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上場企業と監査法人の契約期間は基本的に1年ですが、従来は半ば自動的に契約が更新され、実際の契約期間は10年、20年と長期化するのが通例でした。しかし近年、短期間で監査法人を変更する企業が増えています。その理由は何でしょうか。
目次【本記事の内容】
変更数が話題になった「監査法人」とは、「報酬を得て、財務書類の監査または証明を組織的に行うことを目的として、公認会計士法第34条の2の2第1項によって、公認会計士が共同して設立した法人」(公認会計士法第1条)のこと。監査法人設立には5名以上の公認会計士(出資者)が必要です。
監査法人の業務は次の3業務です。
●監査証明業務
監査法人の主力業務です。企業、学校・医療・社会福祉法人、公益法人、独立行政法人などに対し、これらの法人が作成した財務書類が法的に適正であるかを審査し、独立した第三者の立場からその適法性を担保する業務。
監査証明業務には「法定監査」と「任意監査」があります。法定監査は監査法人の社員である公認会計士の独占業務です。
●非監査証明業務
監査法人の付帯業務です。株式公開支援、国際会計基準移行支援、M&A支援、法的リスク管理体制構築支援など企業の経営基盤強化に対するアドバイス業務や、地方自治体に対する行財政改革のアドバイス業務。
●コンサルティング業務
これも付帯業務です。企業に対する経営戦略・組織再編計画策定支援、事業再生計画策定支援、管理会計導入支援など、監査法人のコンサルティング業務は公認会計士法第2条第2項に基づき行っていることから、一般に「2項業務」と呼ばれています。
金融庁の公認会計士・監査審査会発表の『平成30年版モニタリングレポート』によると、監査証明業務を行っている「監査事務所(監査法人、公認会計士事務所)」は2017年3月末現在、2021事務所あり、その内訳は次の通りです。
種類 | 事務所数 |
---|---|
大手監査法人 | 4 |
準大手監査法人 | 6 |
中小監査法人 | 212 |
共同事務所 | 48 |
個人事務所 | 1751 |
大手企業を中心に進んでいる事業活動の複雑・多様化とグローバル化に対応するため、監査法人も大規模化が進み、大手監査法人は公認会計士、専門職員、事務職員を含めた常勤職員数が3000人超、準大手監査法人は常勤職員数が100人超、中小監査法人は常勤職員数が30人超などとなっています。また2013年度以降、大手・準大手監査法人の常勤職員数が増加している一方、中小監査法人は年々減少しており、大手・準大手監査法人と中小監査法人とのマンパワー格差が拡大しています。
大手・準大手監査法人の常勤職員数増加は、専門職員数の増加が要因と見られています。
大手・準大手監査法人は、大手企業を中心に進んでいる事業活動の複雑・多様化とグローバル化に対応するため、公認会計士以外の専門職員を拡充し、監査証明業務の専門性と業務効率性の向上、監査証明業務をサポートする管理部門の充実などにより組織的対応力を高める一方、非監査証明業務やコンサルティング業務の拡大にも努めています。これらの付帯業務が新規クライアントの獲得チャネルにもなっているからです。
その結果、従来はビジネス界一般の業務委託・受託関係同様に従属的といわれた企業と監査法人との関係が対等関係に近くなり、監査法人がクライアントを選択する傾向が強まったといわれています。これが監査法人変更数増加の背景と見られています。このことは、次節の「監査法人の変更理由」からも推察できます。
前記レポートによると、2018年6月期に監査事務所を変更した上場企業は116社。その変更理由(重複集計)は次の通りです。
<大手監査法人>
監査報酬…………………………28件
監査人からの辞任等……………8件
監査人選定に関する方針………4件
監査チームに対する不満………12件
<準大手・中小監査法人>
監査報酬…………………………7件
監査人からの辞任等……………8件
監査チームに対する不満………1件
この調査を見ると、クライアントである企業側よりも業務受託者である監査法人側の事情による変更の多さが際立っています。ちなみに大手監査法人の場合、明らかに監査法人側の事情と見られる「監査報酬(交渉不調)・監査人からの辞任等」が36件で総件数の48.6%、明らかに企業側の事情と見られる「監査人選定に関する方針(変更)・監査チームに対する不満」が26件で総件数の35.1%となっています。準大手・中小監査法人に至っては「監査報酬・監査人からの辞任等」が15件で総件数の75.0%も占め、「監査チームに対する不満」は1件で総件数の5.0%にしか過ぎません。
監査法人の変更は昔からありました。
例えばバブル経済崩壊以降の平成不況期、新規上場企業数が激減し、監査法人間でクライアントの奪い合い(監査報酬値下げ)が続き、監査法人の変更が多発しました。「監査法人冬の時代」などともいわれました。
しかし、2012年以降景気が回復すると新規上場件数が増加、監査法人はたちまち人手不足に悩まされるようになりました。東芝問題を始め上場企業の不正会計発覚続発に危機感を強めた金融庁が、法定監査の厳格化を監査法人に求めたことも監査法人の人手不足に拍車をかけました。
かくして平成不況期は企業から監査報酬を下げられる一方だった監査法人は、監査報酬の値上げ交渉を行い、不調なら契約更新を拒否する姿勢を強めました。粉飾決算リスクが高いと判断した企業とは契約しないなどのクライアント選別姿勢も強めました。
こうした理由により当面の間、監査法人変更数は高止まりで推移すると見られています。
帝国データバンクの『上場企業の監査法人異動調査(2018年1月―10月)』によると、監査法人を変更した上場企業数や変更が多い監査法人は次のようになっています。
2018 年1-10 月に監査法人の異動(変更、以下同)に関する適時開示を行った国内上場企業は160 社となり、前年同期比47 社増加(41.6%増)した。大幅増となった要因は2018 年7 月2 日付で「太陽有限責任監査法人」(存続法人)と「優成監査法人」(消滅法人)が合併したことに伴う異動が53 社で発生したため。
新規就任監査法人は7 月に優成監査法人と合併して存続法人となった太陽有限責任監査法人が63 社で最多。以下、有限責任あずさ監査法人(9 社)、有限責任監査法人トーマツ(7 社)と続いた。
一方、退任監査法人(辞任・消滅含)は太陽有限責任監査法人との合併により消滅法人となった優成監査法人が54 社で最多。以下、有限責任監査法人トーマツ(42 社)、EY 新日本有限責任監査法人(24 社)、有限責任あずさ監査法人(9 社)と続いた。
なお、同調査は「2018 年に監査法人の異動を発表した上場企業は、太陽有限責任監査法人と優成監査法人の合併が大きく影響し、前年同期を大きく上回った。引き続き企業コンプライアンスが重視される中、監査法人に対する金融庁の動向とともに異動理由を中心とした上場企業の監査法人異動動向も注目される」とコメントしています。
監査法人の変更は、企業の不正会計発見の上でメリットがあるといわれています。
上場・非上場企業を問わず、不正会計の多くが経営者主導で行われているのは周知の事実です。経営者主導の不正会計は監査法人に対して改竄した財務書類を示す、虚偽説明をするなど組織的な不正を行いやすく、監査法人がその不正を発見するまでに時間がかかるからです。そうした企業に別の監査法人が新規就任すると、前任の監査法人とは違った視点で監査するので、不正発見の時間が短くなるといわれています。
このため、企業コンプライアンスや内部統制が重視される中、組織的な不正会計隠蔽工作を防止し、経営の透明性を高める上で、監査法人の定期的な変更は必要だといわれています。
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