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大学新卒者の求人形態といえば、求人媒体への広告出稿、新卒採用サイト開設などで不特定多数の学生を広く募り、その中から採用候補者を絞り込む「待ちの求人」が昔から変わらぬスタイルでした。ところがここへ来て、企業が採用候補者にピンポイントでアプローチする「人材発掘型の求人」といえる「逆求人」が急増。今や導入企業が4000社を超え、その対象となる学生も1万人を超えると推計され、人事担当者の間で新しい大学新卒者の求人形態として注目されています。また昨年、NHKの「クローズアップ現代」で放映(2018年6月11日夜)されるなど、大手メディアでも話題になっています。
逆求人とは、学生が「逆求人サイト」などを利用して自分の能力、ボランティア活動等で学んだことなど自分の人材的魅力をアピールし、それに食指を動かした企業がその学生にアプローチする新たな新卒採用形態のことです。
不特定多数の学生を対象にした従来のスタイルとは異なり、特定少数の学生を対象にしているのが特徴です。
また、就職人気ランキングや知名度、労働条件などではなく、「自身のやりたい仕事ができるか」、「自分の能力や体験が活かせるか」などの視点で企業を選びたい上昇志向の強い学生と、知名度は低くてもオンリーワン商品の開発や企業価値の追求に意欲的な企業とのマッチングに適した新卒採用形態であるともいわれています。
この逆求人増加の背景にあるのが、深刻な人手不足といわれています。
例えば、帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2018年10月)」によれば、
1.「正社員が不足している企業」は52.5%で、前年同月比3.4ポイント上昇し、調査開始以来過去最高を更新
2. 人手不足倒産件数は2018年度上半期だけで2017年度の114件を上回るペースで発生
などとなっています。これらの調査結果からも、現在の人手不足が構造化している様相が窺えます。この労働市場環境が新卒採用の環境にもろに影響しているようです。
例えば、厚生労働省の「平成30年3月大学等卒業者の就職状況」によると、学部卒大学生の就職率は98.0%で調査開始以来過去最高となっています。
その結果、2018年度に大学卒業者の採用活動を実施した企業の94.0%が「学生の売り手市場」と認識しています(文部科学省「2018年度就職・採用活動に関する調査結果報告」)。
つまり、現在の新卒採用は空前の売り手市場であり、この状況はリーマンショック級の不景気が発生しない限り続くと見られています。
これが大きな誘引要素となり、「企業が学生を選ぶ時代から、学生が企業を選ぶ時代」への転換傾向が強まっているようです。逆求人はそんな時代の申し子的な側面もあると思われます。
大学新卒者の求人形態は、時代の流れに合わせて次々とスタイルを変え、現在の形態に至っています。この変化を辿るとその未来も予測できそうです。
日本で大学新卒者の採用が定着したのは大正時代の1920年頃からとされています。中高等教育を受けたホワイトカラーの需要が増加し、新卒ホワイトカラー採用の制度化が必要になったからでした。「サラリーマン」という和製英語が普及したのもこの頃です。1928年には就職協定の原型も確立しました。
中高等学校・大学への求人票送付、学校推薦・縁故採用などの求人形態は大正時代から高度経済成長前期まで基本的に変わりませんでした。これが大きく変化する契機になったのが就職情報誌『企業への招待』でした。
同誌は大学新聞広告社(リクルートホールディングスの前身)が1962年に創刊した日本初の大学新卒者向け就職情報誌。大学新卒者が就職先を周囲のしがらみのない就職情報誌で選ぶスタイルを提案した最初のメディアであり、就職情報誌の原型となったメディアでもありました。また同誌の創刊は、大学新卒者の求人形態多様化の口火となりました。
・大学新卒者向け合同企業説明会登場
学情が1981年に開催した「就職博」が日本初の合同企業説明会でした。同説明会は、学生が様々な企業の新卒採用説明をワンストップで聞ける場として、学生の人気を集めました。以降、就職情報誌発行各社が様々な趣向を凝らした合同企業説明会を全国各地で開催するようになり、現在の活況に繋がっています。
・『就職四季報』創刊
1983年になると、東洋経済新報社が有料の大学新卒者向け就職情報誌『就職四季報』を創刊、話題になりました。
上場企業を中心に、独自の取材で集めた大学新卒者募集企業の初任給、福利厚生制度、大学新卒者採用実績などの情報を定型書式で掲載。一覧性に優れているのと、掲載企業から広告料を取らないことによる情報の客観性から、やがて学生の「就活バイブル」的なメディアとなり、現在まで毎年発行されています。
1992年にバブル景気が崩壊すると、大学新卒者は長い就職氷河期に突入しました。そんな1990年代半ば頃に登場したのが「Web求人広告」でした。就職難に喘ぐ当時の学生たちは検索性に優れたWeb求人広告に就職先探しの活路を求め、Web求人広告は一挙に普及。求人広告サイト各社も求人広告を中心に就活の様々な情報を提供するなどの工夫を凝らしたことから、Web求人広告は現在の大学新卒者求人形態の主力に成長しています。
就職氷河期が峠を越えた2000年代に入ると、「新卒紹介サービス」が登場しました。これは成功報酬型で企業に大学新卒者を紹介するサービス。近年は求人広告での母集団形成が困難なこともあってか、それを補完するツールとして新卒紹介サービスを利用する企業が増えているようです。
2010年代に入ると、大学新卒者の求人形態はさらに多様化します。学生は売り手市場となり、就職情報提供サービス各社はそれに対応した多様なサービス開発に向かいました。
2012年頃からSNSを活用した企業の大学新卒者採用活動「ソーシャルリクルーティング」が登場しました。
逆求人サービスそのものは2000年代半ばから登場していましたが、現在、このサービスの主力になっている「逆求人サイト」が登場したのは2012年頃からでした。
2015年頃にミートアップが登場しました。「自社への関心を学生に高めてもらうためには、自社の若手社員とカジュアルなスタイルで交流してもらうのが一番」との考えで開発されたサービス。寿司パーティー開催、若手社員のトークイベント開催など、学生が気楽に参加できる雰囲気が従来の会社説明会との大きな違いです。
2016年頃から、求人情報サイトなどに登録された学生の大量データをAIで分析し、新卒採用のミスマッチを解消しようというサービスが登場しています。現在はAI自体が発展途上のツールなので、これが学生にどれだけ浸透するかは今のところ予断を許しません。しかし、将来的には逆求人サイトと並ぶ新たな大学新卒者の求人形態になる可能性はあると見られています。
人材発掘型の求人形態といえる逆求人には、企業と学生の双方にとって既存の求人形態になかったメリットがいくつかあります。まずは企業側のメリットから見ていきましょう。
企業側から学生に直接アプローチできるので、自社に興味を持ってくれなかったがために接点を持てなかった学生にも接触できます。
既存の求人形態では、自社に興味を持って応募してくる学生としか企業は接触できませんでした。しかし応募してこない学生の中にこそ、ぜひ採用したいと思える人材が潜んでいる可能性があります。逆求人はこうした「ぜひ採用したい人材」の取りこぼしを防げる可能性が高まります。
学生が「逆求人サイト」に登録する動機は「自分の能力を適正に評価してくれる会社に就職したい」、「自分のスキルや体験を活かす仕事ができる会社に就職したい」などの考えからといわれています。つまり、逆求人サイトには上昇志向の強い学生が群れをなしている訳です。企業にとって、チャレンジングで自己研鑽意識の高い学生と接触できる求人形態といえるでしょう。
不特定多数の学生を対象にした既存の求人形態では「こんな資格やスキルを持った人材」、「この分野で活躍できる人材」など、自社が採用したい学生を発見するためには、膨大なエントリーシートの選別や面接選考が必要です。しかし逆求人の場合は、ピンポイントで選抜した特定の学生と接触し、時間をかけてじっくり面接選考などができるので、自社が採用したい学生発見が容易になります。結果的に採用のミスマッチが減り、早期退職減少にも繋がるでしょう。
不特定多数の学生を対象にした既存の求人形態では、膨大な量のエントリーシートの査読と選別、数回にわたる面接選考などの業務が発生するため、企業にとって新卒採用は労力とコストがかかる業務の1つでした。しかし逆求人の場合は既存の新卒採用と比べ、労力とコストを大幅に圧縮できるので、新卒採用業務の省力化とコスト圧縮が可能になるでしょう。
次に、逆求人を利用する学生側のメリットを見ていきましょう。
学生が既存の求人形態で企業から面接のオファーを受けるためには、例えば新卒求人サイトの場合、その前提として応募したい企業の数と同数のエントリーシートと自己PR文を応募企業の募集要項に合わせてその都度作成しなければなりません。一方、逆求人サイトの場合は自己PRシート1枚をサイトに登録すればOK。後は自分のPRに興味を持ってくれた企業からの面接オファーを待つだけ。就活の省力ができるので、その分本来の学業に注力できます。
社会経験のない学生が、自分に適した企業を探すのは意外と難しいもの。経験がないので基本的に業界研究や企業研究と自己分析のマッチングに頼らざるを得ないからです。必然的に主観的で狭い視野での応募企業探しに陥ってしまいます。対して逆求人の場合は、自分の適性を客観的に評価した企業から面接のオファーが来るので、既存の求人形態では出会えなかった企業と出会える可能性が高まります。
企業が逆求人を行う方法は、今のところ次の2通りがあります。どちらも逆求人サービスベンダーが年々増えており、サービス内容も多彩となり、いわゆる「逆求人市場」が拡大を続けています。
逆求人サイトの場合は、同サイトに学生が登録した自己PRシートを検索し、自社の選考条件にマッチした学生をピックアップし、面接などで直接接触する仕組みです。特定の学生と接触できるので、母集団の質が高まる可能性があります。「スカウト系就活サイト」とも呼ばれます。
逆求人イベントの場合は、主催者が用意した学生のブースを企業の採用担当者が訪問、その場で1対1の形でじっくりと対話をする仕組みです。既存の会社説明会や企業合同説明会と異なり、不特定多数の学生に同じ説明を繰り返すのではなく、特定の学生と互いに知りたい情報交換ができる貴重な場となっているのが特徴です。
企業にとって逆求人は、従来の新卒採用業務の課題だった採用コストの圧縮や採用ミスマッチ減少の効果が大きいようです。逆求人サービス登場初期の頃は、求人応募者の確保に悩んでいたベンチャー企業や中小企業が大半だったようですが、最近は新卒採用業務の課題解決を目指す大企業の利用も増加しているといわれています。
「逆求人の歴史」からも推測できるように、大学新卒者の採用形態は今後ますます多様化し、そのスピードも加速するものと思われます。人事部の人材採用担当者にとっては、トレンドの変化に気を配りたいところといえます。
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