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【弁護士執筆】交通事故・労災事故の損害賠償とは?管理部門が知っておきたい企業の責任と対応策

公開日2025/04/24 更新日2025/04/23 ブックマーク数
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交通事故・労災事故の損害賠償とは?

 通勤中や業務中に従業員が交通事故に遭ったり、労災事故が発生してしまったりした場合、企業側は損害賠償責任をはじめとする様々な責任を負う可能性があります。被害者側の損害賠償請求を専門とする弁護士の視点から、企業側が負う責任とその対応策について解説します。

小杉晴洋様

▼この記事を書いた人

小杉晴洋

弁護士法人小杉法律事務所
弁護士

弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
公益財団法人日弁連交通事故相談センター研究研修委員会 青本編集部会所属。 交通事故をはじめとし、労災、学校事故など様々な不法行為に基づく損害賠償請求を専門としている。被害者側損害賠償請求専門弁護士として、数多くの判例誌掲載、執筆、講演などの実績がある。

交通事故や労災事故が発生した場合の企業の対応とは

交通事故・労災事故に必要な初動対応

 交通事故や労災事故が発生した際には、速やかに被災従業員に医療機関の受診を勧めましょう。労災指定病院への受診を勧め、企業側からも病院に連絡しておくことで、被災従業員が初診から労災保険適用での療養を受けることが可能になります。

 労災保険に関して、企業側は、以下の、労働者災害補償保険法施行規則第23条1項及び同条2項に定められている「事業主の助力等」を行う責任があります。

    ・労働者災害補償保険法施行規則第23条1項「保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。」

    ・同条2項「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。」
    また、通勤災害ではない業務中の交通事故の場合では、「事業主の助力等」の他に、以下のとおり労働安全衛生規則第97条に定められている「労働者死傷病報告」を行う必要があります。

    ・労働安全衛生規則第97条「事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒(以下「労働災害等」という。)により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して、次に掲げる事項を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。」

 この労働者死傷病報告については、被害従業員が死亡した場合や休業が4日以上になる(見込みがある)場合は速やかに、それ以外は四半期ごとに提出する必要があります。 このように、労災保険への支給請求書の作成について被災従業員にサポートをしながら、労働者死傷病報告の作成も進めなくてはなりません。

 加えて従業員の休業が発生するような場合には、休業期間の最初の3日間(いわゆる待期期間)については、労災保険からではなく企業側から、平均賃金の60%を被災従業員に支払う必要があります。

労災事故が発生した場合に企業が問われる法的責任の範囲

 労災事故については、まず企業側が発生の防止について労働安全衛生法に基づく安全衛生管理責任を負っていることは言うまでもありません。そのうえで実際に労災事故が発生してしまった場合には、基本的には企業側は先ほどみたような「事業主の助力等」や「労働者死傷病報告」などの義務を負います。加えて、労働基準法第75条ないし第80条に定められているように、従業員に対して療養補償・休業補償・障害補償・遺族補償・葬祭料補償などをしなければなりません。しかし、労災保険による給付が行われる場合には労働基準法上の責任を免れることができます。

 ところで、被害者側からみると、労災保険による給付のみでは発生した損害の全額を填補できないような場合があります。特に労災保険は慰謝料に相当するような、精神的苦痛に関する給付がないため、被害者側が損害賠償請求権を行使し、それにより企業側の賠償責任(民法415条の債務不履行責任:安全配慮義務違反が根拠となることが多いです。)が認められれば、労災保険による給付額を差し引いた金額を支払う責任が生じる場合があります。

企業側は労災保険利用を拒否できない?

 企業側は通勤災害や業務災害が発生した場合には、被災従業員が適切な補償を受けられるよう様々な責任を負うことになります。

 他方で、企業側としては労災事故の防止に十分な管理責任を果たしていたと考えられる場合や、当該災害の発生自体に疑義があるような場合には、企業側としては労災保険利用を拒否したい場合も考えられます。

 とはいえ、労災事故の該当性や企業側の管理責任の遂行性、ひいては労災保険利用の適用可否を判断するのは労働基準監督署長であり企業ではありません。基本的には協力する、拒否する場合にはしっかりと書式を揃えて同規則第23条の2「事業主の意見申出」の手続を使うのが、企業側としてあるべき姿であるといえるでしょう。

損害賠償の対象となる範囲と内容

交通事故が発生した場合に企業が問われる法的責任の範囲

 通勤中や業務中に従業員が交通事故の被害に遭ってしまったケースを考えてみましょう。 この場合、被害に遭った従業員は、発生した全損害について加害運転者側に請求を行うか、労災保険を利用して、発生した損害の一部を労災保険から受給する(残分を加害運転者側に請求する)かを選択することができます。

 そして、従業員が労災保険の利用を選択した場合、上記「事業主の助力等」を行うこととなります。

 他方、通勤中や業務中に従業員が起こした事故について従業員側にも過失がある場合には、企業側は民法715条や自動車損害賠償保障法第3条により、損害賠償責任を負う可能性があります。

 民法715条「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」

 自動車損害賠償保障法第3条「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。」

 企業側にどのような事情があれば民法715条にいう「事業執行性」に該当するか、自動車損害賠償保障法第3条にいう「運行供用者性(自己のために自動車を運行の用に供する者)」に該当するかについては後述します。

e-GOV法令検索|自動車損害賠償保障法
https://laws.e-gov.go.jp/law/330AC0000000097

e-GOV法令検索|民法
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

マイカー通勤災害で使用者責任や運行供用者責任を問われるケース

 さきほど「交通事故が発生した場合に企業が問われる法的責任の範囲」でみた、企業側にどのような事情があれば民法715条にいう「使用者(ある事業のために他人を使用する者)」に該当するか、自動車損害賠償保障法第3条にいう「運行供用者(自己のために自動車を運行の用に供する者)」に該当するかについてみていきます。

 なお、業務中の交通事故の場合には基本的には企業側も責任を負うことになりますので、ここでは通勤災害の場合をみていきます。

 従業員が、マイカー通勤中に自身にも過失がある通勤災害(交通事故)に遭ってしまった場合、企業も損害賠償責任を負う可能性があります。

 まず、マイカー通勤について、企業側(使用者)がその自動車の使用を助長又は少なくとも容認する等の事情があったと認められる場合には、民法715条にいう「事業執行性」があるとして使用者責任が認められた事例があります。例えば、神戸地方裁判所令和2年6月18日判決では、マイカー通勤自体は被用者の職務執行行為そのものには属さないものの、「その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内に属するとみられる場合も包含していると解するのが相当である。」として、事故時に従業員が企業のロゴマークの入った作業着を着用してマイカー通勤を行っていた事例について、企業の責任を認めています。

 また、マイカー通勤について、企業が従業員をマイカー通勤させることで利益を得ており、かつ自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないように監視、監督すべき立場であると認められる場合には、自賠法3条にいう「運行供用者性」があるとされた裁判例もあります。

 たとえば、最高裁判所第三小法廷平成元年6月6日判決(交通事故民事裁判例集22巻3号551頁)では、従業員がマイカーで工事現場から会社の寮へ帰る途中で起こした事故について、企業側が「マイカーが通勤手段として利用されていることを黙認し、これにより事実上利益を得ており、かつ当該従業員を寮に住まわせ、隣接する駐車場を使用させていたこと」などから、企業について運行供用者性を認め、損害賠償責任を認定しています。

 その他、「通勤手当を支給していた」「駐車場の提供をしていた」と言った事実を基に運行供用者性を認めている事例もあるようです。

 マイカー通勤を命令、助長、容認するような場合には、「任意保険への加入を徹底させ、チェックする体制を整える」「運転に対する注意・啓発などを徹底する」など、民法715条や自動車損害賠償保障法第3条の但し書きに該当する事実を積み上げておく必要があります。

請求される損害と労災保険給付の関係

 企業側が損害賠償責任を負う場合には、被害者の方に発生した様々な損害について請求される可能性があります。損害賠償請求時に請求される可能性のある損害は大きく分けて3つです。

 1つ目が、事故被害に遭ったことで余計に支出せざるを得なくなった損害をいう「積極損害」です。「積極損害」の代表例は治療費や通院交通費、装具費用や入院雑費、葬儀費用などになります。この積極損害については、労災保険から支払われる療養(補償)給付や葬祭費により賄われることも多いです。企業側が損害賠償責任を負う部分について労災保険からの給付が出ているような場合には、企業側はその差額の限度で賠償義務を負うことになります。

 2つ目は、事故に遭わなければ得られていたはずなのに事故に遭ったことで得られなくなった利益をいう「消極損害」です。休業損害と逸失利益の2つから成り立っています。

 消極損害についても同じく、被害者が休業損害は休業(補償)給付、逸失利益は障害(補償)給付をそれぞれ労災保険から受け取っているような場合には、企業側は発生した損害-既に被害者が受領している労災保険給付の差額の限度で支払う義務を負います。

 ただし、休業(補償)給付については発生した損害の60%(特別支給金として支払われる20%は差し引きの対象となりません)、障害(補償)給付についても発生した損害の一部しか基本的には支払われることがありませんので、企業側が賠償義務を負う部分が大きくなることが多いです。

 3つ目が事故被害に遭ったことで受けた精神的苦痛に対する「慰謝料」です。この慰謝料については、被害者が受けた被害の程度等により、「入通院慰謝料」「後遺症慰謝料」「死亡慰謝料」の3つが発生する可能性があります。これら慰謝料については、相当するような労災保険給付が存在しないため、企業側の損害賠償責任が認められる場合には全額を企業側が支払う義務を負います。

労災保険と自賠責保険の違いと連携

制度ごとのカバー範囲

 労災保険の被保険者は従業員個人であり、自賠責保険の請求権者も被害者個人(と加害者側の個人)であるため、基本的には企業側が自発的にこれらの保険を利用することはありません。ただし、これらの保険から支払われた保険金(賠償金)に関しては、先ほどもみたように差し引きがされることになります。

 そのうえで、基本的には業務災害の時に利用されるのが労災保険、通勤災害の時に利用されるのが自賠責保険という認識で良いと思いますが、通勤災害については交通事故でもあり、労災事故でもあることから、被害者は自賠責保険と労災保険どちらの利用も可能ということになります。

 

自賠責保険と労災保険の関係性

 通勤災害に遭った被害者個人の立場になって考えてみましょう。被害者は、自賠責保険に対する損害賠償請求も、労災保険に対する支給請求もどちらも(両方とも)行うことができます。

 自賠責保険利用のメリットは、手続が非常に簡易な(または一切必要ない)ところです。交通事故の加害者側が任意保険に加入しているような場合には、基本的にはこの任意保険企業担当者とのやり取りで、損害賠償請求が完結することが多く、被害者側として手続を行う場面が少なく、行動を起こさなくても一定程度の治療や賠償を受けることができます。

 一方で労災保険は、被害者自身が企業側や労働基準監督署と書類をやり取りしながら進める必要があります。また、通勤災害に伴う労災保険の支給は判断に時間がかかることが多く、事故直後で仕事ができずに給料ももらえないという、最も生活が苦しくなるタイミングに支給が間に合わないこともあります。

 では通勤災害時に労災保険はあまり使う意味がないのか?一部そういう点もあります。ただし、労災保険には労災保険特有のメリットがあります。

 1つ目は、「過失相殺」がないことです。労災保険給付は、被災労働者の過失によらずに給付を受けることができるため、被災従業員の過失が大きい場合や自損事故のような場合であっても、従業員に一定程度の補償を受けてもらうことが可能です。

 2つ目は、「費目間流用の禁止」というルールがあることです。労災保険については、療養給付として支払われたものは治療関係費と、休業給付として支払われたものは休業損害としかそれぞれ差し引きしてはいけないというルールがあり、これが「費目間流用の禁止」と呼ばれています。これにより被害者は慰謝料として受け取れる部分について、療養給付や休業給付などとの差し引きをされることなく受け取ることができます。

 3つ目は、「特別支給金」の存在です。休業給付や障害給付と併せて支給される「特別支給金」は差し引きの対象となりません。つまり、単純に特別支給金分多くお金を受け取ることができます。

 そのほかにも細かいメリットがありますので、被害者個人としては個々人の状況に合わせて選択をすることが重要です。企業側としては被害者個人の選択を遵守して、労災保険を利用したいと言われた場合には速やかに協力する体制を整えておくことが重要です。

管理部門が知っておくべき社内体制とルール整備

労災事故発生時の社内フロー構築

 まず第一に、労災事故を防止するための体制を整えておくことは言うまでもありません。これを怠っていた場合には、労働安全衛生法違反として刑事責任が課されたり、場合によっては業務上過失致死傷罪に問われたり、民事上の損害賠償責任を負ったりという可能性が生じます。

 そのうえで、労災事故が発生してしまった場合には、まずは救護措置や被害拡大防止措置を行い、その後速やかに状況や原因の調査、労働基準監督署への届け出を行う必要があります。

 また、被災従業員に休業の必要性が生じた場合には、労働者死傷病報告の作成を始めたり、休業1~3日目の給与を支払ったりする必要が出てきます。このような労災事故発生後に企業側が行う必要がある事項を整理したうえで、事前に社内フローを構築しておくべきでしょう。

再発防止のための教育とリスク管理

 労災事故が発生してしまった場合、企業側は再発防止に努めることも重要になります。特に民事の損害賠償責任を負うかどうかにかかわる「安全配慮義務を果たしていたかどうか」の判断にあたっては、予見可能性と結果回避可能性という2つが判断のポイントとなります。

 予見可能性とは、当該労災事故が発生することを事前に予見できたか、結果回避可能性とは、その労災事故の発生という結果を回避することができたか(できたにもかかわらずそれを怠っていたか)という視点で検討がされることになります。

 この検討にあたり、今回の労災事故の前にも同じような労災事故が発生していたにもかかわらず再発防止のための教育や措置を取っておらず、再発という結果に至ってしまった、というような場合には、安全配慮義務違反が認定される大きな要素になり得ます。従業員を守るためにも、企業側自身の損害賠償責任から守るためにも再発防止に向けた対策はしっかり行いましょう。

まとめ

 従業員が通勤災害に遭った場合、企業側としては労災事故の申請の手間などを考慮すると、従業員個人と加害運転者とで解決してほしいと思うこともあるかもしれません。しかし、先ほどみたように従業員には従業員として、労災保険を使うことによるメリットが大きい場合もあります。求められた書類の記入などを速やかにすることで、従業員から企業側に対する信用が増すこともあるでしょう。

 ちなみに、通勤災害の場合に労災保険を利用しても保険料が上がることはないため、保険料が上がるのが嫌だから労災保険を利用させたくないという考えは誤りです。

 業務災害を発生させてしまった場合にも、迅速な対応は重要です。事業主の証明をすることで、民事上の損害賠償責任を負う可能性を考慮し、事業主の証明を拒否する企業も散見されるところではあります。

 しかし、業務災害に該当するかどうかの判断は労働基準監督署が行うことですし、業務災害に該当する=企業側が民事上の損害賠償責任を負う、というわけでもありません。損害賠償責任を負うかどうかについてはひとまず置いておき、まずは従業員が労災保険給付を受け取れるよう迅速に手続を進めることが、雇う側に求められる姿勢ではないかと思われます。

 ただし、本当に業務災害ではないような場合には、しっかりと事業主としての意見の申出を行うことも忘れてはいけません。

筆者のご案内
弁護士法人小杉法律事務所 公式サイト https://personal-injury.jp/
弁護士法人小杉法律事務所 労災サイト https://workers-accident.jp/
弁護士法人小杉法律事務所 学校事故サイト https://school-accident.jp/
執筆者:弁護士法人小杉法律事務所 代表 小杉晴洋


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