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有名なホテルやレストランが、食品(食材)偽装事件を起こすことがあります。悪質なものは消費期限を偽るなど衛生上の問題となりますが、その多くは食材の産地などを偽る産地偽装の事件です。
食材の産地は、松阪牛やイベリコ豚のようにそのままブランドになるほど商品選択の際の重要な情報となります。食材と同様に、お酒も産地ごとにさまざまな特色を持っていることはよくご存じでしょう。今回はお酒を選ぶ際に知っておきたい地理的表示制度(GI)についてご紹介します。
お酒の地理的表示(Geographical Indication)制度は、国税庁が主導する「お酒に関わる国のお墨付き」とも言える制度です。そのお酒が「正しい産地であること」、「一定の基準を満たした品質であること」を示すのが地理的表示です。
本制度はWTO(世界貿易機構)が、ワインと蒸留酒に関わる地域ブランドの保護を加盟国すべてに義務付けたことから、日本では1994年に「地理的表示に関する表示基準」が設けられました。
具体的な運用は、産地からの申請を基に国税庁が審査し、国税庁長官が産地名の指定を行います。指定を受けると「産地内で生産されたこと」「生産基準を満たすこと」により、その産地名を独占的に使用することができるようになります。本制度は国の指定により運用されるので、不正使用された場合には行政が取り締まりを行います。とても信用度の高い制度と言えるでしょう。
産地や品質が偽装され地域ブランドが不正使用されることは、消費者、生産者双方が不利益を被ります。正しい産地と品質が表示されることによって、地域ブランドの価値が守られお酒の特性や魅力を消費者に伝えやすくなります。またこの表示によって信頼性が向上し、消費者も商品の正しい選択ができます。
商品の一カ所以上に「地理的表示」「Geographical Indication」「GI」の文字と産地が併記されます。たとえば産地が「東京」であれば、「GI東京」などと表示されています。お酒を購入する際には確認してみると良いでしょう。
WTOが加盟国すべてに義務付けた、と先述したように日本だけでなく世界各国でこの制度は運用されています。またWTOが発足する以前から、フランスなどでは同じような制度が存在していました。
たとえばワインのボルドー。ボルドーワインはフランスのボルドー地方で生産されたワインを指すブランドですが、今から100年以上前にボルドーワインの偽物が市場に出回るようになり、フランス政府は本物の生産者以外が地域ブランドを名乗ることを禁止する「原産地呼称制度」を施行しました。WTOが義務付けた本制度は、このボルドーワインの例を模したものと言われています。
他にもシャンパンは、シャンパーニュ地方で作られたスパークリングワインだけが名乗ることができますし、ワインだけでなくスコッチウイスキーやバーボンウイスキーも地理的表示を使用しています。輸入された酒類を購入する際にも、安心して商品を選ぶことができますね。
また同様の制度は、お酒だけでなく他の食品(エシレバター、バルサミコ酢等)でも運用されています。
では具体的に、日本ではどのような地理的表示が指定されているのか、実例を紹介しましょう。
名称は「北海道」、産地も「北海道」に限定し、ワインへの使用が指定されています。
原料は「北海道で収穫されたぶどうのみを使用」「ぶどう品種はケルナー、ナイヤガラ、山幸、ピノ・ノワールなど、指定品種(57品種)に限る」「一定の糖度以上のぶどうのみを使用していること」が条件となっています。
また製法等にも条件があり「北海道内で製造、貯蔵及び容器詰めが行われていること」「アルコール度数は14.5%以下」「補糖、補酸等には一定の制限があること」となっています。これらの条件は北海道に所在する、地理的表示「北海道」使用管理委員会によって管理され、品質審査や確認業務を行って合格が与えられることになっています。
南国沖縄独特の単式蒸留焼酎には、「琉球」という地理的表示が指定されています。酒類区分は「蒸留酒」、産地は「沖縄県」です。米麹に由来する芳醇な味わいを特徴とするこの蒸留酒に必要とされる条件は「Aspergillus luchuensisに属する黒麹菌の生育した米麹のみを用いたものであること」「沖縄県内で採水した水のみを使用」となっています。
製法は「沖縄県内で発酵、蒸留、貯蔵及び容器詰めが行われていること」「米麹及び水を原料として発酵させたもろみを、単式蒸留機をもって蒸留したものであること」が条件となっています。沖縄県の高温多湿で降水量が多いという風土、そして硬水でミネラル分が多く、微生物の働きを促進する水があってこそ、独特の味を守ることができるのですね。
沖縄県ではGI琉球管理委員会が、生産基準の確認業務を行うことになっています。
ここまでは日本国内の地域に関わる地理的表示の指定をご紹介しましたが、お酒そのものにも地理的表示が指定されています。酒類区分は「清酒」で、名称は「日本酒」、産地の範囲は「日本国」です。
この日本酒という指定は「原料の米は国内産米のみを使い、かつ日本国内で製造された清酒のみ」が独占的に名乗ることができる地理的表示です。
今や日本酒は、ワインやウィスキーなどと同じように世界中で愛飲されています。日本酒の国内での需要振興や、海外への輸出促進にこの指定が大きく貢献しているのです。
消費者が色や味だけで、食品やお酒の産地、または品質を判断することはなかなか難しいのが現実です。また誤った表記が商品に付けられていれば、心理的にごまかされてしまう可能性も否定できません。地理的表示のような制度によって悪質な業者を排除し、消費者と生産者が正当な利益を得られるようにしていきたいものです。
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