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この記事の筆者
牛島総合法律事務所
弁護士
猿倉 健司
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牛島総合法律事務所パートナー弁護士。環境法政策学会所属。
環境・エネルギー・製造・不動産分野では、国内外の行政・自治体対応、不祥事・危機管理対応、企業間紛争、新規ビジネスの立上げ、M&A、IPO上場支援等を中心に扱う。
「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」のほか、数多くの著書・執筆、講演・研修講師を行う。
牛島総合法律事務所
弁護士
近藤 綾香
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牛島総合法律事務所アソシエイト弁護士。2020年弁護士登録。
システム開発に関する紛争案件や、日本ないし各国の個人情報保護法制への対応を含むデータ・プライバシー関連業務を中心に扱う。その他、各種訴訟案件やM&A等、企業法務一般を取り扱う。
「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律」(令和5年法律第29号。以下「令和5年改正景品表示法」といいます。)が、令和5年5月10日までに衆参両院で可決成立し、同月17日に公布されました。事業者の自主的な取組の促進、違反行為に対する抑止力の強化等を講ずることで、一般消費者の利益の一層の保護を図るため、新たに、後述する確約手続の導入や課徴金制度の見直し等が行われました。 令和5年改正景品表示法は、一部の規定を除き、令和6年10月1日より施行されています。
不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます。)は、平成26(2014)年に優良誤認表示・有利誤認表示を行った事業者に対する課徴金制度の導入等を含む改正がなされ、その附則では平成28(2016)年4月1日の施行から5年が経過したところで検討を行い、所要の措置を講ずることとされていました。そこで、令和4(2022)年3月より景品表示法検討会※1が開催されることとなり、デジタル・プラットフォームの発達による電子商取引の増加や越境的な電子商取引の増加、課徴金制度の運用状況を背景として、以下の4つが検討すべき課題として挙げられました(景品表示法検討会報告書13頁)。
1 端緒件数の増加・事件処理期間の長期化に対応するために事業者の自主的な取組を通じて早期是正を図る方策や、悪質な事業者に対応するための抑止力強化の方策を検討する必要がある。
2 デジタル化や国際化の進展を受けて、何らかの対応が必要か検討する必要がある。
3 平成26年11月の改正で導入された返金措置が必ずしも多く利用されていないこと等を踏まえて、同措置の促進を含め一般消費者の利益の回復の充実のための方策を検討する必要がある。
4 消費者庁と適格消費者団体等他の主体との連携やダークパターン等についても検討する必要がある。
令和5(2023)年1月13日、上記課題についての検討結果が景品表示法検討会報告書として公表され、当該報告書を踏まえて令和5年改正景品表示法が立案されました。
※1 消費者庁ウェブサイト「景品表示法研究会」
令和5年改正景品表示法のなかで、以下の5つのポイントについて説明いたします。
改正前の景品表示法では、不当表示等に当たる疑いがある行為に対して消費者庁がとりうる選択肢は、事件調査を行い、①違反を認定できる場合に措置命令・課徴金納付命令を行うか、②違反のおそれがある場合に行政指導を行うか、の二つしかなかなく、違反被疑行為がある場合に、当該行為の早期是正、再発防止策の実施、一般消費者への被害回復等を自主的・積極的に行う事業者がいる場合でも、これを評価するための制度はありませんでした。
そこで、違反被疑行為をした事業者が、違反被疑行為及びその影響を是正するための是正措置計画等を作成・申請し、内閣総理大臣(消費者庁長官)から認定を受けたときは、当該違反被疑行為について、措置命令・課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで、迅速に問題を改善する制度が新設されました。
(1)課徴金制度における返金措置の弾力化
平成26年11月の改正において、課徴金制度の一環として特定の消費者へ一定の返金を行った場合に課徴金額から当該金額を減額する自主返金制度が導入されましたが、これまでの利用件数は4件にとどまっていました。そこで、返金方法を金銭による返金に限定せず、消費者の承諾を得ることを条件に、「金銭と同様に通常使用することができるものとして内閣府令で定める基準に適合する」第三者型前払式支払手段(いわゆる電子マネー等)による返金も許容されることとなりました。
(2)売上額の推計規定
課徴金の金額は、売上額の3%とされています。しかし、消費者庁の課徴金調査に対し、帳簿書類の一部が欠落している等の理由で、適切に売上額を報告できない事業者が存在し、課徴金の計算の基礎となるべき事実を正確に把握することができず課徴金納付命令までに要する期間が長期化するという事態が発生することが想定されるため、事業者が、課徴金の計算の基礎となるべき事実について報告を求められたにもかかわらずその報告をしないときは、課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握することができない期間における売上額を、内閣府令で定める合理的な方法により推計して、課徴金の納付を命ずることができることとされました。
(3)課徴金額の加算
景品表示法違反行為を行った事業者の中には、一度行政処分を受けたにもかかわらず、繰り返し違反行為を行う事業者がいることから、このような事業者に対しては、事案に即して抑止力を強化するため、違反行為から遡り10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対し、課徴金の額を加算(1.5倍)することとされました。
故意に優良誤認表示・有利誤認表示を行った事業者について、行政処分にとどまらず刑事罰による抑止の対象とするため、直罰規定(100万円以下の罰金の対象とする規定)が導入されました。当該規定には両罰規定が設けられているため、違反行為者のみならず法人も罰せられることとなります。
外国事業者が行う表示への対応として、課徴金納付命令については公示送達等の送達規定が整備されており、外国においてすべき送達が奏功しない場合に公示送達を活用することが可能であった一方で、措置命令については送達規定が整備されていなかったため、措置命令等における送達制度が整備・拡充され、外国執行当局に対する情報提供制度が創設されました。
適格消費者団体は、事業者が行う表示が優良誤認表示であるとして差止請求を行う場合には、当該表示どおりの効果、性能がないことの立証責任を負いますが、当該立証のために、表示と実際が異なること、特に、効果、性能表示の場合に、表示どおりの効果、性能がないことを立証するためには専門機関による分析、調査が必要であるなど多大な負担を要します。
そのため、本改正において、事業者が現にする表示が優良誤認表示に該当すると疑うに足りる相当な理由があるときは、内閣府令で定めるところにより、当該事業者に対し、その理由を示して、当該事業者のする表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を開示するよう要請することができ、事業者は、当該要請に応じる努力義務を負うこととされました。ただし、当該資料に営業秘密(不正競争防止法2条6項)が含まれる場合その他の正当な理由がある場合は、開示義務は課されないものとされています。
以上で述べたとおり、令和5年改正景品表示法による規定の内容は様々ですが、その中でも特に企業に影響が大きいと考えられる確約手続の導入と罰則規定の拡充を中心に、管理部門として対応すべき特に重要なポイントを説明いたします。
前記のとおり、確約手続とは、優良誤認表示等の疑いのある表示等をした事業者が是正措置計画を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、当該行為について、措置命令及び課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで、迅速に問題を改善する制度です。
確約手続の一連の流れは以下のとおりです。
【消費者庁表示対策課「【令和6年10月1日施行】改正景品表示法の概要」4頁より抜粋】
確約手続は、消費者庁が確約手続に付すことが適当であると判断するとき、具体的には、一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認めるときに、景品表示法4条又は5条の違反被疑行為を行っている又は行っていた事業者に対して書面による通知を行うことにより開始します(令和6年4月18日消費者庁長官決定「確約手続に関する運用基準」1頁)。
当該判断においては、①違反被疑行為がなされるに至った経緯(景品表示法第22条第1項に規定する義務の遵守の状況を含む。)、②違反被疑行為の規模及び態様、③一般消費者に与える影響の程度、④確約計画において見込まれる内容、⑤その他当該事案における一切の事情が勘案されます。
なお、「確約手続に関する運用基準」2頁によれば、消費者庁が確約手続通知を行う前であっても、違反被疑行為に関して調査を受けている事業者は、いつでも、調査を受けている行為について、確約手続の対象となるかどうかを確認したり、確約手続に付すことを希望する旨を申し出たりするなど、確約手続に関して消費者庁に相談することができるとされています。そのため、実務的には、事業者はこれらについて消費者庁との協議を進めたうえで、確約手続通知がなされることが想定されます。
確約措置の典型例としては以下の7点が挙げられており、これらを確約計画に盛り込むことが考えられます(同運用基準5~7頁)。
(ア)違反被疑行為を取りやめること
(イ)一般消費者への周知徹底
(ウ)違反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するための措置
(エ)履行状況の報告
(オ)一般消費者への被害回復
(カ)契約変更
(キ)取引条件の変更
確約手続が認定された場合には、措置命令や課徴金納付命令が行われないこととなりますが、消費者庁により認定確約計画の概要、当該認定に係る違反被疑行為の概要、確約認定を受けた事業者名その他必要な事項が公表されます(同運用基準8頁)。
前記のとおり、優良誤認表示・有利誤認表示に対し、直罰規定が新設されました。これにより、表示と実際に乖離があることを認識しつつ優良誤認表示・有利誤認表示をした場合、違反行為に対する措置命令等の行政処分を経ることなく、直ちに刑事罰を科すことができるようになりました。不当表示をした個人に対して100万円以下の罰金が科されるほか、両罰規定により法人にも100万円以下の罰金が科されることとなるため、注意が必要です。
以上のとおり、令和5年改正景品表示法では、確約手続の導入等により事業者が自主的に景品表示法における規制を遵守することを促し、課徴金制度の見直し、罰則規定の拡充等により、違反行為に対する抑止力を強化するための規定が設けられました。
デジタル化社会の進展に伴い、インターネット上での広告等をはじめとする事業者による表示を規制し、一般消費者の利益の保護を図る必要性が高まっています。これを機に、景品表示法への対応が十分であるかどうか再度確認することが求められています。
以上
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