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この記事の筆者
浜崎 晃
弁理士
https://www.authense-ip.com/team/hamazaki-akira
石川県出身、早稲田大学第一文学部卒業。民間企業のほか、国家公務員、地方公務員等の様々な業務を経験した後、Authense弁理士法人にて弁理士として商標に関する業務に従事。
多くの業界経験から得た知識を基に、お客様のサービス内容を的確に把握するという強みを生かして、
皆様の商標取得に貢献します。
知的財産の分野におけるデジタル化や国際化の進展などの環境変化を踏まえ、スタートアップ・中小企業等による知的財産を活用した新規事業展開を後押しするなど、時代の要請に対応した知的財産制度の見直しを図ることを目的に、知的財産制度の大幅な見直しが行われました。
その内容は不正競争防止法、意匠法、商標法など多岐にわたりますが、ここでは、商標法に関連した制度改正について、その概要を簡単にご説明いたします。
①先行する登録商標の権利者が同意し、 かつ、
②消費者(需要者)に混同を生じるおそれがない場合には、
同一又は類似する商標の並存登録を認める、
という内容のコンセント制度が導入されることとなりました。
これまでは、同一又は類似する指定商品(役務)において、同一又は類似する他者の登録商標がある場合には商標登録を受けられませんでしたが、この改正によって、先行する登録商標の商標権者の同意があれば、これと同一又は類似する商標でも、後から出願をする者が商標登録を受けられることとなりました。
これまでは、出願する商標に「他人の氏名」(フルネーム)が含まれる場合には、その他人の同意がある場合を除き、商標登録を受けることはできませんでしたが、今般、一定の要件を満たす場合には「他人の氏名」を含む商標であっても、商標登録ができるようになりました。
これまでは、商標法上、先行する他人の登録商標と同一又は類似する商標は、登録を受けることができませんでした。
一方で、多くの諸外国では、先行する登録商標の権利者による同意があれば、類似する商標であっても並存して登録を認める「コンセント制度」が導入されていました。 コンセント制度があれば、先行する商標権者の同意があれば、これと同一又は類似する商標でも、後から出願をする者が商標登録を受けられることとなります。
これまでは、日本では、単に当事者間で合意がなされただけでは併存する類似の商標に関して需要者が商品又は役務の出所について誤認・混同するおそれが排除できない等の理由から、導入が見送られてきましたが、中小・スタートアップ企業等による知的財産を活用した新規事業でのブランド選択の幅を広げる必要性や、国際的な制度調和の観点から制度が改正され、コンセント制度が導入されました。
これまでは、「他人の氏名」を含む商標は、当該他人の承諾がない限り、商標登録を受けることはできないこととされており、出願に係る商標や他人の氏名の知名度に関わらず、「他人の氏名」を含む商標は、同姓同名の他人全員の承諾が得られなければ商標登録を受けることができないとされてきました。
その結果、同姓同名の他人が存在すれば、一律に出願が拒絶されるため、創業者やデザイナーなどの氏名をブランド名に用いることが多いファッション業界を中心に、要件緩和の要望がありました。
この点、今般、一定の要件を満たす場合には「他人の氏名」を含む商標であっても、商標登録を認めるように制度が改正されました。
実は、これまでも、同一・類似する他者の先行する登録商標がある場合には、その登録商標の商標権者の同意・協力があれば、アサインバックといわれる手法を用いることによって、商標登録を受けること自体は可能でした。
〔アサインバック〕
商標登録出願人の名義を、一時的に引用商標権者の名義に変更することで、引用商標権者と新たに出願する出願人の名義を一致させて本規定に基づく拒絶理由を解消し、商標登録を得た上で、引用商標権者から元の商標登録出願人に再度名義変更を行う等の手法のこと。
ただ、アサインバックについては、以下の様な理由から日本企業にとって負担が大きい制度となっているとの問題点が指摘されていました。
・海外の顧客にアサインバックの説明をする負担があり、費用も高くなる
・アサインバックをすることについての社内決済のハードルが高い
今般、コンセント制度が導入されることによって、同様の制度を導入している諸外国の顧客の理解が得られやすくなる、また、費用面でも権利取得に係る負担が低くなることが期待できるといった点で、各企業においてはメリットがある制度改正と言えます。
なお、従来どおり、アサインバックの手法によって商標権を取得する方法を取ることも可能となっています。
これまでは、「他人の氏名」を含む商標は、当該他人の承諾がない限り、商標登録を受けることはできず、このため、創業者やデザイナーなどの氏名をブランド名に用いることが多いファッション業界等ではブランド名の商標登録を断念せざるを得ない状況がありました。
今般、一定の要件を満たす場合には「他人の氏名」を含む商標であっても、商標登録ができる制度が導入されましたので、今後は、これまで登録を諦めていた氏名からなるブランド名について商標登録をする、また、販売する商品や提供するサービスのネーミング(ブランド名)を決定するに当たり、創業者やデザイナーの氏名からなる商標を積極的に採択できるようになる、といった点でメリットがあります。
各企業の知的財産関連部署を含む管理部門においては、制度改正の概要を把握し、必要に応じてブランド名等の商標登録を検討するといった対応が必要となります。 以下、それぞれの改正点について、商標登録を受けるためのポイントを簡単にご紹介いたします。
①先行する登録商標の権利者が同意し、 かつ、
②消費者(需要者)に混同を生じるおそれがない場合、
といった条件を満たすことが必要となります。
①については、先行する登録商標権者から同意を得ていただくこととなりますが、ポイントとなるのが、要件の②である、「消費者(需要者)に混同を生じるおそれがない場合」となります。
この点、特許庁では、以下のように判断をすることとされております。(商標審査基準〔改訂第16版〕 特許庁編 より)
•「混同を生ずるおそれ」について
第4条第1項第 11 号における他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれのみならず、その他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれをもいう。
•「混同を生ずるおそれがない」ことが求められる時点・期間
査定時を基準として、査定時現在のみならず、将来にわたっても混同を生ずるおそれがないと判断できることを要する。
•考慮事由
引用商標と同一の商標(縮尺のみ異なるものを含む。)であって、同一の指定商品又は指定役務について使用するものは、原則として混同を生ずるおそれが高いものと判断する。
また、下記のような、両商標に関する具体的な事情を総合的に考慮して判断する。
両商標の類似性の程度
商標の周知度
商標が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
商標がハウスマークであるか
企業における多角経営の可能性
商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
商品等の需要者の共通性
商標の使用態様その他取引の実情
ここで重要なことは、先行する登録商標の権利者の同意があったとしても、商標自体の類似性の程度や、役務間又は商品と役務間の関連性等により、消費者(需要者)に混同を生じるおそれがあると判断された場合には、登録は認められないことです。
今後、上記の混同を生じるおそれについてどの程度厳格な判断がされるかは、特許庁による審査事例を待つしかありませんが、「同意書さえあればすべて登録できるわけではない」という点には、注意が必要となります。
「他人の氏名」に、
①一定の知名度の要件、
②出願人側の事情を考慮する要件(政令要件)
を課した上で、他人の氏名を含む商標の登録要件を緩和することとされました。
ここでポイントなるのが、2つの要件についてですが、特許庁では以下のように判断をすることとされております。(商標審査基準〔改訂第16版〕 特許庁編 より)
①一定の知名度の要件
その氏名に一定の知名度を有する他人が存在しない場合は、承諾は不要とされています。
具体的には、以下のような商標は登録が受けられない、と規定がされております。
他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。) -中略- を含む商標 -以下、略-
以下、上記の要件に関しての判断基準となります。
・「商標の使用をする商品又は役務の分野」
「商標の使用をする商品又は役務の分野」の判断にあたっては、人格権保護の見地から、当該商標の指定商品又は指定役務のみならず、当該他人と関連性を有する商品又は役務等をも勘案する。
・「需要者の間に広く認識されている氏名」
人格権保護の見地から、その他人の氏名が認識されている地理的・事業的範囲を十分に考慮した上で、その商品又は役務に氏名が使用された場合に、当該他人を想起・連想し得るかどうかに留意する。
②出願人側の事情を考慮する要件(政令要件)
こちらの要件は、以下となっております。
・商標に含まれる他人の氏名と商標登録出願人との間に相当の関連性があること
例えば、出願商標に含まれる他人の氏名が、出願人の自己氏名、創業者や代表者の 氏名、出願前から継続的に使用している店名等である場合は、相当の関連性があるも のと判断する。
・商標登録出願人が不正の目的で商標登録を受けようとするものでないこと
例えば、他人への嫌がらせの目的や先取りして商標を買い取らせる目的が、公開されている情報や情報提供等により得られた資料から認められる場合は、不正の目的があるものと判断する。
以上を分かりやすくまとめますと、以下となります。
出願する商標に他人の氏名が含まれている場合であって、その他人の承諾を得ていなくても、以下の要件を全て満たす場合には、登録を認める。
・その含まれる氏名に一定の知名度を有する他人が存在しない場合であって (知名度の要件)
・その氏名が、出願人の自己氏名、創業者や代表者の氏名、出願前から継続的に使用している店名等であって (出願人側の事情を考慮する要件)
・かつ、その出願が、他人への嫌がらせの目的や先取りして商標を買い取らせる目的(不正の目的)でされたものでない (出願人側の事情を考慮する要件)
すなわち、逆に、例えば以下の様なケースでは、出願する商標に含まれる氏名について、その氏名を有する者の「他人の承諾」がなければ、登録は認められないこととなります。
・著名となっている他者の氏名を含む商標を出願するケース
・自分と全く関係のない、他者の氏名(著名でないもの)を含む商標について出願をするケース
・出願について、他人への嫌がらせの目的や、先取りして商標を買い取らせる目的などの不正の目的があるケース
以上、令和6年4月1日以降に適用される商標法の主な改正点について説明をさせていただきました。 どちらも、これまでの商標登録の要件を緩和する内容となっており、企業側からすれば、商標登録の選択肢が広がる改正となっています。
ただ、注意していただきたいことは、それぞれに登録を認めるための複数の要件があるため、先行する商標権者の同意(コンセント)があったり、商標が著名でない他人の氏名であれば、それのみをもって登録を受けられるようになる訳ではない、という点です。
当該要件の概要についても拙稿において説明させていただいてはおりますが、具体的に出願をお考えの際には、事前に商標出願制度に詳しい弁理士等にご相談いただくことをお勧めいたします。
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