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【社労士解説】政府が「ジョブ型人事指針」を公表!人事労務向けに解説

公開日2024/11/13 更新日2024/11/22 ブックマーク数
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ジョブ型人事制度について

▼この記事を書いた人

寺山 晋太郎
社会保険労務士
社会保険労務士法人 宮嶋社会保険労務士事務所

福島県出身。一橋大学社会学部卒業。大手鉄道会社にて現業や本社勤務など様々な業務を経験。2014年第一子誕生を機に育休を取得。その後現職に転じ、働きながら社労士資格を取得。社労士業の傍ら、3児の父親としても奮闘中。

1. ジョブ型人事制度とは

 ジョブ型人事制度とは、一言で表すと「仕事そのものを基軸とした人事制度」で、世界的に主流を占めるものです。これだけでは分かりづらいかと存じますので、日本においてメジャーである職能型人事制度と比較する形でその特徴をまとめてみます。

職能型人事制度とは「社員の能力を基軸とした人事制度」であり、評価基準も「社員の能力」となります。そのため極端な例を挙げれば、全く同じ仕事をしている二人がいても、それぞれ能力が異なっていると評価されれば、その二人の待遇も異なるものとなってくるのが職能型人事制度となります。それに対しジョブ型人事制度は「従事する仕事」を評価の基軸としますから、仕事が同じであれば両者の評価・待遇も全く同じものとなり、個人の能力は考慮されないのが原則となります。

近年、日本においてもジョブ型人事制度の導入が進められておりますが、それは企業レベルではなく、国を挙げて進めている感すらあります。その証左として国は今年8月に『ジョブ型人事指針』というものを策定・発表しており、その中で「日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める」と明確なビジョンを打ち出しております。国がジョブ型人事制度の導入を進める背景には、職能型人事制度が持つデメリットである「自律的なキャリア形成が困難である」ことがあります。

新卒一括採用された社員が会社の指示に従って異動を繰り返し、そこで与えられた仕事を頑張っていくことで昇給・昇格していくという従来の姿では、キャリア自律志向のある従業員にはマッチしませんし、そもそも会社の示す道が正解であるという保証もありません。また職能型人事制度はその性質上、どうしても評価基準が曖昧となりがち(なんであの人があのポストに?ということは割とありがちな現象です)ですから、従業員も何を頑張れば良いのか、どのスキルを伸ばせばよいのかが分からず、結果としてモチベーションに影響してしまうのです。

ついては、ジョブ型人事制度の詳細や注意点、リスクなどをご説明していきます。

2. ジョブ型人事制度の設計と導入のポイント

 ジョブ型人事制度の設計のポイントは、「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つをしっかりと検討することです。
 まず等級制度ですが、これを作成するには個々の職務を一つひとつ定義づけし、職務記述書を整備するとともにそれらを職務価値に応じて序列化し、等級に格付けしていくことが必要です。職務価値の評価方法は多々ありますが、例えば「必要とされる知識・経験」「解決すべき問題のレベル」「達成すべき責任」といった評価軸を立て、それらの合計点で格付けしていくという方法があります。

等級制度が決まれば、自ずと評価制度の方向性も定まりますが、職務の達成度合いだけではなく、職務遂行に必要な行動の発揮具合(いわゆるコンピテンシー評価)も盛り込むことで、より整合的な評価制度となります。報酬制度は、前段までで定まった等級と評価をどう反映させるかというのが第一義的な問題となりますが、一方で社外報酬水準との比較や報酬構成(給与・賞与比率など)、報酬幅や昇降給テーブルなどを定めておくことも必要となります。

 これらが定まったうえで導入に進むこととなりますが、ジョブ型人事制度は「成果主義」「人件費抑制」といった負のイメージで捉えられがちですから、導入時に従業員に対しどのようなコミュニケーションを取っていくかが、導入の成否を決める分水嶺となります。この導入時コミュニケーションですが、大きく「全体向け」と「個別向け」に分けることができます。

まず「全体向け」ですが、「人事部が社員説明会を開催する」ということだけでは、とても足りません。例えば社内で最も大きな影響力を持っている経営トップが、導入の数年前から事あるごと(年頭あいさつ、社内報、社内講演等)に制度の導入目的や趣旨などについてメッセージを発していく、くらいの姿勢が必要です。経営陣の率先垂範が、会社の不退転の意思を示すことに繋がります。このように「全体向け」でしっかりとした素地を作ったうえで、「個別向け」へと移っていきます。「個別向け」のゴールは、「個々の処遇をきちんと説明し、同意を得ること」になります。この際のポイントは「客観的事実に基づきつつ、誠実に伝える」ことです。

例えば説明者が対象者に対し過度に感情移入し、説明者の主観的認識をもとに説明してしまうと、かえって反発を招くリスクがあります。そうではなく、あくまで会社としての客観的な判断であることを、可能な限り丁寧に説明していきましょう。

3. ジョブ型人事制度への移行で企業が直面する課題

 そもそもジョブ型人事制度は海外で生まれた仕組みなので、労働慣行が全く異なる日本においてそのまま導入しようとすると、どうしても無理が生じてしまいます。具体的には、日本では一般的に新卒一括採用・ゼネラリスト型キャリアを志向し、新卒で採用した社員を長いスパンで様々な職種・部署に異動させながら経験を積ませていくという、いわば「人に仕事を紐づける」労働慣行である一方、海外では各ポジションに相応しい経験・実績を持つ即戦力人材を採用・配置し、部署間移動はほとんどない(あっても類似した部署間のみ)スペシャリスト型キャリア志向、すなわち「仕事に人を紐づける」労働慣行である、という違いがあります。

このような背景ゆえに、海外では職務をしっかりと定義してそこに人を入れ込んでいくジョブ型人事制度がマッチするのであり、日本の労働慣行を一切無視して制度だけ取り入れようとしてもうまくいきません。例えば異動後の職務等級は現在よりも低いので報酬も下がる・・となってしまうと、柔軟な異動が阻害され、従業員のモチベーション維持も困難になってしまいます。そのため、仕事に人を紐づけるというジョブ型人事制度の基本は維持しつつも、いかに日本の雇用慣行に合う形でアレンジしていくかが重要な課題となります。

一例としては、ある一定の等級までは職能型とし、それより上の等級でジョブ型として運用する、という折衷型の制度が考えられます。新卒入社した社員はこれまで通り一定のスパンで部署間異動を繰り返しながら育成していき、本人の適性や希望などを考慮した上である程度本人の進む道が定まったところで、以降はジョブ型で運用していく、という形です。新卒採用は職能型→ジョブ型の運用とするが、中途採用は最初からジョブ型とする、のような採用ルート別の運用も考えられるでしょう。また制度としてはジョブ型一本にするが、ある程度の異動の可能性を残しておきたい場合は、異動の可能性がある職務同士の等級をあらかじめ同一にしておく(例えば本社の人事課長と、支社の人事部長等)などの設計上の工夫も必要となります。

 いずれにしましても、ジョブ型人事制度に移行することで何を達成したいのかという目的を明確にし、常にそれを参照しながら設計と移行を進めるようにしましょう。

4. ジョブ型人事制度の効果的な評価基準とは

 ジョブ型人事制度においては、職務の達成度合いを見る「業績評価」に加えて、職務遂行に必要な行動を取っているかという「行動評価(コンピテンシー評価)」、この両軸を評価基準として見ていくことがスタンダードとなります。

 まず「業績評価」ですが、これは期初などに本人が立てた業績目標と、当該目標に対する達成度合いとを比較することによって、職務遂行の程度を判断していくものです。これは基本的には、職能型制度においても運用されているMBO(Management by Objectives,目標管理制度)と同じである、と考えていただいて構いません。ただ当然ながら違いもあり、それは業績目標の立て方です。

ジョブ型人事制度においては、目標は当該ジョブの職務に紐づいた具体的かつ計測可能な形で立てられなければなりません。例えば本社の人事部長というポストの職務が「自社の持続的発展のために効果的な人事戦略を策定する」であるとすると、目標は「成長著しいインド市場への参入のため、必要な人材確保のための施策を作成し、年間目標に落とし込み、実行する」といった、年度ごとにその達成度合いを測れるような形になります。

 次に「行動評価」です。これも職能型制度において運用されており特に目新しいものではありませんが、職能型制度においては「保有能力」すなわち「(実際にしているかどうかは問わず)~することができる」という部分を評価するのに対し、ジョブ型制度では「発揮能力」すなわち「(実際に)~している」というところを評価するという違いがあります。「発揮能力」を評価することによって、職務を高いレベルで遂行できる行動に向け動機づけるとともに、将来にわたって安定的に職務を果たせる行動を開発していくという目的があります。

なお評価の基準となる「行動」は、運用のしやすさも考慮し、できるだけシンプルで分かりやすいものにしておくのがベターです。例えば先ほどの人事部長の例で言えば「効果的な人事戦略の策定のため、グローバルな視点を持ち広い視野で問題に取り組んでいる」などといった基準が考えられます。

5. ジョブ型人事制度のリスク管理

 ジョブ型人事制度でリスクが最も高いのは、運用のリスクです。職能型制度と比べ、ジョブ型人事制度は運用負荷が高いと言われています。その主な要因として挙げられるのは、職務記述書のメンテナンスです。職務記述書の粒度にもよりますが、職務記述書のメンテナンスには、どうしてもある程度の労力を必要とします。

例えば新たなポストができたり、既存のポストの役割が変わったりするとその都度職務記述書をメンテナンスしなければなりませんが、その労力が確保できず、現状と制度との間でどんどん齟齬が広がっていき、結果としてうまく運用できなくなってしまった・・という例はよく聞きます。このリスクを避けるためには、ジョブ型人事制度の導入時に運用負荷と運用にかけられる労力とを予め見極めておき、それに見合った形で職務記述書運用のスキームを定めておく必要があります。もちろん、すべての職務毎に職務記述書を作成し、しっかりメンテナンスもしていくのが理想ではありますが、そうでなければジョブ型人事制度ではない、というわけでは必ずしもございません。例えば、運用負荷を考慮してあえてすべての職務には記述書を作らないようにしているという企業もありますし、一定の等級以上の職務記述書は詳細に定めつつ、それ未満の等級については等級毎で一括りにした職務記述書とする、といった例もあります。

 また、併せて人事部門の機能・役割も見直しておく必要があります。例えば人事部が中央集権的に人事権を握り、採用や配置も全て決めているというシステムは、新卒を一括で採用し、定例的に異動を繰り返していくという職能型制度では整合的だったかもしれませんが、ジョブ型人事制度で当該システムを動かそうとすると人事部にかかる負担が非常に大きくなります。

またジョブ型人事制度は「職務に人を紐づける」システムですから、職務に対する深い理解がなければ適正な人材配置が難しくなります。そのため、例えば事業部門にHRBP(Human Resource Business Partner,事業部門における人事責任者)を置いて、人事権をある程度委譲し、人事部門は人事の専門部署として全社的な視点からその補助(場合によっては異議も唱える)に徹するという形も、ジョブ型人事制度における人事部門の取りうる姿かと思います。

6. まとめ

 このように、ジョブ型人事制度を導入するにあたっては乗り越えるべき課題やリスクが多々あります。ただこの制度は、キャリア自律を図れるという点で自身の価値観・生き方を重視してキャリアを築いていく昨今の労働観にマッチしておりますし、事実上の国際標準となっている制度でもあることから、グローバルな労働市場にも対応できるものです。

また少子高齢化により労働力が不足している今、「職務」を中心に組み立てていくジョブ型人事制度であれば、多様な人材を働き手として迎えることができる可能性が高まります。『ジョブ型人事指針』にも記載がある通り、日本でも富士通や日立製作所といった歴史ある会社から、メルカリといった新しい会社まで導入が進んでいます。今回の記事が、ジョブ型人事制度導入に向けての契機となれば幸いです。




監修元



社会保険労務士法人 宮嶋社会保険労務士事務所_公式サイト
執筆者:寺山 晋太郎様

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