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棚卸は、決算業務の中でも在庫の正確性を確認する重要な手続きですが、実際に棚卸を行うと、帳簿と在庫数量に差が生じるケースは少なくありません。
こうした差異を適切に処理しなければ、利益や資産の金額が実態とずれてしまうおそれがあります。
特に「棚卸減耗損」は、仕訳方法や費用区分の判断に迷いやすく、棚卸評価損との違いも理解しておく必要があります。
本記事では、棚卸減耗損の基本的な考え方から、計算方法、仕訳例、棚卸評価損との違いまでを、実務の流れに沿ってわかりやすく解説します。
棚卸減耗損とは、帳簿上で管理している在庫数量と、実地棚卸によって確認した実際の在庫数量に差異が生じた場合に、その不足分について計上される損失を指します。
決算時の棚卸で在庫が帳簿数量よりも少ないことが判明した場合、その差額分を棚卸減耗損として処理し、帳簿上の在庫数量を実態に合わせて修正します。
棚卸減耗損を計上する目的は、単に損失を把握することだけではありません。
帳簿上の在庫と実在庫を一致させることで、在庫管理の精度を高め、以後の原価計算や経営判断に用いる数値の信頼性を確保する点にあります。
棚卸減耗損が発生する背景には、日常の在庫管理や保管・流通過程で生じるさまざまな要因があります。
代表的なものとしては、以下のようなケースが挙げられます。
・盗難や紛失などによる在庫の消失
・長期保管による目減りや破損、劣化といった自然的な減少
・入出庫時の数量確認ミスや記帳漏れなどの事務的なミス
・倉庫間の移動や配送過程で発生するロス
これらの要因は、業務フローを整備していても完全に防ぐことが難しい場合があります。
そのため、決算時の実地棚卸によって差異を把握し、棚卸減耗損として適切に処理することが、実務上は重要となります。
棚卸減耗損とあわせて理解しておきたいのが、「棚卸評価損」との違いです。
両者はどちらも在庫に関する損失ですが、発生の原因と考え方が異なります。
棚卸減耗損は、在庫の数量が帳簿どおり存在しなかった場合に生じる損失です。
一方、棚卸評価損は、在庫数量自体は帳簿と一致しているものの、市場価格の下落や陳腐化などにより、在庫の価値が取得価額より低下した場合に認識される損失です。
| 項目 | 棚卸減耗損 | 棚卸評価損 |
|---|---|---|
| 原因 | 紛失・盗難・破損などによる数量不足 | 時価下落や陳腐化による価値の低下 |
| 計算要素 | 帳簿数量 − 実地数量 | 取得原価 − 時価 |
| 主な表示区分 | 売上原価(または販管費・特別損失) | 売上原価 |
たとえば、帳簿上は100個の在庫があるものの、実地棚卸では95個しか確認できなかった場合、その不足分は棚卸減耗損として処理します。
これに対し、100個の在庫は実在しているものの、販売価格の下落によって価値が著しく低下している場合は、棚卸評価損として対応します。
発生の原因も会計処理の前提が根本的に異なるため、両者を混同することは、財務報告の正確性を損ない、誤った経営判断につながるおそれがあります。
経理実務においては、両者の性質を正確に理解し、状況に応じて適切な区分処理を行うことが、会計プロフェッショナルとしての責務と言えます。
棚卸減耗損は、在庫管理の過程で生じた数量差を金額として把握するためのものです。
計算自体は難しくありませんが、数量の把握や評価単価の設定を誤ると、決算数値に影響するため注意が必要です。
ここでは、棚卸減耗損を算定する基本的な流れを整理します。
まず、帳簿上の在庫数量と、実地棚卸で確認した実際の数量を比較します。
決算時の棚卸結果をもとに、数量差がどの程度生じているかを確認します。
たとえば、帳簿上は100個となっている在庫が、実際には95個しか確認できなかった場合、その不足分である5個が棚卸減耗の対象数量となります。
帳簿数量が実地棚卸数量を上回っている場合に、棚卸減耗が発生したと判断します。
棚卸減耗損の基本的な計算式は次のとおりです。
棚卸減耗損 =(帳簿棚卸数量 − 実地棚卸数量)× 1個当たりの取得原価
上記のとおり、把握した減耗数量に評価単価を乗じることで、棚卸減耗損の金額を算出します。数量ベースの差異を金額に換算することで、損益計算に反映できる形になります。
減耗数量が少なくても、単価が高い在庫では影響が大きくなるため、数量と単価の両方を正確に確認することが重要です。
なお、使用する単価は任意に設定するものではなく、在庫評価のルールに基づいて決定します。
評価単価は、原則として期末在庫の評価に用いている単価と同じ考え方で決定します。
評価方法は企業ごとに定められており、平均単価による方法や、期末時点の仕入単価を用いる方法、個別に取得価額を管理する方法などがあります。
重要なのは、選択した評価方法を継続して適用することです。
年度ごとに算定方法を変更すると、利益調整とみなされるおそれがあるため、社内ルールとして明確に定めて運用する必要があります。
棚卸減耗損が判明した場合は、在庫の帳簿残高を実際の数量に合わせて減額し、その差額を費用として処理します。
仕訳自体はシンプルですが、実務では「どの費用区分に計上するか」が判断ポイントになります。
棚卸減耗損は、発生原因や重要性に応じて、売上原価・販売費および一般管理費・特別損失などに区分して処理されます。
以下では、それぞれの代表的なケースを解説します。
通常の在庫管理の範囲で発生した棚卸減耗は、売上原価として処理するのが一般的です。
保管中の自然減や軽微な管理上のロスなどは、販売活動の過程で発生するコストの一部と考えられるためです。
特に、日常的に発生し得る程度の数量差であれば、特別な区分を設けず、売上原価に含めて処理するケースが多く見られます。
仕訳例(通常の棚卸減耗)
帳簿在庫:200個(単価500円)
実地棚卸:194個
減耗数量:6個
減耗損額:3,000円
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 売上原価 | 3,000円 | 商品 | 3,000円 |
棚卸減耗損の原因が、通常の営業活動の範囲を超える、比較的異常性の高い事象である場合には、販売費および一般管理費として処理することがあります。
たとえば、盗難被害や重大な管理ミスなどが原因となるロスは、売上原価に含めてしまうと費用の実態が分かりにくくなるため、別科目として計上することで損益状況を明確にします。
仕訳例(異常要因による棚卸減耗)
盗難により商品が減少
減耗数量:5個
単価:800円
減耗損額:4,000円
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 棚卸減耗損(販管費) | 4,000円 | 商品 | 4,000円 |
棚卸減耗が、災害や事故など一時的かつ異常な事象によって発生した場合には、特別損失として処理することがあります。
これは、通常の営業活動による損失と区別して表示することで、財務諸表の利用者に対して影響を分かりやすく示すためです。
ただし、特別損失として処理できるのは例外的なケースに限られ、継続的に発生している減耗については、売上原価または販管費として処理するのが原則となります。
仕訳例(災害等による大規模減耗)
在庫破損:25個
単価:400円
減耗損額:10,000円
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 棚卸減耗損(特別損失) | 10,000円 | 商品 | 10,000円 |
実地棚卸の結果、帳簿より在庫が多く確認されるケースもあります。
この場合は、直ちに利益として処理するのではなく、まず記帳ミスや管理上の誤りがないかを確認することが重要です。
原因が明らかに過少計上によるものである場合には、次のように在庫を増額する処理を行います。
仕訳例(棚卸益が発生した場合)
差異金額:5,000円
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 商品 | 5,000円 | 雑収入または棚卸益 | 5,000円 |
棚卸減耗損は、単に差額を費用計上するだけでなく、発生背景や金額の重要性を踏まえて処理方法を判断する必要があります。
誤った区分で処理すると、損益の見え方や税務処理にも影響するため、仕訳前の確認が重要です。
棚卸差異が発生した場合は、まず「なぜ差が生じたのか」を確認します。
自然減や軽微な破損など通常業務の範囲内であれば売上原価として処理しますが、盗難や災害など異常な要因が関係している場合は、販管費や特別損失として区分する必要があります。
また、単なる記帳ミスが原因であれば、費用処理ではなく帳簿修正が優先されます。
棚卸減耗損は、本来は商品単位で把握することが望ましいものの、少額の場合は一定期間や科目単位でまとめて処理することもあります。
一方、金額が大きい場合や特定商品に減耗が集中している場合は、内訳を把握できる資料を残しておくことが重要です。
棚卸減耗損は、企業ごとに使用する科目が異なるため、社内ルールを明確にしておく必要があります。
特に消費税処理では注意が必要です。
棚卸減耗損は、商品の滅失や盗難など、実際に仕入れた対価として支払ったものではないため、原則として課税仕入れには該当しません(仕入税額控除の対象外)。
ただし、企業の会計処理方法や減耗の原因によって取扱いが異なる場合があるため、消費税区分については税理士等の専門家にご確認ください。
税区分を誤ると申告内容に影響するため、会計処理とあわせて確認してください。
実地棚卸で在庫が帳簿より多く確認された場合でも、すぐに利益として処理するのではなく、移動記録や入力ミスの有無を確認することが重要です。
差異の原因が明確になってから会計処理を行う方が、数値の信頼性を保てます。
棚卸減耗損は、決算整理の中でも在庫管理の精度を映す指標となります。
差異の内容を丁寧に確認し、適切な費用区分で処理することが、正確な財務数値の把握と業務改善の両面につながります。
棚卸減耗損は、期末に行う実地棚卸によって判明することが多く、決算整理仕訳として処理される代表的な項目です。
決算整理仕訳は、帳簿上の数値を実態に合わせて修正し、正確な財務諸表を作成するために行われます。
棚卸差異が確認された場合は、原因や金額の重要性を整理したうえで費用区分を判断します。
多くの企業では、棚卸結果が確定する期末にまとめて処理し、期末在庫金額と当期費用を同時に調整します。
棚卸減耗損の計上は、損益計算だけでなく、貸借対照表に計上される在庫金額にも影響します。
在庫を過大に計上すると利益が実態より多く表示されるため、棚卸差異を適切に反映することが重要です。
また、決算整理仕訳では、売上原価・販管費・特別損失のいずれで処理するかや、消費税区分の判断が必要になります。
処理方針を事前に整理しておくことで、決算作業や税務対応を円滑に進めることができます。
棚卸減耗損は、帳簿在庫と実在庫の差異を調整し、正確な財務数値を作成するために重要な処理です。
減耗が発生した場合は、原因や金額の重要性を踏まえ、売上原価・販売費および一般管理費・特別損失のいずれで処理するかを適切に判断する必要があります。
また、棚卸減耗損は在庫評価や当期損益にも影響するため、評価単価や税区分、決算整理仕訳のタイミングを含めて整理しておくことが重要です。
棚卸差異は在庫管理上の課題を把握する手がかりにもなります。
会計処理だけで終わらせず、発生原因を分析し、業務改善につなげていく視点を持つことが求められます。
※本記事の内容は、2026年2月時点の法令・会計基準に基づいています。
法改正等により取扱いが変更される可能性がありますので、最新の情報をご確認ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、最新情報や具体的対応は公式情報や専門家にご確認ください。詳細はご利用規約をご覧ください。
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