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テレビニュースや新聞記事での報道などで、大企業による財政的な不祥事とともに「監査法人」という言葉が添えられて伝えられることがあります。一般の人々にはあまり知られていませんが、監査法人とはどのような組織なのでしょうか。社会人の一般常識として身につけておきたいところです。
公認会計士法2条1項では、「公認会計士は、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする」と定められており、その「財務書類の監査又は証明」をするために設立された組織が監査法人です。
つまり、監査法人は公認会計士の組織です。監査法人には、公認会計士が5人以上所属していなければならないため、一定以上の規模で運営されることが想定されています。
監査法人の主要任務は、すでに述べた条文にも定められている「監査証明業務」です。この監査業務は公認会計士の独占業務とされており、他の資格者が行うことが許されていません。よって、公認会計士にとって監査は、ハードではありながらも花形といえる仕事なのです。
監査証明とは、企業などの経済活動を経て、決算で現れてきた貸借対照表や損益計算書といった財務諸表の内容が、正当な裏付けをもって適正に作られたものであることを、企業からは独立した立場で調査し、外部へ向けて証明する業務です。
監査法人の代表者や、監査法人に出資をしている共同経営の公認会計士(パートナー)が、監査報告書に署名捺印することで、その監査証明業務における責任の所在が明らかになります。
特に株主や投資家は、財務諸表の内容を見ながら、この会社が将来に収益を出して、株価の上昇やより多くの配当が期待できるかどうかを読みとって、その会社の株式を売り買いします。また、M&Aや業務提携を持ちかけてくる他社、あるいは取引先も、財務諸表に基づいて、その会社が健全に運営され、継続的な収益を挙げられることを読みとった上で、取引に入るのです。
かりに、財務諸表の中に虚偽やごまかしが隠れていれば、そうした信頼の基礎が根底から崩れてしまいます。財務諸表が信頼できなければ、投資家に警戒されて、株式も流通しにくくなりますし、経済活動も停滞してしまいかねません。そこで、監査法人が財務諸表の正確性や社会的信頼を担保する役割を果たしているのです。
新たに自社の株式を証券取引所に上場させようと、IPO(新規株式公開)を準備している企業も、監査法人による厳格な監査証明を受けなければなりません。IPOを行う企業の新規公開株は、多くの投資家から注目され、公開直前の段階からたくさんの買い注文が入ります。IPOを果たした企業には、株式市場から多くの資金が入るために、より大規模な経営を行えるようになるのです。
しかし、IPO準備企業の作成している財務諸表に、もしウソやインチキが隠れており、それが放置されたままでIPOが行われれば、IPO直後に粉飾決算で経営者が逮捕されたり、急に業績が悪化したりすることで、株価が暴落してしまうおそれがあります。ひいては、証券取引所そのものに対する社会的信頼も失墜してしまうリスクもあるのです。
よって、監査法人は監査証明業務を通じて、日本社会の経済活動を下支えしているものといえるのです。監査証明業務は、膨大な書類チェックを行ったり、企業の工場などさまざまな拠点に出張して現地視察やヒアリングなども併せて実施したりしながら、財務諸表の適正さを探っていきます。監査法人にとっては最重要業務として位置づけられていますが、業務負担が重いため、知力と体力に溢れたアソシエイトの若手公認会計士が、監査証明の実働部隊として活躍しています。
また、監査法人は、M&Aなどの重要な経営判断に対するアドバイスを企業向けに行ったり、都道府県・市町村に対する会計監査なども実施したりします。
さらに監査法人では、財務会計に関するコンサルティング業務を行えます。公認会計士法2条2項で定められている「公認会計士は、前項に規定する業務のほか、公認会計士の名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずること」が、コンサルティング業務を指しているのです。
このほか、監査法人は、新人の公認会計士の養成にも関わることができます。公認会計士は国家試験に合格しただけでは登録することができず、2年間の実務経験(業務補助)と、3年間の実務補習(座学研修)を経た後、修了考査に合格して初めて公認会計士として正式に登録できるのです。
このとき、実務経験を積みたい試験合格者について、監査法人も受け入れ先のひとつとして機能します。また、実務補習を監査法人が運営することも可能です。
監査法人には「無限責任監査法人」と「有限責任監査法人」とがあります。
すでに説明しましたとおり、監査証明業務の最終段階には、監査法人の経営陣(役員)が監査報告書に署名捺印することで、監査証明に誤りがあった場合の責任の所在が明らかになっています。
このときに監査報告書に名を連ねる監査法人の代表者を、法律上は「代表社員」と呼び、そのほかの役員クラス公認会計士(パートナー)を「社員」と呼びます。
もし、監査証明の内容に誤りがあり、株主などの利害関係者から監査法人に対して、損害賠償請求などの法的責任を問われ、裁判所によってその請求に理由があると認定された場合、監査法人の代表社員やその他の社員は、連帯して損害賠償の責任を負うことになります。
このとき、無限責任監査法人では、各社員は私財を投げうってでも、原告の請求に応じて損害賠償金を支払わなければならない重大な義務を負います。
一方で、有限責任監査法人では、各社員があらかじめ監査法人に出資した額を超えて、法的責任を負うことはありません。その点で、いざというときの法的負担が軽くなります。
つまり、有限責任監査法人では、社員にとっては良いことずくめなのですが、あらゆる監査法人が有限責任で済むわけではありません。次のような条件を満たす必要があるからです。
日本全国に236の監査法人がありますが、そのうち、有限責任監査法人は23しかありません(2017年8月現在)。
監査法人のうち、日本屈指の規模と社会的影響力を誇る4大監査法人を、「ビッグ4」と呼ぶことがあります。いずれも有限責任監査法人です。各法人の特徴や概略をご紹介します。
日本初の有限責任監査法人であり、世界ビッグ4会計事務所に数えられる「アーンスト・アンド・ヤング」と業務提携しています。不動産や建築の分野に強いことが特徴です。
やはり世界ビッグ4会計事務所に数えられる、オランダの「KPMG」と提携し、世界各国にグローバルネットワークをもっています。
1968年に設立され、半世紀を超える歴史を誇る監査法人です。世界最大の会計事務所グループとして知られ、米ニューヨークを本拠とする「デロイト・トウシュ・トーマツ」と業務提携しています。
英ロンドンを本拠とする「プライスウォーターハウスクーパース(PwC)」と業務提携をしており、やはりグローバル展開をしています。
監査法人は、各企業が発表している財務諸表に、本当に根拠や正当性があるのかどうか、いい加減な計算やインチキが紛れ込んでいないかを精査し、企業への投資が円滑に入りやすくすることで、日本経済の発展を下支えしているプロフェッショナル集団です。「ビッグ4」と呼ばれる国内最大級の監査法人は、それぞれ世界有数の会計事務所と提携しており、国境を超えて世界へ影響力を及ぼしています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、最新情報や具体的対応は公式情報や専門家にご確認ください。詳細はご利用規約をご覧ください。
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