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2020年の新卒者に対し、1千万円もの高額な年収を特別枠として設置する企業が続出中です。また、企業規模にかかわらず、初任給をアップしている企業も増えています。資金力で勝ち目がない中小企業を尻目に、いったいなぜ大手企業がこぞって新卒者に高額報酬を支払うのでしょうか。
今回は、初任給アップや特別枠の背景にある事情をはじめ、大手企業3社『くら寿司』『NEC』『ユニクロ』をピックアップし、特別枠の内容などを紹介します。
目次【本記事の内容】
新卒者の初任給の特別枠設置の背景には、従来の雇用形態が崩壊しつつあることも1つの要因のようです。
例えば、高度経済成長期には当たり前だった「終身雇用」の変化。
新卒者は能力に関係なく一律の初任給をもらい、勤続年数とともに昇給していき、最終的には定年まで勤めあげるのがこれまでの雇い方であり、働き方でもありました。
しかし、近年ではキャリアアップや賃金アップを理由に、新卒者が数年で退社することも珍しくありません。
企業にとって、新卒者を終身雇用できる時代は終わった、といっても過言ではないでしょう。
さらに、中小企業の人手確保が切羽詰まっていることも1つの要因と考えられます。
新卒の売り手市場が続くなか、大学新卒者(男女)に対する中小企業の初任給が前年より上回っているのに対し、大企業においては下回っているのです。(※)
(※)厚生労働省 平成30年賃金構造基本統計調査(初任給)の概況より
平成30年大学新卒者(男女)の初任給を、前年と比較してみます。
【大学卒(男女)初任給、対前年増減率】
| 企業規模 | 初任給(万円):平成30年 | 初任給(万円):平成29年 | 対前年増減率(%) |
|---|---|---|---|
| 中企業 | 20.42 | 20.25 | 0.8 |
| 小企業 | 20.00 | 19.96 | 0.2 |
| 大企業 | 21.05 | 21.10 | -0.2 |
注)企業規模は常用労働者数で区分け
小企業:10~99人の企業 中企業:100~999人 大企業:1,000人以上
中小企業は初任給の額では大企業に届かないものの、前年比は中企業で0.8%増、小企業で0.2%増となっています。
一方、大企業は前年比0.2%減と、初任給の額は前年を下回りました。
つまり、中小企業としては少しでも希望する人材を確保するために、大企業ほどではなくとも初任給や年収を上げざるを得ない状況にある、ということになります。
新卒者が、大企業に就職するという名誉欲よりも、自分の技術や知識などの能力を賃金として評価してくれるならば、中小企業への就職を選択するケースも多いようです。
こうした状況のなか、『くら寿司』や『NEC』といった大企業は、ひとりでも優秀な人材を集めるために、年収1千万円程度の特別枠を設け始めています。
もちろん、特別枠に関しては新卒者全員ではなく、一定の条件を満たす者に限られます。
いわば、プロ野球界の高額年俸による引き抜きにも似ています。
『ユニクロ』のように、特別枠の設置とともに正社員の初任給アップを掲げ、人材確保に力を入れている企業もみられます。
年代層を問わず人気の大手回転寿司チェーン、無添くら寿司の運営元、くら寿司株式会社では、新卒者に対して年収約1千万円の特別枠を用意しました。
2020年新卒採用で幹部候補生10人を予定しており、応募者にはビジネスレベルの英語力が求められます。
採用後の2年間は国内業務ですが、3年目は現在アメリカ・台湾に展開中の海外店舗での研修を実施。
その後、適正により管理職や経営戦略など、幹部としての業務を任せるものです。
特別枠の1千万円は初年度のみとなり、2年目以降は実績に応じた報酬を予定。
くら寿司では今後も海外店舗の拡大を予定しているため、海外店舗経営も視野に入れての採用です。
家庭用パソコンから衛星システムの開発、製造、試験、運用までと、幅広い分野で人材を必要とするNEC/日本電気株式会社も、特別枠の導入に乗り出しました。
技術系企業であるNECにとって、AIやIoTといった世界最先端の技術開発を担う、デジタルトランスフォーメーション人材の確保は必須でもあります。
人材不足は企業の将来をも左右しかねないことから、研究職と技術職の新卒者に対して、年収1千万円枠を導入することを発表しました。
大学時代の論文が高い評価を得た新卒者や、すでに起業して業績への実績が評価できる新卒者を対象としています。
グローバル展開中のユニクロ運営元、株式会社ファーストリテイリングでは、国内外への転勤がある職種「グローバルリーダー」の初任給を、21万円から約21%アップの25.5万円に引き上げました。
転居を伴う異動がない「地域正社員」の初任給、17.75万円〜20.28万円と比較しても、約26%~44%高い初任給です。
2020年採用者のみならず、2019年の新卒社員に対しても給与の引き上げを検討するなど、不公平感の抑制・緩和対策も同時に行っています。
また、2020年春の人事制度の見直しを行い、特別枠制度の導入も決定しました。
採用後、子会社の幹部として抜擢された場合、年収1千万円を支払うというものです。
また、海外勤務に就いた場合は、入社後最短3年内で3千万円の年収という高額な報酬を用意しています。
大企業が初任給に特別枠を設けることにより、資本では対抗できない中小企業の優秀な人材確保が難しくなることは容易に予想できます。
また、大企業内でなくとも、新卒で初任給に特別枠を設け始めれば、そのほかの社員たちの不平不満、不信感などの要因にもなりかねません。
たとえ能力差があるとわかっていても、新卒者同士や上司などの人間関係がぎくしゃくしてくる恐れもあります。
さらに、企業が設けた採用条件をクリアしているからといって、その後の業績につながらない可能性や、転職の可能性も想定しなければならないでしょう。
同時に、これまでの年功賃金の見直しや、個々人への能力支援制度、スムーズに賃金アップにつながるような報酬評価体系など、柔軟な体質改善が求められます。
企業の大小を問わず、新卒者の給料アップや特別枠を設置する背景には、社運をかけての人材確保が背景にあります。
今回は『くら寿司』『NEC』『ユニクロ』を紹介しましたが、ほかにも、ソニーやNTTといった大手企業も、専門職を対象とした採用者への高額報酬制度を取り入れ、生き残りをかけた人材の獲得競争が過熱しています。
こうした特別枠による採用は今後も進むと考えられますが、専門的な能力を持たない人材の存在価値を低めることがあってはなりません。
また、資本力では到底かなわない、中小企業の倒産率の増加も懸念されるところです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、最新情報や具体的対応は公式情報や専門家にご確認ください。詳細はご利用規約をご覧ください。
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