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物価高騰が続き、家計が一段と厳しさを増すなか、今年度の年金支給額は昨年度より0.4%の減額となります。年金生活者からは生活不安の声が高まり、経済の専門家からは日本経済への悪影響を及ぼす懸念も示されています。
目次【本記事の内容】
年金の支給額は、2004年の年金制度改正で導入された「マクロ経済スライド」によって、物価や賃金の変動に応じて毎年改訂することになっています。
つまり、平均余命が延びることで年金支給額は増えますが、年金保険料を納めている現役世代は、少子高齢化の影響で減少する一方です。このまま現役世代の負担が重くなるばかりでは、年金制度そのものが成り立たなくなってしまう可能性もあります。
そこで、年金の財源である年金保険料収入と、年金給付額(支出)を調整することで、現役世代の保険料負担を軽減し、年金制度を維持していくために導入されたのが「マクロ経済スライド」です。
「マクロ経済スライド」によって、今年度の年金支給は0.4%の引き下げとなり、金額では1年で1万4,000円ほど減ることになります。その背景にあるのは、新型コロナウイルスの感染拡大などの影響で、現役世代の賃金が下がったためです。
さて、年金支給額の減額は2年連続です。しかも、食料品から日用品、ガソリン代や公共料金まで値上げラッシュとなっています。当然、年金生活者の財布の紐はますます固くなり、節約志向はいっそう高くなるのではないでしょうか。
しかし、高齢者の財布の紐が固くなればなるほど、「日本経済にとっては大きなマイナスになる」と警鐘を鳴らすエコノミストもいます。
「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」(厚生労働省)によると、令和2年度の厚生年金と国民年金の公的年金被保険者数、つまり保険料を支払っているのは6,756万人で、前年よりも6万人減少しています。
一方、令和2年度の公的年金受給者数、つまり年金をもらっている人は7,665万人で、前年度より76万人増加しています。公的年金受給者の年金総額は56兆円で、前年より3,800億円増加しています。
年金保険料を支払う現役世代が減少し、年金保険料を受け取る高齢者が増えていますから、同じ額を支給するとなれば、当然、現役世代の負担が重くなります。
年金制度の実態を表すうえでよく用いられるのが、現役何人で高齢者を支えているか、ということですが、1950年時点では高齢者1人を12.0人の現役世代が支えていました。ところが2010年には2.8人となり、このまま少子高齢化が続くと、2060年には現役1.3人で1人の高齢者を支えることになると予想されています。
「現役1.3人で1人の高齢者を支える」ことになれば、少なくとも年金保険料分が賃金に上乗せされなければ、現実問題として不可能となることは目に見えています。
そこで、年金制度改正法によって、繰り下げ受給の上限年齢が70歳から75歳に引き上げられました。つまり、年金受給を遅くすればするほど、受給額が増えるという制度に改正したわけですが、繰り上げか繰り下げか、どちらを選択するかによって、老後の生活も大きく変わることになりそうです。
また、夏の参院選後に開催が予定されている、社会保障審議会年金部会の主要議題になるとされているのが基礎年金の目減り問題です。厚労省では基本的な考え方をなるべく早めに提示するとしています。
年金減額と物価高の影響で高齢者が支出を抑えることは、個人消費にも大きなマイナスとなります。若年層に比べ、比較的経済的な余裕があるとされているのが高齢者です。
景気浮揚の看板政策が「資産所得倍増計画」で、貯蓄から投資へと促すというものです。約1,000兆円とされる個人の金融資産の6割以上を保有しているのは高齢者ですが、はたして、その貯蓄を投資へと向けることになるのでしょうか。
ここで思い出されるのは、年金だけで老後の生活を送ることは難しく、2,000万円ほどの貯蓄が必要になると試算した、あの“2,000万円問題”です。しかし、2,000万円の貯蓄がある人はいいでしょうが、それに満たない人はどうすればいいのでしょうか。リスクを覚悟して投資に向かう人がどれだけいるのか、日本経済活性化となる兆しは、年金減額でさらに遠ざかる様相となっています。
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