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従業員から「裁判員の候補者に選ばれた」と突然相談を受けた際、管理部門は法的義務を遵守しつつ、実務対応を迅速に進めなければなりません。
裁判員休暇は労働基準法で保障された権利であり、会社側には時間の確保を拒めない義務がある一方で、給与の有無や辞退の可否など企業ごとに判断が分かれる実務上の論点も多く存在します。
本記事では、急な報告にも慌てず対応できるよう、有給・無給の判断基準から就業規則の規定例まで、即座に活用できる具体的なステップを解説します。
裁判員休暇は、従業員が裁判員や候補者として裁判に出頭し、審理や評議に参加するために取得する休暇です。
法的な義務を伴う公的休暇として適切に管理する必要があります。
裁判員制度とは、無作為に選出された18歳以上の有権者が、裁判官と共に刑事裁判の有罪・無罪や刑罰の内容を決定する仕組みです。
職務に従事する期間は一般的に3日から5日程度ですが、複雑な事件ではさらに長引く場合もあります。
国民の視点を裁判に反映させることで、国民の司法に対する理解と信頼を高めることを目的としています。
参考:裁判員制度とは?|日本弁護士連合会
企業が裁判員休暇を拒否できない法的根拠は、労働基準法第7条の「公民権行使の保障」にあります。
この法律は、従業員が選挙権の行使や裁判員としての職務など、公的な権利や職務を遂行するために必要な時間を確保することを義務付けています。
そのため、会社側は業務の繁忙などを理由に休暇の請求を拒むことはできず、適切な業務調整を行う必要があります。
参考:労働基準法|e-Gov 法令検索
裁判員法第100条では、休暇の取得を理由とした解雇や減給、降格などの不利益な取扱いを禁止しています。
直接的な処分だけでなく、皆勤手当の不支給や査定の引き下げ、出勤率の算定において不利に扱うことなども不適切な取扱いに該当するリスクがある点に注意が必要です。
参考:裁判員の参加する刑事裁判に関する法律|e-Gov 法令検索
従業員が裁判員休暇を取得した際、企業が慎重に判断すべきなのが「休暇期間中の賃金」の取扱いです。
裁判員休暇を「無給」とすることは、法的に問題ありません。
労働基準法が求めているのはあくまで公の職務に必要な「時間の確保」であり、休暇期間中の賃金支払いについては企業の裁量に委ねられています。
ただし、無給とする場合は、従業員との認識の相違によるトラブルを避けるためにも、あらかじめ就業規則などでルールを明確にしておくことが望ましいでしょう。
休暇を無給とした場合でも、従業員には国から「日当」が支給されます。
支給額は、裁判員であれば1日につき1万円以下、候補者の場合は8千円以下とされており、別途交通費も支給されます。
これは労働の対価ではなく、公的職務を遂行するための実費補填としての性質を持つものです。
企業が裁判員休暇を「有給」とした場合、会社からの給与と国からの日当を両方受け取ることになります。
このことに対して、企業が給与と日当の併給(二重取り)を懸念するケースもありますが、日当は公的職務に伴う実費補填の性質を持つため、両方を受け取ることは法的に問題ありません。
実務上は給与から日当分を差し引くことも可能ですが、その場合はあらかじめ就業規則へ明記しておくことが求められます。
一方で、計算の手間を省くために差し引きはせず、全額を有給として支給する企業も多く見られます。
従業員から「裁判員候補に選ばれた」との連絡があった際、管理部門には迅速な状況把握と適切なフォローが求められます。
選任から終了までの流れを把握し、事前の準備を整えておきましょう。
従業員から報告を受けたら、まずは裁判所から届いた呼出状などで参加日程や期間を速やかに確認します。
社内の休暇申請手続きを進めるにあたっては、呼出状の原本や写しを提出してもらうようにしましょう。
これらは、公的な職務に従事することを証明するエビデンスとして活用できます。
事業に著しい損害が生じる恐れがあるなど、特定の要件を満たす場合に限り、例外的に裁判員の職務を辞退することが認められています。
具体的には、「代替困難な重要商談や契約締結が予定されている」、あるいは「組織が小規模で運営が成り立たなくなる」といった深刻なケースが該当します。
単なる繁忙を理由とした辞退は認められにくいため、まずは休暇を前提とした代行者の選定や業務調整を優先的に検討しましょう。
辞退の是非については会社と本人で協議することが望ましいですが、会社が辞退を強制することは法律で禁じられているため、最終的には本人の意思を尊重する必要があります。
裁判員候補者として出頭しても、当日の選任手続きの結果、裁判員に選ばれない「不選任」となる場合があります。
この場合、予想よりも早く業務に戻れる可能性があるため、あらかじめ「選ばれなかった場合は午後から出社するのか」といったルールを決めておくと混乱がありません。
裁判が終わった後は、速やかに通常の業務へ復帰できるようフォローします。
また、裁判所から発行される「出頭証明書」を提出してもらうことで、実際に職務に従事した日数を確認し、給与計算や休暇管理の最終的な処理を行います。
長期間の裁判だった場合は、本人の精神的な負担にも配慮し、無理のないペースで業務を再開できるよう調整することが望ましいでしょう。
裁判員休暇は突発的に発生する可能性があるため、事前に就業規則を整備しておくことが、管理部門と従業員双方の安心感に繋がります。
就業規則に規定を設ける際は、以下の項目を整理しておくとスムーズです。
正社員だけでなく、契約社員やパートタイマーも対象に含めるかどうかを明確にします。
選任手続きは数時間で終了することもあるため、「時間単位」での取得を可能にしておくと、当日の業務復帰がスムーズになります。
期間は事件ごとに異なるため、「必要な日数」と記載しておくと柔軟に対応できます。
なお、休暇の付与自体は拒否できませんが、給与については企業の裁量で無給とすることが可能です。
給与を有給とする場合でも、「長期化した場合、一定日数を超えた分は無給とする」などの給与支払いに関する上限を設けることは、就業規則に明記することで対応可能です。
無給・有給のどちらでも設定可能です。
有給とする場合は、「通常賃金を全額支払う」か「国からの日当との差額を支払う」かをあらかじめ決めて明記しましょう。
事前の「呼出状」や事後の「出頭証明書」の提出をルール化しておきましょう。
これにより、休暇の正当性を確認し、適正な労務管理を行うことが可能になります。
以下は、就業規則の規定例です。
第〇条
1 従業員(正社員、契約社員、パートタイマーおよびアルバイトを含む)が裁判員、補充裁判員、または裁判員候補者となった場合、その職務を遂行するために必要な期間について「裁判員休暇」を与える。
2 裁判員休暇は、日単位または時間単位で取得することができる。
3 休暇を請求しようとする従業員は、あらかじめ裁判所からの呼出状を提示して会社に届け出るものとする。また、休暇終了後は速やかに出頭証明書等を会社に提出しなければならない。
4 休暇期間中の賃金については、以下の通り取り扱う。
・[無給とする場合]:無給とする。
・[有給とする場合]:通常の賃金を支払う。
・[差額を支払う場合]:通常の賃金を支払うものとし、裁判所から支給される日当相当額を給与から差し引くものとする。
5 裁判員休暇の取得を理由として、人事評価や処遇において不利益な取り扱いは行わない。
法律上、従業員が裁判員の職務を果たすために休暇を請求した場合、会社はこれを拒否することはできません。
虚偽申請を防ぐためには、裁判所から発行される「呼出状」や「出頭証明書」の提出をルール化し、事実確認を行う体制を整えましょう。
裁判員法により、特定の裁判員の氏名や住所などを他人が公表することは禁じられています。
会社としては、業務調整に必要な範囲を超えて社内周知を行うことは避け、プライバシーの保護に最大限配慮した運用を徹底してください。
休暇の付与や賃金の支払いは、雇用契約を結んでいる「派遣元」が就業規則に基づいて対応します。
一方で「派遣先」には、派遣社員が公的職務を遂行できるよう業務を調整し、必要な時間を確保させる協力義務があります。
裁判員休暇は法的義務を伴う制度であり、企業には時間の確保や不利益な取扱いの禁止といった厳格な対応が求められます。
突然の相談にも慌てないよう、あらかじめ有給・無給の扱いや申請フローを就業規則で明確にし、守秘義務にも配慮した運用体制を整えておくことが重要です。
従業員が心理的な負担なく公的職務を遂行できるよう、正しい知識に基づいた適切なサポートと職場環境の整備に努めましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、最新情報や具体的対応は公式情報や専門家にご確認ください。詳細はご利用規約をご覧ください。
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