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先日、株式会社ZOZOが、ファッションECの「ZOZOTOWN」にて、注文~発送までの時間を通常発送よりもあえて遅くする「ゆっくり配送」のサービスの試験導入を開始し、注目を集めました。
かつて物流業界では、よりスピーディーに配送することが重視され、「即日配送」などがサービスの売りにもなっていました。しかし現在、その状況が大きく変化しつつあります。以下では、今回ZOZOTOWNが行ったサービスの内容と、その背景要因である「物流の2024年問題」について詳しく解説します。
2024年4月2日、株式会社ZOZOが新規の配送サービスである「ゆっくり配送」の試験導入を開始しました。
インターネット上で衣服やファッションアイテムを販売する「ZOZOTOWN」で商品を購入した場合、購入者が通常配送よりも長い期間を空けての配送を選択した際に、次回以降の買い物で利用できるZOZOポイントを付与するというサービスです。あくまで試験導入であり、4月2日から22日までの間のみ実施されます。
ZOZOTOWNでは通常配送の場合、注文日の翌日~4日以内の発送とされていますが、ゆっくり配送の場合は、5~10日以内の発送となります。おおむね2倍以上の配送期間を設けているわけです。ただ、生鮮食品などではないため、品質維持のために配送を急ぐ必要はありません。購入者が、到着日が早いことよりもZOZOポイントを獲得した方が利得は大きいと判断するかどうかが、サービス利用の肝といえます。
しかし今回、ZOZOTOWNは消費者にポイント付与の機会を与えるサービスのため「ゆっくり配送」を開始したわけではありません。背景には日本の物流業界が直面する「物流の2024年問題」が存在します。
物流の2024年問題とは、法改正によりトラックドライバーの労働時間が短くなることで、物流業界の輸送能力が大幅に落ち込む問題のことをいいます。
2024年4月1日に改正労働基準法が施行され、トラックドライバーに対する「時間外労働の960時間上限規制」と「改正改善基準告示」が適用されました。具体的な内容は以下の通りです。
・時間外労働960時間上限規制……自動車運転者(トラック、タクシー、バス等)の時間外労働の上限が、2024年4月から原則月45時間、年360時間とされ、臨時的な特別の事情がある場合でも年960時間まで。
・改正改善基準告示……改善基準告示とは「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を意味し、具体的には労働上の拘束時間の上限と休息期間の基準の告示を指します(告示をするのは厚生労働大臣)。これが2024年4月から、次のように改正されています。
●1年間の拘束時間……3,516時間から「原則3,300時間」へ
●1カ月の拘束時間……原則293時間、最大320時間から「原則284時間、最大310時間」へ
●1日の休息時間……継続8時間から「継続11時間を基本とし、9時間を下限」へ
最大の変更点は、やはり時間外労働の上限ができたことです。夜間運転も多い自動車運転業務の場合、これまでは一般則とは別の取り扱いとされ、労働基準法にある時間外労働の上限規制は適用外とされていました。それが今回、例外が撤廃され、あらたに上限規制が設けられたわけです。
法改正の背景には、少子化に伴う人手不足の深刻化とその解消のために働きやすい就労環境を整える必要があること、そして過重労働によって生じる健康被害や事故を減らすこと、などが考えられます。
法改正によって、トラックドライバーの過重労働が減り、より負担の少ない就労を実現できるようになるでしょう。しかし、労働時間が減って収入が減少したり、運送業の事業者としても会社の売上や利益減少が深刻化したりと、マイナスの影響が多く発生する懸念があります。
冒頭で紹介した株式会社ZOZOが実施した「ゆっくり配送」は、法改正によって配送ドライバーの労働時間に上限ができたことが背景にあります。配送を遅くしてもよいとの選択肢を消費者に与えることで、商品配送システムに少しでも余裕をもたせようというのが狙いといえるでしょう。
このような民間企業側による物流の2024年問題への対応方法としては、以下の点が考えられます。
物流の2024年問題における最大の弊害は、労働時間が規制されることでトラックドライバーの収入が減少し、それによってドライバー業を廃業する人が今後増えていくと見込まれる点です。企業側としては、離職によって人手不足が深刻化しないように、人材確保策は早めに実施していく必要があります。
また、働いてみたいと思ってもらえるように、働きやすい環境を整えることも重要です。たとえば、女性が働きやすい職場づくりがその一例です。産休・育休制度を整えるなど、女性が活躍できる環境を整えれば、人材確保の幅が広がるでしょう。
リードタイムとは、商品の発注から発送までにかかる時間のことです。ドライバーにおける時間外労働時間の導入、改正改善基準告示が行われたことで、それまでと同じ方法ではリードタイムを維持できなくなる恐れがあります。積載率を高めた効率的な輸送を行うなど、物流企業と荷主側の双方に対策が必要になってきます。一方で、先述の株式会社ZOZOのように、顧客側に何らかの見返りを与えて、リードタイムが遅いことを許容してもらうサービスを展開するなどの方法も考えられます。
時間外労働に上限規制が設けられたことで、1人のドライバーに長時間・長距離の配送をまかせっきりにすることが難しくなります。配送距離や配送物の内容にもよりますが、全国の物流拠点にドライバーを配置してリレー配送を行う、巡回集荷を行うミルクラン方式を導入するなどの対策も必要になるでしょう。
物流は社会の大動脈であり、物を運ばないと経済が回りません。その意味で、物流の2024年問題は日本社会を揺るがすほどの大きな事態であり、しかも現状では有効な解決策は見つかっていません。全日本トラック協会は、このままだと2030年には営業用トラックの輸送能力が34.1%も不足する可能性があると指摘しています。株式会社ZOZOの取り組みは、こうした状況に一石を投じる先進的な施策の1つといえるかもしれません。
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