2025.12.08

新着 【人事・経理の基本】給与計算のやり方、何から始める? 必須準備から5ステップ、よくあるミスまで徹底解説

初めて給与計算を担当する際、何から手をつければいいか分からず不安に感じるかもしれません。給与計算は、従業員の生活を支え、会社の信頼に関わる重要な業務であり、多くの法律が関わる複雑な業務でもあります。

しかし、ご安心ください。給与計算には明確な「手順」と「ルール」があります。

この記事を読めば、給与計算の具体的な「やり方」、そのルールの背景にある「なぜ?」、そして実務で陥りがちな「ミスの防ぎ方」まで、一気通貫で理解できます。
給与計算のゴールは、従業員の「手取り額」を正確に算出することです。その基本構造は、非常にシンプルな式で表されます。

[総支給額 − 控除額 = 差引支給額(手取り額)]

  • 総支給額:基本給、残業代、手当など、会社が従業員に支払うすべてのお金
  • 控除額:社会保険料、税金など、総支給額から差し引くお金
  • 3差引支給額:従業員の口座に実際に振り込まれるお金(手取り額)

この記事では、この「総支給額」と「控除額」を正しく計算し、振込に至るまでのプロセスを解説します。

目次

いきなり計算はNG!給与計算を始める前の必須準備 3ステップ

計算実務に入る前に、以下の情報を確認する必要があります。

Step1:会社のルールブック「就業規則・給与規程」の確認

給与計算の基礎となる、会社独自のルールを確認します。

労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する場合、就業規則の作成が義務付けられています。

就業規則には、以下の必要記載事項をはじめ、就業に関する様々な取り決めが記載されています。

  • 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
  • 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の 締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

(出典:厚生労働省「1 就業規則に記載する事項 2 就業規則の効力」)

まずは自社のルールを正確に把握することが大切です。

Step2:法律で定められた重要書類「法定四帳簿」の整備

労働基準法は、企業に以下の4つの帳簿を整備し、保存することを義務付けています。これらが整備されているか確認しましょう。

  1. 賃金台帳:給与計算の結果(労働日数、労働時間、控除額など)を記録する帳簿
  2. 労働者名簿:従業員の氏名や生年月日などを記載した名簿
  3. 出勤簿:タイムカードや勤怠システムのデータなど、労働時間数の根拠資料
  4. 年次有給休暇管理簿:従業員ごとの年休の取得日や日数などを管理する帳簿

これらの帳簿は、労働基準監督署の調査などで提示を求められる、非常に重要な書類です。

Step3:自社で利用しているツールの確認

給与計算をどのような手段で行うかを確認します。

以前はExcelを利用する企業も多くおりましたが、社会保険料率の変更や法改正に手動で対応する必要があり、ミスが起きやすいのが難点です。

そこで、近年では給与計算ソフトを利用する企業が増えています。
法改正に自動で対応し、計算ミスの大幅削減につながります。

まずは全体像をチェック!給与計算の年間&月間スケジュール

給与計算は、毎月の定型業務であると同時に、年に数回、特別なイベントが発生します。

給与計算担当者の「年間イベントカレンダー」

毎月の計算以外にも、以下の業務が年間スケジュールに組み込まれます。

時期 主なイベント 概要
4月 入社手続・保険料率変更 新入社員の社会保険(健康保険・厚生年金)・雇用保険の加入手続きを行います。
※3月頃に健康保険料率、4月に雇用保険料率が変更されることが多いため確認。
6月 住民税額変更 1月の報告に基づき、市区町村から「住民税決定通知書」が届きます。
6月分の給与から、新しい年度の住民税額での天引きを開始します。
6月~7月 労働保険の年度更新 前年度の労働保険料(労災保険・雇用保険)を確定させ、新年度の概算保険料を申告・納付する重要な手続きです。
7月 算定基礎届の提出 4月〜6月の平均給与(標準報酬月額)を年金事務所へ届け出ます。
これにより、9月からの新しい社会保険料が決定されます。
10月~12月 年末調整の準備・実施 年末調整に必要な各種申告書(扶養控除等申告書など)を従業員に配布・回収し、12月の最終給与(または賞与)で所得税の過不足を精算します。
1月 給与支払報告書の提出 1年末調整の結果に基づき、「誰にいくら給与を支払ったか」を各従業員の住所地の市区町村へ報告します。
(翌年度の住民税額決定のため)
通年(随時) 賞与支払届 賞与(ボーナス)を支払った都度、社会保険料計算のために、支払日から5日以内に年金事務所へ届け出ます。
通年(随時) 随時改定(月額変更届) 昇給などで給与が大幅に変動し、一定の条件を満たした場合、算定基礎届を待たずに社会保険料を見直す手続きです。

毎月の業務フローチャート(締日〜支払日まで)

例:毎月15日締め、25日払いの場合

  • 15日(締日):勤怠データを回収・確定。
  • 16日〜21日:勤怠集計、変動情報(入退社など)の確認、給与計算(総支給・控除・手取り)の実行。
  • 22日〜24日:計算結果のチェック、給与明細の作成、銀行振込データの作成・送信。
  • 25日(支払日):給与振込。
  • 月末:社会保険料の納付。
  • 翌月10日:源泉所得税・住民税の納付。

給与計算の基本をマスター!具体的な5ステップ

ここからは、実際の計算業務を5つのステップに分けて具体的に解説します。

Step1:勤怠データを集計する(=全ての土台)

タイムカードや勤怠管理システムから、「労働日数」「労働時間」「残業時間(時間外・休日・深夜)」「欠勤日数」などを従業員ごとに正確に集計します。
このデータは、残業代(Step2)や雇用保険料(Step3)の計算に直結します。また、残業時間の上限(36協定)を遵守しているかを確認するためにも、勤怠集計は法的にも非常に重要です。

Step2:総支給額を計算する(=会社が支払う全額)

Step1の勤怠データと給与規程に基づき、会社が支払う「総支給額」を計算します。

  1. 固定給:基本給、役職手当など、毎月変動しない給与。
  2. 変動給:残業代(割増賃金)や、欠勤控除など、勤怠によって変動する給与。
  3. 非課税手当:通勤手当など、税金がかからない手当。

割増賃金の計算方法

残業や休日出勤には、労働基準法で定められた割増率で賃金を支払う義務があります。これは、長時間労働の抑制と労働者保護のためのルールです。

1時間あたりの基礎賃金 × 法定割増率 × 時間数

労働の種類 法定割増率 該当条件
時間外労働 25%以上 1日8時間・週40時間を超えた分
(月60時間超) 50%以上 2023年4月より中小企業も適用
休日労働 35%以上 法定休日(週1回)の労働
深夜労働 25%以上 22時〜翌5時の労働

(例:時間外労働+深夜労働 = 25% + 25% = 50%以上)

Step3:控除額を計算する(=給与から天引きする額)

Step2の「総支給額」から、法律に基づき天引き(控除)する金額を計算します。これらは、源泉徴収制度を支えるために、会社が従業員に代わって納付するものです。

(1) 社会保険料

原則として会社と従業員で半分ずつ負担

  • 健康保険料:病気やケガの治療費のため。料率は都道府県ごとに異なります。
  • 厚生年金保険料:将来の年金や障害・死亡時の保障のため。
  • 介護保険料:介護が必要になった場合のサービス利用のため、満40歳から徴収が始まります。
  • 雇用保険料:失業手当や育児休業給付金のため。

(2) 税金

原則として会社と従業員で半分ずつ負担

  • 源泉所得税:国に納める税金。国税庁の「源泉徴収税額表」に基づき、その月の給与(社会保険料控除後)と扶養親族の数に応じて算出します。
  • 住民税:都道府県・市区町村に納める税金。前年の所得に基づき市区町村が決定した額を、通知書通りに控除します。

Step4:差引支給額(手取り)を確定する

冒頭の式に、計算した数値を当てはめます。

Step2(総支給額) - Step3(控除額) = 差引支給額(手取り額)

計算が完了したら、必ず前月の給与データと比較し、大きな変動がないかを確認することで、ミスを未然に防ぐことができるでしょう。

Step5:明細発行・振込・納付

計算が確定したら、支払業務に移ります。

  1. 給与明細の作成・発行:
    法律(所得税法)で交付が義務付けられています。支給額、控除額の各項目を正確に記載します。
  2. 給与の振込:
    会社の給与支払日に間に合うよう、銀行の振込手続を完了させます。
  3. 【重要】税金・社会保険料の納付:
    Step3で控除したお金は「預かり金」です。
    社会保険料: 月末までに、日本年金機構などに納付します。
    源泉所得税・住民税: 原則、翌月10日までに税務署・市区町村に納付します。

毎月の正確な計算が、12月の「年末調整」(所得税の精算)や、7月の「算定基礎届」(社会保険料の決定)といった年間の重要業務の土台となります。

【担当者必見】給与計算でよくあるミス5選と予防策

「やり方」を学んだところで、ジュニア層が実務で陥りがちな「落とし穴」を5つ紹介します。

ミス①勤怠・残業: 残業代の計算基礎に「通勤手当」を含めていませんか?

割増賃金を計算する際の基礎時給に、法律上、通勤手当、家族手当、住宅手当などは含めないのが原則です。これらを含めて計算すると、残業代の過払いまたは過少払いが発生します。

ミス②社会保険: 入社月の社会保険料、控除し忘れていませんか?

社会保険料は日割り計算を行いません。月の途中で入社した場合でも、入社月の1ヶ月分の保険料が発生します。これを控除し忘れると、後でまとめて徴収することになり、従業員の不信感に繋がります。

ミス③税金: 通勤手当や出張手当の「課税・非課税」処理を間違えていませんか?

通勤手当は一定額まで非課税ですが、超えた部分は課税扱いになります。また、出張手当や日当も内容によって課税・非課税が変わります。 この区分を誤ると、所得税計算が正しく行われず、後の修正や追加徴収が必要になることがあります。

ミス④割増賃金: 「1分単位」の勤怠管理を「15分単位」で丸めていませんか?

「17時10分の退勤を17時00分に切り捨てる」といった、日々の労働時間の切り捨ては、賃金未払いとなる可能性が極めて高いです。賃金は「1分単位」で計算するのが大原則です。

昇給などで給与が大幅に変わった場合、7月の「算定基礎届」を待たずに社会保険料を見直す「随時改定」が必要になる場合があります。この手続きを怠ると、保険料を正しく納付できなくなるため、昇給・降給時は必ずチェックが必要です。

これってどうするの?給与計算に関するよくある質問(Q&A)

Q. 月の途中で入社・退社した社員の給与計算は?

A. 就業規則に基づき日割り計算を行います。計算方法は「暦日数で割る」「所定労働日数で割る」など会社規定によります。
社会保険料は前述のミス②の通り、入社月は1ヶ月分徴収、退職月は徴収不要(※月末退職を除く)となるケースが一般的です。

Q. パート・アルバイトの社会保険や有給休暇は?

A. 条件を満たせば、正社員と同様に加入・付与の義務があります。
社会保険: 2024年10月から適用範囲が拡大され、従業員数51人以上の企業では、以下の要件をすべて満たす短時間労働者(パート・アルバイトなど)も加入対象となります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 賃金が月額8.8万円以上
  • 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない(※夜間学生や休学中の場合は加入対象となります)

有給休暇:雇入れから6ヶ月継続勤務し、8割以上出勤すれば、所定労働日数に応じた日数が付与されます(比例付与)。

Q. 賞与(ボーナス)の計算で注意すべき点は?

A. 月給と同様に、社会保険料と所得税が控除されます。

  • 社会保険料:月給と同じ保険料率で計算します。
  • 所得税:月給とは計算方法が異なり、「前月の給与」を基に国税庁の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って税率を求め、計算します。

もっと深く知りたい方へ(おすすめ書籍・リソース紹介)

給与計算のルールは毎年変わります。常に最新の正確な情報を参照することが不可欠です。


  • 厚生労働省(労働基準法、36協定など)
    国税庁(源泉徴収、年末調整)
    日本年金機構(社会保険料)
  • 給与計算に関する専門書籍
  • 自社が利用する給与計算ソフトのサポートページ

まとめ:正確な給与計算が、担当者と会社の「信頼」を作る

給与計算は、単なる「作業」ではなく、労働基準法で定められた「賃金支払いの5原則」を守るための、会社の「重要業務」です。

最初は戸惑うことも多いかもしれませんが、基本の5ステップと、その背景にあるルールを理解すれば、もう怖くありません。あなたの正確な計算が、従業員の生活と会社の信用を守ります。自信を持って、担当者としての次の一歩を踏み出してください。

Manegy Learning

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