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人間は外部環境から受け取った情報を処理し、自ら判断・推測を行う能力を持っていますが、これをコンピューターによって実現する技術がAI(人工知能)です。近年、AIをビジネスの場で利用する動きが活発化しており、AIに投資する企業は今後さらに増えていくと予想されます。
ところが先日、米国の研究チームが「AI導入企業で収益が向上したケースはごく少数」という驚くべき調査結果を発表しました。業務効率化に大きく貢献すると考えられているAIですが、なぜ導入しても収益が上がらない企業が多いのか、どうすれば収益を得られるのか。今回はこの点について考えていきます。
MIT(マサチューセッツ工科大学) Sloan Management ReviewとBoston Consulting Groupの共同研究チームは、AIを利用する企業が増えている一方、導入した後に収益を向上させているケースは極小であるとの調査結果を先日発表しました。
調査対象となったのは企業経営者・幹部や学識者3,000人です。そのうちAIを試験的に運用している、あるいはすでに配備している割合は57%に上り、全体の70%がAIによってビジネス上の価値が創出されると回答しています。
しかし今回発表された調査結果では、AIによって収益を大きく向上させた企業は、10社に1社程度に過ぎませんでした。AI活用に関する基礎的な理解を有し、AIを活かしたシステムをきちんと構築した企業であっても、大きな利益を得た企業は4割程度にとどまっています。ビジネスの場で活躍が期待されているAIですが、現実にはそれほど多くの成果をもたらしていないことが分かったのです。
AIを利用しても収益向上につながらないのはなぜでしょうか。その理由の1つとして挙げられるのが、現状ではまだ実験段階で、大規模利用している企業が少ないという点です。
企業がAIを全社的に導入するには多額の投資が必要になってきます。そのため、企業の中には特定の部署・システムにおいてのみAIを活用し、「規模の経済」を得られない形での利用にとどまっているケースが多いのです。規模の経済とは、システムの規模を大きくすることで、結果として得られるものの単位当たりコストが減ることを指します。この効果を得る企業が今後増えれば、AI導入により収益を出す企業は今後増えていくのではないでしょうか。
2つ目の理由としては、AIを導入している企業のほとんどが、AIを収益向上に直接結びつける利用のしかたをせず、業務の効率化や運用手順の削減など、間接的な活用にとどまっている点を指摘できます。
業務効率化のためにAIを導入する場合、人件費の削減などのように、短期的な最終損益のあり方に直接影響はしません。にもかかわらず、AI導入には莫大な費用がかかるため、収益向上につながったと感じにくい面があります。
AIを十分に運用するには高度な習熟が必要ですが、導入初期の時期だとその利用・操作方法にとまどう従業員が多くなり、成果がでにくい面があります。AIを利用する従業員には、データにアクセスできるのはもちろん、データ分析のレベルと技術レベルから高めることが欠かせません。また、従業員の中にはAI導入による組織内の変革に対応できないという事態も起こり得ます。
スキルアップのためのトレーニングを導入する、あるいはAIの専門家を集めた独立した部署を構築するなど、AIの能力を活用できる体制を作ることが必要です。
AIを導入して成功している企業の事例を、より具体的に見ていきましょう。アクションスポーツ関連の販売事業を行っているFreestyleXtreme社は、2009年頃に全社的に自動化への取り組みを開始し、2015年には機械学習を土台としたクラウドベースのマーケティングアプリを導入しました。これは顧客の購入履歴や購入サイトの閲覧行動などの情報を収集し、顧客が同社のサイトにアクセスした際に顧客が気に入ると考えられる商品をトップに表示するというシステムです。また、同アプリの導入により、メールで顧客に送付するマーケティングメッセージの内容を、嗜好に合わせてリアルタイムで更新することも可能となっています。
同社におけるAI導入は、これら既存の自動化システムの延長線上にあるものとして位置づけられました。そのため、AI導入にあたっての従業員の混乱は少なく、その能力を十分に発揮できたのです。実際、AIを活用した顧客への商品おすすめ機能は、同社に8%の収益アップをもたらしています。
FreestyleXtreme社はAI導入を特別な事態としてではなく、すでに自社で取り組んでいる自動化システムのクオリティアップの手段として取り入れていました。つまりAIを特別視せず、既存システムに関連する手法として利用することが、スムーズな導入をもたらし収益向上につながったのです。
AIビジネスは日本でも成長しつつあり、富士キメラ総研の「2020人工知能ビジネス総調査」によれば、2020年度のAIビジネス市場は前年度比15.4%増の1兆1,084億円に達しています。しかし、米国の研究チームが発表した調査結果では、AI導入で収益向上を達成できた企業は少なく、思うように活用できていないケースが多い実態が明らかにされました。
今回の記事でもお伝えしたように、結果がでない理由としては、まだ実験段階であること、収益向上に直接つながらない利用をしていること、従業員の習熟度が低いこと、などが考えられます。今後AI導入を考えている企業は、成功事例を参考にしつつ、収益に結びつくような形での運用を考えていくことも必要でしょう。
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