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auを運営する総合通信企業KDDI株式会社は、2020年8月から欧米の「ジョブ型雇用」をベースにした「新人事制度」をスタートしました。ただしこの制度は、単純にジョブ型雇用を導入したものではありません。
旧来の日本型雇用制度の利点を残しながら、より効率的な働き方を可能にする、いわば「KDDI版ジョブ型人事制度」と呼ぶべき雇用形態です。この記事では、その特徴を検証します。
目次【本記事の内容】
伝統的な日本企業の雇用形態は、新卒採用・終身雇用・年功序列を特徴とする「メンバーシップ型雇用」と呼ばれています。一方欧米での働き方は、業務に関する条件を取り決めてから契約を結ぶ「ジョブ型雇用」が一般的です。
現在日本国内では、働き方が多様化してきたことに加え、テレワークの拡大などにより、これまでのような雇用形態では、企業の運営が難しくなりつつあります。そのため先進的な企業の中では、新しい雇用形態にシフトする動きが出てきているのです。
KDDI株式会社でも通信事業以外に、金融やエンターテインメントなどの新たな事業を手がけることになり、即戦力になる人材の確保が急務になりました。その結果10年前には年間20~30人だったキャリア採用者が、現在は200人規模にまで増加しています。
こうした経営環境の変化と同時に、社内で働く従業員の意識にも変化が現れてきました。1つの企業に骨を埋めるという考え方は薄れ、代わりに自分の価値を評価してくれる職場に、多くの人たちが魅力を感じるようになったのです。既存の雇用形態では、このような変化にそぐわなくなったと言えるでしょう。
KDDI版ジョブ型人事制度は、完全にジョブ型に移行することはせず、伝統的な雇用のメリットも融合させるというハイブリッド型の雇用です。そのため能力主義に偏らず、なるべく長期的に勤務できるような仕組みも残しています。
日本には独自の企業風土があり、それを否定してまったく異なった雇用制度を持ち込んでも、どこかで破綻するリスクが生じるでしょう。その危険性を回避するため、KDDIでは従来の雇用とジョブ型雇用とを効率的にミックスさせたのです。
ハイブリッド型の特徴は、人事評価の面ではっきりと表れています。今KDDIでは、従業員個人の業務能力と、組織の進歩に貢献する能力を組み合わせて評価を行っています。つまり従業員は、技術的なスキルとコミュニケーション能力など、多様な要素をもとに評価されるわけです。
このような評価に基づいて、場合によっては人材抜擢で一気にポジションアップできる可能性も生まれます。また個々の従業員には、自律的にキャリアを形成する取り組みが求められます。すでに公募制の人事異動は行われていましたが、今後は自主的な異動の機会も増える予定です。他には社内副業制度の拡充や、社外副業の解禁なども順次進められるようです。
新しい人事制度では、それぞれの社員が自律的にキャリアを形成して行きます。ベテランや中堅社員には、1度自分のキャリアを振り返り、今まで培ってきたスキルやノウハウを生かすチャンスが与えられます。一方で新卒社員に対しても、ジョブ型雇用をベースにしたキャリア自律の仕組みが適用されます。
管理職にとっては、今まで以上に役割と存在意義が重要になるかもしれません。部下が自律的に業務を進め、みずから異動を望めるようになると、今度は部下が上司を選ぶという可能性も出てくるでしょう。
今までにない新しい取り組みを始めれば、当然さまざまな課題が浮かび上がってきます。そこでKDDIでは、全社員に対するカウンセリングを実施し、その本音や悩みを聞き出して人事制度の改善に生かしています。
さらに今後は、各部門におけるキャリア形成を情報として開放し、それを社員が自身のキャリアに生かすことや、積極的に希望する部門に異動できる環境づくりも進める予定です。こうした取り組みをグループ企業も含めて広げながら、それぞれの社員が自律的に業務を遂行し、全員で会社を発展させる仕組みをつくることが、KDDI版ジョブ型人事制度の当面の目標になるでしょう。
新人事制度への移行にあたっては、社員の間で多少の混乱が見られたそうです。それに対してKDDIの管理部門は、結果重視だけのジョブ型ではなく、人としての総合的な力も評価すると伝えたことで、若手からベテランまで納得してもらったと言います。
確かに日本の企業風土で培われてきた雇用制度を、180度完全に転換してしまうと、職場全体が大混乱に陥ったかもしれません。しかしKDDIでは、新旧の制度のメリットを巧みに融合させて、今後の社会に対応できる仕組みをつくり始めました。この取り組みは、今後他の企業にとっても学ぶべき手本になるのではないでしょうか。
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