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Big4と呼ばれる国内大手監査法人には、それぞれに監査法人としての特徴があるように、歩んできた歴史も異なります。
今回の記事で紹介するのは、創業期からグローバルな視点を持ち続けて拡大・発展を遂げてきた「有限責任監査法人トーマツ」の歴史です。
海外Big4の一角「デロイト トウシュ トーマツ」(Deloitte Touche Tohmatsu、略称DTT)のメンバーファームである「有限責任監査法人トーマツ」は、コンサルティングなどの非監査証明業務に強いという特徴を持つ、国内最大級の会計ファームです。非監査クライアント数・非監査証明収入ともに、国内Big4の中でもトップの実績を誇ります。
国内の売上高に関しては、本業である監査証明業務では国内Big4の一つ「EY新日本有限責任監査法人」がトップですが、非監査証明業務を併せるとトーマツがトップに立っています。
クライアントの特徴としては、Big4の中で唯一自動車メーカーのクライアントを持っておらず、製造業のクライアントも少ない傾向にあることが挙げられます。一方で、卸売・小売分野や情報分野、金融分野に強く、第三次産業の比重が大きくなっています。
トーマツの歴史は、創業者の一人である等松農夫蔵が等松監査事務所を設立したことに端を発します。海軍主計少将であった等松は、戦後の日本企業の監査が外国の会計事務所に独占される未来を危惧し、早くから欧米の監査法人に肩を並べる日本の監査法人を創設すべきだと考えていました。
当時の日本企業はいわゆるどんぶり勘定式の経営を行っており、監査の概念が希薄であったため、等松の事業も当初はなかなか理解を得られませんでした。しかし、地道な努力で監査に対する企業の意識を根付かせ、1968年には青木大吉や富田岩芳らとともに「等松・青木監査法人」を設立します。この法人が、有限責任監査法人トーマツの直接的な前身です。
等松が第一線を退いた後、創業者の一人である富田の尽力により、国内Big4の中でもいち早く、当時海外Big8と呼ばれていたメンバーファームの一角「トウシュ ロス インターナショナル(TRI)」への加盟を果たしています。1975年5月の出来事です。
当時は全国規模の監査法人が存在せず、海外ファームの力を借りずに国際業務を遂行できる監査法人もありませんでした。このような状況の中でも果敢にチャレンジしたことにより、国際的信用力を高めることに成功し、その後の飛躍的な発展を決定付けたといっても過言ではないでしょう。
1986年には、監査法人サンワ事務所と合併し、法人名称を「サンワ・等松青木監査法人」に変更します。さらに1988年には、監査法人丸の内会計事務所・監査法人西方会計士事務所・監査法人札幌第一会計と次々に合併し、大手監査法人として規模を拡大していきます。
サンワ・等松青木監査法人は、1990年2月に監査法人三田会計社と合併した際、名称を「監査法人トーマツ」に変更しました。
これに先立ち、1990年1月に、「デロイト ハスキンズ アンド セルズ インターナショナル」と「トウシュ ロス インターナショナル」が合併し、国際名称を「デロイト ロス トーマツ インターナショナル」に変更しました。1992年には「デロイト トウシュ トーマツ インターナショナル」に、1998年には「デロイト トウシュ トーマツ」に改称し、現在もこの名称が続いています。
デロイトはアメリカ合衆国、トウシュはイギリス、トーマツは日本の会計士の名前であり、日米欧を広くカバーするという意味を持つとともに、トーマツがデロイトらと同格に認められたことの証左でもあります。トーマツは、海外Big4の中で唯一、会計事務所の名前が使用されている日本の監査法人なのです。
なお、日本の大手監査法人でも人名が入っているケースはなく、トーマツだけが今でも創業者の名前を残し続けています。
監査法人トーマツは、その後もサンアイ監査法人・監査法人誠和会計事務所と合併し、2009年には有限責任監査法人へと移行、法人名称を「有限責任監査法人トーマツ」に変更し、現在に至っています。
等松だけでなく、共同創業者の青木や富田も旧日本軍主計出身であるため、トーマツは営業に強い体育会系の法人ともいわれています。一方で、チャレンジ精神に溢れ、強い信念を持ち、時代の変化を乗り越えるための柔軟性も備えた法人であるともいえるでしょう。
大蔵省の管轄下で行政機関的な扱いを受けていた日本の監査法人は、90年代までは大蔵省から天下りを受け、国の影響を受けながら、そこそこの監査でも厳しい処分を免れてきたとされています。しかし、トーマツは監査法人の命ともいえる「官からの独立性」を徹底して守り、天下りを一切受け付けなかったというエピソードが残されています。創業者たちの信念を脈々と受け継いでいる、そんな監査法人だといえるのではないでしょうか。
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