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弁護士に聞いた「副業/兼業ガイドライン」の改訂背景と、人事が注意するべきポイント

公開日2021/06/01 更新日2021/06/02

記事転載元:パラれる / 株式会社コーナー


「人事・採用のパラレルワーカーシェアリングサービス」

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副業/兼業ガイドラインの改訂が2020年9月になされました(策定は2018年1月)。その背景には「より企業人事が副業解禁しやすいように」という意図があるようです。

しかし労働時間算定方法など、実際に導入するにあたり分かりづらい内容が未だ多く残っています。そこで今回は、人事担当者が理解しておくべき本改訂のポイントと、副業/兼業の未来について、厚労省の「柔軟な働き方検討委員」も務めた荒井太一弁護士に話を聞きました。

<プロフィール>
荒井 太一(あらい たいち)/森・濱田松本法律事務所 弁護士、ニューヨーク州弁護士
慶應義塾大学法学部、ヴァージニア大学ロースクール卒業。2015-2016年厚生労働省労働基準局勤務。ビジネス法務全般・労働法のほか、ベンチャー支援を主要業務とする。新しい時代の組織と人の関係や働き方の在り方についての提言も積極的に行う。2017年厚生労働省柔軟な働き方に関する検討会委員就任。日本経済新聞社第15回「企業法務・弁護士調査」弁護士ランキング労務部門にて4位にランクイン。

副業/兼業ガイドラインの改訂背景とポイント

──まず、今回改訂されたポイントについて教えてください。

「これまで企業から分かりにくいとの声が多かった部分(特に労働時間の管理方法)に対してルールを設けた」というのが、今回の改訂ポイントです。

副業解禁をしぶっている企業にインタビューすると、「労働時間の管理方法が分からない」「ルールが不明確だ」という声が多く挙がりました。特に労働基準法38条(※1)の解釈で議論が起こっていたのです。

(※1)労働基準法38条「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」

行政の解釈は「副業も通算する」というもの。しかし、実際にどうやって通算すれば良いかまではこれまでのガイドラインに記載がありませんでした。そこでルールを作って明記することにより、副業解禁の障壁を取り除いたのが今回の改訂ガイドラインです。

──今回の改定ガイドラインにおけるルールとは、具体的にどういうことでしょうか。

まず改訂されたガイドラインには「副業の労働時間は通算する必要がある」と記載されています。つまりルールとして、上述した労働基準法38条の考え方は維持されることになります。

ただし、これは「義務」ではありません。つまり「通算しなくてもOK」ということであり、法的な解釈として厚労省も認めています。

・「労働時間の管理義務」…労働安全衛生法にしか記載がない。
・「労働時間を通算せよ」…労働基準法にしか記載がない。

上記から整理すると、結局のところは「本業の労働時間を管理してくださいね」としか言われておらず、副業先の労働時間を管理する義務は明記されていないのです。

そもそも管理をしなければ労働時間を通算することもできません。また副業先の労働時間は現状自己申告のため、副業者に聞かない限りはわかりません。

よって「副業先の労働時間は通算する必要があるけど、知らないからどうしようもない」という状態はOKとされています。なんとも複雑な形ですが、これが現状のルールとなります。

改訂ガイドラインを踏まえた上で、人事が注意するべきこと

──ここまでの話を踏まえた上で、副業・兼業推進において人事が気をつけるべきポイントはどんなものがありますか。

副業の労働時間を管理する義務こそありませんが、それ以外にも人事が注意するべきポイントはたくさんあります。本業側、受け入れ側の両面でそれぞれ3つずつご紹介しましょう。

■本業側(企業が従業員に対して、副業を解禁する場合)

【1】副業先の労働時間通算

前述した通り義務ではないため、通算しなくても問題はありません。ただ、企業のスタンスとしてどうするかは明確にした上で今後の対応方法を決める必要はあります。

勘違いが起きやすい点として、ガイドラインの適応範囲は「雇用×雇用」(本業も副業も雇用)の場合だけなので、業務委託・フリーランスとして契約をして副業を行う分にはガイドラインに従う必要はありません。そのため「副業はしてもいいけど、業務委託・フリーランスとしてやってね」と社員にお願いする企業も出てくる可能性があります。

ただ、本来は就業時間外で何をするかは個人の自由なため、その副業形態を強いることはできないはず。今後その点で労働者が裁判を起こした際、どういった判例が出るかによって世間の認識も定まってくるのではないかと思います。

また、今年度に正式なものが示される予定である「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)についても理解を進め、対応していく必要があるでしょう。

【2】副業解禁まったなしの状態であること

今回の改定により、これまで企業がもっとも課題としていた「労働時間」に関するガイドラインが示されたため、企業が従業員に対して、副業解禁できない理由がなくなったと言えます。そのため社員が副業を希望した際、「うちではできません」と言えなくなってきたのが現状です。副業を解禁するかどうかではなく、副業をどうやって解禁していくかに議論を移さざるを得なくなっていることを認識する必要があります。

【3】副業のルールの検討

本業に影響があるような副業は、就業規則上で禁止しておく必要があります。例えば「競合会社で働かないでね」という競業避止義務などがそれに当たります。曖昧なラインを明文化していくことは、人事や企業側で行う必要があります。各企業において禁止すべき内容は異なりますが、どの企業でも共通して抑えるべきポイントは以下となります。

  • 競業避止義務:会社と競業関係にある副業・兼業を行わないこと
  • 秘密保持義務:副業・兼業にあたり、会社の技術上又は営業上その他一切の情報や知的財産権を使用、開示、漏えいしないこと
  • コンタミネーション(情報源を異にする秘密情報が混ざり合う)の防止:副業・兼業先の秘密情報や知的財産権を、副業・兼業先の許可なく会社の業務に使用しないこと
  • 健康管理の責任:睡眠時間を確保するなど健康の管理に努めること

■受け入れ側(企業が副業メンバーを受け入れる場合)

【1】どんな仕事を任せるか

特に相手が業務委託・フリーランスの場合には、あとから依頼内容をコロコロ変えるわけにいきません。そのため当初の要件定義が非常に大切になってきます。この作業に慣れていない人事担当者も多く、副業受け入れのハードルになっていることが多々あります。契約書の作成なども含め、副業者とフェアな関係でいられるように準備することはとても大切です。

受け入れ側の企業が低い報酬での業務提供を要求するなどの過度な条件を契約書に盛り込んでしまい、副業者にとって対等ではなく、副業希望者が集まらないケースも多く起きています。

【2】契約形態をどうするか

お任せするミッションによっても契約形態は変わってきます。求めるスキルや経験値が高いほど、ジョブベースで副業を受けるケースが多いため、社員やアルバイトではなく業務委託・フリーランスといった形が個人からも求められる傾向があります。一方、詳細な個別の業務指示を行いたい、とにかく人手が足りないがどんな業務をやってもらうかについて決まっていないという場合には社員・アルバイトなどの「雇用」を検討することをお薦めします。受け入れ企業における、それぞれのメリット・デメリットは下記の通りです。

<業務委託・フリーランス契約>

メリット:スキルの高い人材を活用できる。自由な契約のアレンジが可能。
デメリット:詳細な業務指示ができない。

<雇用契約>

メリット:広範な業務指示が可能。
デメリット:契約内容に法規制を遵守する必要があるほか社会保険等の負担が発生する。

【3】情報セキュリティ対策

副業先で成果を出したいあまり本業の情報を持ち出してしまうことや、その逆に、副業先で得た情報を本業に活かしてしまう、というケースは十分に考えられます。「少しでも役に立ちたい」と思うのが人の性で、本人に悪気がなく起きてしまいます。

これは本当に気をつけなければならず、発生すると大きな問題に発展します。

雇用の流動化に伴う課題として、知的ノウハウをどこで線引きするかについては今後の議論のポイントになっており、副業メンバーを受け入れる場合にも、明確にルールを定める必要があります。

副業・兼業解禁の今後の流れ

──新型コロナウイルスの影響もあり、副業解禁の流れが加速しているように感じます。荒井さんが意見を求められる機会も増えたのでは?

そうですね。実際に増えています。ただ、少し風向きが変わったなと感じていて。これまでは「副業解禁するかどうか」がメインテーマでしたが、最近では「副業をどう受け入れ活用するか」へ議論が発展してきました。副業を受け入れる段階のコンフリクトが次第になくなってきたということでしょう。

その背景には、新型コロナウイルスの影響が大きくあります。リモートワークなどにより個人の可処分時間が増え、副業をスタートさせる方も急激に増えましたから。

──荒井さんは「柔軟な働き方に関する検討会委員」への就任をはじめ、副業・兼業の領域に長く取り組まれていますが、その理由はなぜですか?

副業・兼業の推進が日本の働き方を変え、さらには組織と人の関わり方も変えていくと考えているからです。

日本で働く個人がより柔軟に自分のキャリアを選択し、組織にとってもそれがプラスになる──そのために私が最初に考えた解決方法は「解雇の自由化」でした。しかし、これを日本でやるのは非常に難しいという結論に至りました。一時的なハレーションが大きすぎて、推し進めるのは不可能に近いからです。

じゃあ、この課題をどう解決すればいいか。その問いにぴったりハマったのが「副業・兼業の推進」でした。

本業は維持しつつも、+αで余力があったり、本業でキャリアの壁にぶち当たっていたりする人に、副業できる道を設けることができれば部分的に雇用が流動するようになります。一気にミスマッチを解消することはできなくても、少しずつ日本型雇用の囲い込みの壁を溶かしていくことはできるはずです。

  • 労働者…今の状態を維持しつつチャレンジできる
  • 受入企業…必要なときに必要なノウハウや助力を得られる
  • 本業企業…これまでの成果は維持+副業で培った経験を本業でも活かしてもらえる

結果的に3方良しで、ハレーションも少ない。考えれば考えるほど、これは筋が通った方法だと思いました。

──「副業・兼業の推進が、日本の働き方を変えていく」過程を、荒井さんはどうイメージしていますか。

副業・兼業の推進は、結果的にメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への変化を加速させていきます。

副業者へ仕事を依頼する際、どんな仕事を任せるか「要件定義」を行いますよね。これはこれまでのメンバーシップ型雇用にはなかった動きです。企業はこの要件定義によって自社の仕事や優位性について理解を深めることができ、結果的にジョブ型雇用への第一歩を踏み出すことができます。

また、外部人材の活用が進むとこれまでの日本的企業が強く持っていた「自前主義」が徐々に崩れ、それがジョブ型雇用への変革を助ける形になっています。

さらに、副業・兼業推進が進むと先ほど難しいと紹介した「解雇の自由化」も実現性を帯びてきます。終身雇用が前提だと解雇時のダメージは相当大きいですが、副業収入が多いような状態になればダメージは最小限に抑えることができます。

メンバーシップ型雇用が完全になくなるとは考えにくいですが、こうしてジョブ型雇用がマジョリティーになることで人々に「自分で主体的にキャリアを築こう」という気概が生まれ、組織と人の関わり方が大きく変わっていくのは自然な流れだと思います。副業・兼業の推進には、それだけの影響力があるのです。

一方、デメリットは「格差が増える」ことです。

リベラル化が進むと格差が増えるのは世の真理で、避けることはできません。副業・兼業ができる人とできない人の間で差は広がり続けます。ただそこで重要なのは、格差を増やさないことではなく、セーフティネットをどう用意するかです。

もちろんすでに一定のセーフティネットはあります。ただ、日本は企業などの団体に対して支援するやり方が多いため、それだとこぼれ落ちてしまう人が一定数いるのが実状です。そうならないようなセーフティネットのあり方については、今後議論を進めるべきポイントだと思います。

副業・兼業推進は、人事だけの問題ではない

──荒井様のお話を伺っていて、副業・兼業推進は、会社や経営のスタンスを問う話なのではないかと感じます。

まさにその通りだと思います。副業・兼業推進を人事部だけで考えてもうまく進みません。経営陣含め組織として考えないことには、副業解禁・活用は進められないからです。 「人事と経営はより直結するべき」という考え方も最近では浸透してきていますが、その背景のひとつにこの働き方文脈が大きく影響しています。

実際に副業を積極的に推進している企業は、経営者の方が強い意志や考えを持って進めている企業が大半です。例えばサイボウズの青野社長や、ロート製薬の山田会長などがイメージしやすいところでしょう。

他にも、様々な理由から副業解禁を進めている企業もあります。少し前だと、ヤフーのギグパートナー募集に約4500名もの応募が集まったことがニュースになりました。今副業を希望する方が急増していることを受け、より人材獲得を優位に進めることを目的に副業解禁を検討する企業も増えていると思います。

さらに「周囲がやってるからうちも……」と追随する企業も出てきたところを見ると、副業・兼業解禁はいよいよキャズム理論(※2)でいうキャズムを超えたかなという印象です。

情報セキュリティ面など、副業・兼業にはデメリットもあります。しかし、ここはこれまで企業が“なあなあ”にしてきた部分。そこと向き合いマネジメント方法を考えることは、自社のケイパビリティを理解する絶好の機会であり、より魅力ある組織づくりにおいて避けては通れない道だと思います。

(※2)キャズム理論とは、ハイテク業界において新製品・新技術を市場に浸透させていく際に見られる、初期市場からメインストリーム市場への移行を阻害する深い溝を「キャズム」と呼び、従来のイノベーター理論における「普及率16%の論理」を否定したマーケティング理論のこと。

編集後記

「副業を解禁するかどうかではなく、副業をどうやって解禁していくかに議論は移っている」と荒井弁護士もおっしゃる通り、もはやこの流れに逆らうことはできません。あとは、いかにこの変化をポジティブに捉え行動できるかどうかが、世の中から選ばれる企業になるためのキーポイントになりそうだと感じました。

人事担当者としては、経営層にその重要性を説き、抑えるべきポイントを絞って自社の具体策・対応策を提案していけると、組織が大きく前進するのではないでしょうか。


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