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簿記の勉強を進める中、多くの方を混乱に陥れる難関のひとつが「貸借対照表」ではないでしょうか?
借方、貸方と表現される違和感から、そもそもなぜ左に借方があり、右に貸方があるのかも、知らない人が多いでしょう。
そこで今回は、貸借対照表の構造について、その起源を交えてご紹介します。
貸借対照表を含む複式簿記の起源は、13世紀頃イタリアの商人が行っていた帳簿の記帳であるとされています。当時商業が盛んだったヴェネツィアにおいて商業や簿記について学んだルカ・パチョーリが著書「スムマ」内で紹介した簿記論が現代会計学の基礎となっていることは有名です。
しかしスムマでは、当時完成した簿記について紹介したというだけで、複式簿記の起源について読み取ることはできません。
なぜ借方が左に、貸方が右にくる構造をとっているのか、なぜ借方・貸方という表現をとるのか、それを知るにはスムマよりはるか以前の「公証人制度」までさかのぼる必要があります。
公正証書を作成する公証人制度は、中世ヨーロッパで発達したものです。
ローマ法王の認証のもとに作成される公正証書は、当初宗教上の契約を交わす際に用いられた制度が発展し、のちに債務債権の文書証拠として残すために作成されるようになりました。
当時、金銭貸借や不動産売買などに関する契約は、両当事者が立会人の前で陳述し、公証人がそれをラテン語で書きとめ、公正証書として保管されました。
しかし商業の発展に伴い、金銭貸借や決済の頻度は増加の一途を辿ります。
特に追加貸付や貸付金の分割回収など複雑な取引が行われるようになった銀行業では、公証人に作成を依頼する公正証書だけでは業務に支障を来たすようになってしまいました。
そこで銀行家は、公証人が行ったのと同じように証書を作成するようになります。
銀行家は公証人の立場で証書を作成するため、金銭貸借や決済などを三人称的な表現で記入していきました。さらに銀行家は、顧客別に取引を記帳するようになり、これを勘定と称するようになりました。
このように、商業が盛んになることで公正証書の必要作製数が増大し、公証人だけでは回らなくなってしまいます。
そのため商人たちは自分の商売のため文字を学習し始め、識字率の向上と共に商人による記帳が主流になりました。13世紀の終わり頃には商業帳簿の証明力が増大し、公的機関でも認められるようになりました。
始めに、具体的に記帳されるようになったのが人名勘定です。人名勘定では、顧客ごとにページを作成し、自分に対する顧客の取引という形で記帳されていきました。
たとえば自分と顧客Aの取引として、顧客Aが自分からお金を借りているとすると、「顧客Aは自分に○○円支払う」と記帳します。
逆に自分が顧客Bからお金を借りている場合、「顧客Bは自分から○○円受け取る」などと記帳していきます。
この、顧客Aは自分に対する「借り手」であり、顧客Bは「貸し手」となります。この顧客と自分との関係性を持ったまま公証人の前で陳述を行ったことから、勘定の目線として「借り手」「貸し手」という表現がとられるようになったと考えられます。
記帳の際の「支払う」「受け取る」といった表現が「借方である」「貸方である」といった表現へと変化し、最終的には「借方」「貸方」になり、記号化されるようになったとされています。
この「借方」「貸方」は日本人の感覚とは異なっているため、西洋簿記を日本に広めたとされる福沢諭吉も、翻訳の際、非常に苦心したと言われています。「帳合之法」では、借方を「出」貸方を「入」とする方が分かりやすいのではと考えましたが、その後発展するであろう日本の貿易を考え、海外との取引の際不都合が生じるおそれがあると考えて、原本のままを翻訳し「借方」「貸方」と記載され出版を迎えました。
記帳の際、当初は債権債務を前半と後半に分けて記入していく「上下連続方式」がとられていましたが、次第に左右見開きのページへ記入する形式に変化しました。前半に記帳していた債権は左ページに、後半に記帳されていた債務は右ページに記帳され、やがて左右見開きのページから同一ページに記帳されるようになり、左右二分形式へと統一されていきました。
これが現在貸借対照表の中で借方が左、貸方が右に記帳される由来だと考えられます。
なお、人名勘定では顧客別にページが作成されていましたが、次第にそれ以外にも応用されていきます。商品勘定、現金勘定などの物財勘定、名目勘定へと拡大し、その中には単なる取引だけではなく未収や未払いなどに関しても記帳がされるようになりました。これらの変化からひとつの取引を複数の勘定で記帳する「複式記入」が行われるようになり、現代私たちが活用する複式簿記の基礎となったのです。
「理由は深く考えず、丸暗記して覚えるしかない」と言われることもある貸借対照表の構成ですが、ひも解いてみれば納得のいくものであり、語源としても理解できるものだと言えます。
中世ヨーロッパの商人に想いを馳せ、成り立ちに関心を抱けば、難解な貸借対照表も幾分かは面白いものになるはずです。単なる「複式簿記」として捉えず、商人の記帳したパルプ紙、おそらく今のように平らではなかったであろう凹凸のある机など、その周囲を取り巻く中世ヨーロッパの背景にも関心を寄せると、複式簿記がもっと面白いものになるかもしれません。
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