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【弁護士執筆】2025年5月までに施行|重要経済安保情報保護活用法のポイントをわかりやすく解説

公開日2025/02/14 更新日2025/02/13 ブックマーク数
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重要経済安保情報保護活用法とは

▼この記事を書いた人

小坂 光矢様

小坂 光矢

牛島総合法律事務所
弁護士

2014年弁護士登録。情報処理安全確保支援士。
データプライバシー領域における主要な案件実績として、パーソナルデータのビジネスへの利活用に関する法的助言やグローバルなデータ移転体制の構築を含む情報管理体制の構築に関する法的助言、情報漏えい事案への対応に関する法的助言等。近時の著作として「個人情報関連法令スピードチェック」(共著、商事法務・2024)がある。


服部 梓様

服部 梓

牛島総合法律事務所
弁護士

牛島総合法律事務所アソシエイト弁護士。2022年弁護士登録。
労働関係の案件や、各種訴訟案件を中心に扱う。その他、企業法務一般を取り扱う。



1. 重要経済安保情報保護活用法とは?法律の背景や目的

重要経済安保情報保護活用法は、いわゆるセキュリティ・クリアランス制度を定めた法律といわれています。「セキュリティ・クリアランス」とは、国家における情報保全措置の一環として、政府が保有する情報のうち安全保障上重要な情報を指定し、政府職員や民間事業者のうち、その情報にアクセスする必要がある者について、政府が調査を実施した上で、情報を漏らすおそれがないことが確認できた場合に限り、その情報へのアクセス権を認めることが通例とされています。

このようなセキュリティ・クリアランスに関する法制度は、日本以外の多くの国では既に整備されているものです。そのため、民間事業者においては、同盟国・同志国との間で国際的な共同研究を推進したり、政府案件の入札に参加しようとする際に、日本ではセキュリティ・ クリアランス制度が整備されていないことを理由としてこれらから排除されるといった支障が生じていました。

重要経済安保情報保護活用法が施行されることによって、そのような支障が解消されることが期待されます。

2.重要経済安保情報保護法の適用対象となる情報

重要経済安保情報は、(1)「重要経済基盤保護情報」に該当する情報のうち、(2)公になっておらず(非公知性)、かつ(3)わが国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため特に秘匿する必要性があるもの(秘匿の必要性)を満たすものが指定されます(法3条1項)。「重要経済基盤保護情報」とは、重要経済基盤(日本における重要なインフラと重要な物資(プログラムを含む)のサプライチェーンの2つをいうとされています*1。)に関する以下の情報をいいます(法2条3項、4項)。

1 外部から行われる行為からの重要経済基盤の保護措置、又はこれに関する計画・研究
2 脆弱性、革新的技術その他の重要経済基盤に関する重要情報であって、安全保障に関するもの
3 ①の保護措置に関して収集した外国政府等からの情報
4 ②および③の情報の収集整理または能力

具体的な情報は今後指定されることとなりますが、国会での答弁等を踏まえると、以下のような情報が該当すると考えられています*2。

  • 我が国の重要なインフラ事業者の活動を停止又は低下させるようなサイバー攻撃等の外部からの行為が実施された場合を想定した政府としての対応案の詳細に関する情報
  • 我が国にとって重要な物資の安定供給の障害となる外部からの行為の対象となりかねないサプライチェーンの脆弱性に関する情報
  • 我が国政府と外国政府とで実施する安全保障に関わる革新的技術の国際共同研究開発において、外国政府から提供され、当該外国において本法案による保護措置に相当する措置が講じられている情報

*1 2024年3月19日衆議院本会議高市早苗(経済安全保障担当大臣)答弁(https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121305254X01220240319/27
*2 2024年3月22日衆議院内閣委員会品川高浩政府参考人(内閣官房経済安全保障法制準備室次長)答弁(https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121304889X00420240322/19

3. 民間事業者が重要経済安保情報を保有するに至るプロセス

重要経済安保情報を取り扱うことができるのは、行政機関から適合事業者として認定された事業者の従業者(派遣労働者を含みます。)であって、適性評価において重要経済安保情報を漏えいするおそれがないと認められた者に限られます。事業者が重要経済安保情報を保有し、取り扱うまでに至るプロセスは以下のとおりです。

(1)行政機関から対象事業者として選定される
まず、行政機関の長から、重要経済安保情報を提供する必要がある、あるいは重要経済安保情報の発生が見込まれる調査研究等を実施させる必要がある事業者を選定します。 なお、2025年1月31日に閣議決定された「重要経済安保情報の指定及びその解除、適性評価の実施並びに適合事業者の認定に関し、統一的な運用を図るための基準」*3(以下、「運用基準」といいます。)によれば、事業者に重要経済安保情報を提供する必要があるか否かについては、「事業者からの相談なども踏まえながら」判断するとされています。そのため、重要経済安保情報の提供を受けることを希望する事業者においては、積極的に働きかけを行う余地もあると考えられます。
なお、事業者の選定過程で、行政機関の長は、必要に応じて事業者と守秘義務契約を締結した上で、重要経済安保情報の概要やその性質等について情報提供を行うことができるとされています。

(2)適合事業者としての認定を受ける
事業者が適合事業者として認定されるためには、①認定申請書を提出し、②重要経済安保情報の保護に関する内部規程の審査を受けた上で、さらに③所定の考慮要素に適合していると認められた場合には、適合事業者として認定されます。

【考慮要素】 ・株主や役員の状況:事業者の意思決定に関して外国の所有、⽀配⼜は影響がないか
・保護責任者・業務管理者:業務を適切に⾏うための必要な知識を有するとともに、その職責を全うできる地位にあるか
・教育内容:従業者が重要経済安保情報の保護に関する必要な知識を的確に習得できる内容であり、適切な頻度で継続的に実施されることになっているか
・施設設備:情報を保護するために必要な機能及び構造を有し、⽴⼊の制限や持込の制限に関して有効な機能及び構造を有するか

*3 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/hogokatsuyou/doc/kijun.pdf

(3)行政機関と契約を締結する
適合事業者に認定された事業者は、行政機関との間で、重要経済安保情報の提供を受けるための契約を締結することになります。

(4)適性評価を実施する
契約の締結後、適合事業者は、行政機関に対して、重要経済安保情報を取扱う可能性がある従業者についての適性評価の実施を求めます。その際、適合事業者は、重要経済安保情報を取り扱う予定のある従業者から同意を得ておく必要があります。 適正評価に関して注意すべきは、適合事業者は、従業者の適性評価の結果などの個人情報を重要経済安保情報の保護以外の目的のために利用又は提供してはならないとされていることです(16条)。目的外利用とは、例えば、適性評価の結果を考慮して、解雇、減給、降格、懲戒処分、⾃宅待機命令、不利益な配置の変更、労働契約内容の変更の強要、昇進若しくは昇格の⼈事考課において不利益な評価を⾏うことなどをいいます。

4. 重要経済安保情報保護活用法に違反した場合の罰則

重要経済安保情報の取扱業務に従事する者が、業務により知り得た重要経済安保情報を漏らした場合、5年以下の拘禁刑と500万円以下の罰金のいずれか又は両方の対象となります(23条)。法人についても罰金刑の対象となります(28条)。

5. 管理部門が今からはじめておくべき準備

(1)重要経済安保情報の提供を受ける可能性の有無の判断
重要経済安保情報保護法への対応が必要であるか否かを判断する上では、企業は、まず、自社において重要経済安保情報を利用する可能性があるかどうかを検討することになります。具体的には、上述した「重要経済基盤」(日本における重要なインフラと重要な物資(プログラムを含む)のサプライチェーンの2つ)に関連する事業を行っているかどうかを判断基準とすることが考えられます。
運用基準によれば、重要経済基盤に該当し得るものとして、例えば以下のようなものが挙げられています。

1 重要なインフラの例
・経済安保推進法第50 条第1項に規定する特定社会基盤事業
・「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画」(2022 年6月17日サイバーセキュリティ戦略本部決定、2024年3月8日改定)別紙1に掲げる重要インフラ事業者等が属する各重要インフラ分野において提供される役務等の一部等

特定社会基盤事業14業種①電気事業、②ガス事業、③石油精製業・石油ガス輸入業、④水道事業、水道用水供給事業、⑤第一種鉄道事業、⑥一般貨物自動車運送事業、⑦貨物定期航路事業等、⑧国際航空運送事業・国内定期航空運送事業、⑨空港の設置及び管理を行う事業等、⑩電気通信事業、⑪放送事業のうち基幹放送を行うもの、⑫郵便事業、⑬金融にかかる事業のうち、銀行業、保険業、金融商品取引所・金融商品債務引受業・第一種金融商品取引業、信託業・資金清算業・第三者型前払式支払手段発行業、預金保険機構・農水産業協同組合貯金保険機構の業務、振替機構の業務、電子債権記録業、⑭包括信用購入あっせん業
重要インフラ15分野①情報通信分野、②金融分野、③航空分野、④空港分野、⑤鉄道分野、⑥電力分野、⑦ガス分野、⑧政府・行政サービス分野、⑨医療分野、⑩水道分野、⑪物流分野、⑫化学分野、⑬クレジット分野、⑭石油分野、⑮港湾分野

2 重要な物資(プログラムを含む)の例
・経済安全保障推進法第7条に規定する特定重要物資及びその原材料等

【経済安全保障推進法第7条に規定する特定重要物資(同法施行令1条各号)】
①抗菌性物質製剤、②肥料、③永久磁石、④工作機械及び産業用ロボット、⑤航空機の部品(航空機用原動機及び航空機の機体を構成するものに限る。)、⑥半導体素子及び集積回路、⑦蓄電池、⑧インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて電子計算機(入出力装置を含む。)を他人の情報処理の用に供するシステムに用いるプログラム、⑨可燃性天然ガス、⑩金属鉱産物(マンガン、ニッケル等の一部の金属鉱産物に限る)、⑪船舶の部品、⑫コンデンサー及びろ波器

(1)適合事業者としての認定取得に向けた準備
以下のとおり、①認定申請書の作成・提出、②内部規程の策定、及び③考慮要素を踏まえた体制整備の3つを行う必要があります。

1 認定申請書の作成・提出
認定申請書の現状の様式は、運用基準の別添12として公開されています。制度が開始された際も、同様に様式が公開されると思われますので、これを参考にして作成することになります。

2 内部規程の策定
事業者が内部規程に定めるべき事項については、運用基準において、以下の14項目が示されています。

【事業者の内部規程に定めるべき事項の例】
1 保護責任者(重要経済安保情報の保護の全体の責任を有する者)の指名基準及び指名手続並びにその職務内容等
2 業務管理者(重要経済安保情報を取り扱う場所において、業務を管理する者)の指名基準及び指名手続並びにその職務内容等
3 従業者に対する重要経済安保情報の保護に関する教育の実施内容・⽅法
4 施設設備の設置に係る⼿続
5 重要経済安保情報の取扱業務を⾏う従業者の範囲の決定基準・決定⼿続
6 重要経済安保情報を取り扱うことができない者には重要経済安保情報を提供してはならないこと
7 重要経済安保情報を取り扱うことができない者は、重要経済安保情報を提供することを求めてはならないこと
8 重要経済安保情報を取り扱う場所への立入り及び機器の持込みの制限に係る手続等
9 重要経済安保情報を取り扱う電子計算機の使用の制限に係る手続等
10 重要経済安保情報文書等の作成、運搬、交付、保管、廃棄その他の取扱いの方法の制限に係る手続等
11 重要経済安保情報の伝達方法の制限に係る手続等
12 重要経済安保情報の取扱業務の状況の検査に係る手続等
13 重要経済安保情報の漏えいのおそれがある緊急の事態に際して、漏えいを防止するために他に適当な手段が無い場合における文書廃棄に係る手続等
14 重要経済安保情報文書等の紛失等が発生した場合の被害防止措置等に係る手続等

そのため、これに沿った規程を策定する必要がありますが、今後、内部規程のひな形が示されることが予定されています*4。そのため、実際の規程策定作業は、ひな形が公開された後でも十分であると考えられます。

3 考慮要素への適合性のチェック
上述のとおり、考慮要素としては、株主や役員の状況、保護責任者・業務管理者、教育内容、及び施設設備の4つが挙げられています。
これらのうち、株主や役員の状況を確認することや保護責任者・業務責任者の候補者を検討していくことについては、事業者における検討が可能であると考えられます。

もっとも、教育内容に関しては、現時点で何らかの参考資料が示される予定であるという情報は出ておらず、施設設備についても、事業者に求められる施設設備の基準として以下のような内容が例示されることが予定されているものの*5、それ以上の詳細は明らかになっていません。

以下の①~④の措置を講じる
1 執務室等:執務室等の扉の開閉及び侵入を感知し、警備室等に自動で連絡がなされる装置(停電時でも作動するものが望ましい)の設置等。困難な場合は、外柵、天井、壁、床、出入り口、扉及び錠、窓、開口部に侵入等のリスクを軽減するための物理的措置を講じる
2 保管容器:三段式文字盤鍵のかかる金庫又は鋼鉄製の箱など、施錠可能で十分な強度を有するものを利用する
3 保護のための施設設備:間仕切りの設置、クロスカット裁断等の裁断後の復元が困難な裁断機の設置
4 電子計算機の使用の制限等:重要経済安保情報は、スタンドアロン又はインターネットに接続していない電子計算機で扱う。当該電子計算機は、顔認証をはじめとする生体認証などの活用により、アクセス制限を講じる。

そのため、これらの事項については、今後運用基準の補足として「Q&A」や「ガイドライン」が公表された後で、具体的に検討していく必要があると考えられます。

(2)行政機関との契約締結に向けた準備
行政機関との間で契約を締結する必要が生じる場面は、①行政機関による事業者の選定過程で守秘義務契約を締結する場面と、②適合事業者に認定された後で重要経済安保情報の提供を受けるための契約を締結する場面の2つです。

前者については、行政機関から守秘義務契約のひな形が提示されることが想定されますので、特段の事前準備は不要である(契約締結が必要となった場面で契約書のレビュー等を行う)と考えられます。また、後者についても、契約内容は法定されており(10条3項)、また追って契約書のひな形が示される予定ですので*6、現時点で特段の準備は不要であると考えられます。

*4 内閣府「運用基準の補足として今後定めていくもの」(令和6年11月26日)(https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/hogokatsuyou/shimon/kaigi_5/shiryou_5.pdf ) の「3 適合事業者」の(4)
*5 内閣府「運用基準の補足として今後定めていくもの」(令和6年11月26日)(https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/hogokatsuyou/shimon/kaigi_5/shiryou_5.pdf )の「3 適合事業者」の(5)
*6 内閣府「運用基準の補足として今後定めていくもの」(令和6年11月26日)(https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/hogokatsuyou/shimon/kaigi_5/shiryou_5.pdf )の「2 適正評価」の(1)

(3)適性評価の実施に向けた準備
適合事業者は、適性評価の候補従業者の情報を行政機関に提出するのに先だって当該従業者から同意を取得しておくことが必要です。その際の説明書の参考様式は、現時点の案が公表されていますので*7、これを参考にして実施手順等を整備することになります。

 また、適正評価の結果等の個人情報の目的外利用の禁止について、目的外利用の禁止に反する取扱いが行われることがないよう社内規程を整備する必要があると考えられます。
 具体的には、目的外利用の禁止について、社内の個人情報の取扱いに関する規程に明記することが考えられます。加えて、社内で人事評価の際の基準を定めている文書が存在する場合には、かかる文書に、適正評価の結果等の個人情報を評価の際の考慮要素としてはならない旨を追記することも検討すべきです。

*7内閣府「運用基準の補足として今後定めていくもの」(令和6年11月26日)(https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/hogokatsuyou/shimon/kaigi_5/shiryou_5.pdf )の「3 適合事業者」の(12)

6. まとめ

 以上のとおり、重要安保保護情報の指定の対象となる情報の範囲や、適合事業者として認定されるための要件については、運用基準によっても未だ十分に具体化されていない部分がありますので、今後運用基準の補足として定めることが予定されているQ&A又はガイドラインの発表を待つとともに、重要経済安保情報保護活用諮問会議における議論の動向を注視していく必要があります。もっとも、重要経済安保情報保護法は、令和7年5月16日に施行される予定ですので、影響を受ける可能性のある事業者においては、現時点から、必要に応じて弁護士等の外部専門家にも相談しながら、必要な準備を進めておくべきであると考えられます。

以 上









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