないでしょうか。
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