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【弁護士監修】2024年11月施行フリーランス保護法の概要と管理部門の対応

公開日2024/08/21 更新日2024/09/13 ブックマーク数3

フリーランス保護法

この記事の筆者

牛島総合法律事務所
弁護士
猿倉 健司

牛島総合法律事務所パートナー弁護士。環境法政策学会所属。
環境・エネルギー・製造・不動産分野では、国内外の行政・自治体対応、不祥事・危機管理対応、企業間紛争、新規ビジネスの立上げ、M&A、IPO上場支援等を中心に扱う。
「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」のほか、数多くの著書・執筆、講演・研修講師を行う。


牛島総合法律事務所
弁護士
近藤 綾香

牛島総合法律事務所アソシエイト弁護士。2020年弁護士登録。
システム開発に関する紛争案件や、日本ないし各国の個人情報保護法制への対応を含むデータ・プライバシー関連業務を中心に扱う。その他、各種訴訟案件やM&A等、企業法務一般を取り扱う。

第1 2024年11月施行のフリーランス保護法の概要・ポイント

フリーランスとは、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」をいいます。※1

「個人」たるフリーランスと発注事業者との間で交渉力及び情報収集力の格差が生じやすいことから、フリーランスが契約主体となる取引の適正化及び就業環境の整備を図るため、フリーランスに対して業務を委託する発注事業者を規制する必要があります。そこで、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス保護法」といいます。)が令和5(2023)年4月28日に成立し、令和6(2024)年11月11日から施行されることになりました。

フリーランスに業務を委託する発注事業者に対する義務及び禁止事項の概要は、以下の図のとおりです。規制対象となる発注事業者については、①フリーランスに対して業務を委託する全ての事業者(従業員又は役員の有無は問わず、従業員を使用しない個人も含む。)と、②フリーランスに対して業務を委託する事業者のうち、従業員又は役員がいる者に分けられ、②の方が課される義務が多くなっています。また、②については、業務委託の期間ごとに、(a)1か月以上の業務委託である場合と(b)6か月以上の業務委託である場合に分けられ、それぞれ義務及び禁止行為の内容が定められています。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律

【内閣官房新しい資本主義実現本部事務局、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)【令和1年11月1日施行】説明資料」6頁より抜粋】

第2 フリーランス保護法の制定背景

近年、働き方の多様化が進展し、フリーランスという働き方が普及していますが、フリーランスが取引先との関係で様々な問題・トラブルを経験していることが顕著となっています。例えば、内閣官房ほかによる実態調査※2では、フリーランスの約4割が受け取る報酬の不払い、支払遅延などのトラブルを経験しており、また約4割が記載の不十分な発注書しか受け取っていないか、そもそも発書を受領していないことが明らかとなりました。また、厚生労働省のフリーランス・トラブル110番※3には、報酬の支払いに関する相談が多く寄せられているほか、ハラスメントなど就業環境に関する相談も寄せられているようです。

フリーランスがこのような問題に直面する要因は、一人の個人として業務委託を受けるフリーランスと、組織たる発注事業者との間には、交渉力や情報収集力の格差が生じやすいことにあると考えられます。例えば、従業員がいないフリーランスは、時間等の制約から事業規模が小さく特定の発注事業者から発注される業務に依存しやすいことや、発注事業者の指定に沿った業務の完了まで報酬が支払らってもらえないことが多い、といった事情があり、発注事業者が報酬額等の取引条件を主導的立場で決定しやすくなります。

したがって、事業者間の業務委託における「個人」と「組織」の間における交渉力や情報収集力の格差、それに伴う「個人」たる受注事業者の取引上の弱い立場に着目し、発注事業者とフリーランスの業務委託に係る取引全般に妥当する、業種横断的に共通する最低限の規律を設け、それによって、フリーランスに係る①取引の適正化、②就業環境の整備を図るため、フリーランス保護法が制定されました。

第3 フリーランス保護法と下請法の違い

1. 適用範囲

下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)の適用には、資本金の要件があり、発注事業者の資本金が1000万円を超える場合にのみ適用があります。しかしながら、フリーランスに業務を委託する発注事業者は、資本金が1000万円以下の場合も多く、その場合はフリーランスとの取引が下請法による規制対象となりません。

他方で、フリーランス保護法には資本金要件が無く、フリーランスに対して業務を委託する発注事業者全般に適用があります。
以下、フリーランス保護法の対象となる事業者について説明します。

(1)特定受託事業者(フリーランス)
フリーランス保護法上、フリーランスを「特定受託事業者」といいます。「特定受託事業者」とは、業務委託先の事業者であって、①個人、又は、②代表者1名の会社で、かつ、従業員を使用しないものです(フリーランス保護法2条1項)。1人でも従業員を使用していれば「特定受託事業者」に該当しないため、フリーランス保護法の適用対象外となります。

上記定義に関する重要な点は、上記の「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まれないことです。現状、雇用保険対象者の範囲を参考に、「週所定労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」を上記の「従業員」とすることが想定されています※4。

例えば、業務委託先のイラストレーターが、週10時間労働かつ2か月の雇用見込みのアシスタントを使用していたとしても、「従業員」を使用していることにはならず、フリーランス保護法が適用される「特定受託事業者」に該当します。

(2)業務委託事業者、特定業務委託事業者(発注事業者)
フリーランス保護法によって義務を課される事業者は、フリーランス(特定受託事業者)に対して業務を委託する発注事業者です。同法上、発注事業者を「業務委託事業者」又は「特定業務委託事業者」といいます。

「業務委託事業者」とは、特定受託事業者(フリーランス)に対して業務委託をする事業者です(同法2条5項)。従業員又は役員の有無は問わず、従業員を使用しない個人も含むため、フリーランスが他のフリーランスに業務を委託する場合のように、発注事業者がフリーランスであっても、「業務委託事業者」に該当します。

「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、①個人であって、従業員を使用するもの、若しくは、②法人であって、二以上の役員があり、又は、従業員を使用するものです(同法2条6項)。つまり、業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者が「特定業務委託事業者」に該当します。

「業務委託事業者」であるか又は「特定業務委託事業者」であるかによって、フリーランス保護法によって課される義務の範囲は大きく異なります。

2. 規定内容

義務規定及び禁止規定のうち、下請法においてのみ規定されているものは、以下のとおりです。

・有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(下請法4条2項1号)
・割引困難な手形の交付の禁止(下請法4条2項2号)
・遅延利息の支払義務(下請法4条の2)
・取引記録の作成・保存義務(下請法5条)

他方で、フリーランス保護法では、下請法とは異なり、就業環境の整備についての規定が設けられていることが特徴です。上記第2で述べたとおり、一人の個人として業務委託を受けるフリーランスが受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備する必要性が高いことから、就業環境の整備が求められています。就業環境の整備の具体的な内容は、以下のとおりです。

・募集情報の的確表示義務(フリーランス保護法12条。下記第4の4)
・育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(フリーランス保護法13条)
・ハラスメント対策に係る体制整備義務(フリーランス保護法14条)
・中途解除等の事前予告・理由開示義務(フリーランス保護法16条。下記第4の5)

第4 フリーランス保護新法が企業に与える影響及び管理部門の対応

以下で述べるとおり、フリーランス保護法で企業が遵守すべき内容は様々であり、これらにすべて適切に対応するには相応の負担が生じます。以下では、管理部門として対応すべき特に重要なポイントについて概要を説明いたします。

1. 取引条件の明示義務(3条)

(1)明示すべき事項
業務委託事業者は、特定受託事業者(フリーランス)に対し業務委託をした場合、直ちに、役務内容、期日(検査完了期日を含む)、役務提供場所、報酬額及び支払期日などの事項を、書面又は電磁的方法により特定受託事業者(フリーランス)に対して明示することが義務付けられています(法3条1項、公正取引委員会規則1条)。

これは、フリーランスに業務委託を行うすべての発注事業者(業務委託事業者)に課されている義務であり、発注事業者がフリーランスである場合にも課されます。 取引条件を明示する時点で未定事項がある場合には、未定事項以外の事項のほか、未定事項の内容が定められない理由及び未定事項の内容を定めることとなる予定期日を当初の明示として明示し、これを定めた後は、直ちに、当該未定事項を特定受託事業者に明示する補充の明示を行わなければなりません。

(2)明示の方法
明示の方法としては、①書面での交付と②電磁的方法での提供のいずれかの方法を選択することができます※5 下請法3条では、電磁的方法によって明示をする場合には下請事業者の承諾が必要となるため、この点はフリーランス保護法と異なります。

もっとも、業務委託事業者が取引条件を電磁的方法により明示した場合で、特定受託事業者(フリーランス)から書面の交付を求められたときは、特定受託事業者(フリーランス)の保護に支障を生ずることがない場合を除き、遅滞なく、書面を交付しなければならなりません(法3条2項)。

2. 期日における報酬支払義務(4条)

特定業務委託事業者(業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者)は、特定受託事業者(フリーランス)の給付を受領した日又は役務の提供を受けた日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めて、同期日までに報酬を支払わなければなりません(同法4条1項、5項)。

支払期日を定めなかった場合などには、以下の日が支払期日とみなされます(同法4条2項)。

・当事者間で支払期日を定めなかったとき
→物品等を実際に受領した日
・物品等を受領した日から起算して60日を超えて定めたとき
→受領した日から起算して60日を経過した日の前日

ただし、元委託者から受けた業務の全部又は一部を、特定業務委託事業者が特定受託事業者(フリーランス)に再委託した場合には、一定の要件のもとで、再委託に係る報酬の支払期日を、元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定めることができます(同法4条3項)。

3. 遵守事項(5条)

特定業務委託事業者(業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者)は、特定受託事業者(フリーランス)との1か月以上の業務委託に関し、以下の事項を遵守しなければなりません。

受領拒否の禁止
(同法5条1項1号)
特定受託事業者(フリーランス)に責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否すること。発注者の一方的都合により発注取消しをして受け取らないことも、受領拒否にあたる。
報酬の減額の禁止
(同法5条1項2号)
特定受託事業者(フリーランス)に責任がないのに、発注時に決定した報酬を発注後に減額すること。減額についてあらかじめ合意があったとしても、特定受託事業者の責めに帰すべ き事由なく減じた場合は違反となる。
返品の禁止
(同法5条1項3号)
特定受託事業者(フリーランス)に責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品すること。検査の有無を問わず、事実上、特定業務委託事業者の支配下に置けば、受領に該当し、以降は「返品」等の問題となる。
買いたたきの禁止
(同法5条1項4号)
発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬を不当に定めること。①対価の決定方法、②差別的であるかなど対価の決定内容、③「通常支払われる対価」と当該給付に支払われる対価との乖離状況、④給付に必要な原材料等の価格動向といった要素が総合考慮される。
購入・利用強制の禁止
(同法5条1項5号)
特定受託事業者(フリーランス)に発注する物品の品質を維持するためなどの正当な理由がないのに、発注事業者が指定する物(製品、原材料等)や役務(保険、リース等)を強制して購入、利用させること。
不当な経済上の利益の提供要請の禁止
(同法5条2項1号)
自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。①特定受託事業者(フリーランス)の直接の利益とならない場合や、②特定受託事業者(フリーランス)の利益との関係を明確にしないで提供させる場合が問題となる。
不当な給付内容の変更、やり直しの禁止
(同法5条2項2号)
特定受託事業者(フリーランス)の責めに帰すべき事由なく、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後若しくは特定受託事業者から役務の提供を受けた後に給付をやり直させること。特定受託事業者が作業に当たって負担する費用を負担せずに、一方的に発注を取り消すことも含まれる。

4. 募集情報の的確表示義務(12条)

特定業務委託事業者(業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者)は、広告等により特定受託事業者の募集を行うときは、以下の情報について、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません(法12条1項、2項)。

・業務の内容
・業務に従事する場所・期間・時間に関する事項
・報酬に関する事項
・契約の解除・不更新に関する事項
・特定受託事業者の募集を行う者に関する事項

ここにいう「広告等」とは、①新聞、雑誌に掲載する広告、②文書の掲出・頒布、③書面の交付、④ファックス、⑤電子メール・メッセージアプリ等(メッセージ機能があるSNSを含む。)、⑥放送、有線放送等(テレビ、ラジオ、オンデマンド放送、ホームページ、クラウドソーシングサービスのプラットフォーム等)が含まれます。

5. 中途解除等の事前予告・理由開示義務(16条)

特定業務委託事業者(業務委託事業者のうち、フリーランス以外の者)は、6か月以上の期間行う業務委託(契約の更新により6か月以上の期間継続して行うこととなる業務委託も含む。)に係る契約を中途解除したり、更新しない場合には、特定受託事業者(フリーランス)に対し少なくとも30日前までにその旨を予告する必要があります(法16条1項)。

また、予告の日から契約満了までの間に、特定受託事業者(フリーランス)が契約の中途解除や不更新の理由の開示を請求した場合には、特定業務委託事業者は、これを開示しなければなりません(法16条2項)。

6. その他

以上の他、実務上は、育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(13条)、及び、ハラスメント対策に係る体制整備義務(14条)の遵守が重要となりますので、併せて対応が必要となります。

第5 まとめ

以上のとおり、フリーランスに対して業務委託をする事業者は、フリーランスに不利益が生じないよう、上記で説明をした各事項を適切に遵守する必要があります。 フリーランス保護法には下請法のような資本金要件がなく、下請法が適用されない資本金1000万円以下の発注事業者とフリーランスとの取引であってもフリーランス保護法が適用されることから、今まで下請法対策をしてこなかった中小企業であってもフリーランス保護法が適用され得ることに留意する必要があります。

以上

※1 内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和3年3月26日)2頁及び31頁

※2内閣官房新しい資本主義実現会議事務局・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁「令和3年度フリーランス実態調査結果」Q27、Q32

※3 フリーランス・トラブル110番【厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営】 (mhlw.go.jp)

※4 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A 問2の回答

※5 内閣官房新しい資本主義実現本部事務局、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)【令和1年11月1日施行】説明資料」9頁




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