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記事転載元:パラれる / 株式会社コーナー
法定雇用率など法整備がされた後も、採用・雇用状況が順調とはまだまだ言えない、「障がい者採用」。
「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉を日常的に聞くことが多くなり、働き方の多様性が重視されてきている事も後押しし、改めて障がい者採用についての注目が高まっています。
障がい者採用の現状と今後について、障がい者雇用を行う株式会社パーソルチャレンジの執行役員を務め、現在は株式会社LITALICOで就労移行支援の現場で複数のセンターのマネジメントを担当する佐藤謙介さんにお話しを伺ってみました。
近年大手企業だけでなく、中小、ベンチャー企業でもダイバーシティ&インクルージョンに注目が集まり、各社で様々な取り組みが行われています。
背景にはSDGsの普及やジェンダーギャップ指数において日本が先進国で最下位になっていることなどから、女性活躍が世間の関心ごとになっていることが要因として挙げられます。
そのため、女性や高齢者、外国籍、未就業者、障がい者を含めた「働く上で制約がある方々」の雇用に注目が集まっています。
しかしこういった外部環境からくる要因以外に、企業内で多様性の機運が高まっているのはもっと本質的な要因があるからだと私は考えています。
これまでの企業活動においてもっとも重要な価値観は「売上と利益の最大化」でした。
これは過去バブル経済を経て日本経済が大きく成長してきた中で、企業の売上が上がれば社員の所得も増え、暮らしが豊かになるという黄金律が成り立っていたからです。
しかしこの数十年で状況は大きく様変わりし、企業は売上を伸ばしても利益が増えず、社員の給与を上げていくことは難しくなりました。
また社員の価値観も大きく変わり、会社でより上位のポストに就いて給与を上げていくよりも、自分の生活の質(QOL)が高まることを望む若者が増え、会社への帰属意識も以前に比べれば弱くなっています。
加えて団塊世代が後期高齢者化したことにより、介護をしながら働く人が増え、これまでのように一日8時間働くことがあたり前ではなくなってきている現状があります。
こういった働く人の価値観やライフスタイルの変化に対して、これまで企業が持っていた「売上と利益を伸ばし、社員の給与が上がれば全ての痛みを癒してくれる」といった価値観が通用しなくなってきたのです。
そのため、企業は多様な価値観、ライフスタイルに合わせた働き方を提供できなければ、社員の希望を叶えることができなくなり、会社に居続けてもらうことができなくなってきました。
そのためダイバーシティ&インクルージョンの必要性がますます注目されるようになってきたのではないかと考えています。
そして働く上で制約がある方たちの中で障がい者雇用だけが唯一、雇用に法的な義務があり各社とも数年前から障がい者雇用に対して本格的に取り組むようになってきました。
障がい者雇用には「障がい者雇用率制度」という国が定めた制度があります。これは「障がい者雇用促進法」という法律に記されています。
この中で一般企業において特に重要となるのが「法定雇用率」と呼ばれる企業に課せられている雇用人数目標になります。
2021年2月までは民間企業の法定雇用率は2.2%でした。
しかし2021年3月1日から法定雇用率が2.3%に変更となり企業の雇用目標がさらに引き上げとなりました。これは1,000名の企業であれば1名分の雇用増となりますが、現在でも上場企業の雇用率達成度は50%前後のため、大手企業ではさらなる雇用のへの働きかけが必要になります。
また法定雇用率引き上げの影響を受けるのは大手企業だけではありません。むしろ中小企業の方が障がい者雇用がより難しくなるのではないかと考えられます。
大手企業が採用に力を入れれば転職・就職市場にいる障がい者はますます大手の企業への就職がしやすくなります。経営の安定性に加え、職種、働き方のフレキシビリティの豊富さ、また特例子会社であれば受けられる配慮の充実度など、これから障がいをオープンにして安定的に長く働こうと考えている方にとっては大手企業で雇用されることは不安の解消に繋がります。
一方で大手企業に比べて少ない人数で経営している中小企業においては、一人で複数の業務をこなさなければなりません。おのずと一人の社員に求める成果への責任は高まり、業務が「属人化(その担当社員にしか出来ない仕事)」していく傾向があります。
すると障がい者のために多様な職種を用意したり、働き方に自由度を与えることができないため、母集団を大きくすることができず、採用難易度が上がります。実際1名の雇用ですら上手く進めることができない中小企業は多いので、どうしたら障がい者にも働きやすい環境や、職種を増やすことができるのかという事を早くから検討し対策を立てる必要があります。
特に組織全体で「属人化」している業務を、複数の人で行うことができる「仕組み化」に変えていくことが必要になります。
「仕組み化」を行うためには「属人化している業務のリストアップ」「業務の最終成果物の可視化」「業務プロセスの可視化」「判断基準の可視化」「時間工数の把握」「マニュアル作成」「チェックリスト作成」と言った業務整理からスタートする必要があります。
特に「判断基準の可視化」はこれまで担当者の知識や経験で行われていることが多く、可視化することが難しいと感じるかもしれません。
(そのために「声の見える化」という方法があり、その一例を以下の質問項目に記載していますので、参考にしていただければと思います)
実際の雇用対象となる障がい者や、重度障がい者、短時間労働者の雇用率換算は、厚生労働省のホームページを参照ください。
私は障がい者雇用を本気で進めると組織にとっても様々な良い影響があると考えています。
一つメリットを挙げると、普段自分たちにとっての「当たり前」に疑問を持つことができ新しい発想が広がるという点です。
近年「ユニバーサルデザイン」という言葉が注目されるようになりました。これは障がいの有無にかかわらず「できるだけ多くの人にとって使いやすいデザインにすること」をコンセプトに製品開発するという考え方です。
実際世の中にはユニバーサルデザインで開発されたものが沢山あります。例えば駅の改札を車いすの方でも通りやすいように幅を広げたことで、ベビーカーを押している方や高齢者、大きな荷物を持った旅行者とっても通りやすく便利になりました。これは健常者だけの目線では気づきにくい発想です。
同様のことが障がい者と一緒に働くことで職場内でも起こりえます。
例えば聴覚障がいの方と一緒に働けば口頭だけでのコミュニケーションには限界があることに気づきます。そこで業務指示をメモや文書で行うという事が必要になります。私はこれを「声の見える化」と呼んでいて、実はこれには様々な利点があります。まず会議などでは会議録をつける習慣が出来るため、会議に参加できなかった人にもあとで共有することが容易になります。
また業務指示を出す側も、指示を出すために自分の頭の中に知識や経験を一度整理する必要があるため、普段無意識で行っていることに意識を向けられるようになり業務の無駄に気づくこともできます。
また指示を出した内容を取っておいて、後でまとめてマニュアル化することも容易になります。以前私がいた職場でも「声の見える化」を始めてからマニュアル作成がしやすくなりました。そしてマニュアル化が進むと、これまで「属人化」していた仕事が意外と他の人でも行うことができることに気づき「仕組み化」をすることが可能になります。
これは障がい者に対してのメリットだけでなくその他の社員にとっても自分の業務を引き継ぎやすくなったり、新たに社員を採用する際に教えることが容易になるなど、様々な効果をもたらします。
こういった小さな気づきは、一般的な職場では気づきにくいものです。
「普通」と言われる物の中に「違い」を入れることで初めて気づくことはたくさんあります。
これは様々な企業において働き方改革や商品・サービス開発にも応用できる考え方ではないかと思います。
障がい者雇用を行う上で最も大きな障壁は、周囲の人たちの「思い込み」だと考えています。
恐らく多くの人にとって障がい者と一緒に働く機会は殆どなかったと思います。そうなるとこれまでの自分の経験の中だけで判断してしまいがちです。
そのため、自分の部署で障がい者の受入れをしてほしいと依頼をされると「自分の部署の仕事は特殊だから難しいのではないか」「簡単な入力作業だけで一人分の仕事は作り出せない」と言った、実際に仕事を行ってもらう前から受け入れることが困難だと考えてしまいます。
もちろん最初に仕事を想定しておくことは大事ですが、実際にどんなレベルの仕事ができるかは、本人と相談の中で決めていくことが大事で、初めから「このくらいだろう」と思い込みで判断してしまうと、可能性を潰してしまったり、受入れできないという判断を下してしまうことになります。
その代わり採用の段階で実際に働ける状態にある方なのか、会社として配慮できるのかどうか見極める必要がありますので支援機関と連携を図り、しっかり情報提供してもらい、トライアル雇用制度などを利用してマッチングの精度を高めることが重要になります。
新型コロナウィルスへの対応において障がい者雇用も様々な影響を受けています。その中でメリットとリスクと考えられる代表的な例を挙げてみます。
まずメリットとして挙げられるのが、働き方の選択肢が広がったことです。
働くうえで、健常者にとっては当たり前のことでも、障がい者にとっては苦痛を伴うことはたくさん存在しています。
例えば通勤一つとってみても、満員電車に乗ること、移動時間、乗り換え、乗る場所、電車遅延など、障がい種別や程度によって感じ方は様々です。また職場で働く際も、場所、音、匂い、人との距離、コミュニケーションの頻度、一人になれる空間など、その人にとっては気になることが数多く存在しているのです。
殆どの障がい者は自分で一定の対処は可能ですが、とはいえまったく気にならないわけではなく、軽減させる努力が出来るだけで実際になくなっているわけではありません。
そのためこれまでも障がい者雇用において「在宅勤務」は何度も議論に上がってきました。しかし在宅勤務のハードルは高く、なかなか思うように進まなかったという歴史があります。
ところがコロナ禍において在宅勤務が当たり前となったことで、上記で上げたような困難さが一気に改善されました。実際在宅勤務が出来るようになり安定して仕事をすることができるようになったという声を聴くようになりました。
一方で「在宅勤務」が進んだことでのリスクも新たに浮上してきました。
障がい者は健常者に比べて体調をコントロールすることが難しいという特徴があります。そのため、日々のセルフチェックや周囲の社員がコミュニケーションをとることで小さな変化に気づき、大きく体調を崩す前に気づいてあげることが長期的に安定して働くためには必要です。
ところが在宅勤務が増えることで「コミュニケーション量」が不足する懸念が出てきます。
「でもうちではオンラインで繋いでいつでも連絡できるようになってるから問題ないですよ」と考える企業もあると思いますが、ここであげているコミュニケーションには「会話」だけに限りません。
職場で一緒に働いていれば話していなくても「見る」という事が出来ます。その人の様子や顔色、歩き方、身なり、体調などは「見る」ことでかなり多くの情報を得ることができます。
しかし在宅勤務でオンラインだと、この「見ることで情報を得る」というコミュニケーションが限定されてしまうのです。これまでは無意識のうちに五感を使ってコミュニケーションしていましたが、オンラインでは情報量が少なくなるため、その違いに気づけなかったという事が起こりえます。これによってストレスが増え体調不良になることも考えられます。
このようにコロナ禍においては、メリットとして考えられる部分と、リスクとして考えられる部分がありますので、企業としてはそれぞれ対応を検討し進めていくことが必要になるでしょう。
一般的に浸透してきた障がい者採用ですが、佐藤さんのお話を伺って、改めて現状や具体的な導入時の注意点などを学ぶ事ができました。
一番印象的だったのが、法定雇用率をクリアする以外にもいろいろなメリットがあるという点です。
佐藤さんも仰っていた様に、ダイバーシティ&インクルージョン、SDGsの推進、多様性を推進することの一環として、障がい者の方々だけに限らずさまざまな良い影響があるのだと感じました。
障者採用を通して、社員みなさんがより働きやすい環境になり、ビジネスの発展にも繋がれば、もっと素敵な社会になるのではないでしょうか。
記事提供元
「人事・採用のパラレルワーカーシェアリングサービス」
株式会社コーナーが運営する「人事・採用のパラレルワーカーシェアリングサービス」は、採用(中途・新卒・パート/アルバイト)、労務、制度設計、組織開発など幅広く企業の人事・採用課題を解決するサービスです。
コーナーは1,500名を超える即戦力のプロフェッショナルが登録をし、プロフェッショナルによる課題解決を実働支援型で行います。週1日から必要な業務内容・業務量だけプロフェッショナルの経験を活用できることで、多様化してきている人事・採用課題を効果的に解決します。
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