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2025年4月施行の建築基準法・建築物省エネ法改正|管理部門が直面する課題と解決のヒント

公開日2025/03/18 更新日2025/03/17 ブックマーク数
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2025年4月施行の建築基準法・建築物省エネ法改正

この記事の筆者

牛島総合法律事務所
弁護士
猿倉 健司

牛島総合法律事務所パートナー弁護士。CSR推進協会環境部所属。 環境・エネルギー・製造・不動産分野では、国内外の行政・自治体対応、不祥事・危機管理対応、企業間紛争、新規ビジネスの立上げ、M&A、IPO上場支援等を中心に扱う。 「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」「ケーススタディで学ぶ環境規制と法的リスクへの対応」のほか、数多くの著書・執筆、講演・ 研修講師を行う。


牛島総合法律事務所
弁護士
福田 竜之介

牛島総合法律事務所弁護士。2022年司法試験合格。2023年弁護士登録。環境法分野では、廃棄物に関する紛 争対応等を中心に扱う。 国際的な労働関連業務のほか、各種紛争対応や契約交渉等も取り扱う。


第1章 建築基準法・建築物省エネ法改正についての概要

2022年6月17日、建築物分野の省エネ対策の徹底等を通じて脱炭素社会の実現(カーボンニュートラル)に資するために、建築基準法や「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(以下「建築物省エネ法」といいます。)等が改正され(以下「2022年改正」といいます。)、これが2025年までに段階的に施行されることとなりました。

2022年改正では、省エネ基準適合の義務づけや再エネ設備の導入促進といった省エネ対策の加速、木材利用促進のための建築基準の合理化等が主な改正内容となっており、既に一部の改正は施行済みです(国土交通省「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について」(2022年6月17日))。

  • 2022年:住宅の省エネ改修に対する住宅支援機構による低利融資制度
  • 2023年:住宅トップランナー制度の拡充、採光規制等の合理化、省エネ改修や再エネ設備の導入に支障となる高さ制限等の合理化等
  • 2024年:建築物の販売・賃貸時における省エネ性能表示、再エネ利用促進区域制度、防火規制の合理化等

本稿では、2025年4月1日に施行予定のもののうち、特に重要と思われるもの(建築確認審査等の対象となる建築物の規模の見直し及び省エネ基準適合義務等)に焦点を当て、そのポイントや改正の背景等を解説いたします。

第2章 2025年4月施行の建築基準法・建築物省エネ法改正のポイント

2025年4月施行の建築基準法・建築物省エネ法改正の主なポイントは以下のとおりです。

1. 建築基準法改正のポイント

(1)建築確認審査等の対象となる建築物の規模の見直し
建築基準法では、原則すべての建築物を対象に、工事着手前の建築確認や工事完了後の完了検査などを行う必要があります。もっとも、事務の簡素化を図る観点から、都市計画区域等の区域外における一定規模以下の建築物(階数2以下かつ延べ面積500㎡以下の木造建築物等)については建築確認・検査の対象外とされており(建築基準法第6条第1項)、また、都市計画区域等の区域内における建築士が設計・工事監理を行った一定規模以下の建築物(階数2以下かつ延べ面積500㎡以下の木造建築物等)については構造関係規定等の一部の審査が省略(同法施行令第10条第3号・第4号、同法第6条の4第1項第3号、同法第6条第1項第4号)されています(いわゆる4号特例)。

2025年4月施行の建築基準法改正ではこれらの規定が見直され、建築確認・検査の対象外となるのは、木造・非木造に関わらず「都市計画区域等の区域外の平屋かつ延べ面積200㎡以下の建築物」とされ、また、構造関係規定等の一部の審査省略の対象となるのは、木造・非木造に関わらず「都市計画区域等の区域内の平屋かつ延べ面積200㎡以下の建築物」(新3号建築物と呼ばれています)とされます。したがって、審査省略の例外として認められる範囲が従前よりも狭くなるということになります。

建築基準法・建築物省エネ法改正法制度説明資料

(出典:国土交通省「建築基準法・建築物省エネ法改正法制度説明資料」(令和6年9月)9頁参照。省エネ審査については後記2をご確認下さい。)

(2)構造規制の合理化
2025年4月施行の改正では、(1)の規模の見直しに加えて、構造規制の合理化等も大きな改正ポイントとなっています。

①木造建築物の仕様の実況に応じた壁量基準等の見直し(荷重の実態に応じた必要壁量の算定(従来の「軽い屋根」「重い屋根」の区分による算定の廃止)、存在壁量に腰壁・垂れ幕等が考慮可能になる、高耐力壁の使用可能化、構造計算による場合は壁量計算が不要になる等)
②階高の高い木造建築物等の増加を踏まえた構造安全性の検証法の合理化(二級建築士においても設計できる簡易な構造計算で建築できる範囲の拡大等)等

2. 建築物省エネ法改正のポイント

2025年4月施行の改正では、建築物省エネ法第2条第1項第3号に定める省エネ基準へ適合させる義務の対象が拡大される予定となっています(同法第10条・第11条)。

建築物省エネ法では、省エネ基準を建築基準法における建築基準関係規定とみなして、建築確認における建築主事等による審査の対象としています(建築物省エネ法第11条第2項、第12条以下(改正後は第10条第2項、第11条以下))。

(1)改正前の省エネ基準適合義務
改正前の同法第11条第1項・同法施行令第4条では、中・大規模(300㎡以上)の非住宅の新築又は増改築(以下「新築等」といいます。)を行う建築主に対して、当該建築物全体の省エネ基準への適合義務が課されていました。

また、改正前の同法第19条では、中・大規模(300㎡以上)の住宅については適合義務の対象ではないものの、これらの新築等を行う建築主に対して、所管行政庁への届出義務が課されていました。

(2)改正後の省エネ基準適合義務
2025年4月施行の改正では、省エネ基準適合義務の対象が小規模非住宅・住宅にも拡大されることになります(改正後同法第10条第1項・同法施行令第3条)。ただし、エネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないものとして政令で定める規模(10㎡の新築等が想定されています)以下のものを除きます。

建築基準法・建築物省エネ法改正法制度説明資料

(出典:国土交通省「建築基準法・建築物省エネ法改正法制度説明資料」(令和6年9月)60頁参照)

他方で、改正前は、増改築する場合には増改築後の建築物の全体が対象でしたが、改正後は、省エネ基準適合を求められるのは増改築を行う部分のみに縮小されます(改正後同法第11条第1項本文)。

上記の基準適合の拡大に伴い、これまで基準適合の義務の対象外であった中・大規模の住宅も(届出義務よりも強度な)適合義務を負うことになるため、前記第19条の届出義務は廃止されることとなっています。

第3章 建築基準法・建築物省エネ法改正の背景

2022年改正は、2050年に向けたカーボンニュートラル、2030年度に温室効果ガス46%削減という政府の中期目標の実現に向けた建築物分野の省エネ対策の徹底及び吸収源対策としての木材利用拡大等が背景にあります。2021年10月22日に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、「建築物省エネ法を改正し、省エネルギー基準適合義務の対象外である住宅及び小規模建築物の省エネルギー基準への適合を2025年度までに義務化するとともに、2030年度以降新築される住宅・建築物について、ZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指」すとされ、同年6月18日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」では、「建築基準法令について、木材利用の促進、既存建築物の有効活用に向け、2021年中に基準の合理化等を検討し、2022年から所要の制度的措置を講ずる」とされています(国土交通省「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律の解説」(2023年8月)2頁参照、国土交通省住宅局「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について」(2022年6月17日)4頁参照)。

前記の建築確認審査等の対象となる建築物の規模の見直しについては、省エネ基準への適合や、省エネ化に伴い重量化している建築物に対する構造安全性の基準への適合を、審査プロセスを通じて確実に担保して消費者が安心して建築物を整備・取得できる環境を整備する必要があるといった背景を踏まえた改正となっています(同31頁参照)。

第4章 2025年4月施行の建築基準法・建築物省エネ法改正が企業に与える影響

1. 建築確認審査等の対象となる建築物の規模の見直しに伴う影響

前記第2章1(1)のとおり、建築確認や完了検査、構造関係規定等の審査の一部を省略できる建築物の範囲が縮小されたことから、建築される建物の規模等によっては、これまで例外の対象となっていた手続きも今後は実施する必要があるかもしれません。

また、改正前の建築基準法第6条第1項第4号に掲げる建築物(階数2以下かつ延べ面積500㎡以下の木造建築物等)は、建築主事が確認を行う場合の審査日数は7日以内となっていましたが、本見直しに伴い、階数2以上又は延べ面積が200㎡を超える建築物については、建築主事が確認を行う場合の審査日数が最長で35日以内となります(改正後建築基準法第6条第4項)。

2. 省エネ基準適合義務の対象拡大に伴う影響

前記第2章2(2)のとおり、2025年4月施行の改正により、ほぼすべての建築物の新築等が省エネ基準適合義務の対象となります。これに対して、修繕・模様替え(いわゆるリフォーム)は含みません。このような省エネ基準に適合させなければならない建築物の建築を「特定建築行為」といい、建築基準法第6条第1項の規定により確認を要するものを「要確認特定建築行為」といいます(改正後建築物省エネ法第11条第1項本文)。

省エネ基準の適合を確認するため、建築主は、前記第2章1(1)の新3号建築物(「都市計画区域等の区域内の平屋かつ延べ面積200㎡以下の建築物」)を除き、工事着手前に建築物エネルギー消費性能確保計画を所管行政庁又は国土交通大臣の登録を受けた建築物エネルギー消費性能判定機関に提出し、エネルギー消費性能適合性判定(省エネ適判)を受ける必要があります(同条第1項本文)。建築物エネルギー消費性能確保計画とは、特定建築行為に係る建築物(増築又は改築をする場合にあっては、当該増築又は改築をする建築物の部分)のエネルギー消費性能の確保のための構造及び設備に関する計画のことをいいます。判定後に発行される結果通知書が適合判定通知書である場合には、建築確認申請を行っている機関等に当該適合判定通知(又はその写し)を提出することも必要となります(同条第3項、第6項)。

他方で、以下の場合は、エネルギー消費性能適合性判定(省エネ適判)を省略し、建築確認審査と一体的に省エネ基準への適合が確認されます(同条第1項ただし書、改正後建築物省エネ法施行規則第2条第1項)。

番号 省エネ適判を行うことが比較的容易な特定建築行為
1 仕様基準に基づき外皮性能及び一次エネルギー消費性能を評価する住宅
2 設計住宅性能評価を受けた住宅の新築
3 長期優良住宅建築等計画の認定又は長期使用構造等の確認を受けた住宅の新築

第5章 2025年4月施行の建築基準法・建築物省エネ法改正による管理部門の対応

1. 施行時点の把握とこれを踏まえた計画の策定

前記第2章1(1)における建築確認・検査の対象となる建築物の規模の見直し等は、2025年4月以降に工事に着手する建築物を対象として適用されます。建築確認申請から確認済証の交付までには一定の審査期間が必要であるため、施行日よりも前に建築確認申請を行っていた場合であっても、改正後の規定が適用される可能性があります。施行日前に確認済証が交付され、施行日以後に着工するものについては、着工後の計画変更や検査において構造関係規定等への適合の確認が必要となり、適合の確認ができない場合には計画変更に係る確認済証や中間検査合格証、検査済証が交付されないため、一定の余裕をもって対応する必要があります(国土交通省「建築基準法・建築物省エネ法改正法制度説明資料」(2024年9月)20~22頁参照)。

前記第2章の2における省エネ基準適合義務の対象拡大も、2025年4月以降に工事に着手するものから適用されます。そのためこちらについても、2025年4月前までの着工を予定している場合には、一定の時間的余裕をもって建築確認申請を行う必要があります。2025年4月以降に工事着手が見込まれる可能性がある場合には、後に省エネ基準不適合を理由に検査済証が発行されないといった事態に陥らないよう、予め省エネ基準に適合した設計をしておくことが必要です。また、前記第2章2(2)のとおり、2025年3月以前に行われる増改築については、既存部分を含めた建物全体での省エネ基準適合が必要になるという点にも留意が必要です(国土交通省「省エネ基準適合義務制度の解説〔第二版〕」(2025年3月3日最終閲覧)6頁~8頁参照)。

なお、既に基準適合義務の対象となっている中大規模の非住宅建築物については、規模に応じて基準が順次引き上げられています(大規模非住宅建築物については2024年4月に既に施行済み。中規模の非住宅建築物は2026年4月以降から基準の引き上げが予定されています。)。そのため、管理部門においては、2025年4月改正以後の動向についても注目しておく必要があります(国土交通省「省エネ基準適合義務制度の解説〔第二版〕」(2025年3月3日最終閲覧)8頁参照)。

2. 省エネ基準の内容理解

省エネ基準適合義務の拡大に伴い、企業の管理部門においても、省エネ基準について理解をしておくことが望ましいと言えますので、以下にその概要をご紹介いたします。

省エネ基準とは、建築物が備えるべき省エネ性能の確保のために必要な建築物の構造及び設備に関する基準をいい、住宅の場合は外皮性能基準と一次エネルギー消費量基準、非住宅の場合は一次エネルギー消費量基準に、それぞれ適合することが必要となります。

外皮性能基準とは、外皮(外壁、窓等)の表面積当たりの熱の損失量(外皮平均熱貫流率(UA)・冷房期の平均日射取得率(ηAC))が、外気温や住宅の使用設備などを基に全国8つの地域区分別に規定されている基準値以下となることをいいます。外皮性能については、住宅性能評価・表示協会のHPで公開されている計算シートを活用して算出することができます。

一次エネルギー消費量基準とは、算定対象となる設備機器等(空気調和設備(暖冷房設備)、換気設備、照明設備、給油設備、昇降機(※非住宅のみ))における一次エネルギー消費量から太陽光発電設備等による創エネ量を控除したものが基準値以下となることをいいます。具体的には、一次エネルギー消費性能(BEI値)が1.0以下(前記1のとおり、中大規模の非住宅建築物については順次基準が引き上げられている(工場等は0.75以下、事務所等・学校等・ホテル等・百貨店等は0.80以下、病院等・飲食店等・集会所等は0.85以下))となることが必要です(国土交通省「省エネ基準適合義務制度の解説〔第二版〕」(2025年3月3日最終閲覧)9~10頁参照)。一次エネルギー消費性能については、建築研究所のHPで公開されているWebプログラムを活用して算出することができます。

第6章 まとめ

本稿では、企業において特に重要と思われる建築確認審査の対象となる建築物の規模の見直しと省エネ基準適合義務の拡大に絞って解説いたしました。

しかし、実際には、2022年改正の内容は多岐にわたり、既に施行済みのものも含めて、その変更内容と運用を正確に理解する必要があります。2022年改正の運用については、国土交通省「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)に係る質疑応答集」(2025年2月28日最終更新)の回答も参考になりますので、ご確認ください。

また、2022年改正には非常に専門的な内容(前記構造規制の合理化、提出図書の合理化、安全上支障がないエレベーターに係る建築確認等の適用除外、限定特定行政庁の業務範囲の見直し等)も多く含まれていることから、企業の内部だけで完全に対応しきることは困難であるように思われます。管理部門においては、規制の変化を注視するとともに、弁護士や建築士等の専門家と連携して2022年改正への対応を進めていくことが望ましいといえます。

なお、既に施行済みの建築物省エネ法の2022年改正の概要については、牛島総合法律事務所ニューズレター・猿倉健司「建築物省エネ法の改正(2023年~2025年施行)のポイント」もご参照ください。


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