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スタートアップ企業の重要な資金調達手段となるのがIPO(新規株式公開)です。
しかし、公開価格を証券会社が低く設定しているため、資金調達に悪影響を及ぼすという批判があります。また、独占禁止法に抵触するおそれもあることから、日本証券業協会は新規上場の“値決め”を見直す検討を始め、年内に改善案をまとめると公表しました。
目次【本記事の内容】
新規上場“値決め”の見直し議論するのは、日本証券業協会に設置された作業部会です。証券会社やスタートアップ企業、学識経験者らで構成し、東京証券取引所や金融庁もオブザーバーとして参加します。
年内にも改善案をまとめる方針ですが、目指すのはスタートアップ企業がより多くの資金を調達しやすくするため、公開価格設定を柔軟な仕組みにすることです。
公開価格は、新規上場を予定している企業と主幹事証券会社の協議で決定し、証券会社はその新規公開株を投資家に販売するわけですが、公開価格が初値を大幅に下回ることも多く、新興企業の資金調達につながっていないと指摘されてきました。
では、主幹事証券会社はなぜ公開価格を低く設定していたのでしょうか。それは日本のIPO市場は、約7割が個人投資家に割り当てられていることが理由です。
上場初日こそ期待感から公開価格を上回る高値をつけますから、短期間で利ザヤを得たい個人投資家には、新規上場は魅力的な株です。しかし、数日後にはすっかり冷めてしまうことも多く、上昇基調が長続きしないことが日本のIPO市場の現状です。
また、公開価格を高く設定しても初値をピークにその後、株価下落が続くようであれば、長期間にわたって所有していることが損失リスクとなってしまいます。そうすると個人投資家の信頼を損ねることにもなりかねません。
個人投資家に依存している日本では、公開価格を高く設定することもリスクとなりますから、必然的に小粒になってしまいます。それに比べるとアメリカのIPO市場は8割が機関投資家ですから、投資のスケールも桁違いと言えるでしょう。
日本は小粒なIPOが多く、低迷していることは数字の上からも明らかです。今年6月までのIPO数をみても、前年同期より減少傾向がみられています。
しかしスタートアップの起業促進は、政府が掲げる「新しい資本主義」の目玉でもあります。IPOを活性化させるためには、個人投資家に依存した構造から脱却することはもちろん、柔軟な公開価格設定方法や、上場までの期間短縮なども重要です。
新規上場の“値決め”を見直す検討は、「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」で何度も議論を重ね、公開価格の設定プロセスやプライシングについての実態や、課題も提示されています。
課題は、「日本における初値と公開価格の乖離」、「発行会社の視点からの問題意識等」、「日本における割当比率及び機関投資家の視点からの問題意識等」などですが、いよいよ本格的に改善案をまとめることになったわけです。
日本経済が成長していくためには、新興企業の活躍が欠かせません。そのためには、ベンチャーキャピタルの育成やデジタル証券の活用、そして資金調達の手段を多様化することも必要です。公開価格決定過程の見直しが、日本市場の魅力度アップにつながることを期待する声もありますが、さて、どうなるでしょうか。
IPO市場と同様に、日本の株式市場も決して安定しているとは言えません。もちろんその背景に国際情勢の変化もありますが、経済成長を実感できるような株式市場となるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
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