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▼この記事を書いた人
寺山 晋太郎
社会保険労務士
社会保険労務士法人 宮嶋社会保険労務士事務所
福島県出身。一橋大学社会学部卒業。大手鉄道会社にて現業や本社勤務など様々な業務を経験。2014年第一子誕生を機に育休を取得。その後現職に転じ、働きながら社労士資格を取得。社労士業の傍ら、3児の父親としても奮闘中。
まず年次有給休暇の法的根拠について確認しておきましょう。年次有給休暇、いわゆる「有休」「年休」などと呼ばれているものですが、これは労基法第39条に規定されており、同条が定める条件を満たした労働者に対しては必ず付与しなければならないものとなっています。
その条件は二つあります。一つ目は「雇入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務している」というものです。そのため継続6ヶ月勤務に満たない労働者には年次有給休暇を付与する法的義務はありません。この「継続勤務」とは労働契約の継続期間=在籍期間を指すので、例えば定年退職者を再雇用したときや休職者の復職、会社の合併、在籍型出向などの場合であっても、労働契約が実質的に継続していると認められるかぎり勤務年数を通算すべきとされております。
二つ目は「全労働日の8割以上出勤したこと」です。したがって全労働日の8割以上出勤していなければ、当該期間に対応した年次有給休暇を付与する法的義務はありません(この部分は2で詳述します)。ここでいう労働日とは、就業規則などにおいて当該労働者が就労すべきとされている日を指します。また外形的には就労していなくても、業務上の負傷・疾病のために休業した期間、産前産後の女性が労基法第65条(産前産後休業)の規定によって休業した期間、育児介護休業法第2条第1号・第2号の規定によって育児休業・介護休業を取得した期間については、出勤したものとみなさなくてはなりません。
なお、労働者から年次有給休暇取得の申出(時季指定)があった場合、時季指定があったその日に取得させることがあくまで基本となります。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合、使用者は当該時季を変更して付与することができます(時季変更権の行使)が、これには様々な条件があり、例えば使用者が代替要員確保の努力など適切な配慮をせずに時季変更権を行使することは認められませんので注意しましょう。
次に年次有給休暇の適切な管理方法ですが、「年次有給休暇管理簿」を作成して3年間保存しておく法的義務(労基則第24条の7)があります。この管理簿に決まった書式はありませんが、労働者に年次有給休暇を与えた時(労働者による請求だけではなく、計画的付与・使用者からの時季指定による付与も含みます。計画的付与については3,使用者からの時季指定による付与については4で詳述します)に、時季、日数及び基準日を労働者ごとに明らかにした書面でなければなりません。なお、労働者名簿又は賃金台帳と併せて作成しておくことも可能です。
まず年次有給休暇の付与基準ですが、入社して最初のタイミングにおける付与基準は1でご説明した通り「雇入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務しており、かつ全労働日の8割以上出勤したこと」です。この要件を満たしている限り、当該労働者に10日間の年次有給休暇を付与する必要があります。その後継続勤務期間が増えるにしたがって、最大20日まで付与日数が増加することとなります。この点文章だけだと分かりづらいかと存じますので、図1をもとにご説明いたします。
図1
例えば、入社から6カ月間継続勤務し、その間の出勤率が8割以上となっている場合、6カ月を超え1年6ヶ月までの間の1年に10日間の年休権が発生します。また6ケ月を超え1年6ヶ月間継続勤務している間の出勤率も8割以上だった場合、1年6カ月を超え2年6ケ月までの間の1年に11日間の年休権が発生します。以下同様のサイクルを繰り返していくこととなりますが、注意点が一つあります。
それは、出勤率が8割に満たない期間があった場合、当該期間に対応した年休は付与する法的義務はありませんが、その次のサイクルで8割出勤を満たした場合は、上記表に対応する形で日数を付与しなければならない、ということです。どういうことかというと、例えば入社から6カ月間の出勤率が8割に満たなかった場合、6カ月を超え1年6ヶ月までの間の1年は年休を付与する必要はありませんが、6カ月を超え1年6ヶ月までの間で出勤8割を満たした場合、付与すべき日数は「10日」ではなく「11日」になります。
ここで「10日」としてしまうと法的義務を満たさなくなってしまいますので注意しましょう。なお、法定通りの付与方法ですと労働者ごと・年度途中での付与が発生し管理が煩雑になりますから、法定基準を上回る形であれば斉一的な取り扱いも可能です(この斉一的取り扱いについては5で詳述します)。
ただ、所定労働日数が少ない労働者に上記の年休日数をそのまま認めてしまうと不合理な結果を招きかねない(極端な例ですが、月1日しか就労しない労働者に対して年10日の年休を付与すると、年に2日しか就労しないことになってしまいます)ため、週の所定労働日数が4日以下(週以外の期間で所定労働日数が定められている場合は年間所定労働日数が216日以下)かつ週の所定労働時間が30時間未満の労働者に対しては、その所定労働日数に比例して算定された日数の年休を付与することとなります。詳細な日数と基準については図2をご参照ください。
図2
年次有給休暇の取得率ですが、令和5年就労条件総合調査によると62.1%で、特に近年は右肩上がりに増加しています。ただ、諸外国と比較するとまだまだ低いのが現状で、2023年に米国旅行予約サイト大手のエクスペディアが実施した調査(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC203OG0Q4A620C2000000/)によると、参加国中最低の取得率となっており、取得しない理由は「人手不足など仕事の都合上難しいため」が最多で、「緊急時に取っておくため」「忙しすぎて、休暇の計画を立てたり行く暇がなかったため」が後に続くという結果です。
こういった状況の中で、国も2025年までに取得率を70%まで引き上げることを目標としており、特設サイト(https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuuka-sokushin/)を設けて啓発活動に取り組んでおりますが、会社レベルでの取得促進のための工夫は様々な観点から検討することができます。職場構造、例えば人手不足や仕事の属人化により年休取得が難しくなっているのであれば、DXなどを活用して業務の合理化・見える化を図り、業務平準化を図っていくことなどが考えられます。
年休申請を躊躇してしまうような社内風土がある場合には、管理者層が率先して取得し、イントラネットや社内報等を活用した啓発活動を進めることで空気を変えていくといったことが考えられます。また「年休の計画的付与」の導入も有効です。これは、一定の条件を満たした場合、法所定の有給休暇日数の5日を超える部分については、その定めに従って年休を与えることができるという法制度(労基法第39条6項)で、本制度を導入することにより取得の確実性が高まるという効果があります。本制度の詳細については次項にて詳説いたします。
年休は、あくまで労働者の請求する時季に与えるのが基本です。ただしこれでは、労働者からの請求がなければ取得がされないことになります。労働者が気兼ねして年休取得がなかなか進まないという我が国の実情を考慮し、使用者の側から年休の時季を計画・指定して与えてしまおうという制度が「年休の計画的付与」です。具体的には、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は当該労働組合、ない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、年休を与える時季に関する定めをしたときは、法所定の年休の5日を超える部分についてはその定めに従って年休を与えることができるという制度です。
例えば年休を10労働日所持している労働者には5労働日、12労働日所持している労働者には7労働日の年休を計画的付与できます。本制度における計画的付与のしかたについては基本的に労使協定に委ねられておりますので、例えば事業所全体で一定期日を休暇としたり(夏季休業など)、グループ単位に交替制で休暇としたり、個人ごとに計画表を作成して休暇とするなど、様々なやり方が考えられます。
注意点は、制度導入時の手続きをしっかりと行っていただくことです。本制度を導入する場合には、まず就業規則に「5日を超えて付与した年次有給休暇については、従業員の過半数を代表する者との間に協定を締結した時は、その協定に定める時季に計画的に取得させることとする」などといった定めをまずしていただき、その上で労働者過半数代表と「計画的付与の対象者、計画的付与の対象となる年休の日数、計画的付与の具体的な方法、対象となる年休日数を持たない者の扱い、計画的付与日を変更する場合の取り扱い」を定めた労使協定を書面で締結することで、制度が有効となります。
本労使協定は労基署に届け出る必要はありませんが、計画年休を定めた適法な労使協定がない場合には、計画年休の効果は発生しませんので注意しましょう。
2018年働き方改革関連法による労基法改正が行われた結果、「使用者による年休の付与義務」が設けられました(労基法第39条7項)。具体的な中身は、使用者は10労働日以上の年休が付与される労働者に対しては、年休の日数のうち5日について、基準日から1年以内の期間に、労働者から意見を聴取した上で、労働者ごとに時季を定めることにより付与しなければならないというもので、一言で表せば「年5日は必ず年休を取得させなくてはならない」制度です。使用者がこの義務を果たさなかった場合、30万円以下の罰金を科されることとなります(労基法第120条)。以降、本制度の詳細をご説明いたします。
まず対象者ですが、これは労基法上10労働日以上の年休が与えられている労働者となります。そのため、フルタイム労働者であれば雇入れから6ケ月以上継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者となりますし、例えば週所定労働日数が3日の労働者については雇入れから5年6ケ月以上継続勤務し、各期間において全労働日の8割以上出勤した労働者が該当します(2の図1、図2も併せてご参照ください)。
次に付与日数ですが、労働者からの時季指定権の行使(労働者からの申出による年休取得)または計画的付与により付与された年休については、その日数については使用者が時季指定して付与する必要がなくなります。つまり、労働者が自発的に年休を5日間以上取得した場合もしくは計画的付与により5日以上付与されている場合は、その年について使用者は年休付与義務を負わないこととなりますし、労働者が自発的に3日間の年休を取得したのであれば、使用者の付与義務は2日間となる、ということです。
逆に、年5日間を超える日数を使用者による時季指定で与えることはできるのかという問題については、労働者側に年休を一定日数留保するという観点から認められず、時季指定できるのはあくまで5日間であることには注意してください。なお、1日以外の単位での付与については、半日単位は認められますが、時間単位での付与は認められません。
次は基準期間についてです。使用者の年休付与義務の基準期間となる1年間は、原則としてそれぞれの労働者について雇入れから6カ月を経過した日から1年ごとに区分した期間とされます。ただし、10労働日以上の年休を基準日(雇入れから6ヶ月経過日)よりも前に与えることとした場合は、その与えることとした日(「第一基準日」)から1年以内の期間に時季指定して年休を付与すれば問題ありません。例えば4/1に入社し、入社したその日に10日間の年休を付与した場合は、翌年の3/31までの1年間が基準期間となります。
最後に対応の注意点をご説明します。一つ目は、使用者が年休の時季指定を行う場合には、あらかじめ、当該年休を与えることを労働者に明らかにしたうえで、その時期については労働者の意見を聴かなければならず、かつ、その意見を尊重するように努める義務があるということです。そのため、使用者が一方的に時季指定できるわけではございません。
二つ目は就業規則への記載が必要なことです。休暇に関する事項は就業規則に必ず記載しなければならない項目(絶対的必要記載事項)で、具体的には時季指定の対象となる労働者の範囲および時季指定の方法等について記載する必要があります。最後に管理方法です。これは1でもご説明した通りですが、使用者は、時季、日数および基準日を労働者ごとに明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)を作成し、当該年休を与えた期間中および当該期間の終了後3年間保存しなければなりません。これは紙ベースのものに限らず、電子機器を用いて作成しても問題ありません。
中小企業においては、人員配置の都合上専任の労務担当がおかれている場合は少なく、人事や総務といった業務を兼ねている場合がほとんどかと存じます。そのため、年休管理を含めた労務管理にかかる手間をいかに効率化していくかが中小企業における一つの課題になります。
そのための一つの手が、年休の斉一的付与です。これは、労働者ごとにバラバラな入社日からの6ヶ月、その後は一年ごとという法定通りの管理ではなく、全労働者について一定の基準日を定め、その基準日までの勤続日数および出勤率により年休を算定・付与するものです。この方法をとる場合、基準日において継続勤務6ヶ月あるいは1年未満の労働者に対しては、足りない部分についてはすべて出勤したとみなす限り適法となります。例えば4/1を基準日とするならば、12/1に入社した方は次年4/1時点では入社4ヶ月しか経過しておらず2か月足りませんが、その足りない2か月をすべて出勤したとみなして計算する、ということです。
なお例えばこのケースで、より厳密な取り扱いを意図して4/1時点でそれまでの出勤率が8割以上の者のみに年休を付与するとしてしまうと、確かに厳密にはなりますが、その後入社6カ月を経過するまで(6/1まで)に出勤率8割に達したときに改めて年休を付与しなければ法違反となってしまいますし、管理の簡略化という当初の目的からもズレてしまいますので、おすすめはできません。この斉一的取扱いを導入するには労使協定の締結や届出は不要ですが、休暇に関する事項ですから、これも就業規則の改定が必要になりますのでご注意ください。
上記ご紹介した斉一的付与以外にも、例えば勤怠管理システムを導入して日数管理を自動化するなど、様々な手が考えられます。なお令和5年就労条件総合調査によると、企業規模が小さくなるにしたがって年休の取得率も下がっており、規模が1,000人以上の企業では65.6%であるのに対し、30~99人では57.1%です。
この背景には人員不足や業務の属人化など様々な要因があるかと存じますが、休暇の取りやすさを含めたワークライフバランス重視の傾向は労働市場において一つのトレンドであり、8割以上の労働者が転職先を選ぶ際に休暇の取得しやすさを重視している、という調査結果もあります。年休管理をはじめとした各種業務を効率化し、年休を取得しやすい環境を整えることは、労働者にとって魅力ある会社づくりにも繋がります。
今回は年次有給休暇についてご説明しました。年休はあくまで労働者からの時季指定により付与することが基本ですが、それだけでは付与がなかなか進んでこなかったという状況があり、計画的付与や使用者による年5日の時季指定義務といった、ある意味変則的な付与方法が取り入れられたという経緯があります。特に使用者による年5日の時季指定義務は見落とされやすいので注意が必要ですし、そもそも有給休暇日数が適切に管理されていなければ時季指定義務も果たすことができません。
また先ほど5の項目で申し上げた通り、需要超過である昨今の労働市場において、年休を含めた休暇の取得がしやすい会社というのは、それだけで労働者を引き付ける大きな魅力となり得ます。この記事が有給休暇管理、ひいては皆様の会社の価値向上に繋がることになれれば幸いです。
監修元
社会保険労務士法人 宮嶋社会保険労務士事務所_公式サイト
執筆者:寺山 晋太郎様
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