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森川 そのか
弁護士
弁護士法人GVA法律事務所/第二東京弁護士会所属
箕輪 洵
弁護士
弁護士法人GVA法律事務所/第一東京弁護士会所属
産業・技術の発展等に伴って見直される不正競争防止法ですが、直近では令和5年に通常国会で不正競争防止法の改正を含む「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(法律第51号)可決され、令和6年4月1日から施行されています(以下「令和5年改正といいます。」)。ここでは、令和5年改正のうち、スタートアップにとって影響が大きいと思われる主な改正点について紹介します。
スタートアップに特に影響が大きいのは以下の2点です。このうち営業秘密・限定提供データの保護においては、以下の3点について改正がなされています。
(1)デジタル空間における模倣行為の防止
(2)営業秘密・限定提供データの保護の強化
ⅰ 限定提供データの定義の明確化
ⅱ 損害賠償額算定規定の拡充
ⅲ 使用料推定規定の拡充
まず、不正競争防止法では、不正競争行為として以下の行為を第2条各号に列挙しています。
① 周知な商品等表示の混同惹起(1号)
② 著名な商品等表示の冒用(2号)
③ 他人の商品形態を模倣した商品の提供(3号)
④ 営業秘密の侵害(4号~10号)
⑤ 限定提供データの不正取得等(11号~16号)
⑥ 技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供(17号・18号)
⑦ ドメイン名の不正取得等(19号)
⑧ 商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示(20号)
⑨ 信用毀損行為(21号)
⑩ 代理人等の商標冒用(22号)
令和5年改正では、第2条第3号の形態模倣商品の提供行為について下線部分が修正され、「電気通信回線を通じて提供」する行為が新たに追記されています。
改正前
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
改正後
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
令和5年改正前は、不正競争行為となる形態模倣の規制対象は有体物の商品のみであると解釈されていました。しかし、 近年では、デジタル技術の進展、デジタル空間の活用が進み、当時は想定されていなかったデジタル上の精巧な衣服や小物等の商品の経済取引が活発化してきています。 このため、有体物に加え、デジタル空間上の商品の形態模倣行為(電気通信回線を通じて提供する行為)も規制対象とし、デジタル空間上の商品の保護を強化することとなりました。
改正条文に照らすと、例えば、実際に店舗で取り扱いのあるような衣服と同じデザインの衣服をメタバース空間で販売することや、ゲーム空間で取り扱いのある小物と同じデザインの小物をデジタル空間で販売する行為等が新たに不正競争行為に該当します。
なお、保護期間は販売開始から3年を経過するまでであり(不正競争防止法19条1項6号イ)、衣服など流行の早い商品が主な保護の対象として想定されています。
特に、メタバースやゲーム等のデジタル空間におけるビジネスを展開しているスタートアップにとっては、注目すべき改正点です。
ⅰ 限定提供データの定義の明確化
令和5年改正に伴い、 限定提供データの定義が明確化されています。
データはテクノロジーの発展とともに企業の競争力の源泉となっていったことから、データの積極的な利活用促進と不正なデータの取得等からの保護が求められるようになりました。
そこで、平成30年の不正競争防止法改正により、限定提供データの保護制度が創設されました。具体的には、①限定提供性 (業として特定の者に提供)、②相当蓄積性 (電磁的方法で相当量蓄積)、③電磁的管理性(パスワード等でアクセス制限)等の要件を満たすデータについては「限定提供データ」として不正競争防止法で一定の保護がなされます(不正競争防止法2条7項)。
なお、限定提供データの例としては
・地図データ
・道路形状計測データ
・車線情報データ
・構造物情報データ
等が挙げられます。
従来は、以下の改正前の条文のとおり、「限定提供データ」の定義からは「秘密として管理されているもの」は除かれていました。これは、自社や他者との間でデータの利活用を積極的に行う場合、これらのデータについて秘密として管理することはないとされてきていたからです。
もっとも、近年は、自社で秘密管理しているデータであっても、他者に提供するという企業実務が登場し、秘密管理されてきたビッグデータが保護されないという事態が生じていました。そこで、令和5年改正では、限定提供データの対象を「秘密管理されたビッグデータ」にも拡充しました。
同改正により、従来は「限定提供データ」にも「営業秘密」にも該当しなかったデータが、新たに「限定提供データ」として保護の対象となります。具体的には、以下の下線部分が修正され、「秘密として管理されているもの」すべてを限定提供データから除外するのではなく、「営業秘密」に該当するもののみが除外されることになりました。
改正前
第2条
7 この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。
改正後
第2条
7 この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)をいう。
「秘密として管理されているもの」と「営業秘密」とは異なる概念です。後者は営業秘密の要件(①秘密管理性(秘密として管理)②有用性 (有用な技術上又は営業上の情報)③非公知性 (公然と知られていない情報))を満たすものであり、前者よりもより狭い概念になります。結果として、限定提供データの範囲が広がります。
【改正前における保護の間隙】
なお、限定提供データに係る不正行為として不正競争となる類型は以下のとおりです(第2条1項11号~16号)。
① 限定提供データの不正取得、不正取得した限定提供データの使用・開示(11号)
② 不正取得された限定提供データの悪意での取得・使用・開示(12号)
③ 不正取得された限定提供データの取得後における悪意での開示(13号)
④ 限定提供データ保有者から示された限定提供データの図利加害目的での使用(管理任務違背の場合に限る)・開示(14号)
⑤ 不正開示された限定提供データの悪意での取得・使用・開示(15号)
⑥ 不正開示された限定提供データの取得後における悪意での開示(16号)
これらに該当する場合は差止請求や損害賠償請求の対象となる可能性があります。 いわゆるビッグデータ等のデータを取り扱うスタートアップは、自社のデータが不正競争防止法の営業秘密又は限定提供データとして保護され得るか、この機会に整理をしておくと良いでしょう。
ⅱ 損害賠償額算定規定の拡充
民事訴訟においては、損害額の立証責任は損害賠償請求を行う被侵害者の側にあるのが原則です。もっとも、不正競争による営業上の利益の侵害による損害は、損害額を立証することが困難であることから、不正競争防止法は、被侵害者の立証の負担を軽減するべく、一定の不正競争の類型について損害額を推定する規定を設けています(不正競争防止法5条1項)。
営業秘密に関しては、令和5年改正前は、以下の算定方法で営業秘密等の損害額(逸失利益)を算定し、これを推定額とすることで立証負担を軽減していました。
損害額=「侵害品の販売数量×被侵害者(営業秘密保有者)の1個当たりの利益」
上記の推定においては、被侵害者の生産・販売能力超過分の損害額は否定されていました。たとえば、侵害行為によって侵害者に1億円の利益が出ている場合であっても、被侵害者の規模等からして販売能力が3000万円程度であれば、損害額の推定もその範囲が限度となっていました。令和5年改正後は、被侵害者の生産・販売能力超過分は侵害者に使用許諾(ライセンス)したとみなし、使用許諾料相当額として損害賠償額を増額できるようになりました。これは、令和元年特許法等改正にならったものになります。
令和5年改正によって、生産能力や販売能力等が限られる中小企業やスタートアップも、生産・販売能力超過分についての請求が可能となりました。 また、令和5年改正前の不正競争防止法第5条第1項は、適用対象が「物を譲渡」する場合に限定されていたところ、デジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえ、「物」に電磁的記録(データ等)を含むことを明記した上、「役務を提供」する場合についても追記し、適用対象が拡充されています。
ⅲ 使用等の推定規定の拡充
原告(営業秘密保持者・被侵害者)から不正取得した「営業秘密(生産方法等)」を被告(侵害者)が実際に使用しているという事実を原告の側が訴訟において立証することは困難です。
そのため、不正競争防止法は、①被告が「営業秘密」を不正取得し、かつ、②「その営業秘密」を使用すれば生産できる製品を生産している場合には、被告が「その営業秘密」を使用したと推定する規定が設けられています(不正競争防止法5条の2)。もっとも、令和5年改正前は、かかる推定規定の適用対象となる被告は、産業スパイ等の悪質性の高い者に限定されていました。
令和5年改正後は、 オープンイノベーション・雇用の流動化を踏まえ、推定規定の適用対象を、元々アクセス権限のある者(元従業員)や、不正な経緯を知らずに転得したがその経緯を事後的に知った者にも、同様に悪質性が高いと認められる場合に限り拡充されました。
令和5年改正前の対象
①営業秘密へのアクセス権限がない者(産業スパイ等)
②不正に取得等した者から、その不正な経緯を知った上で転得した者
令和5年改正後の対象(上記①②に追加)
③元々営業秘密にアクセス権限のある者(元従業員、業務委託先等)がその営業秘密が記録された媒体等を許可なく複製等(領得)した場合
④不正な経緯を知らずに転得したがその経緯を事後的に知った者が、警告書等が届く等により、不正な経緯を事後的に知ったにもかかわらず、記録媒体等を削除等しなかった場合
さきに紹介した改正点と比べると、スタートアップへの影響性はやや劣りますが、以下の点についても改正がなされています。
①コンセント制度導入に伴う、不競法の適用除外規定の新設(不正競争防止法19条)
※コンセント制度の導入はスタートアップにとっても影響が大きいと思われますが、 直接的には商標法の改正によるものですので、本稿では詳細は割愛いたします。
②外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充(不正競争防止法21条等)
③国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化(不正競争防止法19条の2等)
以上が不正競争防止法の令和5年改正の主な論点になります。今後も、新たな法改正やそれに基づく判例・裁判例の流れについて引き続き注視してまいります。
筆者のご案内
弁護士法人GVA法律事務所_公式サイト
執筆者:弁護士法人GVA法律事務所 弁護士 森川 そのか様
執筆者:弁護士法人GVA法律事務所 弁護士 箕輪 洵様
#不正競争防止法 #改正
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