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金融商品取引法では、M&Aなどを目的として株式を大量取得する際に、TOB(株式公開買付)を実施することが義務付けられています。2024年5月15日、この法律の改正法が参院本会議にて可決・成立し、TOB実施義務の要件がさらに拡大されました。 そこで今回は、金融商品取引法におけるTOB制度の内容について詳しく解説します。
2024年5月15日に国会にて可決・成立した改正金融商品取引法において、大きな注目を集めているのがTOB・大量保有報告制度の見直しです。
TOB(Takeover Bit)とは日本語で株式公開買付と言い、株式を大量購入しようとする者が、株式の買付価格や期間などを公表し、不特定多数の株主から直接株式の買付を行うことです。企業を買収する場合や、経営陣が自社の株式を購入して非上場化するMBO(Management Buyout)などを行う場合に実施されることが多いです。
このTOBによる株式取得の最大の特徴は、購入者側が取り決めた買付価格・買付期間が広く公表される点にあります。「株式を大量購入します」と公開宣言することになるため取引上の透明性が確保され、株主全員に公平に売却の機会を与えることから公正性もあると言えます。
また証券取引所を通さずに株式を購入することになるため、スムーズに株式売却者を募れるように、購入価格はプレミアム価格が付くのが通例です。市場価額よりも高く売れるため、株主も保有株式の売却に前向きになるのです。
そして金融商品取引法では、企業の支配権に影響を及ぼすような株式取引に規制を与える制度として、TOB制度が定められています。今回の法改正以前においては、以下の条件に該当するような株式買付を行う場合、TOBを行うことが義務化されていました(第27条の2)。
・多数の者(60日間で10名超)から株式を購入して、保有割合が5%超になる場合。
・少数の者(60日間で10名以内)から株式を購入して、保有割合が3分の1超になる場合。
・TOB後にその会社が上場廃止になる場合、株主保護の観点から、買付後の保有割合が3分の2以上になる場合は応募株主のすべてを買い取ることが義務化。
・急速な買付後に保有割合が3分の1超を超える場合も同様。
既存法では基本的に、株式を短期間で大量購入して株主保有割合が3分の1を超える場合、TOBの実施が義務付けられています。これが今回の法改正により「3分の1超」から「30%超」へと変更されました。パーセンテージで言えば、既存法では保有株主が33.4%超となる場合にTOB実施が義務付けられていましたが、改正法では30%超となる場合でTOB実施が義務化されます。
企業が合併などの最重要事項を決める際、株主総会で「特別決議」が行われますが、この決議には株主の3分の2以上の賛成が必要です。もし3分の1超の株式を保有すれば、この特別決議を否決することが可能となり、企業経営のあり方に多大な影響力をもつことになります。
しかしこうした経営に大きな影響力をもつに至るような株式取引、つまり「3分の1超の株式保有に至るような取引」が、密室にて非公開で行われているようでは健全とは言えません。企業や一般株主も容易に対応ができ、取引の透明性や公正性を保つためには、TOBが望ましい形となります。TOBは先述の通り、購入者側が全株主に対して購入価格、購入期間を公表するため、本来的に透明性や公正性を確保できる取引手法であるからです。
そのため既存の金融商品取引法では、取得後の保有割合が3分の1超となるような株式取引には、TOB実施を義務付ける内容が定められていました。ところが先述の通り、2024年5月15日に可決・成立した改正金融商品取引法では、TOB実施義務の要件は保有株式の「3分の1超」ではなく「30%超」とされました。
30%超の場合、たとえば30.1%だと3分の1超に達しないため、理論上は単独での特別決議の阻止はできません。なぜわざわざ30%超に基準が変更されたのでしょうか。
「3分の1超」から「30%超」に改正された背景には、実際のところ30%程度保有していれば、特別決議の否決は可能となっている既成事実があります。株主総会の場で、全株主が保有する議決権を行使しているなら、TOB実施義務の要件を3分の1超と定めることの意味は大きいです。
しかし実際には全株主がわざわざ議決権を行使することはなく、実態として30%程度の株式を保有していれば、特別決議を阻止できているケースが多いのです。現実に起こっている状況を踏まえての、今回の法改正と言えます。
近年、市場取引を通しての敵対的買収の増加、経営陣の自社株購入による上場廃止の増加の傾向が生じており、現実に即した株式取引の法整備が急務と言われていました。今回の法改正により、TOBを実施しなくてもよい株式取引の要件がより厳しくなったのは確かです。M&Aを検討している企業、あるいは上場廃止をして経営陣主導で経営再建を図る企業は、改正法の内容を踏まえた戦略を構築していく必要があります。
■参考サイト
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