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▼この記事を書いた人
寺山 晋太郎
社会保険労務士
社会保険労務士法人 宮嶋社会保険労務士事務所
福島県出身。一橋大学社会学部卒業。大手鉄道会社にて現業や本社勤務など様々な業務を経験。2014年第一子誕生を機に育休を取得。その後現職に転じ、働きながら社労士資格を取得。社労士業の傍ら、3児の父親としても奮闘中。
リモートワークとは、テレワークとも呼ばれ、ICT(情報通信)技術を活用して多様な就業場所で仕事をすることを指します。2020年以降に世界中で流行した新型コロナウイルスをきっかけに、日本においてもこれまでのような「決まったオフィスに出勤して働く」という働き方が難しくなったことを受け、普及が進んだことは記憶に新しいかと思います。
ただ近年は新型コロナウイルスの影響も限定的となり、リモートワーク熱も冷めつつあるような印象です。例えば米大手企業Amazonは、つい先日に現状週3日の出社義務を2025年1月2日から原則週5日に戻すことを宣言し、大きな話題となっています。
そういった情勢の中、では日本におけるリモートワークの現状はどうかといいますと、国が行った「テレワーク人口実態調査(令和5年度」によると、「直近一年間のテレワーク実施率」はデータがある令和3年度から右肩下がりに低下しており、首都圏においては令和3年度において42.3%であったのが28.0%となっております(地方になると非常に低く、首都圏・近畿圏・中京圏を除くと直近の実施率は8.8%にとどまります)。
では、どうしてリモートワークを実施しないかという理由ですが、これも同調査によれば「会社からテレワークを実施することが認められていない、または出勤するよう指示等がありテレワークを実施できないため」という理由が大きな割合を占めており、会社としてリモートワークをあまり推奨していない現状となっている実態が読み取れます。
もちろん、そもそもリモートワークに適さない業種(販売、営業など)もあるでしょうが、一般的な事務においてリモートワークを適切に実施しようとすれば、社員同士のコミュニケーションの問題、労務管理の問題、情報セキュリティの問題など、解決すべき問題が山積しております。また労務管理の問題一つをとっても、例えば出退勤はどのように管理すればよいのか、会社の目を離れたところできちんと仕事をしてくれるのか、等さまざまなお悩みがあり、リモートワークの実施に二の足を踏まれている現状もあろうかと思います。
そこで本記事では、社労士の視点から、リモートワークにおける労務管理のポイントをご説明していきます。
リモートワークには、大別して「雇用型」と「自営型」があります。「雇用型」とは、企業に雇用されながら在宅勤務やサテライトオフィス勤務などを行う場合であり、「自営型」とは、注文者から委託を受けた仕事をリモートワークの形式にて行う場合を指します。これらを区別するにあたっては、労務を提供している者が使用者の指揮命令下にあるか否かなどの実態をもって判断され、雇用契約や請負契約・業務委託契約といった契約名称のみで判断されるものではないことに注意が必要ですが、一般的な会社員が行うリモートワークは「雇用型」に分類されますので、以降本記事では「雇用型」を念頭に置いてご説明いたします。
まず、大前提として認識しておいていただきたいのは、「雇用型」リモートワークには労働基準諸法令が適用されるということです。代表的な労働基準諸法令としては労働基準法、労働契約法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などが挙げられます。そのため、労働者にリモートワークをさせるにあたっては、これらの諸法令をしっかりと順守していく必要がありますので、ルール作りをするにあたってもそのことを意識して取り組むことが大切です。
リモートワークのルール作りですが、具体的には就業規則の改定に取り組みましょう。就業規則は常時10人以上の労働者を使用する事業場において作成が義務付けられており、作成する場合は必ず記載せねばならない「絶対的必要記載事項」(就業時間・休憩・休日、賃金の決定・計算方法、退職に関する事項など)、その定めをする場合は記載しなければならない「相対的必要記載事項」(退職手当、賞与その他臨時の賃金、労働者の食費・作業用品その他の負担に関する事項など)などがあります(労基法89条)。
なお「就業場所」については就業規則で定める義務はなく、また他の事項に関してもリモートワークか否かに関係なく適用されるものであれば、既存の就業規則をそのまま適用し続けても問題はありませんが、実際のところは通信費用の負担など、リモートワーク時に問題となる事項はあるでしょうし、また就業規則を改定すべき事項とそうでない事項とを峻別することは実務上容易ではありませんから、リモートワーク用の就業規則(以下『リモートワーク規程』とします)を別途設けたほうが、リモートワークの導入と運用をスムーズに進めることができます。
なお、従業員数が常時10人に満たず、就業規則作成の義務がない場合であっても、リモートワーク規程を作成すること自体は全く問題ありませんし、内規のような形でも構いませんので、作成しておくのがベターです。
では、具体的にリモートワーク規程にはどのような内容を定めるべきでしょうか。以下に最低限定めておくべき事項を挙げさせていただきます。
1. 定義
リモートワークとはどのような勤務形態を指すのか、定義を明確にしておきます。
2. リモートワークの対象者
従業員全員を対象とするのか、もしくは一部の者だけにするのか。一部に限る場合は、その条件(部署、業務内容、勤続年数etc.)も明確に定めておくことが重要です。また希望者だけではなく業務命令でリモートワークを命じる可能性がある場合には、その旨も併せて定めておくと良いでしょう。
3. リモートワークの申請方法
例えば「リモートワークを希望する者は所定の許可申請書に必要事項を記載の上、○日前までに所属長から許可を得なければならない」等、申請方法について具体的に定めておきましょう。また育児や介護など突発的な事由で取得する可能性がある従業員がいる場合には、その場合の記載も併せて行っておくとスムーズです。
4. 労働時間に関する規定
所定労働時間、休憩時間、フレックスタイム制、みなし労働時間制など、労働時間について明確にしておきましょう。またリモートワークは出社と比べて労働時間の把握が難しくなるため、労働時間の把握方法や時間外労働・休日労働の申請方法についても定めておくのがベターです。
5. 中抜け時間について
リモートワーク特有の事象である中抜け時間については、労基法上、会社は把握することとしても、把握せずに始終業時刻のみを把握することとしても、いずれでも良いとされてはいますが、その取扱いについては明確に定めておくべきでしょう。
6. 服務規律
セキュリティ対策や機密情報の取り扱い方法など、リモートワークに特有の服務規律について定めておきましょう。
7. 賃金や費用負担、情報通信機器の貸与について
リモートワークだからといって基本給を減額することはできませんが、交通費などは変更になるでしょうし、リモートワーク手当の支給などもあるかもしれません。また通信費用や環境整備などの費用をどちらが負担するのか、パソコンなど情報通信機器の貸与などについても明確にしておきましょう。
まず採用時ですが、リモートワークを予定して採用する場合は、当該労働者に対してリモートワークを行う場所(自宅、サテライトオフィス、その他)を書面で明示しなければなりません(労基法第15条)。具体的には、労働者に交付する労働条件通知書に記載する形で行うこととなります(労働者が希望する場合は電子メール等も可)。なお、既に雇用している労働者について新たにリモートワークを行わせる場合においては書面の交付義務はありませんが、できるだけ書面にて確認すべきです(労働契約法第4条第2項)。
次に労働時間の把握(勤怠管理)についてです。たとえリモートワークであっても、出社する労働者と同様に、原則として始終業時刻を客観的な記録をもとに把握する必要があります。具体的には、厚労省が定めた『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』(厚労省令3.3.25。以下『ガイドライン』と表記)によると、パソコンの使用記録が「客観的な記録」に該当するとされ、それによる把握が困難なときなど例外的な場合については、労働者からの自己申告に拠ることとされています。
ただ、現実的な話としてリモートワーク労働者のパソコン使用履歴をすべてチェックすることは難しいと考えられますし、そもそもパソコンの使用時間と始終業時刻とは乖離があるのが普通でしょう。また労働者からの自己申告に拠る場合であっても、報告し忘れや労働者の主観による始終業時刻のズレ(この仕事は残業申請しなくていい、と判断してしまう等)等が考えられます。そのため、リモートワークにも対応できる勤怠管理システム導入を検討するのが最も効果的でしょう。
リモートワークにも対応できるものとしては、例えばスマートフォンやパソコンを使用してオンライン上で始終業時刻をタイムカードのように記録できるものや、打刻時のGPS情報を記録して虚偽申告やエラーを発見できるもの、PCの起動・終了時刻のログを自動検知してそれぞれを始終業時刻として計上するものなど様々なものがありますので、会社のニーズに応じてご検討いただければと思います。
なお、勤怠管理と関連するお話として、労働時間の柔軟な取り扱いが可能となる制度を活用することも一つの手です。例えばフレックスタイム制は、あらかじめ定めた総労働時間の範囲内で労働者が自由に始終業時刻を決定できるので、リモートワークになじみやすい制度です。
例えば在宅勤務の日は勤務時間を短く抑えて家庭生活に充てる時間を取り、その分オフィス勤務の日に長めに働くなどといった、労働者の生活サイクルに合わせた運用が可能となります。フレックスタイム制の導入には就業規則の定め、労使協定の締結と届け出(届け出は清算期間が3ケ月を超える場合に必要)が必要であり、時間外労働の考え方も通常の制度とは異なりますので導入・運用は簡単ではありませんが、労働者にとってメリットがある制度であることは間違いないので、検討の価値はあろうかと思います。
冒頭でも述べましたが、リモートワークの導入・運用にあたり大きな懸念点となるのは、やはり普段の労務管理をどうするか、ということかと思います。例えば、サボらずにきちんと仕事してくれるのだろうか、リモートワーク中の長時間労働はどう防ぐか、リモートワーク中の安全衛生管理はどうすべきなのか等々、様々なものが挙げられます。
まずリモートワーク中の従業員がきちんと仕事してくれているかどうかという点ですが、心配のあまりリモートワーク中は常にPCのWebカメラをオンにしておくよう指示したり、PCをモニタリングしておくなどの手段を取られている企業もあるようです。
確かに、労働者には職務専念義務がありますから、これらの措置も一見すると合理的に見えますが、結論から申し上げると、無節操にこれらの措置を採ることはお勧めできません。なぜなら、たとえ企業といえども、従業員のプライバシーを不当に侵害することは許されないからです。常時Webカメラをオンにさせることは、在宅勤務などの場合は従業員の自宅の様子などプライバシーが見えてしまう危険性がありますし、場合によってはパワーハラスメント(個の侵害)に該当してしまう恐れすらあります。
またPCモニタリングも、リモートワーク規程などでモニタリングの目的、対象者、範囲、方法、収集情報の管理方法などを明確に定め、必要以上に情報を収集してしまわないように制限をかけておくことが最低限必要となります。たとえ出社勤務の場合であっても、従業員の業務を逐次把握するということは不可能です(真面目にPCに向き合っているように見えても、何か仕事以外のことをしている可能性はゼロではないでしょう)から、リモートワークだからといって過剰に監視をすることは避け、定時の業務報告や成果物の進捗報告など、必要十分な範囲にとどめるのが良いでしょう。
次にリモートワーク中の長時間労働についてです。リモートワークはある意味どこでも仕事ができるという性質上、労働時間管理が曖昧となってしまい、長時間労働に繋がりやすい側面があります。それを防ぐためには、まず正確な労働時間の把握が大前提となります。
その上で、例えば残業は原則禁止にして事前申告制や許可制にする、オフィス外からの社内サーバーへのアクセスやメール送信などを業務時間以外は物理的に不可能にするなどの措置が考えられます。なお残業の許可制を採る場合、従業員からの申告に任せておくだけでは隠れた残業が横行する可能性もありますので、定期的にパソコンのログ情報を取得する等の客観的に把握できる措置も併せて行っておくと良いでしょう。
ただし、事前に申告がない残業が発覚した場合、許可を得ていないからといって残業代は支払わなくて良いとは当然にはならないことに注意が必要です。例えば、当日の業務が明らかに所定時間内に終えることができないような量であり、使用者もそれについて特に配慮せずに放置していたような場合は、たとえ許可が出ていなかったとしても、黙示の残業命令があったと解される可能性もあります。その場合残業代は支払わなければなりませんし、支払わなかった場合は賃金全額払い原則(労基法第24条)違反となります。
最後にリモートワーク中の安全衛生管理についてです。まず労働災害についてですが、たとえリモートワークであっても、労災認定の基準は変わるものではなく、業務起因性と業務遂行性が認められれば労災となります。例えば業務作業中に椅子から転げ落ちた、トイレに行こうとして転倒したなど、業務に付随する行為によるものであれば労災となりますし、申告もなく仕事を抜けて私的な作業をしていた際に負傷したなどの場合は業務起因性が否定され労災とはならないことになります。
そのため、リモートワーク中に労災と疑われる事象が発生した場合には、従業員に当時の状況をしっかり確認することが大切です。なお、在宅勤務を行う場合、自宅での作業環境整備費用(椅子や机など)を従業員から求められることも考えられます。
これらの費用は必ずしも事業者が負担すべきものではありませんが、『ガイドライン』によれば、事業者は作業環境の整備についてリモートワークを行う労働者に、安全衛生に配慮した作業環境となるように教育・助言等を行うものとされていることを考慮すると、リモートワーク手当など何らかの形で補助することがベターかと思います。
その場合、就業規則等に明確に示すことも併せて行うようにしましょう。なお、『ガイドライン』には、事業者がリモートワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリストも記載されておりますので、ご活用いただければと思います。
リモートワークは新しい働き方であり、今後も様々な課題が出てくることが予想されます。ただ、労働時間の正確な把握の必要性や安全衛生管理体制の整備の重要性、従業員のプライバシーへの配慮など、基本的な労務管理の原則は出社勤務時とそこまで変わるものではありません。
リモートワークならではの事情に配慮した就業規則をしっかりと整備し、従業員に対し周知徹底を図ることが第一歩となります。『ガイドライン』なども参考にしていただきつつ、本記事がスムーズなリモートワーク導入・運用の一助になれば幸いです。
参考:『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html
監修元
社会保険労務士法人 宮嶋社会保険労務士事務所_公式サイト
執筆者:寺山 晋太郎様
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