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戦略コンサルタントとアナリティクス専門家によって、2012年12月に設立された株式会社ギックスは、“判断業務のデータインフォームド”を推進する企業です。
顧客企業の「判断プロセス」にデータ分析を組み込み、意思決定の精度と効率を高めることで、経営課題解決および事業成長を支援しています。
そのミッションをバックオフィスから支える経理財務部長・久保圭太氏に、公認会計士の可能性、そして一般事業会社が求めるCFO像について語っていただきました。
久保 圭太(くぼけいた)/ 株式会社ギックス 経理財務部長 / 公認会計士
2008年立教大学経済学部卒業、同年あずさ監査法人入所。金商法・会社法監査に従事。
その後税理士法人での税務代理、一般事業会社での連結決算・IPO(マザーズ)・市場変更(東証一部)を経て2019年7月より現職。月次決算、制度決算の決算統括を行う一方、IPO対応、予算編成、内部統制構築を担う。
――(清水)最初のキャリアは監査法人ですが、公認会計士を目指したのはどんなきっかけでしたか?
大学進学にあたって、将来の職業選択に対して「手に職を付ける」ことが大事だというイメージがあったからです。
手に職があれば、働いている職場に問題があったり、万が一、自分自身がリストラにあったりしても別の場所で働けるはずだと思いました。高校生ながら、資格取得がその第一歩だと考え、特に専門性や希少性が高い資格を目指したいと思いました。ただ、医師は学費の面で厳しいし、弁護士は一般的に合格までに時間がかかります。公認会計士は費用の面でも勉強期間の面でも、現実的な選択肢に思えたんです。
そんな可愛い気のない高校生でした(笑)
――(清水)高校生から既に会計士を目指されていたんですね!試験勉強は大学中にスタートされたんですか?
そうですね。大学在学中から公認会計士試験の勉強をしており、卒業した年に合格しました。その後、あずさ監査法人に入所し、他の会計士同様に上場会社の監査などに従事していました。
――(清水)プラン通りに手に職をつけることができましたね。監査法人での経験は期待通りでしたか?
監査の仕事自体には、特に不満はなかったです。
5年ほど勤めたタイミングで、転職エージェントの話しを聞く機会があり、そこで「監査だけをやっている会計士は転職市場では魅力がない」と言われました。思ってもいなかったことだったので、漠然と将来が不安になったのを覚えています。
それがきっかけで税務の経験を積もうと税理士法人に転職し、その後、IPO準備企業への転職に繋がっていきます。
――(清水)監査法人に勤めている方から、キャリアに漠然と不安を感じるとの相談は良くあります。もう少し詳しく、その時の久保さんのご心境を聞かせていただけますか。
転職会社との話がきっかけにはなりましたが、そもそも監査法人は同期や先輩がけっこう辞めていく環境でした。
学生時代に思い描いていたように「会計士資格さえ取れば一生安泰」というのが、実はそうではないんじゃないかという疑問から、このままで大丈夫なのかという不安が募っていました。
考えてみれば、監査業務を通じて主に上場企業に関連した会計には詳しくなっていましたが、多くの企業にとっての関心ごとである「税務」は詳しくないし、ビジネスの世界で会計士に期待される「M&A」もよくわからない。
自分には公認会計士という肩書に、世間が期待するような力が本当についているのか、ということが不安だったんだと思います。
――(清水)確かに同じような経歴で同じような仕事をしている監査法人の中では、その不安が出てくるのはわかりますね。
一方で、定期的に転職する仲間がいるのも、心を揺さぶられるお気持ちが伝わってきました。実際に転職をしてみて、監査法人での経験はやはり役に立たないものでしたか?
いいえ。実際はそんなことは無く、会計士になって最初のキャリアが監査法人だったことには後悔はないです。むしろビジネスパーソンとして、公認会計士を名乗る立場として、基礎的な能力を身につけられたと感じています。
例えば、税理士法人でも、一般事業会社でも、専門知識を活かす前提として、しっかりとスケジュールに基づいた工程管理を行い、計画通りに進める力が重要だと思います。監査の仕事は、正確性に加えて、期日を守ることが求められます。しかも、自分たちの都合だけではなく、監査先の企業の方々に協力してもらいながらプロジェクトを進めていくので、マネジメント能力も養うことができたと思います。
今振り返れば、当時は監査しかやっていないと「使えない会計士」になると思い込んでしまっていたのですが、どういう視点で働くか、自分が何を経験しているのかを明確にできれば、監査法人での業務経験は、貴重なものだということに外に出てから気づきました。
――(清水)転職を考えていなくても、定期的にキャリアを見直すのは大切ですね。監査法人の後はどのような経験を積まれたのですか?
監査法人から転職のタイミングでも、根本的には「手に職をつけたい」という思いがあったので、「税務」に興味を持ち、税理士法人に転職しました。上場企業も顧客に持っている法人だったので、税務業務3割、会計業務7割で、経験してきた会計士としての知見も活かすことができました。
転職したことで、視野も広がり、専門性を身に着けるキャリアを形づくることができた一方で、当事者として企業経営に携わることに興味が沸いてきました。そんな中で、IPO準備企業に転職した監査法人時代の上司から声をかけていただき、前職の企業に転職しました。
――(清水)ここからCFOへのキャリアが始まるんですね。はじめてのIPO準備はいかがでしたか?
監査法人にいたのでIPO準備については、少なからず知っているつもりでしたが、実際にやってみるとなかなか一筋縄ではいかないなと感じました。 当事者ではない立場からIPOに関わっていると、あくまで上場に向けて必要な体制整備と手続きを進めていくことが主になります。しかし、当事者だと当然ですが、事業成長が伴っていることが求められます。
実際に、主幹事証券会社から「この売上は達成できますか?」と何度も聞かれました。経営陣からすると、上場に当たって事業の成長性を示したいと考えて、高い目標を掲げます。しかし、事業担当者の本音からすると「こんな売上予算は無理」、「先のことはわからない」、「達成できるように手を尽くしているからわかって欲しい」となります。この両者のすり合わせをするのも、CFOやIPO準備担当の役割なんだと実感しました。
結果的には無事、IPOを達成し、その後、東証一部上場に至ることができました。
――(清水)はじめての事業会社は良い経験を積めて、やりがいのある環境だったようですね。
現職のギックスに転職したのはなぜですか?
前職での経験は、監査法人時代の上司の下でのIPOだったので、次は自分が主体となって上場準備に携わりたいと思いました。そうすることで、「会計士資格を持つ管理職」という段階から、経営層にキャリアアップできるような経験を積みたいと考えたからです。
そのタイミングで巡り合ったのが、現職のギックスでした。
当時のギックスは、上場の準備をしようという段階で、上場経験のある人材や、監査法人出身者を求めていました。一方で、私は転職先を選ぶにあたって、これまでの経験が活かせることに加えて、「これからの世の中のニーズに応えられる会社なのか」ということを重視していました。これは「上場に値するサービスを提供できているのか」という意味です。
その中で、「顧客をデータインフォームドな状態に変革していく」ことをパーパス(目的)に掲げるギックスは、まさに私が求めている会社でした。
ギックスは、データに基づいて現場の意思決定の精度が高まるようクライアント企業を変革する取り組みをしています。私は監査法人・税理士法人での経験から、多くの企業を見てきましたし、成長途上で計画的な業績達成に苦労したIPO準備企業も実際に経験し、ギックスが取り組む事業・サービスの価値に非常に共感できました。
多くの企業で、重要な経営判断をカンや個人の経験則に頼ってしまっているケースが存在します。もちろん、事業を取り巻く環境に変化がない場合は、それで上手く行くこともあります。カンや経験則に基づいた現場の判断が正しいことも、実際のところよくあります。
しかし、こうしたカンや経験則をデータで裏付けて、そこに再現性があると証明できれば、経営判断の精度がより高まります。特にビジネスの環境変化が激しくなっている昨今、その変化の兆候にデータから気付き、それを踏まえた合理的な経営判断をしっかりと行う企業が増えれば、その企業は大きく成長していくはずです。そしてそれは、日本全体の競争力を高めることにつながります。
面接を通じて、そんな話を聞いていて「すごくいいことを言っているな」「この会社のめざす世界を共に実現してみたいな」と思って入社を決めました。
――(清水)いわゆるデータ解析や経営コンサルティングとは一味違うようですが、具体的にはどんなサービスを提供していらっしゃるのですか?
特徴的なサービスに「DIコンサルティング」があります。
たとえばの話になりますが、一般的なコンサルティング会社をイメージ頂くと、まず業務に関連する膨大なデータを預かり、それを加工してデータの分析を行います。そしてある程度の期間、例えば3ヶ月後とか半年後に「データを分析・加工した結果、御社はこういう会社で、こういう課題があり、こういう解決方法をとるべきだと考えます」といったような報告をしていくことになります。
しかし、企業が経営判断をしたいのは、いま、この瞬間です。報告を貰うのが3ヶ月後、半年後になっていると、経営環境が変化し、取り組むべき経営課題が別物になってしまっているかもしれません。
ギックスは、分析をするためのデータ整備やデータの加工などを、長年培ってきた分析手法・メソドロジー等を用いて非常に短い時間で行い、迅速に顧客に分析結果を提示できる仕組みや方法論を持っています。
ギックスのメンバーが優秀であるからできるという側面はもちろんあるのですが、肝になっているのはAI、機械学習技術 の活用と、多くのプロジェクト経験から得られた知見・ノウハウです。
さらに、コンサルタントひとりひとりのデータ分析の知見や経験を、社内で共有するための取り組みも行っていますので、そうした社内のアセットをフルに活用できるところに特徴があります。
必要なデータの分析を1~2週間というスピード感で実施し、その分析結果を携えて顧客とのセッションを行い、取り扱うべき課題の見極めや、戦略の組み立てを行います。その結果、より効果的なマーケティング施策や、営業部門の業務改善・効率化などを顧客と共に導き出し、実現することができます。
また、この迅速なデータ分析と、それを用いた議論を通じて、「意思決定にデータを用いる」ということが、どういうことなのか実際に体感していただきます。顧客自身がデータインフォームドな判断・意思決定を、自分たちでも再現できるように浸透させていくことを目指しています。
――(清水)顧客と伴走しながら、最終的には自走を目指す。そんな印象ですね。
はい。投資家さんからも、顧客が自走したらギックスさんはいらなくなるのではと聞かれますが、それは当社としては、まさにデータインフォームドの思想が伝わったという証です。「あらゆる判断を、Data-Informedに。」という当社の掲げるパーパスの実現に一歩近づいたわけですから、喜ばしいことだなと思っています。
一方で、こうした価値観を顧客と共有できた結果、更に「こんなこともやりたい」「こういう領域も変革していきたい」という新たな依頼をいただいて、お取引関係が発展していくケースも非常に多いのです。
データインフォームドな判断の実現によって日本企業の競争力を強化することが、私たちのゴールです。その理想実現に向けて、より多くの顧客企業の、より多くの判断をデータインフォームドなものへと変革していければと思っています。
――(清水)久保さんは今、まさにCFOへのステップアップを目指している段階と思いますが、仕事やキャリアについてどのようなことを意識していますか?
CFOの機能は二つあると私は考えています。
一つはまさにチーフファイナンシャルオフィサーです。ファイナンスや財務戦略に詳しいCFOですね。もう一つが、管理本部長の延長として経営管理全般を掌握するCFOです。これらは得意とする領域が違うだけですし、両方ともあくまで機能なので、経験を積んで身に着けていくものだと考えています。
その上で、もちろんCFOに限ったことではないのですが、経営ボードメンバーとして、自社の事業成長に対して、自分自身の血と汗と涙を流しながら取り組むことが必要です。
今思い返せば、最初のIPOのとき、営業のトップに「とりあえず来期の予算から教えてください」と気軽に言ってしまっていた自分が恥ずかしい限りです。私のように監査法人や税理士法人にいながら、将来的にCFOなど事業会社の経営幹部を目指している方には、事業会社の経営陣がどれほど苦心して事業成長に向き合っているのかを想像し、共感する力を養ってほしいですね。
――(清水)以上になります。本日はありがとうございました。
久保さんの話を伺って感じたことは、公認会計士の持つ仕事の幅や可能性を、初歩から一歩ずつ確実に習得されてきたということです。監査業務、税務、IPO業務のスタッフ、そしてIPOの取りまとめ役。そのすべてを実務としてこなしたご経験が「血と汗と涙を流す」という言葉に行き着くのだと思います。実務経験の豊富な久保さんならではの重みのある言葉ではないでしょうか。
インタビュアー
清水 悠太(しみず ゆうた)/ 事業企画Division / 執行役員
2005年3月法政大学卒業後、株式会社MS-Japanに入社。
ベンチャー・IPO準備企業を中心とした法人営業を経験した後、キャリアアドバイザーとしてCFO、管理部長、会計士、税理士、弁護士を中心に延べ5000名のキャリア支援を経験。
現在は事業企画Division/執行役員として、マーケティングと新規事業・新規サービスの開発を担当。
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