2024年のトレンド予想
総務
AIが発展しても変わらない価値を発揮できる総務部門とは?
株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長
(一社)FOSC代表理事/(一社)IT顧問化協会専務理事/(一社)日本オムニチャネル協会フェロー
豊田 健一 氏
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)IT顧問化協会専務理事、(一社)日本オムニチャネル協会フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。
新型コロナウイルスの流行やAIの浸透、さらに日々移ろう世界情勢など、ここ数年の総務部門を取り巻く環境変化は過去に類を見ないほど目まぐるしいものになっています。
そこで今回は、未だ変化の途上であるこの2024年度に、総務がどのように時代の変化と向き合い、進化していくべきか?について考察すべく、総務専門誌・専門メディアの中でも圧倒的な知名度を誇る「月刊総務」代表の豊田健一氏にお話を伺い、この数年の総務トピックを振り返りながらそのヒントを探っていきます。
アフターコロナ時代、いま浮かび上がるオフラインの重要性
Manegy編集部: :2024年度の総務部門を考えるにあたり、まずは、ここ数年間における総務部門を取り巻く状況の振り返りからお聞かせいただきたいと思います。
豊田さんが特に注目しているトピックはございますか?
豊田氏: 大きなトピックはやはり、アフターコロナによる変化として、「働く場づくり」を再考する必要が出たことでしょうか。人事が人を磨く部門なら、総務は働く場を磨く存在です。「来たくなるオフィス」をつくること。そこに総務が力を注ぐタイミングだったかなと思います。
Manegy編集部: たしかに、リモートワークの導入が当たり前になり、「そもそも本当にオフィスって要るんだっけ?」という、ある種の極論も耳にしました。
なお我々MS-Japanは、バックオフィス向けの転職エージェントを行っていますが、直近では「リモートワークができる」というのを応募の条件として重視する人が圧倒的に増えている実感があります。とはいえ豊田さんのお考えとしては、「オフィスに人を集める」ことを総務のトピックとして考えられているということでしょうか?
豊田氏: リモートワークは、もちろん取り入れて良いと思います。とはいえ、結局のところ出社をゼロにするのも、それはそれで失敗談を聞くようになってきているんです。
基本的には仕事も人間同士で進めるものですので、完全なオンライン完結では上手く行かなかったりするものです。実際に私のところにも、入社時からすべてオンラインでオンボーディングを行うようになった企業さんから、エンゲージメントが低く、定着せずに離職率が20%にもなってしまった、なんて相談も来ましたよ。
Manegy編集部: アフターコロナとなってからもしばらく経って、全員出社させればいい、でも、完全リモートでもない、バランス感覚が重要になってきているのですね。
豊田氏: :そうですね。これからZ世代が主役になっていく中で、当然、リモートワークや柔軟な働き方は企業の採用力の面でも大事です。「リモートワークで十分可能なこと」も、もうすっかりわかるようになりましたしね。ただ、ここには個人的な意見も入りますが、学生時代を考えても、今まではリアルな場で、人同士対面で関わって皆様生きてきていますよね。そこで当たり前だった現場でのチーム醸成は、仕事においてもやはり重要であると考えています。急にフルリモートを強いられても、即座に順応できる人の方が少ないのではないでしょうか?
ですので、ある種そういった人と人とのリアルな関わりの重要性を上手く言語化し、従業員に納得してもらったうえでリアルな場に人を集めることも、これからの総務に必要な力と言えそうです。
総務の存在感が生きる、「来たくなるオフィス」づくりとは
Manegy編集部: 働く場所がどこであれ、結果さえ出せばいいという考え方もありますが、仮に結果が出なかった場合にも「頑張ったプロセス」は少なくとも評価できるようにしたい、といった経営者側の意見もありますね。では具体的な策として「来たくなるオフィス」をつくる方法はあるのでしょうか?
豊田氏: 大きくは、「空間」「人」「食」がポイントでしょうか。一つ目の「空間」については、「オフィスの非日常化」が昨今の流れと言えそうです。コロナ禍となる以前は、むしろ「オフィスのリビング化」がトレンドでした。しかし今はむしろオフィスと在宅勤務とで差を出さなければなりませんので、例えば外資系企業であえて和風のオフィスをつくってみたり、家ではできない仕事ができるように設備を良くするなど、特別な空間にすることが来たくなるオフィスのポイントですね。
二つ目の「人」というのは、シンプルですが意外と多い「あの人と話したい」というニーズを上手に拾うことです。例としてリーダー層の人の出社のシフトを決めたところ、その人との会話のために従業員の自主的な出社が増えたという例も聞きました。
Manegy編集部: WEB会議などがどんなに発達したとしても、対面で話した方が早い・業務が捗るなどというパターンはざらにありますよね。
豊田氏: そうですね、結局WEB会議をするために事前にチャットを送る必要があったりと、対面で話しかけるのとは心理的なハードルが違うと思います。ちょっとした雑談なんかも、チャットではわざわざしなくても、対面であればするということも大いにあると思います。チームのメンバーとのそういった関係性づくりは、仕事をするうえで不要とは言い切れないと思うのです。
Manegy編集部: 仰る通りですね。一つの目標に向かっているという、企業活動において特に重要なチーム感も、リアルで顔を合わせる機会がないとなかなか生まれないように思います。
豊田氏: そして三つ目の「食」は、特にリアルによるベネフィットとしてわかりやすいですよね。ある会社では賞味期限が近い防災備蓄品を開放したり、他にもリモートワークで食事がカップヌードルばかりになってしまった従業員の話を聞き、栄養不足解消のために週1回管理栄養士がつくる野菜の味噌汁を出すようにしたところ、その曜日には皆出社するようになった、なんていう例もあります。野菜の味噌汁が食べられる日に皆が出社するようになったので、その日にチームの会議を行うようにしたらチームの空気が良くなったそうですよ。
Manegy編集部: オリジナリティがあって、面白い案ですね。
豊田氏: そうなんです。いま大事なのはまさにオリジナリティで、「GAFAはこうやっているから」だとか「フリーアドレスが流行っているから自社もフリーアドレスにしてみよう」というようなことではなく、自社の色・自社社員のニーズに合わせた「来たくなるオフィス」を、総務が考えてつくっていくのが重要になっているんです。
Manegy編集部: イマドキなオフィスをただ真似するのではなく、「自社に合った」オフィスづくりが重要なのですね。
AIにはできないこと、これからの総務部門が目指すべきは「ゼネラリスト2.0」
豊田氏: そうですね。直近のトピックとして、AIが浸透したことによる総務の存在意義みたいなものも問われていますが、まさにこの「自社にあっているか否か」の判断こそ、AIにはできない部分であり、総務の力の出しどころだと思います。
ChatGPTなどの生成AIはあくまでも、この世にすでにある情報しか持ってこられないものですよね。仮に未来に関する情報があったとしても、世の中に出ている、一般に言われているものだけです。ですので、人間である総務担当者にしか見えない、一次情報が重要になってきます。
経営の目指すべき姿、世界情勢、自社の事業内容、現場の雰囲気、そして従業員の声…こういった一次情報を加味したうえで判断を行えるのは人だけであり、その適任者が総務です。
Manegy編集部: なるほど。何か専門的な知識をつけるというよりは、AIや社外の専門家に頼れるところは頼りつつ、自分たちにしかわからない一次情報を含めて総合的に考える力が、これからの総務には必要なのですね。
豊田氏: そうですね。AIも使える時は使うべきですし、専門的なことはむしろ、社外に頼れる存在をつくるべきです。昔から総務に対して皮肉っぽく言われていた「なんでも屋」という言葉がありますが、ある種そういった側面は持ちつつ、社内・社外のさまざまな要素を自社に最適化していけるようになるのが、今後の総務の目指すべきところですね。ちなみに傾向として、景気や情勢が安定した時代には、何かのスキルに特化した専門家的総務が求められるのですが、今のような先行き不透明な時代には広い視野が必要ですので、先に述べたバランサー的な総務が求められる傾向があるように思います。今求められるのは、便利屋という意味ではなく、さまざまな要素を元に最適化できる「なんでも屋」…そうですね、「ゼネラリスト2.0」とでも言うべきでしょうか。目指すべきはそこですね。
Manegy編集部: 「ゼネラリスト2.0」、良いキーワードですね。
豊田氏: 我ながら、かなり端的で的を得たワードです(笑)。
読者へのメッセージ
Manegy編集部: ここまで、直近のトピックとこれからの総務部門が持つべき力について伺ってきました。最後に、読者の皆様にメッセージがあればお願いします。
豊田氏: :ニュースで毎日流れてくる通り、世界情勢が安定しない時代ですので、自社のビジネスにもいつ何が起こるかわかりません。自社の外の変化にアンテナを欠かさず立てつつ、さまざまなリスクヘッジをしていける総務である必要もあります。そして社内・社外のあらゆる事象と自分たちにしかない一次情報を材料に最適化していく、前述の「ゼネラリスト2.0」であるには、社外だけでなく自社のことも、より深く知ろうとすることが必要だと考えます。経営者の考え、自社のビジネスの目指す姿、ステークホルダー、そして従業員。こういったことへの理解が、これからの時代を生き抜く総務の第一歩となりそうです。
自社と外の変化、どちらにも目を向けることで、新時代のゼネラリストを目指して欲しいなと思います。
Manegy編集部: お聞かせくださりありがとうございました。
取材・文/Manegy編集部 木戸優梨子