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市場での競争激化を受けて、企業の吸収合併は増える傾向にあります。中小企業庁の発行した2018年版の「中小企業白書」によれば、国内のM&A件数は7年連続の増加と報告されています。
吸収合併というと合併契約の締結や債権者に対する通知、株主総会による合併承認などの手続きがすぐに思い浮かびますが、社員への対応はどうなるのでしょうか?
合併後、吸収された企業の社員はリストラや減給、配置転換など、冷遇されることはないのでしょうか?
本記事では、吸収合併後の社員の処遇に焦点を絞り解説をしていきます。
目次【本記事の内容】
吸収合併とは、企業同士の合併の一種です。合併には、合併する企業の法人格をすべて消滅させ、新たに設立する会社に承継させる新設合併もありますが、ほとんどの場合は一方の法人格を残し、他方の法人格を消滅させる吸収合併が主流です。
吸収合併の場合、法人格を残す会社を「存続会社」、法人格が消滅する会社を「消滅会社」と呼びます。合併が親会社による子会社の吸収合併であっても、この呼び方は変わりません。吸収合併の際、社員が合併を不安に思うのは大抵の場合「消滅会社」の社員です。
合併の際は会社法によって、利害関係者(債権者や株主等)に合併の事実を告知する義務が規定されています。ところが社員への通知義務は、会社法には規定されていないのです(社員が持ち株会などに加入していればこの限りではない)。これは何故なのでしょうか?
その理由は原則として、消滅会社で社員と締結されていた雇用契約はそのまま存続会社に引き継がれるためです。処遇に変更がないので、通知の義務もないのです。ですから吸収合併によって余剰の人員が発生したとしても、合併を理由に社員の解雇はできません。
ただし普通に考えれば、総務、経理などのゼネラルスタッフや、各部門の営業や業務といったラインスタッフには、余剰人員の発生が容易に想像できます。合併を行った多くの企業で組織再編が行われている事実を考えれば、消滅会社だけでなく存続会社の社員に対しても、合併後の人員対策について丁寧な説明が必要になるでしょう。
また、存続会社と消滅会社で(それが親会社と子会社であるなら、なおのこと)雇用契約の内容が、処遇も含め同じであることはほとんどないでしょう。つまり合併後は、移行期間を設けることになるにせよ、どちらかの会社の基準に雇用契約を合わせていく処置が考えられます。このような場合、合併前に書面により合併後の雇用契約の変更について、あらかじめ社員の同意を取っておく必要があります。もし合併前に会社にこのような動きがないのなら、社員同士で結束し会社側に強く是正を求めていきましょう。
合併を理由とした社員の解雇はできないと書きましたが、リストラ(Restructuring:組織の再構築)はあるのでしょうか?組織の再構築という意味でのリストラは、当然あり得ます。スタッフの余剰人員については先述しましたが、存続会社と消滅会社に同じような業務内容の部門があった場合には、同じように組織再編で余剰人員が出る可能性があるでしょう。
その場合、雇用契約に変更はないものの勤務形態の変更はあり得ます。たとえば営業職から事務職、内勤から外勤などへの変更です。また転居を伴う転勤や、配置転換なども考えられます。おそらく元の雇用契約には、正当な理由のない限り会社からの命令は拒否できないと記載されているのではないでしょうか。
また消滅会社で管理職だった場合、その身分は保証されません。同じ業務内容を持つ部門が統合された場合、部長職や課長職が2人いらない場合もあるからです。その場合、給与の変更が伴うかどうかは労働条件にもよりますが、降格に場合も多いと考えられます。
さまざまな理由による余剰人員の発生に伴って、希望退職を募ることも多いのが現状です。解雇ではなく、あくまでも本人の希望による退職となるため、このようなオファーは違法ではありません。通常であれば、相応の退職金の上積みがあるでしょうから、これをチャンスと捉えて前向きに次の人生を考えるのも、一つの手ではあります。
吸収合併にも種類があり、業績の向上を見込んでの合併なら良いのですが、業績の悪化した子会社を吸収合併する場合などでは、存続会社の将来が不透明になってしまうこともあり得ます。希望退職を募っているような場合、一時的に会社の損益が悪化している可能性も考えられますが、大切なのはその後の事業計画です。無理なV字回復などが計画に盛り込まれていないかどうか、よく調べてみましょう。
吸収合併によって、雇用契約の内容や給与、労働条件などが勝手に変更されることはありません。また解雇になることもありませんが、時間をかけてさまざまな合理化が実施されていくことは想像に難くありません。合併後の自分の処遇を考えることも大切ですが、会社としての将来性についても情報収集を行い冷静な判断をすることが何より重要です。
※本記事の内容について参考にする際は、念のため関連省庁や専門家等にご確認ください。
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