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2019年9月16日、日産自動車の西川廣人社長兼CEOが辞任しました。西川社長はカルロス・ゴーン元会長が行っていた不正を告発した中心人物でした。しかし、皮肉なことに、自らもまた不正行為の指摘を受けて早期辞任に追い込まれたのです。
この西川社長の辞任劇には、日産における役員報酬の形式である「株価連動型報酬(SAR)」が深く関わっていました。そこで今回は、そもそも役員報酬とは何か、株価連動型報酬とはどのような仕組みなのか、そして西川氏はなぜ社長を辞職したのか、について詳しく解説します。
役員報酬とは、取締役や監査役、執行役、会計参与など、会社全体を監督、管理する役員に対して支払われる報酬のことです。役員報酬額の決定方法は会社法によって規定されており、原則として「会社の定款もしくは株主総会の決議に基づき定める」とされています。役員には、取締役など会社の経営陣も含まれます。役員は、自分たちの報酬を自分たちの裁量だけで決定することはできず、出資者である株主の承諾を得る必要があることになります。役員報酬額が妥当であるかどうかは、各役員が責任を持っている職務、従業員に対して支払われている「給与」の現状、同業他社との比較、将来的な事業計画などから総合的に判断されるのが通例です。
同じ「役員報酬」でも、企業の規模によって実際の額は大きく変わってきます。東京商工リサーチが今年6月に発表した「役員報酬1億円以上開示企業」の調査結果によると、2019年3月期決算の企業2,400社において、役員報酬1億円以上の個別開示を行っているのは計275社、564人です。日本企業において役員報酬額が最も多かったのはソフトバンクグループのロナルド・フィッシャー氏の32億6,600万円で、2位は新日本建設の金網一男氏の23億4,300万円、3位はソフトバンクグループのマルセロ・クラウレ氏の18億200万円と続きます。
日本人役員の場合、役員退職慰労金(役員が退職する際に支払われる報酬)により役員報酬額が多額になるケースが多く見受けられます。一方、外国人役員の場合は、賞与や業績連動報酬、ストックオプション(自社株を事前に定められた金額で購入できる権利=新株予約権を認める報酬体系のことで、企業が成長して株価が上がると大きな利益を得られる)などの非金銭的な方式で多額の報酬を得るケースが一般的です。ただし、近年では、役員退職慰労金制度を廃止する企業が増え、全般的に後者の業績連動型・非金銭型の報酬体系に移行する傾向がみられます。
こうした中、西川社長が辞任に追い込まれた日産自動車では、日本企業ではあまり一般的とは言えない「株価連動型報酬」(株価連動型インセンティブ受領兼)、別名「SAR」という役員報酬体系が採用されています。SARとは、一言で言うと「仮想現実的(バーチャル)なストックオプション」のことです。すなわち「もしストックオプションで自社株式を取得し、その後に売却していたならば、得られたであろう価額」を報酬額として支払うという方式で、実際の報酬は新株予約権ではなく金銭で支払われます。会社の業績を上げて株価を上昇させるほど報酬額もアップするので、役員のモチベーションアップにつながる制度だといえるでしょう。
株価連動型報酬によって役員報酬額を定める場合、報酬額を決める「行使日」を設定する必要があります。事前に定められた株価の水準と、その行使日における株価との差額にり、役員報酬額が決定されることになります。西川氏への報酬額もこの方式で決定されていました。
ところがカルロス・ゴーン前会長の側近で、かつて日産のナンバー3と言われたグレッグ・ケリー氏(日産の元取締役)が、西川社長は本来の行使日を意図的にずらし(2013年5月14日から同年5月22日へと変更)、4,700万円の不正な利益を得ていたと『文藝春秋』(2019年7月号)に告発したのです。その後日産自動車で社内調査を行ったところ、西川社長は明確な指示をしていないものの、決定を部下任せにしていたというルール違反があったことが判明。意図的な不正ではないとしながらも、一定の問題があったとの調査結果が提示されました。
調査結果を背景に、取締役会は西川社長に辞任を求め、本人が了承。カルロス・ゴーン氏に続く金銭問題・不正疑惑による引責辞任となりました。西川社長自身は、辞任理由を、前会長のカルロス・ゴーン氏の事件を防げなかったことへの責任と強調しています。
日産自動車は今後、株価連動型報酬(SAR)を廃止することを決定しました。日本ではまだ馴染みのない報酬体系であるため、どのように運用すべきか、あるいは不正防止・監視をどのように行うべきかに関する経験・知見が、日産自動車の中でも不十分だったといえるでしょう。結果として日産は、経営トップが相次いで辞任に追い込まれるという事態を招いてしまいました。今回の日産自動車における一連の騒動は、役員報酬の決定方法のあり方、さらには欧米企業の慣行を日本企業に取り入れる際の難しさについて、改めて考えさせられます。
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