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この記事の筆者
上見 知也
イデアル社会保険労務士事務所
社会保険労務士
IT業界に10年間身を置き、Webサイトの制作者としてチームリーダー等を経験。社労士試験合格後、社会保険労務士法人、一般企業の人事・労務部門での勤務を経て、2023年に独立開業。
主に中小企業の人事労務面のサポートを行っている。
多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットの構築、人への投資の強化等のため、雇用保険の適用拡大、教育訓練やリ・スキリング支援の充実等が図られた改正雇用保険法は令和6年5月10日に可決成立し、同年5月17日に公布されました。
施行日 | 改正内容 | |
---|---|---|
1.教育訓練給付の拡充 | 令和6年10月1日 | 給付率引上げ等 |
2.自己都合離職者に係る給付制限の見直し | 令和7年4月1日 | ・給付制限の期間短縮(原則2か月から1か月) ・対象教育訓練を離職日前1年以内または離職日以後に受けた場合は給付制限なし |
3.就業促進手当の見直し | 令和7年4月1日 | ・就業手当を廃止 ・就業促進定着手当の給付上限の引き下げ |
4.暫定措置の期間延長 | 令和7年4月1日 | ・雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付の暫定措置を2年間延長 ・教育訓練支援給付金の給付率を基本手当の60%とした上で2年間延長 |
5.教育訓練休暇給付金の創設 | 令和7年10月1日 | 教育訓練を受けるための休暇を取得した場合、賃金の一定割合が支給される教育訓練休暇給付金が創設 |
6.雇用保険の適用拡大 | 令和10年10月1日 | 週所定労働時間を20時間以上から10時間以上に変更し適用対象を拡大 |
上記がこの度の雇用保険法改正に関してまとめたものとなりますが、各施行日は異なっていることにご留意ください。次項からポイントを絞って解説していきたいと思います。
労働者の学び直しや個人の主体的なリ・スキリングを推進するため、教育訓練給付金の給付率の上限が引き上げられました。
給付率(上限額) | 対象講座の例 | |
---|---|---|
①専門実践教育訓練 | 最大で受講費用の70% (年間上限56万円)4年間で224万円 +教育訓練支援給付金 |
業務独占資格などの取得を目標とする講座 ・介護福祉士、看護師・准看護師、美容師、社会福祉士、歯科衛生士、保育士、調理師、精神保健福祉士、はり師 など |
②特定一般教育訓練 | 受講費用の40%(上限20万円) | 業務独占資格などの取得を目標とする講座 ・介護支援専門員実務研修、介護職員初任者研修、特定行為研修、大型自動車第一種・第二種免許 など |
③一般教育訓練 | 受講費用の20%(上限10万円) | 資格の取得を目標とする講座 ・輸送・機械運転関係(大型自動車、建設機械運転等)、介護福祉士実務者養成研修、介護職員初任者研修、税理士、社会保険労務士、Webクリエイター、CAD利用技術者試験、TOEIC、簿記検定、宅地建物取引士 など |
上記、対象講座の例は一部となりますので、詳細は教育訓練給付制度を参照ください。
教育訓練給付制度としては、①専門実践教育訓練、②特定一般教育訓練、③一般教育訓練の3つがあり、改正される教育訓練は①専門実践教育訓練、②特定一般教育訓練となります。
①専門実践教育訓練給付
現行の資格取得等による追加給付に加えて、教育訓練の受講後に賃金が上昇した場合、追加で受講費用の10%を支給(合計80%)。
②特定一般教育訓練給付
教育訓練を受講し、資格を取得した上で就職等をした場合、追加で受講費用の10%を支給(合計50%)。
出典:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要
労働者が安心して再就職活動を行えるようにする観点等を踏まえ、給付制限期間が見直されました。現行の公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受講した場合に加え、正当な理由なく自己の都合により退職し、下記①または②に該当する場合は給付制限が解除されることとなりました。
①教育訓練給付の対象となる教育訓練その他の厚生労働省令で定める訓練(対象教育訓練)を離職日前1年以内に受けたことがある
②対象教育訓練を離職日以後に受ける場合
さらに、給付制限期間は原則2か月から1か月へ短縮されこととなりました。ただし、5年間で3回以上の自己都合退職をした場合、給付制限期間は3か月となります。
出典:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要
昭和59年 | 給付制限期間を1か月から3か月に延長 |
---|---|
令和2年 | 給付制限期間を2か月に短縮(5年以内に2回を超える自己都合退職の場合は3か月) |
令和6年 | ・自ら教育訓練を行った場合は給付制限なし ・給付制限期間を1か月に短縮(5年以内に2回を超える自己都合退職の場合は3か月) |
現状、安定した職業以外の職業(アルバイト等)に早期再就職した場合の手当として就業手当があり、再就職手当の支給を受けた者が安定した職業に就き、離職前の賃金から再就職後賃金が低下していた場合に下がった賃金の6か月分を支給する手当として就業促進定着手当が設けられています。
出典:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要
就業手当は受給者数が少なく、支給実績等を踏まえ廃止され、就業促進定着手当においては、上限を支給残日数の現行の40%(30%)から20%に引き下げられることとなります。
雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付が2年間延長(令和9年3月31日まで)となり、45才未満の者に訓練受講中に支給される教育訓練支援給付金においては、現行の基本手当の80%から60%へと給付率が変更され、2年間延長(令和9年3月31日まで)となりました。
雇止めによる離職者 | 90日~150日 ↓ 90日~330日(暫定措置) |
---|---|
倒産・解雇による離職者 | 90日~330日 |
教育訓練給付制度の全体像に関しては、「1.教育訓練給付の拡充 現行の教育訓練給付制度の全体像」を参照ください。
出典:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要
雇用保険被保険者が教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に支給される基本手当に相当する新たな給付として、教育訓練休暇給付金が創設されました。給付額は基本手当(失業給付)に相当する額で、休暇開始日の前日を離職日とみなし、教育訓練休暇を開始した日から起算して1年以内の教育訓練休暇を取得している日について支給されます。ただし、下記①または②に該当する場合は支給対象としないこととされています。
①休暇開始日前2年間におけるみなし被保険者期間が通算して12か月に満たないとき。
②当該一般被保険者を受給資格者と、休暇開始日の前日を受給資格に係る離職の日とみなした場合の算定基礎期間に相当する期間が、5年に満たないとき。
対象者 | ・雇用保険被保険者 |
---|---|
支給要件 | ・教育訓練のための休暇(無給)を取得すること。 ・被保険者期間が5年以上あること。 |
給付内容 | ・離職した場合に支給される基本手当の額と同じ。 ・給付日数は、被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれか。 |
※ 上記のほか、雇用保険被保険者以外の者を対象に、教育訓練費用と生活費を融資対象とする新たな融資制度が創設予定
労働者の中で働き方や生計維持の在り方の多様化が進展していることを踏まえ、雇用保険の被保険者の要件のうち、週所定労働時間は20時間以上から10時間以上となり適用対象が拡大されることとなりました。
基本手当の被保険者期間の計算にあたっては、賃金の支払の基礎となった日数が6日以上、または賃金の支払の基礎となった時間数が40時間以上であるものが1か月としてカウントされるようになります。失業認定基準においては、労働した場合であっても1日の労働時間が2時間にとどまる場合は失業日として認定されるようになります。
出典:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要
改正雇用保険法が企業に与える影響として、自己都合離職者に係る給付制限期間の短縮(令和7年4月1日施行)により離職者が発生することが考えられます。
雇用保険の適用拡大(令和10年10月1日施行)により、資格の得喪、給付に係わる手続きが増加し、場合によっては労働条件通知書または雇用契約書等の見直しをする必要があります。さらに新たに適用対象となる労働者に雇用保険料が発生し、会社は支払う保険料が増加することが予想されます。
自己都合離職者に係る給付制限期間の短縮(令和7年4月1日施行)により、離職者が多少発生することが考えられます。会社としては、優秀な人材の流出を避けるため、何らかの方策を講じておいた方が良いでしょう。
労働者の学び直しやリ・スキリングに関して、会社として、それらを推進させるためにも教育訓練制度について従業員に対してわかりやすく説明し、教育訓練制度に係る手続についてサポートする体制を整えることも検討ください。
雇用保険の適用拡大(令和10年10月1日施行)はまだ先の事ですが、施行日までに前もって、社内で雇用保険の適用拡大に向けて準備を進めておくべきと考えます。具体的には、雇用保険の新たな適用対象となる週の所定労働時間が10時間以上である労働者の洗い出しと資格取得の手続きの準備、さらに労働条件通知書または雇用契約書の雇用保険の加入に関する部分、採用・求人における雇用保険の加入に関する部分の見直しの準備を進めてください。
この度の雇用保険法の改正ですが、多様な働き方を支援する措置、労働者の学び直しやリ・スキリング支援、雇用保険の適用拡大、その他育児給付に係る財政運営の確保等の措置が講じられる多岐にわたるものとなりました。
特に雇用保険の適用拡大(令和10年10月1日)が目玉となった改正であり、健康保険・厚生年金保険の適用拡大(令和6年10月1日施行)に続き、雇用保険・社会保険の適用を拡大させる改正となりました。
企業としては、改正雇用保険法を正しく理解し、社内整備を進めていく必要があります。
【筆者のご案内】
イデアル社会保険労務士事務所
社会保険労務士 上見知也
【参考】
厚生労働省 雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要
厚生労働省 雇用保険法等の一部を改正する法律について
厚生労働省 第185回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会
厚生労働省 教育訓練給付制度
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