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【弁護士執筆】2023年施行の民法改正と企業実務への影響│2025年の視点から解説

公開日2025/02/17 更新日2025/03/31 ブックマーク数
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2023年施行の民法改正と企業実務への影響

この記事の筆者

牛島総合法律事務所
弁護士
猿倉 健司

牛島総合法律事務所パートナー弁護士。CSR推進協会環境部所属。 環境・エネルギー・製造・不動産分野では、国内外の行政・自治体対応、不祥事・危機管理対応、企業間紛争、新規ビジネスの立上げ、M&A、IPO上場支援等を中心に扱う。 「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」「ケーススタディで学ぶ環境規制と法的リスクへの対応」のほか、数多くの著書・執筆、講演・ 研修講師を行う。


牛島総合法律事務所
弁護士
阿部 航

牛島総合法律事務所アソシエイト弁護士。2022年弁護士登録。 不動産分野では、不動産ファンドに係る不動産取引やファイナンス案件を数多く取り扱う。その他、M&A等、企業法務一般を取り扱う。

1. 2023年4月1日施行の民法改正の制定背景/民法改正とは

近年、我が国では登記簿などの情報を参照しても所有者がすぐに判明しない、又は所有者が判明しても連絡が取れない土地、いわゆる「所有者不明土地」や「所有者所在不明土地」が増加しています。また、適切な利用や管理が行われない土地については、草木の繁茂や害虫の発生などが原因となり、周辺地域に悪影響を及ぼす事態が広がっています。令和5年に国土交通省が実施した調査によると、所有者不明土地の割合は26%に達しています*1。

これらの土地は、再開発や民間取引の場面で土地の利活用を妨げるだけでなく、管理が不十分な土地が隣接する土地に悪影響を及ぼす可能性もあります。その結果、インフラ整備や防災に重大な支障が生じ、生活環境の悪化を引き起こすことになります。この問題は、高齢化の進展や死亡者数の増加に伴い、今後ますます深刻化するおそれがあります。所有者不明土地の解決は、喫緊の課題とされていました。

そこで、所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」の両面から総合的な法改正が行われました。まず「発生の予防」については、不動産登記制度の見直しや相続登記・住所変更登記の申請義務化が進められ、さらに相続土地国庫帰属制度の創設などによって対応が図られています。

本記事では、特に「利用の円滑化」の側面から、土地・建物等の利用に関する民法の規律を見直すために行われた令和5年(2023年)4月1日施行の民法改正について、企業実務に与える影響という観点から解説します。2023年4月1日施行の民法改正を網羅的に解説するものではない点につきご留意ください。

*1 法務局「令和3年民法・不動産登記法改正、 相続土地国庫帰属法のポイント」(令和7年1月版)1頁

2. 2023年4月1日施行の民法改正のポイントを振り返り

(1)共有関係

相続が繰り返されることにより相続人が多数となったり、相続人の一部が所在不明となったりすることがありますが、相続登記が行われていない土地は、円滑な利用や管理が困難になる場合があります。さらに、共有者が土地から遠く離れている場合や、共有者間の関係が薄れている場合には、共有者間でその取扱いについて決定することが難しくなることもあります。

このような課題に対応するため、改正後の民法では、共有物の利用を促進するために、所在不明の共有者がいる場合でも、その関与なしに共有物の変更や管理を行えるように制度が見直されました。また、共有関係の解消を促進するために、所在不明の共有者の持分について取得することや譲渡するための新たな制度が整備されています。

1 共有物の変更についてのポイント
一部の共有者を「知ることができず、又はその所在を知ることができない」場合(以下「所在不明等の場合」といいます)には、その共有者以外の同意により共有物の変更ができる旨の裁判の制度が新設されました(改正後民法第252条第2項)。

2 共有物の管理についてのポイント
A)一定の期間内で設定される賃借権(例えば、土地5年、建物3年など)やその他の使用・収益を目的とした権利については、持分の過半数により決定で共有物の管理を行うことができることが明確にされました(改正後民法第252条第4項)。但し、借地借家法が適用される賃貸借契約の場合、契約期間終了が保証されていないため、管理行為をすることも基本的には全員の同意が必要となります。一時使用を目的とする契約(借地借家法第25条、第40条)や、存続期間が3年以内の定期建物賃貸借契約(同法第38条第1項)の設定については、持分の過半数による決定で管理行為をすることが可能となります。

B)一部の共有者が所在不明等の場合や、一部の共有者が共有物の管理に関する事項についての賛否を明らかにしない場合に、裁判所において共有物の管理に関する事項を決定する制度が新たに設けられました(改正後民法第252条第2項)。

3 所有者等不明共有者の持分の取得・譲渡
裁判所において、Ⅰ.所在等不明共有者の共有持分を取得して不動産の共有関係を解消する制度、及び、Ⅱ.所在等不明共有者以外の共有者全員が特定の者(譲受人)に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として、不明共有者の持分を当該譲受人に譲渡する権限を付与する制度が新たに設けられました(改正後民法第262条の2、第262条の3)。

但し、Ⅱを行う場合には、所在等不明共有者の持分が相続財産に属すると(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限られます)、相続開始の時から10年の経過が必要である点に留意が必要です。

(2)相隣関係

相隣関係に関する改正としては、以下の3点が挙げられます。

1 隣地使用権の内容及び隣地使用が認められる要件の明確化
2 ライフライン設備の設置・使用権に関する規定の整備
3 越境した竹木の枝の切り取りに関する規定の要件とその効果の明確化

上記①に関し、土地の所有者は、境界標の調査又は境界に関する測量を行う目的で隣地を使用できることが明確化されました(改正後民法第209条第1項第2号)。

また、上記②に関し、電気、ガス、水道などのライフラインの継続的な供給を受けるために、他の土地に設備を設置したり、他人の所有する設備を使用する必要がある場合、必要な範囲内でその設備の設置や使用が認められることが規定されています(改正後民法第213条の2第1項)。

(3)その他物件関係(財産管理制度)

2023年改正後の民法では、以下の2つの管理制度が新たに創設されました。

1 「所有者不明土地・建物管理制度」(改正後民法第264条の2~8)
:裁判所は、所有者が所在不明等の土地・建物について、必要と認める場合、利害関係人の請求に基づき、その対象となる土地・建物について、所有者不明土地管理人・所有者不明建物管理人による管理を命じる処分を行うことができる制度

2 「管理不全土地・建物管理制度」(改正後民法第264条の9~14)
:所有者が不明でない(所有者が特定され、その所在が判明している)土地や建物であっても、管理不全の状態にあると認められる場合には、利害関係人の請求に基づき、裁判所が管理命令を発出し、管理人に対して当該不動産の保存行為などの管理を行わせる制度

3. 2023年4月1日施行の民法改正が企業に与える影響とその後

(1)共有物の変更についての改正(前記2(1)①)が企業に与える影響について

前記2(1)②に関して、改正前は、所在等不明の共有者がいる場合、共有物に関する必要な変更を行うことができず、その結果、共有物の利用等に支障が生じていました。

これに対して、2023年改正により、一部の共有者又はその所在が不明の場合でも、裁判所の手続きを経て、共有物の変更を行うことが可能となりました。再開発等において所有者不明土地が対象となる場合には、この制度を活用して土地の形質変更などを行うことが考えられます。

(2)共有物の管理についての改正(前記2(1)③)が企業に与える影響について

前記2(1)②A)に関して、一定の期間内で設定される賃借権等については持分の過半数の決定で共有物の管理を行うことができることが明確にされたことから、たとえば工場跡地、商業施設、ホテル、オフィスビルその他の開発の場面においては、共有者の持分の過半数で決定することができるものとして、対象地を通路、資材置場、駐車場などに利用することが考えられます。

また、前記2(1)②B)に関して、この制度により、再開発等において所有者不明土地が対象となる場合、短期賃貸借権の設定等の共有物の管理行為を行うことが考えられます。

(3)所在等不明共有者の持分の取得・譲渡に関する制度の整備(前記2(1)③)が企業に与える影響について

改正後の民法においては、裁判所での非訟手続により比較的迅速に、不明共有者の持分を他の共有者が取得すること、又は不明共有者の持分も含めた不動産を第三者に譲渡する制度が新設されました。この点でも、再開発等において所有者不明土地が対象となる場合には、改正法がその解消に資することになります。

(4)相隣関係についての改正(前記2(2))が企業に与える影響について

前記2(2)①(隣地使用権)に関して、土地の売却に際し、境界標の調査又は境界に関する測量を行うために、隣地の使用を請求することが考えられます。かかる隣地所有者が不特定又は所在不明である場合であっても、その所在が判明した後に遅滞なく通知をすることで隣地の使用が可能となります(改正後民法第209条第3項)。

前記2(2)②(ライフライン設置権)に関して、ライフライン設置権には登記その他の公示方法がないため、土地の買主は、M&Aや不動産取引に先立つ事前調査(デューディリジェンス)において、対象地に第三者のライフラインのために導管等が埋設されているか、その他第三者のためにライフライン設置権が成立する可能性がある土地であるかどうかを確認する必要があります*2。

なお、宅地建物取引業者は重要事項説明において、「飲用水、電気及びガスの供給並びに排水のための施設の整備の状況(これらの施設が整備されていない場合においては、その整備の見通し及びその整備についての特別の負担に関する事項)」(宅地建物取引業法第35条第1項第4号)の説明を行うことになっていますが、宅地以外の土地の取引の場合にはかかる説明を行うことが求められていないので特に注意が必要となります。

(5)その他物件関係(財産管理制度)の改正(前記2(3))が企業に与える影響について

その土地を取得してより適切な管理を行おうとする買受希望者は、所有者不明土地管理制度の申立てを行うことができる利害関係人に該当する可能性があると考えられています*3。但し、単に土地を購入したいという理由だけで申立てが認められるかどうかは慎重に判断されるべきであり*4、土地取得の希望の強弱や代金支払能力などが考慮されるとされています*5。したがって、土地の取得にあたっては、この点を検討する必要があります。

災害時には企業が保有する土地が被災し、土砂崩れなどにより近隣の土地に被害やそのおそれが生じることが想定されます。企業が迅速に対応できない場合、土地の管理が不適切な状態が続くことで、近隣土地の所有者などから管理不全土地管理命令の申立てがなされる可能性もあります。土地所有者は管理権限を失うわけではありませんが、想定していた土地の利用ができなくなる可能性があり、十分な注意が必要です。

*2 法制審議会民法・不動産登記法部会第18回会議議事録34頁(小田氏)
*3 法制審議会民法・不動産登記法部会資料33・6頁
*4 法制審議会民法・不動産登記法部会資料11・5~6頁
*5 法制審議会民法・不動産登記法部会資料33・6頁

4. 2023年4月1日施行の民法改正による管理部門の対応とその後

2023年4月1日施行の民法改正は、不動産取引のみならずそれ以外の取引にも影響を与えているものと考えられます。例えば、判例では共同相続された預貯金債権は、相続開始により当然に法定相続分に応じて分割されるのではなく、共同相続人の準共有となるものとされており、実務上、遺産分割成立前の預貯金の払戻については相続人全員の同意を要する運用が行われております。

共同相続人の一部が所在不明の場合に、前記2(1)①の制度を使い、裁判所の決定を得て、所在等不明の相続人以外の相続人の同意により、預金の払戻や口座解約が可能であるかを検討する場面が生じることが考えられますが*6、その可否について確立した見解があるわけではないため、必要に応じて弁護士等の外部専門家にも相談しながら、必要な準備を進めておく必要があります。

同様に、株式の相続があった場合も、株式は当然に法定相続分に応じて分割されるのではなく、共同相続人の準共有となるものとされているため、改正後民法の共有に係る諸規定が適用されます。

会社法第106条本文では、「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。」とされており、かかる権利行使者の指定について一部の準共有者が賛否を明らかにしない場合には、2(1)②B)の制度を使い、裁判所の決定を得て、権利行使者の指定が行われることがあり得ます*7。法務部等においてはこの点に留意した対応をする必要があります。

5. まとめ

以上のとおり、2023年4月1日施行の民法改正は、企業にとって不動産取引や財産管理に関する重要な変更をもたらしました。共有物の変更や管理、所在不明の共有者の持分取得・譲渡に関する新たな規定が導入され、工場跡地、商業施設、ホテル、オフィスビルその他の再開発やM&A、不動産取引において不動産の取得・管理等について効率的な対応が可能になりました。

企業やその管理部門においては、改正後民法においてどのような制度が存在し、かかる制度を使うためにはどのような要件を満たす必要があるのか、どの制度を使うことが費用や時間の面から最適であるかといった判断が求められますので、必要に応じて弁護士等の外部専門家にも相談しながら、対応することになります。

不動産デューデリジェンスの観点から2023年4月1日施行の民法改正について解説した、猿倉健司・細谷豊「不動産デューディリジェンスにおける2021年民法改正の留意点(共有・所有者不明土地問題等)」(前編)、同(後編)もご参照ください。

以上

*6蓑毛良和「所有者不明土地問題の解決に向けた民法・不動産登記法改正と金融実務」金融法務事情2173号45頁
*7 仲卓真「令和3年民法改正が株式の準共有に与える影響〔上〕」旬刊商事法務2306号4頁









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