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香山 政人
アルク社労士事務所
特定社会保険労務士・両立支援コーディネーター
大手社会保険労務士法人を経て、アルク社労士事務所を開業。クラウドシステム「マネーフォワードクラウド」に特化した社労士事務所として、数多くの導入・運用実績を持つ。その他、ハラスメント研修や各WEBメディアへの執筆等多方面で活動している。
2024年4月に育児・介護休業法が改正され、翌2025年4月より順次施行となります。今回の改正の目的は、「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実」がポイントです。
育児休業取得率は、
女性80.2%
男性17.13%
短時間勤務制度の利用率は
正社員の女性51.2%
正社員の男性7.6%
となっており、育児休業・短時間勤務制度の利用ともに、男女間で大きな格差が見られ、日本社会は以前として女性側に育児負担が偏っている状況となってしまっています。
一方で、正社員の男性の約3割は、育児休業を利用していないものの「利用したかった」と回答しています。男女いずれも、子どもの成長段階にあわせて、残業をしないフルタイムでの働き方や、フルタイムであっても柔軟な働き方(出社や退社時間の調整、テレワークなど)を希望する割合が高く、柔軟な働き方に対するニーズが見られているのが現状です。
また、家族の介護問題については、状況は深刻です。家族の介護や看護による離職者は、年間約10.6万人となっており、1つの原因には、介護休業制度そのものはあるものの、制度の内容やその利用方法に関する知識が十分でなかったケースが多いとされている状況です。
こうした仕事と育児・介護の両立に関する課題を背景に、男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、仕事と介護の両立支援制度の充実策として、主に次の改正が行われました。
【子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充】
・子の看護休暇が小学校3年迄に拡充、入学式等に活用できる看護等休暇へ
・小学校就学前までの所定外労働の制限(残業免除)の拡充
・3歳になるまでの子を養育する労働者へのテレワーク導入の努力義務
・3歳になるまでの子を養育する労働者への仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮義務
・3歳以上の小学校就学前の子を養育する労働者に対して柔軟な働き方を実現するための措置等の義務化
【育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化】
・育児休業取得状況の公表を1,000人超の事業主から300人超の事業主へ
【介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等】
・介護直面労働者への個別の周知・意向確認義務
・介護休暇の対象者の見直し
・介護離職防止のための雇用環境の整備(労働者への研修等)の義務化
・要介護家族の介護中の労働者へのテレワーク導入の努力義務
今回の改正対応は、人事労務担当者の実務では影響が大きい内容です。
具体的に対応すべき事項としては以下となります。
・就業規則(育児・介護休業規程)の変更
・ニーズの個別聴取
・制度の個別周知
・意向の個別確認
・制度の情報提供
これらについて改正のポイントを踏まえながら対応していかなければいけません。改正の
ポイントは次の通りとなります。改正ごとの施行日とあわせて確認していきましょう。
現在は、3歳に満たない子を養育する労働者が請求した場合、所定外労働(残業)を免除しなければなりません。改正後は、【小学校就学前の子】を養育する労働者が請求可能となります。
現在は、取得事由を、養育する子の「病気・けが」又は「予防接種・健康診断」に限ることとして、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が取得可能です。また、労使協定により、取得可能な労働者を一定の範囲で除外することが可能となります。改正後は、取得事由を、「感染症に伴う学級閉鎖等」又は「入園(入学)式、卒園式」にまで拡大し、取得可能期間も「小学校3年生修了」まで延長となります。さらに、労使協定の除外労働者についても、「引き続き雇用された期間が6か月未満」という要件を撤廃し、「週の所定労働日数が2日以下」のみを除外要件とすることとなりました。
仕事と育児の両立支援対策として、テレワークの活用促進に注目されました。改正後は、努力義務にはなるものの、テレワークを子が3歳になるまでの両立支援としても活用できるように促進していくこととなります。
3歳以上、小学校就学前の子を養育する労働者に対して、会社は柔軟な働き方を実現するための措置を整備し、労働者への個別周知・意向確認の措置が義務化されます。「柔軟な働き方を実現するための措置」としては、次の中から2つ以上の制度を選択することが必要です。
①始業時刻等の変更
②テレワーク等(10日/月)
③保育施設の設置運営等
④新たな休暇の付与(10日/年)
⑤短時間勤務制度
※テレワーク等と新たな休暇は、原則時間単位で取得可とすることが必要
※3歳になるまでの適切な時期に面談等が必要
※措置選択の際は、過半数組合等からの意見聴取の機会を設けることが必要
※テレワーク実施については、心身の健康に配慮が必要
労働者は、会社が選択した措置の中から1つを選択して利用することができるようになります。
現在は、1,000人超の企業に公表義務がありますが、改正後は、「300人超」の企業に公表義務が発生します。
なお、公表しないことでの罰則はありませんが、公表義務違反に該当した場合、厚生労働大臣から勧告を受けることとなり、厚生労働大臣の勧告に従わなかったときは、企業名等の公表が行われ、企業に悪影響を及ぼす場合があります。
※①又は②のいずれかの割合の公表義務があります。
家族の介護の必要性に直面した労働者が申出をした場合に、会社が、会社が整備する両立支援制度等に関する情報を当該労働者へ個別に周知し、意向を確認することが義務付けられます。その他、介護に直面する前の早い段階(40歳等)の労働者への情報提供、両立支援制度に関する研修の実施もしくは相談窓口の設置、介護中の労働者へのテレワークの導入の努力義務化、介護休暇取得者の要件撤廃などが実施されます。
今回の改正内容については、企業規模や業界にかかわらず、全ての企業に適用となります。人材が不足している業界、例えば飲食業界、建築業界、運送業界、医療・福祉業界などは、代替人員の確保にあたって早期・計画的に取り組んでいく必要があります。なお、テレワークについては、困難な業種・職種があることを勘案し、努力義務に留まっているため、現時点では過度に対応する必要はないと考えられます。業務の性質・内容等からテレワークが困難な労働者をテレワークが可能な職種等へ配置転換することや可能な職種等を新たに設けることまで求めているものではありません。
ここまでみてきたように、今回の改正内容は多岐にわたり、会社は新たな制度を社内で整備するなど、一定の負荷を要します。また、両立支援制度利用者が増えることが予想されることから、会社で働く労働者への対応が重要になってきます。主な留意点は以下となります。
今回の改正により、育児・介護休業法はかなり複雑な法律となり、気にしなくてはいけないポイントが増えています。会社内だけでの対応では、対応が漏れていた、ということにもなりかねませんので、今回の改正を機に社会保険労務士などの外部専門家の意見を取り入れ、法改正に漏れないような体制の整備が必要です。
両立支援制度を利用したことにより、解雇その他不利益な取扱いは禁止されています。不利益な取り扱いとは、解雇だけではなく、雇止め、契約更新回数の引き下げ、退職や正社員を非正規社員とする契約内容の変更の強要、降格、減給、賞与等における不利益な算定、不利益な配置変更、不利益な自宅待機命令、人事考課での不利益な評価、など、両立支援制度を利用したことを契機とした労働者にとって不利益となる取り扱いとされ、広い概念であることに留意する必要があります。
会社内では、誰もが育児・介護を行っているわけではありません。育児・介護を行っていない労働者に業務が集中し、周囲への業務負担が結果的に「不公平感」を生む状況は避けなけなければいけません。育児・介護以外も含めた多様なライフイベントとの両立支援を行っていくことを、会社として積極的にアピールする機会と捉え、制度を利用しない周囲の労働者に対しても公平感や納得感に配慮しながら進めていくことや、育児・介護などの理由にかかわらず仕事と生活が両立しやすい職場環境を整備していくことが重要です。そのためには、日頃から、仕事の可視化や業務棚卸による脱属人化をしておくことが必要となります。
妊娠・出産等に関する情報や、家族の介護を行っている又は直面していることを職場で明らかにしたくない等の事情を抱える方もいることに配慮する必要があります。
そのため、会社は、労働者からの制度利用の意向等に関しては、労働者に「どこまで共有してよいか」については必ず確認し、労働者の意向に沿った範囲内で妊娠・出産等や家族の介護に関する情報を開示していくことが必要です。また、本人の意向に沿えない場合がある場合には、労働者にその理由を説明したりすることが必要となります。
日本の人口は近年減少局面を迎えています。2070年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は39%の水準になると推計されています。これまでの男性中心・終身雇用・年子序列が崩壊し、誰もがライフステージにかかわらず仕事と生活を両立できる職場環境を目指していくべきであるとの方向性が、今回の改正で示されています。特に、育児・介護といった、これまでは高い離職率を発生させたライフイベントについて、今後は仕事やキャリア形成と両立できるようにしていくことが重要となってきています。
また、育児休業取得状況の公表義務化の拡大により、両立支援への取り組みが遅い企業は、優秀な人材から選ばれないこととなります。
今回の育児・介護休業法の改正により、会社は雇用する労働者と積極的にコミュニケーションをとっていくことが必要であるという方向が示されました。不本意や離職を防止することは、会社の成長・発展には不可欠な事項として、今回の改正についてはしっかりと取り組んでいく必要があります。
#育児・介護休業法 #改正 #社労士 #
筆者のご案内
アルク社労士事務所
執筆者:アルク社労士事務所 代表 香山 政人様
(参考資料)
・令和6年法改正概要(厚生労働省)
・リーフレット「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法 改正のポイント」(厚生労働省)
・仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について(建議)(第67回労働政策審議会雇用環境・均等分科会)
・仕事と育児・介護の両立支援対策の充実に関する参考資料集(第67回労働政策審議会雇用環境・均等分科会)
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