新着 【人事担当者向け】社員の本音を引き出し定着率を高める人事面談の教科書|進め方・質問例・注意点を解説

- 面談で社員が本音を話してくれない
- 形式的な会話で終わってしまい、手応えがない
- 離職の兆候をうまくキャッチできない
人事として社員と向き合う中で、このようなお悩みを持っている方もいるのではないでしょうか?
厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」によると、常用労働者の離職率は14.2%に達しています。年間で約7人に1人が職場を去っている計算です。離職理由の上位には、常に「職場の人間関係」「労働条件・環境」「評価への不満」が含まれます。
これらの本音は、日常業務の中での表面化は難しいでしょう。だからこそ、個々の社員と向き合う「人事面談」が、離職防止と組織改善の最後の砦となります。
しかし、その面談が「本音を話す場」として機能していなければ、貴重な時間と機会を浪費していることになります。
この記事では、社員のエンゲージメントを高め、定着率向上と離職防止を実現するための「人事面談」の具体的なノウハウを、最新のデータを交えながら徹底的に解説します。人事として面談を始める方から、ご自身の面談スキルを見直したい経験者の方まで、幅広く役立つ内容です。
そもそも人事面談とは?目的と心構えを再確認する
まずは基本に立ち返り、人事面談の目的と、本音を引き出すための心構えを確認しましょう。ここが曖昧なままでは、面談は形式的な評価の場になってしまいかねません。
なぜ面談をするのか?会社と社員、双方にとっての3つの目的
面談は義務だからやるものではありません。会社と社員の双方に明確なメリットをもたらすための戦略的な取り組みです。
- 社員の成長支援と課題解決
社員一人ひとりが抱える業務上の課題やキャリアの悩みを直接ヒアリングし、解決策や成長の方向性を一緒に模索します。サーベイや日報では見えないつまずきを早期に発見し、必要な対応を行うことで、個人のパフォーマンス最大化を支援します。 - エンゲージメントと定着率の向上
「会社は自分を見てくれている」という感覚は、エンゲージメントの核です。面談を通じて会社への期待や不満を率直に話せる場を提供することは、不満の蓄積による突然の離職を防ぎ、組織への信頼感を醸成する上で不可欠です。 - 組織課題の発見と改善
個々の面談は、組織全体の健康診断の役割も果たします。複数の社員から同様の課題(例:「特定部署の業務負荷が限界に近い」「新しい評価制度が機能していない」)があれば、それは個人の問題ではなく、会社が取り組むべき組織課題です。現場の生の声は、経営や人事制度を改善するための最も貴重な情報源となります。
最も大切な心構え:あなたは「評価者」ではなく、未来を共創する「伴走者」
人事面談で本音を引き出すために、最も重要な心構え。それは、あなたが評価者ではなく、社員のキャリアと未来を共に考える伴走者であるというスタンスです。
Google社が生産性の高いチームの共通項を分析した「プロジェクト・アリストテレス」で、最も重要な因子として特定されたのが「心理的安全性」でした。これは、「この組織では、何を言っても罰せられたり、不利になったりしない」と信じられる状態を指します。
面談の場が心理的安全性の高い場でなければ、社員は決して本音を語りません。
- ジャッジしない
「なぜそんなこともできないんだ」と過去の失敗を裁くのではなく、「どうしたらできそうか」と未来の行動に焦点を当てます。 - 管理しない
「ちゃんとやっているか」と監視するのではなく、「何に困っているか」とサポートの視点を持ちます。 - 詰問しない
「はい・いいえ」で答えさせる尋問ではなく、相手の考えや感情を引き出す「問いかけ」を意識します。
この伴走者としての姿勢が伝わって初めて、信頼関係の土台が築かれます。
【準備編】成果の8割は準備で決まる!
伴走者としてのスタンスを固めたら、次はその姿勢を行動で示すための準備です。ぶっつけ本番の面談ほど危険なものはありません。当日の対話の質は、事前の情報収集とアジェンダ設計で8割決まります。
相手を深く知るための「情報収集」
面談相手について、客観的なデータを事前に確認し、仮説を立てておきます。
どんな情報を準備すべきか
- 過去の面談履歴
前回の面談で何を話し、どんなネクストアクションを設定したか。 - 人事データ
勤怠記録(残業時間、有休取得率の変動)、評価履歴、異動履歴。 - 日報や週報、1on1記録
現場マネージャーとのやり取りや、本人が感じている業務上の課題。 - ストレスチェック
個人の結果は見えなくとも、部署全体の傾向からコンディションを推測。 - サーベイ結果
エンゲージメントサーベイやパルスサーベイでの回答傾向。
注意:情報は「仮説」の材料。決めつけは厳禁
これらのデータは、あくまで「本人は今、こういう状況かもしれない」と仮説を立てるための材料です。「残業が多いから疲れているに違いない」「評価が下がったから不満だろう」と決めつけるのは危険です。
事実は必ず、面談当日に本人の口から直接聞くことを最優先してください。
ゴールから逆算する「アジェンダ作成術」
当日の貴重な時間を有効活用するため、面談のゴールを明確にし、大まかなアジェンダを作成します。
今回の面談のゴールは何か?
(例)
- 入社半年のAさんの不安を取り除き、定着を促す
- Bさんの最近のパフォーマンス低下の背景にある課題を特定する
- Cさんの次期リーダーとしてのキャリア意向を確認する
アジェンダの例(45分面談の場合)
- オープニング(5分)
アイスブレイク(業務以外の話、体調確認など)
本日の面談の目的とゴールの共有
守秘義務の確認(ここで話したことは原則秘密にするが、組織課題として共有が必要な場合は、必ず本人の許可を取る) - 現状のヒアリング(20分)
現在のコンディション(体調、モチベーション)
業務の状況(うまくいっていること、課題に感じていること)
人間関係(上司、同僚との連携) - テーマに沿った深掘り(15分)
今回のゴールに基づき設定する - クロージング(5分)
面談のまとめと感想の確認
ネクストアクションの設定 次回の日程確認
【実践編】当日の進め方と心を開いてもらえる会話術
万全の準備が整ったら、いよいよ面談当日です。準備したアジェンダを元に、「伴走者」として自信を持って「聴く」ことに集中しましょう。
面談を成功に導く「5ステップ」進行術
アジェンダをベースに、以下の流れで「対話」を進行します。
- アイスブレイク
いきなり本題に入らず、まずは「最近、暑い(寒い)ですね」「通勤ラッシュはどうですか?」など、業務と関係のない簡単な雑談で緊張をほぐします。 - 目的とゴール設定
準備編で作成したアジェンダを共有し、「今日はこの時間で〇〇について話しましょう」と目的を明確にします。これにより、社員も何を話すべきか心の準備ができます。 - ヒアリング
面談の主役は社員です。人事が7割話し、社員が3割聞く、では意味がありません。人事が3割、社員が7割話すバランスを目指します。
アクティブリスニング(積極的傾聴)
ただ聞くのではなく、「うなずき」「あいづち」「ミラーリング(相手の言葉を繰り返す)」などを駆使し、「あなたの話を真剣に聞いています」というシグナルを送り続けます。 - フィードバック
ヒアリングした内容に基づき、所感を伝えます。ここでも評価ではなく支援のスタンスを心がけましょう。
ポジティブ・フィードバック
できていること、成長した点を具体的に承認します。
改善のフィードバック
SBIモデル(Situation:状況、Behavior:行動、Impact:影響)などを使い、客観的な事実に基づいて「どうすればもっと良くなるか」を一緒に考えます。 - ネクストアクション・クロージング
「良い話ができた」で終わらせず、具体的な次の一歩を決めます。「では、次の面談までに〇〇を調べてみましょう」「人事は〇〇を上司に確認してみます」など、小さな約束をすることが重要です。
オンライン面談で特に意識したい3つのこと
非言語情報が伝わりにくいオンラインでの面談は、対面以上に工夫が求められます。下記の3つのポイントを意識して、オンラインでもストレスの少ない面談を目指しましょう。
- リアクションは「3割増し」
オンラインでは表情やうなずきが伝わりにくいです。「しっかり聞いている」と相手に伝えるため、対面時よりも意識的に大きくうなずき、あいづちを打つことが重要です。 - 意図的に「間(ま)」を作る
通信ラグやマイクの特性上、会話が被りがちです。相手が話し終わったと感じても、一呼吸置いてから話し始める「間」を意図的に作りましょう。沈黙を恐れず、相手が話し出すのを待つ姿勢が、本音を引き出す「間」に繋がります。 - カメラONで「表情」を見せる
信頼関係の構築において、表情は最も重要な非言語情報の1つです。お互いにカメラをONにし、表情が見える状態で話すことを原則としましょう。
【トラブル対策編】「困った!」を乗り切る応急処置ハンドブック
しかし、どれだけ準備と工夫をしても、面談は生ものです。実践中に想定外の「困った!」場面に遭遇した際の対処法を知っておきましょう。
Case1:沈黙が気まずい…を「考える時間」に変えるには?
質問を投げかけた後、相手が黙ってしまう。人事は焦って次の質問を被せがちです。
対処法
沈黙は「気まずい時間」ではなく、「相手が深く考えている時間」です。焦らず、相手が言葉を発するのを待ちましょう。「ゆっくり考えて大丈夫ですよ」と一言添え、待つ姿勢を見せることで、より深い内省を促すことができます。
Case2:「特にありません」の裏にある本音を引き出す切り返し術
「何か困っていることは?」「特にありません」
「キャリアプランは?」「特にありません」
これは、本音が言えない「警戒アラート」か、本当に問題がないかのどちらかです。
「Yes/No」や一言で終わる質問(クローズド・クエスチョン)から、相手が具体的に答えるしかない質問(オープン・クエスチョン)へ切り替えます。
NG:「困ってないんですね?」
OK:「もし仮に、今の業務を10点満点で評価すると何点ですか? どんなことが改善されると10点になりそうですか?」
OK:「最近の仕事で、一番うまくいったと感じた(一番難しかった)のは、どんな場面でしたか?」
Case3:「愚痴・不満」の嵐を「課題発見」のチャンスに変えるには?
上司や同僚、会社への愚痴や不満が止まらないケース。
対処法「ガス抜き」で終わらせてはいけません。不満や愚痴は、「本人の期待と現実のギャップ」から生まれます。
まず「受容」する
「そうですよね」「大変でしたね」と、まずは感情を否定せず受け止めます。
「事実」と「感情」を分離する
「具体的に、どんな出来事があって、そう感じたのですか?」と整理を促します。
「期待」を掘り下げる
「本当は、どうなってほしかったですか?」「あなたが会社に期待していることは何ですか?」と、不満の裏にある期待を特定します。
これだけは守って!信頼を失うNG言動とハラスメント注意点
これまで築いた信頼関係は、たった一度の失言で崩壊する恐れがあります。以下の言動は厳に慎んでください。
- 他の社員との比較
「Aさんはできているのに」「同期はもっと頑張っている」 - プライベートへの過度な詮索
「まだ結婚しないの?」「お子さんの予定は?」 - 高圧的な態度や全否定
「それは君が間違っている」「甘えているだけだ」 - あいまいな返事や守れない約束
「検討します」「なんとかします」と言ったきり放置する。 - アウティング
本人の同意なく、病歴や家庭の事情など、機微な個人情報を他者に漏らすこと。
【フォロー編】面談を「点」で終わらせない次への繋げ方
面談が無事に終わっても、そこで終わりではありません。面談を点で終わらせず、線としてとらえ、フォローアップすることが大切です。
面談を「点」で終わらせない記録術
面談内容は、必ず線で捉えられるよう記録に残します。タレントマネジメントシステムや人事データベースに、以下の要素を分けて記録しましょう。
- 事実:本人から出た客観的な情報、決定事項。
- 本人の発言:本人の主観的な感情、悩み、キャリア意向。(発言をそのままメモすることも有効)
- 所見:人事として感じたこと、懸念点、仮説。
- ネクストアクション:本人と人事がそれぞれ次にやること。
この記録があるからこそ、次回の面談担当者が変わっても、前回の続きから深い対話がスタートできます。
次へ繋げるフィードバックと情報連携
面談で得た情報を、どう組織に活かすか。ここでも守秘義務が最優先です。
- 本人へのフィードバック
面談で決まったネクストアクションの進捗を追いかけます。 - 上司への連携
本人から「上司に伝えてほしい」と明確な同意が得られたことのみ、上司に連携します。 - 組織への連携
面談で得た組織課題(例:「A部署とB部署の連携が悪い」「残業が特定の層に偏っている」など)は、個人が特定されない形に一般化・抽象化した上で、経営陣や関連部署にフィードバックし、制度改善や組織開発に繋げます。
まとめ
社員の本音を引き出し、定着率を高める人事面談は、「評価」の場ではなく、社員と会社が未来を共創するための「伴走」の場です。
その鍵は、
- 心理的安全性を担保する「伴走者」としての心構え
- 相手を深く知るための「8割の準備」
- 相手に7割話させる傾聴を中心とした実践術
- 「点」で終わらせない「記録」と「組織への連携」
にあります。
面談は、人事担当者にとっても「スキル」が問われる場ですが、特別な才能は必要ありません。今回ご紹介した基本の型を意識し、実践と振り返りを繰り返すことで、あなたの面談スキルは向上するでしょう。
まずは次の面談から、評価者の仮面を外し、伴走者として社員の前に座ることから始めてみましょう。その一歩が、社員の未来と会社の未来を繋ぐ、確かな架け橋となるはずです。
Manegy Learning
Manegy Learningは管理部門・士業の皆さまに向けて、実務に役立つTIPSや資格取得のためのスクール取得などの情報を発信し、みなさまの学びをサポートします。
MS-Japan
https://www.manegy.com/learning/














































































