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労務管理と聞くと地味で目立たない印象があるかもしれません。
しかし、従業員を雇用している会社において、労務管理なしに会社が成り立たないといっても過言ではないほど大切なものです。
目次【本記事の内容】
労務管理とは、企業が従業員の労働条件や労働環境などを把握し、適切にメンテナンスする業務です。しばしば、人事異動や新人教育なども含めた人事管理と一体化されて実行されます。労務管理のことを指して「人事管理」と呼ぶ企業もあります。
一方、労働契約(雇用契約)とは、企業(法人)が、労働者(個人)の人生の一部を購入すること、ともいえます。
ただし、労働契約(雇用契約)は、物品の売買契約と決定的に異なるところがあります。それは、企業が「人の労働力」に対して対価を支払っている点です。
人が人を完全に支配することは奴隷契約であり、もちろん人道上許されません。かといって、従業員の自由な判断だけに任せてしまえば、企業のために効率的に働いてくれることはなかなか期待できず、むしろ手抜きやサボりが横行することになります。よって、一定程度は従業員の労働力を会社が管理し、働き方を監督しなければなりません。
労働者の人生の一部を、企業はどの程度利用することができ、どこまでを労働者の自由として尊重すべきか、そのバランス感覚を維持することが、労務管理の神髄となるのです。
では、労務管理とは具体的にどのような業務を行うのでしょうか。
従業員に対する基本的な待遇を管理する業務です。
給与計算の基本は、勤怠管理です。各従業員の欠勤・遅刻・早退・残業などを正確に把握した上で、総労働時間を算出し、給与を計算する基礎とします。いわゆる「労働時間管理」も給与計算の前提です。
さらに、社会保険や労働保険、源泉徴収所得税などの額も算出し、月の支払額(手取り額)を導き出します。
働かせすぎも問題ですが、いくら残業をさせても給与が一定となる待遇は、批判される風潮にあります。「固定残業代」や「管理監督者」などが、社内で適法に運用されているかどうか、残業代込みの給与体系を採用するときには、特に細心の注意を払うよう気をつけてください。
福利厚生は、従業員に対する待遇のうち、金銭で支払われないものと定義できます。社員寮や保養所のほか、通勤費の補助や、家賃の補助、家族手当、財形貯蓄(勤労者財産形成貯蓄)、社員旅行やクラブ活動などが含まれます。あまり意識されませんが、オフィスの社員食堂も福利厚生の一種です。
働いている間の労働者の身体的、精神的リスクを取り除くことによって、快適な労働環境を作り出し、整備することを目的とする会社の対策です。労働者のパフォーマンスを引き上げるには、一定の投資が必要ですが、長い目で見れば、会社の利益につながります。
代表的なものは労働災害(労災)の防止です。工事現場や工場などで危険な仕事をする労働者に対して安全衛生教育を行ったり、機械や設備の安全性を高めたりするなど、適切な対策を採ることも必要です。それだけでなく、過労やストレスによって精神的な疾患に陥らないよう、長時間労働や各種ハラスメントなどをなくしていく措置を講じなければなりません。
ノーリスクはありえませんが、労働者が安心して働けるよう、様々な面に配慮しながらリスクを可能な限り取り除いていく、総合的な施策を行わなければならないのです。
この項目だけで、労働安全衛生法という法律が制定され、会社に衛生管理者という国家資格も存在するほど、国(厚生労働省)も重点課題として対策を採っています。従業員に対する定期的な健康診断は、この労働安全衛生法で定められており、各企業に義務づけています。
労働者と使用者(会社)がお互いにどのような権利を持ち、義務を課されるのかを確認し、納得のいく契約書や就業規則などの内部ルールが定められるようにする施策です。
労使関係は本来、対等な契約当事者同士のはずなのですが、労働者の側に知識が少なかったり、交渉力がなかったり、あるいは就職活動の末にようやくありつけた働き口を逃したくない一心で、使用者側の要求を丸呑みしてしまうことがあります。
そこで、労働者の立場が不当に弱くならないよう、本来持っている権利が最大限に活かされるため、労働者が団結して交渉などを行う労働組合が設置される場合があります。
この労働組合との折衝も、会社の労務管理に含まれます。
ライフイベントはこの場合、従業員のプライベート、生活にも伴う重要な変化をいいます。
たとえば、転居・結婚・出産・育児などがそれに該当します。
従業員が転居した場合には、新たな通勤経路を申し出た上で、通勤手当の変更届を提出してもらいます。
また、結婚を機に退職をしたり、苗字が変わったりする人もいますので、そこに関連する手続きも行います。プライベートで出産や育児を行う従業員には、長期休暇を取得させるようにします。女性だけでなく、男性も産休や育休を取れるように配慮することが大切ですし、休暇から復職しやすい職場環境を整え、そして物心両面での受け入れ態勢を整える雰囲気づくりも忘れないようにします。
会社にもよりますが、人事採用や社員研修、人事異動などに関しても「労務管理」に含めて進める場合が多いです。
たとえば、新人採用や中途採用に関しては求人を出したり、説明会を行ったり、試験や面接などの選抜基準を整備したりするなどの準備が必要でなります。内定式や入社式などのセレモニーの準備と開催を、労務管理として進めることもあります。
従業員に対して、必要な教育を会社が行います。
1時間程度のセミナー形式で行う場合もあれば、ツアーや合宿などの形式で数日から数週間にわたっておこなうこともあります。
講師は社内の教育担当者が行うこともあれば、外部から招くこともあります。
特に重視すべきなのは、新人研修です。新人に対する教育が十分でなく、モチベーションを下げてしまったり、職場になかなか適応できずに無力感をおぼえたりすると、離職率が高まる原因になりますので、研修の内容には決して抜かりがあってはなりません。
会社をよりよく運営させるために、適材適所で、従業員を適正に配置し、人的資源を有効に活用することも、重要な労務管理のひとつです。
本人の希望や適性だけでなく、様々な経験を積ませたり、人員が足りない部署へ補充要員として移動させたりすることもあります。異動は人事担当者の裁量で決めることができますが、引っ越しを伴う場合は従業員の家庭事情にも大きく影響します。裁量権を濫用しないよう、従業員の立場にも配慮しながら決定しなければなりません。
以上のように、労務管理の範囲は多岐にわたるため、労務管理の一部だけで専門の担当者ができたり、セクションが作られたりすることもあります。総務部や人事部、法務部などで分担することもあるでしょう。ただ、労務管理の根底には「会社が従業員を大切にする」というテーマが一貫して流れているのです。本当の意味で従業員を大切にするために、労務担当者が担っている役割は非常に大きく、やりがいのある仕事といえるでしょう。
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