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労災が発生した際には、療養や休業などのための補償が労災保険から給付されます。しかし、会社が負う責任は、労災保険による補償がすべてではありません。刑事的・民事的責任を会社が追求されることもあります。
ここでは、労災が発生した際に会社が負う刑事的・民事的責任とはどのようなものなのかを見ていきましょう。
労災が発生した際に会社が負う法律上の責任は、刑事的および民事的の2つの側面があります。
労災の刑事的責任は、警察署および労働基準監督署により追求されます。刑事的責任の法的根拠は、業務上過失致死傷罪と労働安全衛生法違反となります。
また、民事的責任については、労災保険による補償によって一部は果たすこととなりますが、さらに損害賠償責任を会社が負うことがあります。賠償責任の法的根拠は、労働契約法第5条に定められた安全配慮義務の違反による債務不履行責任、および不法行為責任です。
労災が起こった際の会社の刑事的責任は、警察署と労働基準監督署により追求されます。
警察が労災の刑事的責任を追求する際の法的根拠は、刑法第211条の業務上過失致死傷罪となります。
「刑法第211条 業務上過失致死傷罪
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。」
労働基準監督署が労災の刑事的責任を追求する際の法的根拠は、労働安全衛生法第20条~25条の2です。労働安全衛生法第20条~25条の2には、事業者が果たすべき危険防止や健康障害の防止、労働災害の防止などのために必要とされる措置が定められています。
罰則については、労働安全衛生法第117条~第122条において、
・1年以下の懲役または100万円以下の罰金
・6月以下の懲役または50万円以下の罰金
・50万円以下の罰金
が、それぞれの罪状に応じて定められています。
警察署が労災の刑事的責任を追求する際の根拠となる業務上過失致死傷罪は、あくまでも「過失」犯であり、また死傷の結果が出て初めて犯罪が成立します。それに対して、労働基準監督署が刑事的責任を追求する際の根拠となる労働安全衛生法の違反は「故意」犯であり、また死傷の結果が発生しなくても犯罪が成立します。
したがって、労働基準監督署の行政指導に従わず、措置義務違反をくり返すなどのケースでは、労災の発生を伴わなくても刑事責任が問われることがあります。
労災が発生し、労働基準監督署が送検した事例として次のようなものがあります。
・急斜面での草刈り作業現場において、安全帯を使用させるなどの崩落防止措置を怠ったために死亡災害を発生させたことによる労働安全衛生法違反(平成28年3月7日、東京都三宅島)。
・解体作業現場において、石綿を含むスレート屋根の解体作業を行うにあたり、選任すべき石綿作業主任者を選任しなかったことによる労働安全衛生法違反(平成28年3月14日、東京都足立区)。
労災が発生した際の会社の民事的責任は、労災保険による補償の給付で一部果たすことにはなります。しかし、労災保険は、慰謝料や、療養のために発生した親族などの所得損失、休業補償と平均賃金との差額などについては給付の対象となりません。
したがって、これを不満として労災の被災者や遺族から損害賠償請求が提起されることがあります。
賠償責任の根拠となるのは、労働契約法第5条の安全配慮義務、および民法第709条の不法行為責任となります。
「労働契約法第5条 労働者の安全配慮
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
「民法第709条 不法行為による損害賠償
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
安全配慮義務違反については、労働安全衛生法をすべて遵守している場合でも、民事訴訟において認められることがあります。
なぜならば、労働安全衛生法は、労災を防止するために最も重要な事柄についてのみ刑事罰を課しているものです。労働契約法第5条に規定される「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるために必要な配慮」は、労働安全衛生法に規定された事柄がすべてとはいえないからです。
労災が発生し、会社が賠償責任を負うこととなった裁判例として次のようなものがあります。
・宿直中の従業員が元従業員に殺害されたのは、元従業員が会社への窃盗事件を過去にくり返していたにもかかわらず、入り口へののぞき窓やインターフォン、防犯ベルなどの設置を怠った会社の安全配慮義務違反として1,637万円の損害を認定(川端事件、昭和59年4月10日最高裁判決)。
・陸上自衛隊員が車両整備中にバックしてきたトラックに轢かれて死亡したのは、自衛隊員の生命に危険が生じないように注意し、人的および物的環境を整備し、また安全管理に万全を期すべき義務を怠った国の安全配慮義務違反と認定(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件、昭和50年2月25日最高裁判決)。
労災の発生に対して会社は大きな責任を負っています。労災保険による補償で果たされるのは責任のうちの一部であり、さらなる刑事的・民事的責任を会社が追求されるケースも多くあります。
労災が発生した際には、会社は、自らの責任をしっかりと自覚し、慎重かつ誠実に対応することが必要となるでしょう。
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