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ロシアのウクライナ侵攻や世界的な金融引き締めなどで、2022年の国内の新規株式公開(IPO)社数は前年から大きく減少しました。
帝国データバンクの調査*によると、2022年の国内IPO社数は91社でした。リーマン・ショック前の2006年以来最多だった前年の125社から34社のマイナスで、減少率はリーマン・ショック後から最大の27.2%に達しました。
とはいえ、リーマン・ショック後の15年間を見ると、2022年は4番目に多い数字だったのも事実です。2015~19年のIPO社数は年間90社前後で推移していることから、例年と同水準を維持したといえます。
上場審査が厳しさを増している近年は、IPOの手続きを担う主幹事証券会社の確保が難しくなっているため、年間100件前後の実績は順当ともいえるでしょう。中小証券会社も体制を強化していますが、主幹事として多くの数をこなせるようになるまでには経験の蓄積が求められます。
一方、注目すべきはIPOの「数」より「質」です。2022年12月28日時点でIPOを果たした90社のうち、上場後の初値が公開価格を上回ったのは71社(78.9%)でした。前年比3.5ポイントの減少で、経常損益が赤字のまま上場した企業も32.9%(前年比11.4ポイント増)の23社に上っています。
業界別では「サービス」が前年比9.5ポイント増の70.3%と突出しています。このうち24.2%が「ソフト受託開発」「パッケージソフト」「情報サービス」の、いわゆる「テック企業」です。また、米国のGAFAM(Google、Apple、Meta=旧Facebook、Amazon、Microsoft)のようなプラットフォーム事業を手掛ける企業も20.9%に上ります。
スタートアップ(新興企業)に多く見られるこれらの企業が、赤字であってもIPOを志す最大の目的は、成長に向けた資金調達のために他なりません。経済産業省が公表したデータ*によると、2013年に872億円だった国内スタートアップ向けの投資額は、2021年に8.9倍の7,801億円(2022年1月25日時点)まで増えています。
しかし、日本のスタートアップ投資額(2020年)は、43億ドルで、米国(1,429億ドル)の33分の1に過ぎません。日本にはグローバルトップのベンチャーキャピタルの支店がなく、海外投資家からのリスクマネー供給も限定されています。IPOを果たしても十分な資金を調達しにくく、その後の成長も鈍化するという構造的な問題を抱えているのです。
事実、東証マザーズ市場(現・東証グロース市場)上場企業の約9割は、2011~21年の間に公募増資・第三者割当増資を一度も行いませんでした。
個人投資家が大半を占める新興企業向けの市場では、四半期ごとの短期的な利益を追う努力が求められます。債務超過が問題視されて研究・開発への投資を制限せざるを得なくなれば、新技術の社会実装を目指す企業の存在意義が失われてしまいかねません。
多くのスタートアップにとって、IPOは資金調達に関する出口戦略(イグジット)の一つですが、もう一つのイグジットがM&A(企業買収)です。
イグジットの手段を見ても、日本と欧米では大きな違いがあります。2020年(日本は2020年度)の経産省データでは、日本のスタートアップは76%がIPOでした。一方、欧州のIPOは33%、米国は10%に過ぎません。
企業・事業を売却するM&Aは、起業家自身が直接的にキャッシュを得やすく、経営から解放されて新たな領域などに挑戦することも可能です。資金・人材が円滑に循環するメリットが大きいため、欧米のスタートアップは大半がM&Aを選択しているのです。
資金・人材の円滑な循環は、革新的なビジネスを継続的に生み出すスタートアップ・エコシステムの確立にも不可欠です。そのため、「新しい資本主義」の重点投資分野の一つにスタートアップ育成を掲げる政府も、スタートアップM&Aの支援に乗り出しています。
イグジットをM&Aに誘導する上では、大企業などによるスタートアップへの出資を優遇するオープンイノベーション促進税制を拡充しています。現行制度で除外された発行済み株式の取得を含め、2023年度税制改正では実質的にすべてのスタートアップM&Aが減税対象となる見通しで、企業価値の最大化を図るM&A市場の活性化につながることも期待されます。
さらに、M&Aから5年の間に成長率や投資規模の要件を満たした場合は、当初の減税メリットを継続させる仕組みも整えられる予定です。政府はスタートアップへの投資額を5年で10倍に増やす考えで、一連の施策はIPOに偏らない資金調達の流れを欧米並みに拡充する姿勢を強く打ち出したものといえるでしょう。
*出所:COSMOS2(帝国データバンク)および各証券取引所の発表資料をもとに帝国データバンクが集計・分析。
■参考サイト
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