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決算整理の場面で必ず登場する「引当金」。しかし、種類ごとに計上要件や計算方法が異なるため、「どの勘定科目を使えばよいのか」「金額をどう算定すればよいのか」と迷う経理担当者は少なくありません。さらに、会計上は費用計上できても、税務上は損金として認められないケースもあり、仕訳や申告調整でつまずく原因となりがちです。
本記事では、引当金の基本ルールから主要な種類別の計上方法、仕訳例、税務上の扱いまでを整理しました。記事を読み終えれば、決算業務で自信を持って処理できるようになります。まずは自社に必要な引当金を確認し、適切な会計処理の第一歩を踏み出しましょう。
仕訳例に入る前に、まずは「そもそも引当金とは何のために計上するのか」という基本的な考え方を押さえておきましょう。ここを理解しておくことで、個別の種類ごとのルールや仕訳もスムーズに整理できます。
引当金とは、将来のある時点で発生する可能性が高い費用や損失に備えて、あらかじめ当期の費用として計上するものです。
例えば、将来支払う予定の賞与や、回収不能の恐れがある売掛金などが該当します。
これは「発生主義会計」の考え方に基づくもので、実際の支払いがまだ発生していなくても、発生が見込まれる時点で費用を計上し、当期の利益と適切に対応させる狙いがあります。
将来の特定の費用・損失であること
─ 何に備えるのかが明確である必要があります。漠然とした「将来の出費に備えるため」では認められません。
当期以前の事象に起因していること
─ すでに当期の活動や出来事によって発生原因が存在していることが条件です。たとえば「当期の勤務に基づく賞与」など。
発生の可能性が高いこと
─ 実際に支払いが発生する蓋然性が高い場合に限定されます。発生が不確実すぎる場合は計上できません。
金額を合理的に見積もれること
─ 将来発生する金額をある程度の根拠をもって見積もれることが必要です。見積もり不能な場合は引当金としては認められません。
引当金には複数の種類があり、それぞれ「計上の根拠」「金額の算定方法」「仕訳処理」が異なります。
ここでは、実務で特に登場頻度の高い主要な引当金について、要件→計算方法→仕訳例の流れで整理します。
当期に従業員が提供した労務の対価として、翌期に賞与を支給することが見込まれる場合に計上します。
まだ支給が確定していなくても「当期に帰属する労務対価」であることが重要なポイントです。
賞与の対象期間を区切り、当期に該当する勤務月数で按分します。
例:12月決算の会社で、6月~11月の勤務分に対して翌年1月に支給する賞与の場合、6か月分の労務が当期に帰属します。
この金額を支給見込額から算定します。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 賞与引当金繰入額 | ××× | 賞与引当金 | ××× |
期末時点の売掛金や貸付金について、将来回収不能となるリスクがある場合に計上します。
すべての債権が対象ではなく、健全性に応じて評価区分を行います。
・一括評価(貸倒実績率法):小口の債権について、過去数年間の貸倒実績率を用いて算定します。
・個別評価:特定の取引先に回収懸念がある場合、合理的に見積もった金額を計上します。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入額 | ××× | 貸倒引当金 | ××× |
従業員が将来退職する際に支払う退職金に備えて計上します。
大企業では「退職給付会計基準」に基づき数理計算が必要ですが、中小企業は「簡便法」が認められています。
中小企業では「期末要支給額法(簡便法)」を用い、期末時点の退職給付見込額のうち、当期までの勤務実績に対応する部分を計上します。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 退職給付費用 | ××× | 退職給付引当金 | ××× |
上記以外にも、業種や取引特性に応じて引当金が必要になる場合があります。
・製品保証引当金:製品の販売後に発生が見込まれる修理・交換費用に備える
・修繕引当金:建物や機械の大規模修繕が定期的に発生すると見込まれる場合に計上する
いずれも「発生可能性が高く、合理的に見積もれる」ことが前提条件です。
引当金の処理で特に注意すべきなのが、会計と税務の扱いの違いです。会計上は「将来の損失や費用を合理的に見積もれる場合」に計上できますが、税務上は損金算入が制限されており、結果として利益計算に差異が生じます。ここではその理由と具体的な扱いを整理します。
会計は「企業の経営実態を正しく表すこと」を目的とするため、発生が見込まれる将来費用も現在の費用として計上します。
一方、税務は「課税の公平性」を重視するため、実際に費用や損失が発生するまで損金として認めないのが原則です。
そのため、多くの引当金は会計上は費用に計上できても、法人税の申告上は損金算入できず、別表での調整が必要となります。
ただし、すべての引当金が否認されるわけではありません。
法人税法では一部の引当金について、一定の要件を満たす場合に損金算入を認めています。代表例は以下の通りです。
・貸倒引当金(一定の方法による計算額まで)
・返品調整引当金
・修繕引当金(特定の資産について一定条件を満たす場合)
・退職給与引当金(過去は認められていたが、現在は廃止)
税務上の取扱いは会計と大きく異なるため、税務申告時には該当するかどうかを必ず確認する必要があります。
会計上は引当金を費用計上したものの、税務上は損金算入が認められない場合、その金額を「別表四」で加算調整しなければなりません。
たとえば、賞与引当金や退職給付引当金などは会計上は費用として計上しますが、税務上は支給が確定するまで損金算入できません。
この差異を放置すると、税務調査で指摘されるリスクが高くなるため、決算時にしっかり調整しておくことが重要です。
引当金は決算整理仕訳の中でもミスが発生しやすい領域です。計上漏れや戻入処理の誤りは、利益の過不足計上につながり、税務調査での指摘リスクも高まります。ここでは、経理担当者が押さえておくべき3つのチェックポイントを紹介します。
引当金の計上漏れは、決算数字を大きく歪める原因となります。
・支給予定の賞与
・期末の売掛金に対する貸倒リスク
・退職金の支給見込
など、該当するものがないかをリスト化し、毎期確認することが重要です。
また、計算根拠となる見積もり資料(労働契約書、過去の支給実績、債権回収データ等)を必ず保存しておくことで、監査対応や税務調査の際に説明がスムーズになります。
引当金は翌期にそのまま残すのではなく、原則として戻入処理を行います。代表的な方法は以下の2つです。
洗替法:期首に前期末残高を全額取り崩し、改めて当期必要額を計上する方法。
差額補充法:前期末残高をそのまま残し、当期の必要額との差額を増減計上する方法。
いずれの方法を採用するかは会計方針としてあらかじめ決めておく必要があります。
処理があいまいだと、期をまたいだ際に二重計上や過少計上が起こりやすくなるため注意が必要です。
引当金処理は担当者ごとに判断が分かれることが多いため、社内ルールを明文化して共有しておくことが欠かせません。
具体的には、
・どの引当金を計上するのか
・計算方法は何を採用するのか(例:貸倒引当金は実績率法か、個別評価か)
・戻入は洗替法か差額補充法か
といったルールを「勘定科目マニュアル」や「決算マニュアル」に明記しておくことで、属人化を防ぎ、決算の正確性と効率性を高められます。
決算時の引当金処理は、実務担当者から細かい疑問が多く寄せられる分野です。ここでは、特に質問の多いポイントをQ&A形式で解説します。
A. 引当金は「将来の特定の費用や損失に備えて、当期の費用として計上するもの」です。一方、準備金は「利益処分の一部として積み立てるもの」であり、費用ではなく純資産の部に計上されます。
☝ ポイントは、引当金=費用性がある/準備金=利益の留保という違いです。両者を混同すると仕訳処理を誤るので注意が必要です。
A. はい、必要です。引当金は「将来の費用や損失を当期に見積もって計上する」という会計原則に基づくため、黒字・赤字に関係なく計上します。赤字だからといって計上を省略すると、財務諸表が正しく表示されず、後年度に利益が不自然に増減してしまうリスクがあります。
A. 貸倒実績率は、過去数年間に発生した貸倒損失の実績をもとに計算します。一般的には「過去3年間の貸倒実績 ÷ 過去3年間の平均売掛金残高」で算出する方法が用いられます。
☝ 計算した実績率を用いて、期末残高に一定率を掛けることで貸倒引当金を算定します。過去の貸倒実績をきちんと集計しておくことが精度を高めるポイントです。
A. 実際に賞与を支給しなかった場合は、計上していた賞与引当金を取り崩します。具体的には以下の仕訳を行います。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 賞与引当金 | ××× | 賞与引当金戻入益 | ××× |
賞与引当金戻入益は「特別利益」ではなく「営業外利益」に計上されるケースが一般的です。
戻入処理を忘れると、翌期に二重計上してしまう恐れがあるため、必ず決算整理時に確認しましょう。
引当金の計上は、企業の財政状態を正しく示すために不可欠です。
重要なのは「なぜ」「いくら」を明確にし、会計と税務の違いを理解したうえで、毎期継続して処理することです。
まずは自社の主要な引当金を棚卸しし、計上ルールや税務上の取扱いを再確認してみましょう。
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