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④労災事故発生時の対応と届出│労災についての実務上の留意点

公開日2026/02/13 更新日2026/02/12 ブックマーク数
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④労災事故発生時の対応と届出│労災についての実務上の留意点

▼この記事を書いた人

社会保険労務士事務所LAO 特定社会保険労務士・医師 清水宏泰

目次本記事の内容

  1. Q、労災保険を使わず治療費等をすべて事業者が支払えば、 労災隠しには当たらないのではないか?
  2. Q、労働者の病気等が、労災か私傷病かの判断がつかない場合は?
  3. Q、労災案件なのに、事業者に健康保険で治療してほしいといわれたら?
  4. Q、派遣社員が労災にあった場合には、 誰が労働者死傷病報告を提出するのか?
  5. Q、通勤途上での災害や、事業者の寄宿舎での災害に労働者死傷病報告は必要か?

ここからは、労災について、実務での質問が多い事項についてQ&A形式で解説します。

Q、労災保険を使わず治療費等をすべて事業者が支払えば、 労災隠しには当たらないのではないか?

A、よくある誤解なのですが、労災保険を利用することが労災に当たるというわけではありません。

労災保険を利用せず、療養補償その他の労働基準法75条~80条に想定された事業者が負担すべき義務をすべて履行すれば、労働者死傷病報告を提出しなくても労災隠しには当たらない、と誤解されている人もいます。

前述したように、労災隠しは、事業者が労働者死傷病報告を提出しないこと、または虚偽の報告を行なうことであるため、労災保険の申請(以下、 「労災申請」とします)をするかどうかは関係ありません。

なお、労災申請を行なうかどうかは事業者が決定するものではなく、労働者本人の意思に委ねられているため、本人が労災申請しないこともあり得ます。

この場合でも、事業者は労働者死傷病報告を提出する義務があるので注意しましょう。

Q、労働者の病気等が、労災か私傷病かの判断がつかない場合は?

A、これは非常に難しい問題です。たとえば、多要因が関与する精神疾患や、化学物質過敏症等の特殊な化学物質による疾病の場合、労災であるかどうかを事業者には判断できないことがあります。

労災か否かを認定するのは労働基準監督署であるため、事業者が労災であると考えても最終的に認定されず、私傷病となる場合もあり得ます。

また、たとえば化学物質のひとつであるジクロロプロパンによる胆管癌のように、健康障害が問題となった当時は未知の健康障害であったため、発症時に労働者も事業者も労災であると認識できない場合もあり得るでしょう。

このような状況では、どの程度の労災認定可能性で労働者死傷病報告を提出すべきかが論点になります。

筆者は産業医としても活動をしていますが、事業者から労働者の疾患について因果関係(業務起因性)に関する意見を聴かれることがあります。医学的に明らかに因果関係がないと考える場合、書面をもって因果関係がないと考えられる旨を述べることもあります。

必要に応じて産業医と主治医が書面でやり取りし、主治医に労働災害である可能性について意見を述べてもらうのもよいでしょう。 もちろん、産業医や主治医の意見は労働者が労災申請を行なうことを妨げるものではありません。

そしてこの場合、 「労災隠し」になるかどうかは、故意なのかどうかが判断の材料とされます。つまり、故意に労災と認めずに労働者死傷病報告を提出しなかった、または虚偽の報告をしたという事実が問題となります。

そこで、筆者は状況を調査しても労災かどうかの判断が困難な案件については、事業者に医師として因果関係不明である旨の意見を書面で述べたうえ、労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出すべきかどうか相談することをお勧めします。

もし、事業者が労災ではないと考えているのであれば、その点を労働基準監督署に伝えた後に、相談した記録を残しておき、そのうえで、労働基準監督署の指示に従いましょう。

Q、労災案件なのに、事業者に健康保険で治療してほしいといわれたら?

A、ときに事業者が、労災が起きた事実そのものを隠すために、被災した労働者に対して「労災保険を使わないで、健康保険を使ってほしい」というケースがあります。

業務中や通勤途中の傷病等には健康保険は使えません。そして、多くの給付において、健康保険より労災保険のほうが労働者にとって有利な給付となっています(一部の健康保険組合では労働者に有利な給付がなされる場合もある) 。

労働者が、明らかな労災なのに、一般的な健康保険を利用する場合を考えてみましょう。

労災であれば、労働者の負担はありませんが、健康保険を利用した場合は労働者(被保険者)が治療等にかかった費用の3割を負担することになります。

また、健康保険で休業日に支給される傷病手当金の額は、労災時に給付される休業補償給付より低い金額となります。

さらに、長期間の休職を余儀なくされた場合、私傷病だとされるならば、事業者より休職期間満了で退職を言い渡される可能性もあります。

この点、労災保険であれば、労働基準法19条により、使用者は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間およびその後30日間は解雇してはならないとされています。 労災保険を使えずに労働者が不利な状況となった場合、労働者が労働基準監督署へ、安衛法違反として申告(安衛法97条)するかもしれません。

このような申告があった場合、労働基準監督署はほぼ確実に調査を行ないます。その際に他の労働法等の違反も発覚するかもしれません。それらの結果に基づいて、事業者に行政指導が行なわれたり、捜査が開始されたりする場合もあます。

なお、前述のとおり、労災保険を利用するかどうかは労働者の意思に委ねられます。弁護士が労働者の代理人となり裁判となった場合、労災保険を利用せずに損害賠償額全額を事業者に請求することで、事業者に多大な出費が求められる可能性があることも留意しておく必要があるでしょう。

Q、派遣社員が労災にあった場合には、 誰が労働者死傷病報告を提出するのか?

A、派遣労働者が派遣中に労災により死亡または休業したときは、派遣先および派遣元の事業者が、派遣先の事業者の名称等を記入のうえ、所轄労働基準監督に労働者死傷病報告を提出することになります。

労働者死傷病報告の提出先については、派遣先の事業者は派遣先を管轄する労働基準監督署、派遣元の事業者は派遣元を管轄する労働基準監督署となります。

派遣先の事業者は、労働者死傷病報告を提出した際、その写しを派遣元の事業者に送付しなければなりませんので注意しましょう。

Q、通勤途上での災害や、事業者の寄宿舎での災害に労働者死傷病報告は必要か?

A、労働者死傷病報告を行なうべき労災には、通勤途上の災害は含まれないので、通勤災害の場合は、労働者死傷病報告は必要ありません。

ただし、通勤災害は労災保険の対象にはなりますので、事業者は通勤災害の保険給付申請には協力しましょう。
事業者の寄宿舎での災害については、安衛則97条の「附属建設物内」の解釈について、通達(基発601号の1 昭47・9・18)より事業附属寄宿舎以外の附属建設物内とされていますので、労働者死傷病報告は必要ありません。

・・・・・・

労災隠しは、様々なトラブルに発展する可能性があります。労災が起きてしまったら、事業者は適切に対応しましょう。

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