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▼この記事を書いた人
寺山 晋太郎
社会保険労務士
社会保険労務士法人 宮嶋社会保険労務士事務所
福島県出身。一橋大学社会学部卒業。大手鉄道会社にて現業や本社勤務など様々な業務を経験。2014年第一子誕生を機に育休を取得。その後現職に転じ、働きながら社労士資格を取得。社労士業の傍ら、3児の父親としても奮闘中。
まず大前提を確認しておきましょう。使用者が労働者を働かせることができる時間は、労基法により1日8時間、1週間40時間までと決まっております(労基法第32条。ただし業種による特例有)。しかしながら、労働者の過半数を代表する者(過半数組合、過半数代表者)と使用者とが労使協定を締結し、労基署に届け出た場合に限り、その協定で定めるところにより時間外又は休日に労働させることができるようになります(労基法第36条)。
この労使協定は、条文にちなんで「36協定」と呼称されます。つまり、36協定を締結しない、もしくは締結したが労基署へ届け出ることをしないで法定労働時間を超えた労働を行わせた場合は、法令違反となってしまいますので注意が必要です。
また、36協定もいわば2種類あり、原則的な上限時間まで法定外労働が可能となるものと、トラブル対応など臨時の場合に原則的な上限時間を超えて時間外労働が可能となるものとがあり、後者を特に「特別条項付き36協定」と呼称します。特別条項付き36協定を成立させずに、原則的な上限時間を超えて法定外労働をさせてしまった場合も同様に法違反となります(上限時間の詳細は2で後述いたします)。
なお、かつては36協定さえ有効に成立してしまえば、実質的に時間外労働をさせ放題という状況でしたが、働き方改革の流れを受け、2024年4月よりすべての業種において、36協定が成立したとしても超えられない法的上限が設けられました。ただ、この法的上限の枠組みは少々複雑ですし、特定の業種(自動車運転の業務、医師、建設事業)には異なる規制が適用される部分もありますので、本稿ではあくまで一般的な業種に適用される原則的な規制について、次項以降でなるべくかみ砕いて解説していきます。
まず押さえておきたいのは「時間外労働」と「休日労働」の概念の違いです。まず「休日労働」とは、「法定休日」に労働させた場合を指します。「法定休日」とは、労基法において1週間に1回もしくは4週間に4回以上付与するとされているもので、週休二日制の場合、どちらの日が法定休日にあたるかは会社ごとに就業規則等で定められていることが一般的です。それに対して「時間外労働」とは、いわゆる法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超えて労働させた部分で、法定休日ではない休日(法定外休日)に労働させた場合は休日労働ではなく、時間外労働としてカウントされることになります。これらの違いをまず理解していただくと、規制の仕組みがスムーズに理解できます。
そのうえで上限規制の仕組みをご説明しますと、まず時間外労働は原則として1ヶ月45時間、年間360時間を超えることはできません。ただし、トラブル対応など臨時的な特別の事情があるときは、特別条項付き36協定が成立している場合に限り、年間720時間まで伸ばすことができます。ただこの場合でも、1ヶ月100時間を超えることはできませんし、また2~6か月平均で80時間を超えることはできません。なお、この1ヶ月100時間・月平均80時間という数字には、時間外労働だけではなく休日労働も含むことには十分注意してください。
このように、時間外労働のみの規制なのか、または休日労働も含んでの規制なのかという部分が少々入り組んでおりますので、両者の違いを押さえた上で休日労働を含むか含まないかをしっかり区別しましょう。繰り返しとなりますが「休日労働も含む」のは、1ヶ月100時間・月平均80時間の部分となり、これらはいかなる事情があっても超えることはできません(超えた時点で法違反となってしまいます)。
2でご説明した通り、時間外労働等の上限規制は二重三重に入り組んだものとなっているため、多くの観点から労働実績の管理・チェックが必要となります。特に時間外・休日労働が恒常的に発生している企業では、繰り返しとなりますが時間外労働と休日労働の概念を峻別し、上限規制の内容をきっちり理解することが大切です。
例えば原則的な月45時間だけに捉われていると、仮に12ヶ月間すべて45時間以内に収まっていても、年間で見た場合では360時間を超えてしまう可能性もあります。また、その月において休日労働が非常に多くなった場合、時間外労働だけを見ると45時間以内に収まっているが、休日労働を加えると月100時間を超えてしまった、などといったことが起こる可能性もゼロではありません。加えて2~6ヶ月平均80時間という上限も注意が必要で、例えば6月に時間外・休日労働が90時間となってしまったから7月は70時間にしておけばOKかというと、確かに2か月平均で見ればそうなのですが、8月にまた90時間となってしまったとなると、3ヶ月平均が80時間超となってしまい違法となります。
このように時間外労働等の上限規制はとても複雑で、そのまま管理しようとするとその負荷も大きくなってしまいます。負荷を軽減する1つの方法としては、例えば月の時間外労働時間は原則として30時間以内(12ヶ月間繰り返しても年間360時間を超えない時間)とし、これを超える労働や休日労働については申告制として管理部門で適宜状況を把握できるようにしておくなど、なるべく管理を簡単にしつつもアラートを見逃さない体制の構築が必要と思います。
また、そもそも時間外労働等の絶対量を削減することができれば、管理の負荷も下げることができます。この時間外労働等の上限規制が導入されたのも「働き方改革」の一環としてという経緯がありますから、管理対策としてはむしろこちらが本丸と言えるでしょう。
もちろん、「働き方改革」は簡単な話ではありません。業務フローや制度の見直しには大きな労力を必要としますし、むしろ一時的に時間外労働が増えてしまう可能性もあります。ただ、昨今における我が国の状況を鑑みると、「働き方改革」はもはや避けて通ることのできないものになりつつある感があります。例えば最近のニュースでも、今年(2024年)の人手不足倒産が過去最高を記録したと報じられておりまして、その原因は「求人難」が最多、「従業員退職」も大きな割合を占めています(https://news.yahoo.co.jp/articles/d78d660ff555060e88cc116f622d11af9c01a9d3)。今後我が国ではますますの人口減少が見込まれていることも鑑みると、時間外労働管理の負担軽減という観点だけではなく、企業のゴーイングコンサーンの観点からも、「働き方改革」による労働者を引き付ける魅力ある職場づくりが対応必須事項になるかと存じます。
働き方改革の方法については様々な観点からのアプローチが考えられますが、本稿の主題である時間外労働という観点から考えると、その削減のために何ができるかという点に集約されます。例えば、ある程度業務の繁閑が時期によってはっきりしているのであれば、変形労働時間制やフレックスタイム制(労基法第32条の2~第32条の4)を導入することで、残業時間を削減できる可能性があります。特にフレックスタイム制は、始終業時刻を労働者が柔軟に決定できる制度となりますので、働きやすさの向上もねらえる制度です。また、こちらの厚労省特設サイト(https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/casestudy/category/comfortable-workplace/?order=date)には、中小企業が実際に取り組み成功させた働き方改革事例集が掲載されております。その中でも「時間外労働の削減」が事例として最も多くなっておりますので、大いに参考になるかと存じます。
時間外労働等の上限規制を遵守するためには、その仕組みを理解することが必要ですが、そもそもの前提として、従業員の労働時間が適正に記録されていなければなりません。労働時間とはあくまで使用者の指揮命令下に置かれていた時間として個別具体的に判断されるものですから、例えばタイムカードを切った後も残業を続けていたなどということがあった場合、当該残業も労働時間とみなされる可能性は非常に高いです。そうすると、このタイムカード記録に基づいた上限規制への対応はあまり意味をなさないということになります。労働時間の全容をしっかりと把握できる体制の構築も、上限規制の仕組みを知ることと同様もしくはそれ以上に重要なこととなります。
労働時間の正確な管理と、時間外労働の上限規制とを兼ねた実務改善のためにお勧めするのは、勤怠管理システムの導入です。システムを導入し、適切な設定をすることによって、時間外労働時間や休日労働時間を自動的に管理してくれますし、一定の時間外労働時間に達した時に、管理者や本人にアラートを発してくれる機能がついているものもあります。
例えばアラート発出を時間外労働25時間にしておき、発出された従業員に対してなるべく30時間を超えないような注意喚起を行いつつ、やむを得ず超える見通しである場合は事前に申請等を行ってもらうようにお願いするなど、事前の予防措置を行うことができれば、従業員の残業に対する意識改革にもつながります。これと同時に、4の部分でご説明した時間外労働削減の取り組みも並行して行うことができれば、かなりの効果が見込めるでしょう。
時間外労働等の上限規制について、原則的な仕組みをご説明しました。このように仕組み自体がかなり複雑なものとなっておりますので、まずはしっかりとこの仕組みを理解していただくことが大事です。その上で、例えば勤怠管理システムを導入して管理の負荷を下げる、フレックスタイム制などを導入することで繁閑に応じた合理的な労働時間とする、働き方改革を進めることで時間外労働時間自体を少なくしていくなど、多様な観点からの取り組みも進めていくことで、より一層の効果が上がり、最終的には企業価値の向上に資することができるかと思います。
この記事が、皆さまの組織における労務管理、ひいては企業価値の向上に役立つことができれば幸いです。
監修元
社会保険労務士法人 宮嶋社会保険労務士事務所_公式サイト
執筆者:寺山 晋太郎様
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